第9章

第165話 第2フェーズ


 この世界にダンジョンが出現した。


 これは多くの国を救った。

 ダンジョンが出現する以前は、地球の資源が底を尽きそうになり、世界中の国々が戦争を起こす一歩手前だったからだ。


 ダンジョンは危険である。

 物理法則を無視したモンスター、殺す気としか思えない罠、長い迷宮。


 多くの犠牲者を出した。

 今なお、毎年のように犠牲者は出る。


 しかし、ダンジョンは必要だ。


 モンスターからドロップできる魔石、宝箱にあるアイテム。

 これらは世界を救った。


 あれから10年以上が経つが、もはや人類はダンジョンなしでは生きられないだろう。


 これはほとんどの人間の共通認識だ。



 俺が何故、今さらこんなコラムみたいなことを思っているかというと、先ほど、とんでもない言葉が聞こえたからである。




 ◆◇◆




 俺はシロに言われた通り、仲間を呼び出し、協会にやってきた。


「急にどうしたの? ってか、もう退院したの?」


 俺の仲間の1人であるシズルが聞いてくる。


「元々、ケガもしてねーよ。さっき病院から追い出された」


 ちょっとムカついた。


「ふーん。まあ、それはどうでもいいけどさ。急にダンジョンに行くとか、何を言ってるの?」


 急に呼び出され、不機嫌そうな顔をしているちーちゃんも聞いてくる。


 この場にいるのは、シズルとちーちゃんだけだ。

 あとの3人は用事があり、行けないと言われた。


 なお、シズルは二つ返事で来てくれた。

 良い子だね。


 ちーちゃんはすげー文句を言ってきた。

 それでもちゃんと来てくれるあたり、ツンデレさんだ。


「いや、俺もわからん。シロが言いだしたんだよ」

「シロ?」

「何かあんの?」


 シズルとちーちゃんは俺の肩にいるシロを見る。


「まあ、ダンジョンに行けばわかる」


 こいつ、本当にはぐらかすのが好きだよな。


「よくわからんが行ってみようぜ」


 ダンジョンに行けばわかるって言ってるし、考えてもわからない時は行動だ。


「この3人で? 危なくない?」

「あたし、死にそう…………」


 シズルは心配そうに言い、ちーちゃんは嫌そうだ。


「奥までは行かない。1階層でいいそうだ」

「ふーん」

「まあ、それなら……元々はこの3人だったしね」


 懐かしいなー。

 あの時はちーちゃんを仲間にしようと必死だった。

 最終的には、俺の人徳で仲間になってくれたのだ。


 俺は懐かしい気持ちになったが、さっさとダンジョンに行こうと思い、マイちんの所に向かった。


 マイちんの所に行き、ダンジョンへ入る申請をすると、反対された。

 というか、『病院じゃないの!?』と驚かれた。


 俺はちょっと確認したいことがあるだけで、すぐに戻ると言って、説得し、何とか、ダンジョンに入ることが出来た。


 俺達は今、ロクロ迷宮の1階層にいる。

 ここはスライムがメインの階層であり、たまにゴブリンが出る程度だ。


 ハッキリ言って、この階層でやることなんてない。


「おい、着いたぞ。話って何だよ」


 俺は肩にいるシロに聞く。

 シズルとちーちゃんもシロを見ている。


「まあ、焦るな。いいか? あと少ししたら、お前らの脳内に声が聞こえるだろう。それを聞き逃すな」


 はい?

 声が聞こえんの?

 電波ちゃんになるの?


「何それ? 初めてダンジョンに入った時みたいなの?」


 シズルが首を傾げた。


「良い線いってるなー。もっと前のやつだわ」

「はじまりの言葉?」


 シロのヒントを受け、ちーちゃんが答えた。


 はじまりの言葉とは、初期にダンジョンに入った人間全員に聞こえた言葉である。

 ダンジョンやモンスター、もしくはジョブやスキルなどの説明をしていた言葉だ。

 これは協会のホームページを見れば、いつでも確認できる。


「お前は頭がいいなー。ほれ、来るぞ。絶対に聞き逃すなよ」

「ちーちゃん、よくわからんが、一語一句覚えろ」


 俺は重要なことだろうと判断し、ちーちゃんに指示を出す。


「わかった」


 わかっちゃったよ…………

 結構な無茶ぶりだよ?


 俺は相変わらずなちーちゃんに呆れていると、耳がキーンとなった気がした。


 そして………


『只今を持って、全ダンジョンの攻略進度が10パーセントに達しました。これより、第2フェーズへ移行します』


 ん?

 10パーセント?


 俺はよくわからない言葉に困惑するも、聞き逃さないようにする。


『第2フェーズでは、ダンジョンの選定を行います。各地にダンジョンが出現しましたが、不要なダンジョンも多くあるため、それらのダンジョンを消滅させます。現在、未発見なダンジョンは今、この言葉を持って消滅しました。また、攻略進度が一定の基準に満たない進度のダンジョンを30日以内に消滅させます。基準については、各ダンジョンにいる人間に伝えます――――――このロクロ迷宮においては、30日以内に60階層のボスを倒すことを条件とします。倒す人間はどなたでも構いません。60階層攻略を持って、必要なダンジョンと判断します』


 1ヶ月以内に60階層を行けって?

 無理言うな、ボケ!!


『――今、ボケとほざいたあなた。怒りますよ?』


「ルミナ君!」

「ルミナちゃん!」


 シズルとちーちゃんが俺を睨む。


 決めつけんな!

 いや、俺だけど……


 でも、無理くね?

