第162話 全然、キューティーじゃねえ!


 俺はアメリカのエクスプローラ達に捕まった。

 そして、絶体絶命のピンチになっている。


 変態女が縛られた可憐な少女に1歩、また1歩と近づいてくる。


 本当に女かどうかの確認って言ってたけど、何をするんだろう?

 俺はこれからどうなるのだろう?

 下を脱がされるのかな?


 嫌じゃい!


 俺は全力で手錠と縄を引きちぎろうと、腕に力を籠めるが、ビクともしない。


 ぐぬぬ!

 ダメだ……この手錠、すげーわ。

 しかし、ヤバい…………


 そうだ!

 俺には魔法があるのだ!


 とは言っても、手が使えないため、ラブラブファイヤーやラブリーアローは使えない。

 カボチャ爆弾も同様だ。

 出すことは出来るが、投げることが出来ないので、俺が死んでしまう。


 攻撃魔法はダメそうだな。

 しかーし!

 俺にはマジカルフライがあるのだ!


 俺は空を飛べるキャッチーな魔女っ娘ルミナちゃんなのだー!


「さらばだ、変態女!!」


 俺はマジカルフライを使い、椅子ごと飛び上がろうとした。


 しかし……


「――ぐえっ!」


 俺は少し浮いたのだが、何かに引っかかったようで、これ以上、上に上がれなかった。

 しかも、引っかかった時の衝撃でバランスを崩し、椅子ごと転んでしまった。


「痛った……」


 ちょっと頭を打った気がする。


「本当に宙に飛べるのね…………念のため、椅子に鎖をつけて良かったわ」


 女がそう言うので、椅子をよく見てみると、椅子には鎖がついている。

 そして、その鎖は地面に繋がっていた。


 どうせ、この鎖もダンジョン産だろう。

 これでは飛んで逃げることは出来ない。


 クソ!

 ん?


 俺は自分の目の前に影があることに気付き、顔を上げる。

 そこには変態女が俺を見下ろしていた。


「暴れないでね。すぐ済むから」


 女はそう言って、腰を下ろし、俺のスカートに手をかけた。


「変態ー! 変態だー!! 女に犯されるー!!」

「静かにしなさい!!」


 俺はなんとか暴れるが手足を抑えられているため、どうしようもできない。


「まったく……私だって、こんなことしたくないわよ……むっ、縄が邪魔で脱がしづらいわね」

「変態ー! 変態ー!! どこ触ってんだよ!!」

「耳元で騒がないで! うるさいわね!!」


 俺が騒ぎ、女は俺のスカートを脱がすのに苦戦している。


 このままではマズい!

 マジで脱がされる!

 ってか、スカートだけで済むか?

 え? パンツも?

 ヤバいじゃん!!


 俺は何とかしようとするが、手足も動かせないし、飛ぶこともできない。

 絶体絶命だ。


 こういう時にはいつも軍師がアドバイスをくれるが、今はいない。

 今頃、シロはお腹を空かせて、家で俺の帰りを待っているだろう。


 クソアマ!

 マジで殴りてー。

 こうなったら頭突きを食らわしてやる。

 食らえー!


「……急にヘッドバッドしてるけど、どうしたの?」


 空ぶったんだよ!!


「長い髪ねー。この髪は地毛? 染めてる? あなたは黒髪だったわよね?」


 クソが!!

 髪なんて、どうでもいいだろうが!

 …………いや待てよ。

 俺にはキュティーヘアーがあるじゃないか!


 食らえ! 触手プレイアターック!


