第164話 善良な愛の使者、魔女っ娘ルミナちゃんだぞー


 俺は警官を殴る蹴るしたが、お咎めはないっぽい。

 しかも、学校を無断欠席したが、公欠にしてくれるっぽい。

 結論、やはり俺は悪くなかった。


 そして、本部長はアメリカのエクスプローラ達が何故、俺を攫ったかを教えてくれるそうだ。


「アメリカのエクスプローラ達が東京本部に来たのは交流とスタンピードに対する意見交換が目的だった。日本では、各地でスタンピードが起きたが、それはアメリカでも同様だ。むしろ、アメリカのスタンピードはモンスターが外に出て、被害も出ている」


 それは俺もニュースで見た。

 あの事件から人々はダンジョンの危険性を再認識したのだ。


「ふーん。ご苦労さん」

「ああ。だが、裏の目的もあった」

「それが俺?」

「そうだ。ヤツらはお前の調査も目的にしていた。というより、お前の調査自体はかなり前からしていたそうだ。しかし、お前が問答無用で攻撃するわ、財布を奪うわ、挙句の果てに川に放り込み、投石するわでまったく進まなかったらしい」


 あー、あの変質者共はアメリカの調査員だったわけね。


「いや、時と場所を考えろよ。怪しさマックスだったわ。中には強引なヤツもいたぞ。そら抵抗するだろ。バカじゃねーの?」

「それについては、向こうも謝罪している。秘密裏に調査したかったことと調査員との意思疎通がうまく取れてなかったらしい」

「知るか、ボケ! 俺は謝罪なんて聞いてないぞ。誠意を見せろや!」


 誰に謝罪してんだよ!

 被害者は俺だぞ!


「それについては後で会わせてやる。会いたいか?」

「別に会いたかねーよ。誠意って言っとけ。いいか? 誠意だぞ。誠意!」

「金か?」

「誠意だ」


 直接的に言うんじゃねーよ。

 俺ががめつくなっちゃうだろ。


「まあいい。それでお前を調査した理由だがな。どうもお前のジョブについて調べていたらしい」

「ジョブ……」


 魔女か。

 シロいわく、厄災の象徴。

 

 俺も詳しくはないが、昔の欧米では魔女狩りなんてものが流行ったらしいし、あいつらが魔女を良い意味で捉えてはいないのはわかる。


「そう、お前のジョブである魔女だ。魔女は色んな見方があるが、基本的には人々に害なす存在であり、厄災だ。忌み嫌われる存在でもある」

「俺の場合はどちらかというと、女児アニメの方なんだけど……」


 魔女っ娘ルミナちゃん! キャハ!


「ああ。そっちぽいな。お前の魔法は強力だが、魔法名と見た目が完全に幼い。俺だって、お前の魔法を知って、昔、娘がアニメで見てたなーと思っていた。俺が子供の頃にも、そういうアニメはあった。だから、別にどうとも思っていなかったんだ」


 まあ、俺もその娘さんが見ていたであろうアニメは見ていた。

 俺が魔女になり、メルヘンマジックを見た時に最初に思いついたのが、そのアニメだ。


「じゃあ、問題ねーじゃん。厄災がハートの矢を出すか? 忌み嫌われる存在がカボチャを出すか?」


 むしろ、シンデレラをお城に送る係だぞ。


「向こうさんはそうは捉えなかった。宗教上の理由があるんだろうよ。俺達の思う魔女なんて、アニメ、絵本などのファンタジーだ。でも、向こうさんは違う。宗教的には完全な敵だ」

「それで俺を調査したん?」


 捕まったら魔女裁判ですか?

 火あぶりですか?

 ルミナちゃんのたたきですか?


「いや、これは理由の一つでしかない。というか、現代において、普通はこんな考えをしない。向こうさんも最初は魔女というジョブを知っても、どうせ日本のハロウィン(笑)だろ、という反応だったようだ」


 軽くバカにされてんな。

 まあ、逆の立場なら俺もバカにしてると思うけど。


「普通じゃないことがあったん?」


 俺が女になったこと?

 しかも、可愛すぎたこと?

 もしくは、強すぎたこと?


「数か月前、アメリカで新しいジョブが発見された。それは≪ネクロマンサー≫だ」

「なにそれ!? こわ!」


 ネクロマンサーって、死人使いとかそんなんじゃないっけ?

 怖いわ!


