第163話 俺は悪くない! あれ? 前にも言ったような……


 俺はすべてを倒した。

 俺を誘拐したアメリカのエクスプローラ達も………………警官も。


 俺は救急車に乗って、すぐに目を覚ました。

 というのも、救急隊員が指で俺の目を開き、ライトを当ててきたのだ。

 これはもう誤魔化せない。


 俺はその場で目が覚めた振りをし、救急隊員に何も覚えてないと言った。


 俺はそのまま病院に行き、診断を受けた。

 結果は特に異常はなかったが、念のため、入院となった。


 その日はそのまま病院の豪華な個室に泊まり、翌日となった。

 翌日は再び、診断を受けた。


 そして、病院のベッドに戻ると、パパとママにお姉ちゃんとホノカが待っていた。


 パパ、仕事は?

 お姉ちゃんとホノカ、学校は?


 どうやら、休んだらしい。

 サボりだね。


 我が愛しの家族は医師から説明を受け、午前中で帰っていった。


 そして、午後になると、伊藤先生と教頭がやってきた。

 2人は俺の容態を確かめると、ホッとした様子だった。


 しかし、言葉には出してこないが、2人の目は俺を責めているようだ。


 実に不愉快である!

 俺は被害者なのだ!

 決して、警官に暴力など振るっていない!


 俺はよく覚えていないとシラを切っておいた。


 先生達が帰り、夕方になると、シズルを始め、仲間達がシロを連れて、やってきた。


 この時も皆から何があったか、聞かれたが、シラを切った。


 俺は悪くない。

 何もしていないし。覚えていない。


 仲間達はまったく信じていなさそうだが、特に追及もせずに帰っていった。


 そして、夜になり、まずい病院食を食べ、暇になった。


「つまんね……明日、退院しよ」

「してもいいのか?」


 俺の独り言にシロが反応する。


 こいつはシズル達とは帰らなかった。

 多分、病院にシロはダメだろうが、俺と一緒にいたいと言うので、隠しているのだ。


「知らね。でも、元気そのものだし、問題ねーだろ。飯も少ないし、不味い」

「まあ、飯はなー」


 足りないから売店で買い込んだくらいだ。

 さk……炭酸水は売ってなかった。

 まあ、病院だし、しゃーない。

 シズルかちーちゃんに頼めばよかった。


「ケガもしてないし、何も問題ないのになー」

「多分、事情聴取とかがあるんだろう」

「俺は何も知らないし、覚えていない」

「……本当は?」

「俺を捕まえたヤツらごと警官を潰しちゃった」


 てへへ!


「それはマズくないか?」

「だって、いきなり銃を向けてきたんだぜ? 敵の仲間かと思うじゃん」

「マジで!? それは向こうが悪いわー。何か言われたら、その辺を攻めるべきだな」


 無実な未成年の少女に銃を向ける警官……か。

 これはマスコミが食いつくな!

 よし、これで俺は本当に悪くなくなったぞー。


「よしよし」

「ところで、何で攫われたんだ?」

「さあ? この間、強姦魔がいただろ? あいつらだった。どうも、巷で噂のアメリカから来たエクスプローラらしい」

「ふーむ。お前を恨んでの犯行ではなさそうだな」

「多分なー。なんか、魔女がどうとか言ってたな」

「詳しく話せ」


 俺は覚えている限り、あの女との会話をシロに伝えた。


「なるほどね。多分だが、そいつらは魔女というジョブが気になったんだろう」

「魔女? なんで?」

「前にも言ったが、魔女は厄災の象徴だ。ロクなもんじゃない」


 ちょー失礼なんですけどー。

 ってか、お前がなれって言ったんですけどー。


「ふーん」

「まあ、宗教上とかあるしな。お前、魔女の事を聞かれても詳しく言うな。俺っちが念話でアドバイスしてやるから、その通りに言え」

「魔女ってそんなにマズいのか?」

「うーん、言いたいんだけど、言えないんだよ。ルールでなー」


 まーた、ルールか。

 ルールなんて破るためにあるというのに。


「まあ、その言い方だと、マズいんだろうなー」


 俺、ヤバくない?