 俺は髪に意識を集める。


「ん? あれ? 髪が伸びてない? って、何これ!?」


 俺は伸ばした髪を操り、女の身体に巻き付かせた。


「ちょ、何!? キモ! 怖い! や、やめ――!!」


 俺はどんどん髪を伸ばし、女を拘束していく。

 そして、女を完全に拘束すると、宙に浮かした。


「何これ!? 髪がー!! 助けてー!! って、服の中に突っ込まないでよ!!」


 俺は女を無視し、服の中をまさぐる。

 言っておくが、本当に触手プレイをしているわけではない。

 手錠のカギを探しているのだ。


 おそらく、俺を拘束したのは同性であるこいつだろう。

 すなわち、カギを持っているのはこいつだ。


 俺は意識を髪に集中させ、ポケットを探す。

 すると、女の内ポケットの中からカギを発見した。


「――な!!」

「なんだあれ!?」

「バケモノ!?」


 どうやら男共も気付いたようだ。


「助けてー!!」


 女が救援を呼ぶと、男達が走って近づいてくる。

 俺はそれを見て、カギを奪い、自分の所に持ってくると同時に、他の髪を使い、男共を襲った。


「なんだこれ!?」

「チッ! 武器を出せ! 切るぞ!」


 男共はそれぞれナイフやショートソードを出し、髪に切りかかる。

 しかし、俺の髪を切ることは出来なかった。


「何だこの髪!? 切れない!」

「クソ!! って、うわ!」

「足に、絡みついてくる!!」


 俺は男共が正面の髪を切ろうと悪戦苦闘している隙に、別の髪を足元に送っていたのだ。


「うわ!!」

「ハンバーガー大佐!!」


 俺は片言をしゃべるハンバーガー大佐なる男の足に髪を絡ませ、一本釣りした。


 あと2人だな。


 俺は男共が俺に髪で遊んでいる間に、女を完全に拘束し終えた。

 そして、同時進行で髪を操り、カギを使って、手錠を解いた。


 手が自由になった俺はアイテムボックスから≪血塗られた短剣≫を取り出し、縄を切る。

 縄はかなり切りにくかったが、俺の力と≪血塗られた短剣≫の性能で何とか切ることが出来た。


 俺は完全に自由になったのだ。


「変態共め!! 愛と平和の使者である魔女っ娘ルミナちゃんが許さないぞ!!」


 自由になった俺は立ち上がり、高らかに宣言する。


「げ! あの女、いつの間にか縄と手錠を解いてやがる!!」

「まずい! 捕まえろ!」

「クッ! 俺がヤツを捕えるから、紳士代表はハンバーガー大佐とマリリンの生まれ変わりを頼む!!」


 多分、コードネームか何かだとは思うが、長くない?

 この場面で言いづらいだろうに……


 お肉魔人は紳士代表に指示を出すと、持っている短剣を構え、俺に突っ込んできた。


 フン!

 俺に勝てると思ってんのかね?


 俺はそんなお肉魔人を鼻で笑うと、血塗られた短剣をお肉魔人に向けて、投げた。


「む!」


 ――キンッ!!


 お肉魔人は自らの短剣を振るい、俺の投げた短剣を落とした。

 そして、フッと笑った。


 カッコつけているようだが、俺の目にはマヌケにしか映らない。

 何故なら、お肉魔人の後ろには俺の髪が迫っているからだ。

 そして、短剣を受け、足を止めたため、もう、すぐ後ろに迫っていた。


「ん?」


 お肉魔人はニヤニヤと笑う俺を不審に思ったのか、後ろを振り向く。


「な!?」


 お肉魔人は俺の髪に気付き、避けようとするが、時すでに遅し。

 俺の髪はお肉魔人の首に巻きついた。


「グッ!」


 俺は髪に力を込めたが、お肉魔人は必死に耐えている。

 俺はそんなお肉魔人に、てくてくと歩いて近づくと、腹パンを食らわせた。


「うっ!」


 お肉魔人は首に集中していたため、一発でダウンした。


 後は紳士代表だけである。


 俺が紳士代表を見ると、紳士代表は俺に背を向け、持っているナイフで、必死にマリリンの生まれ変わりを助けようとしている。

 隙だらけである。


 俺はそんな紳士代表に向かって走ると、その隙だらけの背中に無言で蹴りつけた。


「ぐはっ!!」


 俺の蹴りをまともに食らった紳士代表は前のめりに突っ伏して動かなくなった。


「がはは! 完全勝利だ!」


 やはり正義は勝つのだ!!


