第145話 クロネちゃんと赤点賢者
俺は年末の寒い日に生母の墓参りに行った。
そして、その帰りによくわからないけど、警察に捕まってしまった。
「本当にご迷惑をおかけしました」
俺の目の前で大人3人が頭を下げている。
場所は警察署の入口前。
大人3人はおっさん警察官に申し訳なさそうに頭を下げ、俺はその後ろで、それを眺めていた。
もう帰ろうぜ。
寒いじゃん。
「今回は誤解もあったようですが、紛らわしい行為は慎んでください。本当に冗談になりませんから」
警官は大人3人にそう言い、警察署に戻っていった。
ふーんだ。
誤認したくせに、その態度は何だ!
マスコミにリークすんぞ!
「先生、この度は本当にすみませんでした」
警官が去ると、俺の両親は伊藤先生にも頭を下げる。
俺と父さんは援交疑惑で警察に通報された。
さすがに、制服を着た金髪とおっさんの組み合わせはマズかったらしい。
しかも、警察が来た後の対応もマズかった。
親子だと証明しようにも、俺の学生証には性別が男と記載されている。
どう見ても、男には見えないのにもかかわらずだ。
なかなか俺達が親子であることを証明できず、挙句の果てには、学生証が偽物扱いされていると、ついに、警察へ任意同行になってしまった。
そうなると、親子関係であることを証明するためには、母親、そして、学校の先生を召喚するしかなく、年末の忙しい中、ご足労いただいたのである。
さすがに、その2人が来ると、誤解が解けるのは早かった。
まあ、母親も担任もこの子はバカなんですを連呼していたのはムカついたが。
「いえ、私の指導不足です。きちんと教えておくべきでした」
頭を下げる両親に頭を下げる伊藤先生。
いや、何を教えるんだよ。
援交をしちゃダメか?
笑える。
「お休みの中、ご足労いただき、申し訳ありません。この子にはよく言っておきます」
「いえ、これも仕事ですので。それと、おそらくですが、神条君には何らかの処分が下ると思います」
「停学とかですか?」
「はい。警察に厄介になったとはいえ、内容が内容ですので、重くはないと思います。3日か、長くても1週間程度でしょう」
まじ?
冬休みが延びるじゃん!
やったー!
「おい、神条。何がそんなに嬉しいんだ?」
俺が内心喜んでいると、伊藤先生がめっちゃ睨んでくる。
そして、先生の言葉を聞いた両親が振り向いた。
「あなたは……」
「まったく反省してないね」
やばい。
めっちゃ怒ってる。
「反省してます……」
俺はシュンと落ち込む。
「さっきまで、ものすごく嬉しい顔をしてたろ」
「警官への態度も悪かったし」
「あなたはいつもそうやって、演技して、まったく反省してないわよね」
全然、信じてないな。
大人が子供を信じないから非行に走るんだよ。
嘆かわしい……
「めっちゃ反省してるから帰ろうよー。寒いじゃん」
もう話は終わったじゃん。
気温は10°以下。
凍っちゃうよ。
死んじゃうよ。
が、この後、帰らせてはもらえず、めっちゃ怒られた。
悪いのは俺じゃなくて、警官と定食屋の定員なのに……
◆◇◆
寒空の下、両親と担任にしこたま怒られた後、家に帰ると、姉妹+αに何があったか詰め寄られた。
母さんが事情を説明すると、呆れられ、バカにされてしまった。
「センパイ、援交してそうな見た目だから、シャレになりませんよ」
家に帰り、リビングでくつろいでいると、ホノカとぺちゃくちゃとしゃべっていたアカネちゃんがふいに言った。
「どこがだ? めっちゃ清楚やろ」
俺は心外だと思い、言い返す。
俺は今、白を基調とした実にお嬢様っぽい格好をしている。
どこからどう見ても、清純そのもの。
「制服を着崩してた金髪ギャルが何を言ってんですか? どう見ても非行少女でしたよ」
「今日だけだよ。いつもは清楚な服を着てるし」
「センパイって、格好に一貫性がないですよね。ドエロい格好したりするし」
それ、ダンジョンの中だけだろ。
あとは、夏に生足をさらけ出したり、ちょっと胸元が開いた服を着てただけ。
「お姉ちゃんやホノカが選ぶからなー」
かわいい系の服はお姉ちゃんが選び、カッコいい系はホノカが選ぶ。(エロいけど)
一方で、俺がシズルやアヤマヤ姉妹と出かけた時に買う服は、男女どちらでも似合うユニセックス系が多い。
だから、俺の格好は日によって、大きく変わるのだ。
まあ、俺は見た目が良いから何を着ても似合う。
だから、問題ないのだ。
今回は裏目に出たが……
「でも、ルミナ君、私が選んだ服はあまり着ないよね」
ソファーで携帯をいじっていたお姉ちゃんが顔を上げた。
「フリフリが付いたのは嫌だって言ってんじゃん。お姉ちゃんって、人の話を全然、聞かないよね」
昔からお姉ちゃんは柔らかい人間性だが、人の意見をすげー無視する。
だから、天然とか言われるんだよ。
「お姉ちゃんもお兄ちゃんに言われたくはないと思うよ」
人の言うことをまったく聞かない代表がツッコんできた。
「俺もお前には言われたくないわ」
「は? 私はちゃんと聞くし」
俺やアカネちゃんにえっちな下着を贈っておいて、何を言ってんだ?