「ネクロマンサーは日本語では死霊使いと呼ばれる。なんでも、ゾンビやスケルトンを操ることが出来るらしい。まあ、正直、あまり有用ではない」

「人を生き返らせたりは出来ないのか?」

「それも検証したらしいが、無理だそうだ。あくまでもゾンビやスケルトンを操り、モンスターの同士討ちをさせることだけだな」


 び、微妙……

 それ、ゾンビやスケルトンがいなかったら役立たずじゃん。


「いらねー。そんなん速攻でやめるわ。いくらレアジョブとはいえ、限定的すぎんだろ」

「まあ、使い道もあるんだ。例えば、スタンピードが起きた時に足止めが出来る。もっと言えば、お前らが行った名古屋のニュウドウ迷宮では大活躍できるだろ」


 なるほど。

 確かに、あのゾンビ地獄の対策としては最適解だろう。

 日本に来ればいいのに。


「なるほどー。色んなジョブがあるんだなー」

「ああ。当時、アメリカ政府はよくわからないジョブだが、有用かもしれないので保護しようということになったらしい。当時はまだ、スタンピードも起きていなかったからな。念のためらしい」

「優秀なことで…………保護って?」


 監禁?


「死んだら困るからな。優秀なエクスプローラをつけ、レベル上げをさせていたらしい。しかも、結構な金を渡してな」


 へー。

 楽ちんな生活だ。

 レアジョブ一つでこんな勝ち組になれるんだな。


 俺はつまんなさそうだから、嫌だけど。


「いいことじゃん。それが俺と何の関係があるんだ? まさか、俺も捕まえて、同じことをさせる気じゃねーだろうな? 嫌だぞ。英語をしゃべれねーんだから」

「この話はまだ終わりじゃない。それから1ヶ月経った後、その街で連続行方不明事件が起きたんだ」


 あっ……(察し)


「犯人はそいつだろ」

「そうだ。その男はネクロマンサーとして、死霊魔法にどっぷりはまってしまった。そして、老若男女問わず、人々を誘拐し、殺した。死霊にし、操るためだ。詳細はショッキングだから言わないが、まあ、猟奇的だったらしい」


 怖いわー。

 黒魔術ってやつだ。

 俺、外国に行くのやめよ。

 一生、日本にいよ。


「すげーな。よーやるわ」

「ほんとにな……その男は真面目で優しい男だったらしい。それが豹変し、あんなことを起こした。アメリカ政府はこれを危惧した」


 そらそうだ。


「ふーん」

「そして、研究者が発表した論文の中には”ジョブが人に与える影響”というもあり、ネクロマンサーというジョブがその男を豹変させたのではないかと考えたわけだ」


 関係あるかねー?

 元々、そんなヤツだったんじゃないの?


「へー」

「そこでお前に聞きたい。お前は魔女になったが、何か変化はないか?」

「どいつもこいつも…………見ればわかるだろ。めっちゃ変わったわ!」

「いや、見た目じゃなくて、精神的にだ。正直、お前は元がクズだからわからんのだ」


 殺したろか、このボケ…………


「魔女って、どんなのだよ?」

「えーっと、毒を作るとかか?」

「お前、絶対に白雪姫を想像しただろ」


 毒リンゴなんか作るわけねーだろ。

 ミレイさんが怒っちゃうぞ。


「何かあります?」


 本部長は後ろにいる伊藤先生と学園長に聞く。


「うーん、堕落? いや、元々か…………」

「いきなり魔女と言われてな。かなり古いが、バレーかの?」


 ダメだ、こいつら…………

 人に聞く前に調べとけや!


「堕落なんてしてないし、バレーもしない」

「まあ。そうだな…………うーん、なんか悪魔的な衝動に駆られたことはないか?」

「ねーよ! 俺が殺戮でも起こすと思ったか? そんな一銭にもならないことをするわけねーわ!」


 俺はせいぜい人を殴り、金を奪うくらいだ。

 実にまともな人間である。


「うーむ」

「おい、シロ、なんか言え」

「はいよー」


 俺がシロを呼ぶと、服の中から出てきた。


「なあ、論文にある”ジョブが人に与える影響”っていうのは本当か?」


 本部長は出てきたシロに聞く。


「いや、なんというか、当たり前だろとしか言えんな」

「え? そうなん?」


 俺も悪い魔女になっちゃうの?