「安心しろ。これだけ言ってやる。マズいんだが、お前の場合はマズくない。すまん、俺っちに言えるのはここまでだ。もう少ししたら、詳しく教えてやる」


 まあ、マズくないならいいよ。

 たいして興味もないし。

 大事なのはマジカルテレポートを始め、優秀で便利な魔法を使えるということだ。

 その他は関係ない。


「とりあえず、この先の事情聴取なんかはお前が念話でアドバイスしろ。俺の罪はゼロ。むしろ、賠償金をもらえるようにしろよ」

「賠償金は難しいけど、罪はゼロにしてやる」


 ふむふむ。

 実に優秀な軍師だ。


 俺はシロとの打ち合わせをし終えたので、休むことにした。


 そして、翌日、シロの予想通り、警察が事情聴取にやってきた。


 目の前には年配の男の警察官が丸椅子に座っている。

 また、その後ろには若い女の警察官が立っている。


 そして、その後ろには伊藤先生と学園長に加え、本部長がおり、こちらのやり取りを見ている。



「君は覚えていないと言っているようだが?」


 年配の警察官が俺に聞いてくる。

 ちなみに、俺はベッドで上半身だけを起こし、薄幸の美少女ごっこをしながら聞いている。


「うーん、ちょっと思い出してきた。気付いたら椅子に縛られ、手錠をはめられていた。手錠と縄はダンジョン産とやららしくて引きちぎれなかった」

「ふむふむ。それで? 発見時、君は縛られていなかったが?」

「女が俺のことを本当に女なのか疑ってきた。そして、確認するとかほざいて、俺を剥こうとしてきた。俺は身の危険を感じ、反撃した」

「反撃? 縛られていたのでは?」

「魔法で髪を動かした。こんな感じ」


 俺はそう言って、本部長に向けて、髪を伸ばした。

 そして、頭を叩いた。


「いて! やめろ、バカ!」


 本部長はちょっと怒った。


「ほう? 私はエクスプローラではないからよくわからんが、こんなことが出来るのかね?」


 年配の警察官は本部長に聞く。


「ええ。この魔法を使えるのは神条だけだと、把握しています。とはいえ、習得したのが、ついこの間のため、詳細は知りませんでした」

「俺も知らなかったわ! こんなキモい魔法を使う気なんてねーよ!」

「ふむ。まあ、わかった。つまり、君は身の危険を感じたため、仕方なく魔法で反撃したわけだね?」

「そうでーす。怖かったでーす。あの女のスカートを脱がそうとする目はケダモノそのものでしたー」


 だから、俺は悪くないでーす。

 正当防衛でーす。

 無実でーす。


「なるほど。それで、自分をさらった相手を撃退したわけだね? その後は? 君は気絶したと報告が来ているんだが…………それも君を救助に行った警官2名と共にだ。しかも、警官2名は殴られた痕跡と蹴られた痕跡が残っている。そして、君の靴には警官の血液が付着していた。もっと言うならば、警官の警察手帳と財布から君の指紋も検出されている。君は本当に覚えていないのかね?」


 わーお。

 めっちゃ調べとるやんけ!

 最初から疑っていたんだな。


『お前は評判が悪いうえに、この前、補導されたろ? 信用がゼロなんだ』


 決めつけは良くないわー。


「うーん、思い出せそうな気がするなー」

「ほう? どんなことだね?」

「あー、なんか2人の黒服の男がいたような…………」

「ふむ。君を救助に行き、先行した警官2名と服装が一致するな」


 でしょうね。


「あー、なんか、怖い思いをした気がするなー」

「ん?」

「そう、身の危険を感じた気がするなー。命の危機的なー。警察官がやっちゃいけないことをされた気がするなー、マスコミにチクらないといけいないような不祥事だった気がする。善良な一般市民に向けてはいけないものを向けられた気がするわー。しかも、動くなとか言われた気がする。怖かったなー、泣きそうだわー。もしかしたら、怖くなって反撃したかもー」


