第143話 終わり良ければすべて良し!
クリスマスイブにシズルはウチに泊まっていった。
もちろん、やってはいない。
でも、堪能はできたし、幸せなクリスマスだったと思う。
若干、シズルの重さがさらに増したような気はするが、まあ、良しとすることにする。
泊まっていったシズルは午前中には帰っていった。
しかし、親になんて言って外泊したんだろう。
ちょっと気になる。
翌日のクリスマスの日、俺はシロを迎えに行き、うざそうな笑顔を浮かべているお姉ちゃんを無視して、協会へと向かった。
俺が先ほど、携帯の電源を入れると、本部長からの着信がびっしりだったのだ。
昨日、これ以上邪魔が入らないようにと思い、携帯の電源をずっと切っていたのだが、その間に本部長は何度もかけてきていたようだ。
クリスマスなのに暇なの?
奥さんやお子さんは?
すぐに電話をすると、協会に来てほしいと言われたので、クリスマスなのに、協会へと向かっているのだ。
俺が協会に着いて、中に入ると、ほとんど人はいなかった。
この時期はエクスプローラが少なくなる。
ましてや、今日はクリスマスなので、さらに少なくなるのだ。
俺はマイちんの所へ向かい、本部長を呼んでもらった。
そして、本部長室に案内され、ソファーに座る。
「まずはよくやってくれた、高橋は無事に保護できたし、あいつらも捕らえることが出来た。文句なしの成果だな」
本部長は俺の対面に座り、讃えてくる。
「めっちゃ強かったわ。立花クラスだ。多分、殺した数はとんでもないと思う」
「だろうな。その辺はクーフーリンや春田からも聞いている」
「聞きたいんだが、お前らはいつからあいつらをマークしていた?」
「…………例の暴行事件があったすぐには把握していた」
思ってたよりもずっと早い。
「なのに、今まで放置か?」
「証拠がなかったのだ。当然、見張ってはいたが、尻尾を出さなかった。しかし、各地でマークしていたヤツらがこの東京本部に一斉に移籍してきた時にチャンスだと思った。必ず、動くとな」
「一斉に移籍してきたのか……バレバレじゃん」
バカなのかな?
「スタンピードが起きてからこの東京本部には危機感があった。なにせ、他所と比べて、戦力が低すぎる。だから、他所の協会と話し合い、戦力を分けてもらっていたのだ。大阪支部にいた≪クロイツ≫の2人もそれ関連だな。おそらく、その流れに紛れ込もうとしたのだろう」
「戦力が低いか? スタンピードだって、止めてやっただろ?」
「お前らは自己中すぎて、信用できん」
ひどい言いようだ。
実際にスタンピードを止めてやったというのに。
「俺もサエコもショウコも、あのクーフーリンだって参加したろ?」
「春田は参加しなかった。めんどいの一言を残してな。それにお前らの事を抜きにしても、スタンピードなんかは個人の強さより全体の強さだ。俺はDランクばかりのこの協会ではマズいと思ったのだよ」
あきちゃんはひどいなー。
「それで、≪クロイツ≫を呼んだのか……」
「ああ、Dランクだが、優秀と聞いてな。ところが、蓋を開けてみれば、誰にでも噛みつく面倒者だった。どうも、大阪支部でもそんな感じだったらしい。それを体よく押しつけられた」
協力するとはいえ、本当に有望なエクスプローラを手放したくはないわけだ。
まあ、確かに、先輩達のあの感じだとそうだろうなー。
まさしく、いきりって感じ。
しかも、ちょっとバカ。
「なるほどねー。襲撃犯はどうやって捕まえるつもりだったんだ? 証拠がないんだろ?」
「…………それもお前に頼もうかと思っていた。囮作戦だな」
こいつら、マジで俺をいいように使ってないか?
