第8章

第144話 1年ぶりに見た我が子が迷走というか……意味がわからない


 拝啓、あなたはどうお過ごしでしょうか。

 まあ、お墓にお眠りになっておられるので、元気ではないでしょう。


 私は元気です。

 とっても元気です。


 あなたの目には私が女子用の制服に身を包んだ超絶美人さんに見えていることでしょう。

 でも、安心してください。

 私はこんな姿、こんな服装ではありますが、あなたの息子です。

 あなたがお腹を痛めて生んだ男の子です。


 ものすごいパワーワードかと思いますが、事実です。


 でも、元気です。

 安心してお眠りください。


 彼女も出来ました。

 私も女だけど、彼女が出来ました。


 これまた、パワーワードかと思いますが、事実です。


 私はとても元気に明るく幸せに生きています。

 私がそちらに行くことは当分ないでしょう。


 安心してください。

 私は幸せです。


 敬具



 俺は心の中でそう報告し、目を開けた。


 目の前にはお墓が見える。

 俺を生んですぐに亡くなった生母の墓だ。


 俺は心配しているだろう我が母を安心させるべく、今年1年の報告をしていたのである。


「終わったかい?」


 横にいる父親が聞いてくる。


「まあねー。今年1年の報告をしたよ。きっと安心しているだろう」

「うん、まあ……」


 父さんは歯切れが悪そうに頷く。


「この母親はどんな人だった?」


 俺はお墓を見ながら聞く。

 あまり家では聞けないことだからだ。


「うん、まあ……ルミナ君に似て、元気な人だったよ」


 俺に似ているということはさぞ美人で気立てが良かったのだろう。


「いくつの時に結婚したん?」

「彼女は20歳だったかなー」


 はえーよ!

 田舎のヤンキーか!


「もう聞かないでいいや。窓ガラスとか割ってそう」

「窓ガラスは割ってないねー。無免でバイクには乗ってたけど」


 もう聞きたくない。

 そんなのに似てるって言われたくねーし。


 俺はこれ以上、生母の話を聞くと、やさぐれそうなので、墓参りを終え、さっさと帰ることにした。

 元々、ロクに知らない生母の墓参りに思うことはない。

 俺が元気であり、幸せなら生母もそれでいいだろう。

 っていうか、寒い。


 その後、父さんが運転する車に乗り込み、2人で昼飯を食べに行く。


 この流れは毎年のことであり、父親と2人でご飯を食べるのはこの日くらいだ。


「なあ、よく母さんと再婚したな。向こうも連れ子がいんのに」


 店に入り、2人共、定食を注文したところで、この際だし、色々と聞いてみようと思った。


「お母さんとは同僚だったんだ。お互いに子供がいたけど、シングルだったし、仕事や子供の事を相談をしあったり、協力しててね。それで、まあ、いい感じに……なんで、こんなことを息子に話さないといけないんだ……」


 恥ずかしがるなよー。

 笑っちゃうだろー。


「お姉ちゃんやホノカがいるのに、嫌じゃなかったの?」

「まあ、最初は怖かったよ。息子はいたけど、娘はいなかったし、僕は一人っ子だからね。でも、お姉ちゃんもホノカも良い子だったからすぐに慣れた。まあ、可愛かったしね」


 俺は可愛くなかったってか?


「ふーん。母さんは?」

「結婚を伝える前にルミナ君に会っておきたいって言っててね。君はすぐにお母さんに懐いたから楽だったよ」

「そうだっけ?」


 再婚前に料理を作りに来ていたことは覚えているが、どういう会話をしたか、どういう感じだったとかの詳細については、全然、覚えてない。


「最初は警戒してたくせに、お母さんがお菓子をあげたらすぐに懐いた。我が息子ながら犬かと思ったね」


 馬鹿なガキ。

 お菓子でなびくなや。


「きっと母さんの優しさに気付いたのだろうな」


 当時から見る目があったんだろう。


「お姉ちゃんやホノカに会わせた時も似た感じだったよ。お姉ちゃんがお菓子を分けたら、懐くどころか、べったりだった。そして、ホノカのお菓子を奪い、ケンカしてた」


 馬鹿なガキ。

 お前の頭にはお菓子しかねーのか。


「きっとお姉ちゃんの愛に感動したんだろうな。ホノカは知らん」

「まあ、早めに馴染んでよかったよ。君はもう少し、落ち着くといいけどね」

「男に戻ったらなー」

「早くしてくれ。男が僕だけだと、肩身が狭いだろ」


 そこは自分で頑張れ。

 元々、俺は家にはいない。


「ルミナ君、学校は楽しいかい?」

「子供とコミュニケーションが取れない親父みたいなことを聞くなよ。普通に楽しいわ。じゃなきゃ、とっくの前に辞めてる」


 俺に学歴なんかいらない。

 そんなもんなくても、稼げるし、生きていける。

 俺が学校に行くのは友達と遊ぶためだ。


 勉強?