 チラチラ。


「もういい」


 本部長が前に出てきて、俺を止めてくる。


「邪魔すんな」

「もうわかった。お前の言いたいこともわかったし、お前が殴って、蹴ったこともわかったから黙れ」

「とっさの出来事で記憶が曖昧だわー」

「本当に黙れ」


 ぶー、ぶー。


「申し訳ないです。後のことはこちらで処理します」


 本部長は俺を黙らせ、年配の警察官に言う。


「まあ、そちらの言い分が正しいことはわかってますしね。本来なら、懲戒処分ものですから。では、確認も取れましたので、私達はこれで失礼します」


 年配の警官はそう言って、敬礼をすると、若い女の警官と共に退室した。


「おい、不祥事を起こしたのに逃げたぞ。まだ、税金もらって、その金で善良市民に銃を向けんのかっていう決め台詞が残ってんのに」

「黙れ。警官の金を盗もうとしておいて、何を言ってる」

「こらこら。言いがかりにもほどがある。俺は敵の身分を探ろうとしたまでだ」


 こう言えと、シロが言っていた。

 頼りになるー。


「もういい。ハァ……神条、結論から言う。今回の事件はなかったことになる」


 はぁ!?

 また!?

 こいつら、隠ぺいが大好きだな!


「なんで?」

「国際問題になるからだ」

「いや、しろよ。明らかにヤバいことしてんじゃん」


 未成年を誘拐したうえに、婦女暴行未遂だぜ?

 アウト!


「お前も返り討ちにしたうえに、金とパスポートを強奪したがな」

「記憶にない。証拠でもあんのか?」

「向こうさんはそう供述してる」

「犯罪者の言うことなんか信じるなよ。自己保身のために、正当化しようとしているだけだ」


 俺と犯罪者とどっちを信じるんだよ!


「向こうさんは非を認め、素直に話してくれてる。そして、俺はお前を信じている。絶対にやったとな」


 そういう信頼はいらない。


「ケッ! 正当な慰謝料だよ。たかが、5千円しか持ってなかった強姦魔のくせに。もっとイジメておけばよかったわ!」

「お前、ホントにクズだな……」

「聞き飽きたわ! なかったことになるって言ってたけど、そんなこと出来るのか? 警察まで出てきておいて」


 当たり前だが、警察と協会は別組織だ。

 隠ぺい出来ないだろ。


「その辺はお前は知らなくていいことだ」

「あっそ。興味もねーわ。んなことより、俺の休みはどうなる? 公欠になるんだろうな?」

「…………そんなことはどうでも良くないか?」

「バカか!? 俺は成績が良くないから普段の行いが大事なんだよ! 休んで評価が下がって、落第したらどうする?」

「…………バカはお前だ……勉強しろ」

「しとるわ! 勉強して、あの成績なんだよ!」


 なめんな。


「ハァ……先生方、アホがこう言ってますが……」


 本部長はため息をつき、伊藤先生と学園長に話を振る。


「神条、公欠にはしてやる。どう考えても、休んだことに対するお前の非はないからな」


 伊藤先生が苦々しい顔で言う。


「うむ。君は被害者だからな」


 学園長はいつもと同じ表情で言った。


「じゃあ、いいや。話はもう終わりか?」


 もう帰っていいぞ。


「まだだ。アメリカのエクスプローラ達がお前を攫った理由を教えてやる。それと、それについての話が聞きたい」

「興味ねーよ。どうせ、俺がかわいいからだろ? そんなヤツら、これまでにいっぱいいたわ。全員、叩き潰してやったがな」


 特に夏は多かった。

 まあ、あの時期は薄着だったから仕方がない。

 俺の足が眩しすぎたのだろう。


「それな。お前、その時にどんな対応をした?」

「いちいち覚えてねーよ。ひん剥いて、川に放り投げたことはあるぞ」

「クズ……」


 うるせーわ!


「ゴミ掃除をしただけだ。まあ、そういう意味では不法投棄だったかな?」


 わはは!

 座布団くれ。


「まあ、今から話してやる」


 本部長はさっきまで年配の警察官が座っていた丸椅子に腰かけた。


 うわ……

 なんか長くなりそうだ……


 トイレ行っていい?

 漏れそうなんだけど……





攻略のヒント


 この度はエクスプローラ協会東京本部に所属するエクスプローラが多大な迷惑をおかけしたことを謝罪いたします。

 負傷した警察官の一日でも早い復帰をお祈りいたします。


 また、この件におきましては、ダンジョン省及び外務省の意向により、内密にお願いいたします。


『エクスプローラ協会東京本部本部長から警視総監への要請』

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