「俺が未成年の学生なことを忘れてない?」
「もちろん、厳重にするさ。というか、お前はおびき出してくれたら帰還の結晶で帰ってもらうつもりだった」
楽な仕事だ。
それならいいか。
「ふーん。もう大丈夫なん?」
「ああ。他の仲間も捕まえた。立花は死んだが、今回は生きて捕えることが出来たし、あとは警察や司法の仕事だ」
「死刑にしろよ」
「それ以外はないだろう」
だったら、安心だ。
あんなんに逆恨みされたらシャレにならん。
「じゃあ、無事に解決だなー。公表すんの?」
「残党を捕えただけな。他は隠す」
「いいのー?」
「上の指示だ」
「ふーん。俺の報酬は? Bランク?」
ついに俺もBランクだ。
サエコに電話しよ。
お前と並んだよーって。
あいつ、めっちゃ怒るぞー。
「それなんだがな。まずは依頼料を渡す。お前の要望には応えられそうにないがな」
本部長はそう言って、俺に明細を渡す。
俺は期待はしてないが、気になるので確認する。
…………………………。
「は?」
俺は明細を見て愕然とした。
俺だって、本当に何億も貰えるとは思っていない。
とはいえ、貴重な転移魔法を使わせられ、高橋先輩も救出し、強敵である悪党3人組を倒した。
それに口止め料が加わると考えると思うと、多少の期待はしていた。
予想より、桁が1つ、2つ違うんだけど。
「これは井上先輩の所に行って、井上パパを紹介してもらわないとだな」
「今回の件はな、完全に隠蔽する。なかったことになるのだ。そうなると、お前に渡す依頼料はどこから出たかの問題になる。監査でひっかるんだ。だから、それだけしか払えない」
「ふーん。隠蔽できないけどな」
俺がバラすから。
なめてんの?
「お前の言いたいことはわかっている。代わりにお前にはマナポーションを横流ししてやる」
犯罪やんけ。
「どのくらい?」
「欲しいだけくれてやる。といっても、限度があるがな」
マナポーションは安くない。
それなのに、俺がマジカルテレポートを使うのに湯水のごとく消費する。
ありがたい申し出ではある。
「大丈夫なん? それこそ監査とやらは?」
「監査は別の省庁の機関からくる。金の出入りは見るが、協会の在庫のアイテムなど見ん」
それって、マズくない?
不正の温床になってない?
「お前らって、実は賄賂とか、横領とかしてる?」
「お前は知らなくていいことだ。政府というか、ダンジョン省と協会は真っ黒だぞ」
ダンジョン省というのは俗称だ。
ダンジョンが現れた際に出来た省だが、正式名称は…………知らない。
「そのくせに、俺を批判すんの? 賄賂を送ったくらいで追放したの?」
川崎支部のハゲめ!!
クズのくせに!!
「川崎支部長の園田はそういうことはしておらん。堅物だからな。まあ、だから、川崎なんて治安最悪な所に飛ばされた」
支部長…………
愛車をパンクさせてごめんね。
「東京本部本部長のお前はどす黒そうだなー」
「散々、お前の良いようにしてやっただろ。本当はダメなんだぞ」
「そうなん?」
「お前らの奇行に目をつぶってやってるし、散々、アイテムを流してやっただろう」
安眠枕、魔法袋、ポーション、帰還の結晶。
経費とはいえ、いっぱいもらってるな。
「お代官様~」
俺は手をモミモミする。
「今回の報酬はマナポーションで我慢しろ、越後屋。早く男に戻りたいんだろ?」
確かに、そう考えると、マナポーションは良い報酬な気がする。
「俺のBランクは?」
「それなんだが、お前、Bランクになりたいか?」
「そりゃあ、なれるもんならなりたいわ」
当たり前だろ。
「この際だから話してやるが、お前のランクアップは非常に厳しい」
「なんで? めっちゃ貢献してるし、めっちゃ強いんだぞ」
「問題はお前が未成年の学生なことだ。お前は小学生の時に免許を取り、プロになった。当時、これは協会やダンジョン省では、めちゃくちゃ問題になった。お前の合格を決定した担当者は左遷になったくらいだ」
なんかごめんね。
「だって、年齢制限なかったし」
「ああ。あの時は急いでいたから、とりあえずの法律だったんだ。まさか、小学生が受けに来るとは思わんし、受かるとも思わんかった」
「俺、優秀だから」
「カンニングしてたろ」
「してない。誹謗中傷はやめていただきたい」
非常に遺憾である!