 一番進んでいる≪Mr.ジャスティス≫でも39階層だ。

 どう急いでも無理だよ。


 神様ー、無理でーす。

 でも、このダンジョンはちょー必要でーす。


『じゃあ、50階層にします。頑張ってください』


 お!

 言ってみるもんだ。


 もう一声!

 40階層にしようよー。


『いや、40階層だと、もうあなたが到達してるじゃないですか。ダメです』


 じゃあ、50階層に到達したらトランスバングルをちょうだい。


『強欲な人間ですねー。今からクリアした報酬を伝えるところだったのですが、強欲な小娘がうるさいので、ロクロ迷宮の50階層攻略報酬はトランスバングルにします』


 やったー!

 神様ー、ありがとう!


『その謙虚な心が大事ですよ。私は神様ではありませんけどね』


 あっそ。

 ついでに、金もくれよ。


『金って…………そこの2人、その強欲の塊みたいな魔女を黙らせなさい』


「ルミナ君、黙ろっか」

「あんた、よくそんな要求ができるね」


 チッ!

 じゃあ、黙ってまーす。

 ってか、しゃべってねーし。

 

『また、ダンジョンにおけるルールを説明します――――』


 神様じゃない人は何かルールを説明しだした。

 内容ははじまりの言葉の追加説明のようだ。

 俺も聞いているが、特に気になることはない。

 まあ、あとでちーちゃんにまとめてもらって見返せばいいだろう。


 そんなことよりも50階層でトランスバングルが手に入る。

 本来なら、もっと奥にあるであろうアイテムが50階層で手に入るのはチャンスだ。


 しかし、50階層って難しいな。

 ≪Mr.ジャスティス≫に行かすか…………


『――以上となります』 


 お、終わったみたいだ。


 しつもーん!

 トランスバングルって、他の迷宮にもあるんですかー?


『ホントにうるさい小娘……トランスバングルはこのロクロ迷宮にしかありませんので、頑張ってください』


 じゃあ、50階層に行けず、このダンジョンが消滅したらヤバいじゃん!

 男になるジョブとか、スキルはないんですかー?


『ないです! もう質問は受け付けません! いいですね?』


 うーん、どうしようか……

 50階層は厳しいなー。


『無視かい…………』


 聞いてる、聞いてる。


『では、これで終了します。頑張ってください――なお、この後、上位ジョブを持つ者だけに、お知らせがあります』


 上位ジョブ?

 レアジョブのことかな?


『上位ジョブは――』


 レアジョブだよ!

 皆、そう呼んでる!


『うるさいクソガキだな…………レアジョブは一般的なジョブとは違い、特殊なジョブです。レアジョブは主に3種類に分類されます。一つはニュートラルです。これは努力をすれば、誰でもなれるレアジョブになります。もう一つはオーダー。これは秩序という意味であり、よき行いをし、規律正しい人間に与えられます。普段からの心がけを大事にしましょう。最後の一つはカオスです。カオスは混沌という意味であり、秩序であるオーダーとは反対の意味になります。どっかの強欲な小娘のような人間がなれます。ならないほうがいいでしょう。ロクな人間にはなりません。ステータスを見れば、ニュートラルなのか、オーダーなのか、カオスなのかをわかるようにしました。確認してください。以上です』


 どっかに強欲な小娘がいるらしい。

 っていうか、英語はやめてほしいわ。


「終わった?」


 俺はシズルとちーちゃんに聞く。


「多分ね」

「あんた、強欲な小娘とか言われてたね」

「心外だわー。ってか、ステータスを見てみるか。お前らもレアジョブだろ?」

「だね」

「あんたは確認しなくてもいいでしょ。ご指名でカオスって言われてたし」


 うるせーな。

 誰がロクな人間じゃない、だ。

 俺はきっとオーダーだろう。


 俺はステータスを操作し、自分のジョブを確認する。



----------------------

名前 神条ルミナ

レベル33

ジョブ 魔女  超カオス(笑)

----------------------


 

 え?

 なにこれ?


 まあ、百歩譲って、カオスなのはまだいい。

 超が付いてるし、しかも、笑われている。


「あたしはニュートラルだね。まあ学者だし、そんなもんか」

「私はオーダーです」

「おー、さすが」


 ちーちゃんとシズルは盛り上がっている。


「ルミナ君はカオス?」

「決まってんじゃん。ご指名だよ?」


 シズルとちーちゃんがきゃっきゃしながら俺にも聞いてきた。


「いや、カオスじゃなかった……」


 俺は自分のステータスを見ながら固まっている。


「え!? 絶対にカオスだよ!」

「だよねー。どれどれ……」


 シズルとちーちゃんは完全に決めつけ、俺のステータスを覗く。


「……………………」

「……………………」


 シズルとちーちゃんはそーっと俺から離れた。


「しかし、とんでもないことになったね」

「ですね。でも、ルミナ君のおかげで、60階層から50階層に減ったのは良かったです」

「だね。よくもまあ、図々しく要求できるわ」

「とりあえず、協会に戻って、さっきの言葉をまとめましょう。私もある程度は覚えてますので」

「そうしよっか。ルミナちゃん、帰るよ」


 絶対に復讐だろ、これ。

 神様じゃない人は性格が悪いわー。


『あなたに言われたくないです』


 いいから、はよ直せや!





攻略のヒント


 レアジョブは以下の4種類に分類される。


 ニュートラル  普通のジョブ

 オーダー    秩序あるジョブ

 カオス     混沌のジョブ

 超カオス(笑)  ルミナちゃん専用


『とあるノート』より

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