「動くな!」

「うわっ! なんだこの金色の物体は!?」


 俺は急に知らない声がしたので、振り向くと、そこには黒いスーツを着た2人組が銃を俺に向けていた。


 仲間かな?

 しかし、銃を持っているとは…………


 俺は降参の意を表すために、両手を上にあげる。


「う、動くなよ!」


 2人組はそんな俺にじりじりと近づいてくる。


 もちろん俺は両手を上げたままだ。

 しかし、降参なんてする気はまったくなかった。


 俺はひそかに髪を動かし、2人組に狙いを定める。


「動くなよー…………って、うわ!」

「な、何だこれ!?」


 俺は2人組の意識が俺に集中しているのを見て、髪を地面に這わせていた。

 それを一気に動かし、2人の拳銃を奪ったのだ。


「か、返せ!」


 2人組の1人が俺に向かって、命令する。

 俺はそんな男にイラっとして、銃を向けた。


「や、やめろ! それはおもちゃではないんだぞ!」

「知ってるぅー。そんなおもちゃではないものを俺様に向けたことも知ってるー。キャハ!」


 俺はかわいさ100点満点で笑う。


「やめなさい!」

「うっせー、ボケ!」


 俺は2人組にダッシュで近づくと、一人を殴り飛ばし、もう一人をハイキックを食らわせた。


 2人組は弱かったらしく、まったく反応できずに沈んだ。


「チッ! 雑魚のくせに、調子に乗んな!」


 俺は気絶している男の頭を踏む。


「フン! これは慰謝料だな」


 俺はいつものように退治した敵から戦利品(財布)を奪うために、男の服の中をまさぐる。

 すると、中から財布が出てきた。


「お! 結構あるな」


 万札が4枚も入っていた。


 俺はさらにもう一人の方をまさぐるが、財布は出てこなかった。

 しかし、代わりに黒い手帳を見つけた。


「………………………………」


 その手帳を開けると、そこには金色のエンブレムが付いていた。


「………………………………」


 そして、そこにはローマ字でPOLICEと書かれていた。

 俺は見間違いかもーと思い、腕で目をこすり、もう一度見る。


「………………………………」


 俺は無言で手帳を男のポケットに戻した。

 そして、奪った4万円を財布に戻し、もう一人の男の内ポケットに戻した。


 俺はどうしようかと悩む。


 すると、俺の≪索敵≫が近くに、10人近くの人間を感知した。

 そいつらは走ってこちらに向かっている。


 俺はすぐに髪を元に戻すと、その場で寝ころんだ。

 そして、目を閉じた。


 ちょっとすると、声が聞こえてくる。


「うわ! なんだこれ!?」

「おい、小林! 何があった!?」

「ダメです! 気絶しています!」


 小林さんとやらは俺が殴りました。


「柴田は!?」

「こちらも気絶しています!」


 柴田さんとやらは俺が蹴りました。


「ん? この女性は?」


 俺かな?


「この女性が協会から要請のあった方です! ≪陥陣営≫の神条ルミナです!!」


 あ、俺だ!


「意識は!?」


 あるよー。


「意識はなさそうですが、外傷はありません! 呼吸も正常です!」


 そらそうだ。


「救急車を呼べ!」

「ハッ!」


 よしよし。

 俺は被害者だ。

 きっと、警官を倒したのはアメリカのエクスプローラ達だろう。


 俺は何もしていないし、何も覚えてない。


 

 俺はそのまま寝たふりをし続けた。





攻略のヒント


 神条ルミナの救出に成功。


 ただ、現場の状況がよくわからない。

 神条ルミナもアメリカのエクスプローラ達も現場に急行した警官も、皆、気を失っていた。


 これから詳細の調査に入るため、本部長も現場に来ていただきたい。


 なお、神条ルミナは、ケガもなく、無事であったが、念のため、救急車で病院に運んだ。

 保護者や学園への連絡も併せて、お願いしたい。


『警察からエクスプローラ協会東京本部本部長への要請』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る