 死ね。


「いや、高校くらいは出てよ」

「だから、ちゃんと卒業するわ。落第は知らんぞ」

「頑張れ。お母さんみたいになったらダメだよ」


 そのお母さんはダメな方の母親だろ。

 そいつは俺の教育上、よろしくないから話すな。


「ならない。そっちはどう? お姉ちゃんに彼氏は出来た?」


 出来たら彼氏を殺す。


「いないんじゃない? お姉ちゃんの浮いた話は聞かないなー。良い子だと思うんだけど」


 恐れ多いんだろ。

 人間風情が天使のお姉ちゃんには近づけまい。


「ホノカは…………いいや。どうせ、いない」

「というか、ルミナ君の方が詳しいんじゃないの? 同じ学校だろ」

「学年違うし。ホノカに至っては校舎も違う」

「そんなもんかー。ルミナ君は? なんかお姉ちゃんが騒いでたけど」


 冬休みになり、実家に戻った俺だったが、ちょっと一人暮らしの家に帰りたくなっている。

 あんなにかわいいお姉ちゃんがうざいお姉ちゃんに変わってしまったのだ。


 毎日毎日、『どうだった? どうだったの!?』だ。

 早く天使に戻ってほしい。


「シズルと付き合ってる」

「シズルちゃん? あの? まあ、君が好きそうな子ではあるね」


 え?

 おっぱい?

 このスケベ親父め!


「そんなんわかるの?」

「優しそうな子だったからね。君は昔からああいう人の優しさにつけ込んで執着するから」


 言い方、最悪。

 結婚詐欺師みたいに言うなや!


「そんなことはないけどなー」

「まあ、頑張って。ダンジョンは大変だとは思うけど、無茶だけはしないように」


 良いこと言って、締めようとしてるが、父さんが俺のことをどう思っているのかがよくわかったわ。


「それとさ、他のエクスプローラにケンカを売るのをやめなさい」


 あ、説教が始まった。


「パパー。もっとお小遣いくれたら、ホテルに行ってもいいよー」


 俺は店員が俺達のテーブルに定食を持ってきたタイミングで、甘い声を出した。

 すると、俺達の席に定食を置こうとした店員の動きがピタリと止まった。


「ルミナ君、歩いて帰りなさい」

「寒いわ! 風邪引いたらどうすんだ!」

「君は風邪を引かないから大丈夫」


 誰がバカじゃい!


「申し訳ありません。この子とは親子です。バカな子なんです」


 父さんが店員に謝っている。


「バカじゃねーし」


 店員さんは俺達を訝しげに見ながら、定食を置いて、厨房の奥へと戻っていった。


「シャレにならないでしょ」

「さっきの店員の反応、めっちゃウケる」

「いいから早く食べなさい」


 めっちゃ笑えるし。


 俺と父さんは、その後も学校の話などをしながら昼ご飯を食べる。


「正月はいつまでいるんだい?」

「6日かな。8日から学校だし、前日は準備とかあるから」

「家から通う気は?」

「めんどい。パーティーメンバーのたまり場になってるし。彼女いるって言っただろ」


 実家に呼びたくない。

 うざい堕天使がいるし。


「お母さんが寂しがってるよ。ルミナ君、全然、連絡しないし」


 めんどい。


「なるべく帰るようにしてるけど、ダンジョンがあるからなー」

「ダンジョンで思い出した。君の通帳がとんでもないことになってるんだけど」


 俺の通帳は基本的には親が握っている。

 俺に好きにさせると、ムダ金を使うと思われているらしい。

 まあ、いくらでもへそくりは作れるからいっぱい持ってるけどね。


 親に渡した通帳は将来への貯蓄用であり、個人で使うのは別にあるのだ。


「20階層以降に行ってるからな。稼ぎはその辺のプロよりも良い。使ってもいいけど、俺の老後の分は残しておいて」

「使わないよ。しかし、エクスプローラって、儲かるんだね」

「俺が特別に優秀なの。すごいだろー。学校でも評判なんだぞー」

「すごいとは思うけど、心配だよ。学生らしく、問題を起こさないようにね」


 大丈夫だってー。

 心配性だなー。


「俺は東京本部に来てからは真面目にやってるし、問題も起こしていないよ」


 俺は親の心配を無視し、昼飯を食べ続ける。


 そして、昼飯を食べ終え、食後のお茶を飲み、そろそろ帰ろうかと思っていた。





「ちょっといいかな?」






 警察が来ていた。





攻略のヒント


 以下の人物を3日間の停学処分とする。


 1年3組 神条ルミナ


『ダンジョン学園東京本部 とある張り紙』より

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