「うーん、そもそも人間は色んなものから影響を受ける。この場合は立場が人間を作るってやつだ。リーダーにふさわしくない性格のヤツでも、リーダーになれば、そのうちリーダーらしくなる。囚人と看守の実験って知ってるか? あれと同じ」


 うん、知らね。


「俺が知ってると思うのか?」

「思わない。まあ、そのネクロマンサー君は本当のネクロマンサーになろうとしたんだよ。元々、そんなジョブになれるくらいだから素質はあったんだ」


 何の素質だよ。

 怖いなー。


「じゃあ、俺も悪い魔女になるん?」

「なんねーよ。お前の思う魔女って何だ?」

「魔法を使う女」

「じゃあ、もうなってるよ。今、こいつらが懸念しているのは、性格や人間性の変化だ。でも、そもそもお前はすでに独善的で傲慢な自己中だろ。これ以上、どう悪くなるんだよ」


 わーお、辛辣ー。


「だってさ。フン!」


 どいつもこいつも俺を悪人に仕立て上げる。

 良くないね。

 教育に良くないね!


「じゃあ、こいつが変わることはないのか?」


 本部長が改めて、シロに聞く。


「こいつは変わらん。我が強すぎて、他の影響をまったく受けないんだ。それはお前らの方がわかってるだろ。いまだにクソガキと呼ばれるこいつが成長しているか? 東城のところに行って、なんか変わったか? 親やお前らが説教をして、反省したか? こいつは自分のことしか頭にないんだ。変わるわけがない」


 言いすぎ。

 絶対に言いすぎ。


「お前、殺すぞ!」

「なるほど。よくわかった」


 本部長が納得したように頷く。


「お前も死にたいん?」


 殴っちゃうぞ!


「神条、上には俺から説明しておく。これ以上のちょっかいはないだろう。ただ、こう考えるのはアメリカだけとは限らん。今後もあるかもしれんが、何かあったら、絶対に報告しろ」

「魔女らしくイジメてやるよ」

「お前のそれは野盗だ。絶対にするな」


 無抵抗でいろってか?

 無理、無理。


「はーい」

「…………めんどくさいヤツだ。川崎に返したい」

「コラコラ、今さら言うな」


 1年おせーよ。


「まあいい。話は終わったから、さっさと退院して、帰れ。明日も学校だろう」


 イラッ。

 俺を足止めしてたのはお前らだろ。

 マジでムカつく。


「あっそ。帰るわ。じゃあな。あ、先生、明日から学校に行きますんで、また」

「ああ。遅刻するなよ」

「したことねーよ」

「そういえば、そうだな」


 どいつもこいつもこんな真面目ちゃんを捕まえて、何を言ってるんだ。

 実に心外で遺憾だわ。

 いかんね。


 俺はさっさと荷物をまとめて病院を出た。

 そして、歩いて帰ることにした。


「なあ、あんなんで良かったのか?」


 俺は歩きながらシロに話しかけた。


「ああ言えば、お前が変な目で見られることはない」


 いや、変な目というか、厄介者を見る目で見られてたけど。


「お前、誤魔化してたけど、”ジョブが人に与える影響”って本当はあるのか?」

「ある。さっき言った人間が本来持っている影響の受けやすさじゃない。ジョブやスキルは人間に多大な影響を与える」

「やっぱり?」

「戦士はより勇ましくなりやすい。能力の向上は精神に影響を与えるからな」


 なるほどねー。


「じゃあ、俺は?」

「お前は大丈夫。絶対に大丈夫。さっき言った通りだ。まあ、詳しく教えてやろう」

「ルールは? 話せないんじゃかったっけ?」


 昨日、そう言っていたような……


「それも含めて教えてやる。お前、仲間を呼べ。ダンジョンに行くぞ」

「ハァ? 今から?」


 今は4時半だ。

 時間的に見れば、学校は終わっているだろうから、来れるかもしれない。


「ああ。来られる人間だけでいい」

「何でダンジョン?」

「いいから、いいから。歴史的瞬間に立ち会おうぜ」


 意味不明。

 まあ、いいか。


 俺はよくわからないが、仲間に連絡をし、協会に来るように伝えた。





攻略のヒント


 今回の調査は色々と失敗に終わったが、対象者の魔女性については、否定されたことを報告する。


 対象者は×××のようにならないと思われる。


 マジでゴミクズだったわよ!

 日本の協会が頑なに会わせようとしない理由がよくわかった!

 次にあのクソ女を調査しようと思っても、私は絶対に外してちょうだい!

 以上!


『とある報告書』より

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る