「まあいい。もう過ぎたことだ。そういうことがあったから未成年のお前を高ランクに上げるのは難しい。Cランク以上にするには大臣の許可がいるからな」
「俺、すでにCランクなんだけど」
「それは桂木と園田のおかげだ。周囲の反対を押し切って、強く推薦したんだよ。少しは感謝しろ」
うーん、マイちんはともかく、支部長がねー。
「あのハゲ、文句と小言しか言ってなかったぜ?」
「期待の裏返しだ。それなのに、お前は増長し、挙句の果てには賄賂だ。園田の落胆ぶりはひどかった」
なんか罪悪感を感じないでもない。
今度、電話でもしてみるか。
「じゃあ、俺はCのまま?」
「正直に言うが、お前は20歳になったと同時にAランクだ。それほどまでに、お前の功績は大きい」
「俺、そんなに功績あるか?」
Bくらいはあると思うが、いきなりAランクになるほどは貢献してないような気がする。
学校あるからあんまダンジョンに行ってないし。
「今回のことも大きいが、お前はそれ以上の功績がある。学生を救ったことだ。スタンピードにダンジョン祭のレッドオーガ。政府や協会は未成年の学生に何かあることを非常に嫌う。子供に何かあれば、世間から袋叩きに遭い、簡単にクビが飛ぶし、下手すれば、政権の維持に関わる」
「ふーん。当の俺がその未成年の学生なんだがなー」
「お前は有名になりすぎた。しかも、悪名。お前に何かあっても誰も気にせん」
ひっで。
さすがに、マスコミをボコにしたのはマズかったか……
「じゃあ、別にCのままでいいかー。クーフーリンとあきちゃんは?」
「クーフーリンは約束通り、Aランクにする。というか、元々、Aランクにする予定だったんだがな」
クーフーリン……
あいつの報酬はAランクになること。
でも、依頼を受けなくてもAランクになる予定だったみたい。
ばーか。
「あきちゃんは?」
「あいつな…………報酬はいらないって言ってきた。仲間を守るためーとかなんとか」
あっ……
「強欲なあきちゃんがそんな殊勝なことを言うわけがない。なんか不正してるぞ。それが発覚したら相殺にしてもらうつもりなんだろうな」
「あいつはいっっつもそれだ! 仕事がまた増えたぞ……」
まあ、がんばれ。
「素晴らしいクリスマスプレゼントじゃないか」
「クリスマス……そうか、クリスマス。今日はクリスマスか…………」
クリスマスすらわからんくらいに忙しいのか……
「家に帰れよ。奥さんとお子さんに嫌われるぜ」
「それもそうだな。最近、娘が冷たいんだよなー」
本部長がオヤジ臭いことを言ってる。
「いくつ?」
「15歳。来年には高校生だ」
アカネちゃんと同い年か。
「ほーん。親を大切にしろって、シメてやろうか?」
「お前が大切にしろ。お前の親御さんが可哀想だ」
ひっで。
「クリスマスプレゼントに金でも渡せ。冬休みのお小遣いとかなんとか言って。その辺の年代は現金なもんだ。お前だって、10代の時は金が欲しかったろ」
「…………そんなもんか」
そんなもんだ。
俺は話を終えたので、協会をあとにした。
◆◇◆
協会を出た俺は家に帰ってきてベッドにダイブした。
なぜかいい匂いがするー。
「昨日はどうだった?」
俺が布団の残り香を嗅いでいると、シロが聞いてくる。
「できはしなかったけど、いいクリスマスだった。しかし、あいつ、重すぎだろ。プレゼントに何をもらったと思う? セーターだぜ? しかも、手編み」
嬉しかったけど、よーやるわ。
「お前は何をあげた?」
「指輪」
「人の事を言えんのか? 誕生日にネックレス。そして、今回は指輪。お前は普段から執着心と独占欲の塊じゃねーか」
「俺はいいの。お前はどうだった?」
「お前の家、すげーな。まさか、七面鳥が出るとは思わんかった」
母親は母親で、よーやるわ。
「じゃあ、チキン食べ放題はもういいか」
「それはそれ、これはこれ」
まだ、食うのか…………
「じゃあ、気分もいいし、色々と作るか……」
明日からは実家で何もしないし、最後くらいは豪勢にするか。
「おー! 頼むぜー」
「母さんと比べるなよ? あの人とはレベルが違うんだから」
「しない、しない。俺っち、ローストビーフが食べたい」
「また、時間のかかるものを…………」
俺はシロの要求に呆れたが、まあ、いいかと思った。
2学期も終わり、もう冬休みだ。
我が栄光のクリスマス計画は当初の予定とは異なったが、最高の結果と言っても良いだろう。
ダンジョン攻略も順調。
彼女との関係も良好。
今年は川崎支部を追放されて、どうしようかと思ったが、それ以外は非常に順調であり、いい1年だった。
来年もいい1年になると良いなー。
「まーた、女になったことを忘れてやがる。もう、そのままで生きろよ」
それは嫌。
やりたいもん。
攻略のヒント
以下のエクスプローラのランクを変更する。
瀬田コウタロウ Bランク→Aランク
村松サエコ Bランク→Aランク
『エクスプローラ協会東京本部 ランクアップ会議』より
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