「先生の話も聞かないから補習なんだろ。赤点賢者」
「はぁ!? 赤点賢者って何よ!!」
ホノカは賢者のくせに、赤点を取ったと有名になった。
こいつが今後、エクスプローラとして活躍した時の二つ名が決まった。
「知らねーの? 高等部にまで、噂が流れてきてるぜ。めっちゃウケる」
「何よそれ!?」
ホノカは確認のために、お姉ちゃんを見た。
すると、お姉ちゃんはわざとらしく、コーヒー飲もーって言いながら逃げた。
どうやら、2年にまで噂が流れているようだ。
「知ってた!?」
今度は親友に詰め寄る。
「わ、私は知らない」
はい、うそー。
絶対に知ってたろ。
「知ってたでしょ!? ねえ!?」
ホノカはアカネちゃんを逃がさない。
アカネちゃんの服を掴み、ぐわんぐわんと揺らす。
君ら、本当に親友?
「ちょ、ちょ! し、知ってたよー! ホノカちゃん、テストなんて余裕って大見得切ってたから、皆、やっぱりなって感じで、呆れてた。それで、気付いたら学校中に噂が……」
アカネちゃんは非常に言いづらそうに言う。
「ざまあ」
「自分だって、赤点取ってたじゃん!」
ホノカがあざけ笑った俺をキッと睨む。
「いつの話をしてんだ? 俺はもう普通に赤点を取ってねーよ」
「なんでよ!? お兄ちゃんもアカネちゃんもバカじゃん!!」
バカが何か言ってる(笑)
「俺らには瀬能とちーちゃんという素晴らしい先輩がいるんだよ。あいつら、今までの過去問を全部取ってるし」
普通はテストなんて、返却されたらすぐに捨てるだろ。
なのに、あいつらは見返したりして、復習するために取っているらしい。
勉強しすぎて、バカになったんだと思う。
「は? 過去問? おいコラ、アカネ」
ホノカはアカネちゃんを呼び捨てにして、睨む。
「だってー……テストの点数で勝負しようって言ってたじゃん。勝つためには過去問を流すわけないじゃん」
「真っ黒! この子、真っ黒!! 親友が赤点もらって泣いてるのに、自分だけ逃れようとしてる!」
「いや、お前も逆の立場なら渡さんだろうに……」
こいつ、マジで自己中だわ。
「ホノカちゃんがテスト前に粋がるからうざ……イラっとしちゃって……それで、ざまあ……反省するといいなと」
もう、本音が駄々洩れなアカネちゃん。
多分、赤点賢者もアカネちゃんが言ったな。
「この子、黒すぎる! アカネちゃんのくせに黒すぎる! もうアカじゃなくて、クロネちゃんに改名しなよ!」
「赤はホノカちゃんだもんね。ふふ、赤点賢者……」
クロネちゃんは上手だなー。
めっちゃ笑える。
「……ねえ、赤点賢者って、誰が言い出したの?」
あ、ホノカも気付いたようだ。
「え!? だ、誰だったかなー。私は知らない」
お前だろ。
「ふーん、他の子に聞いてみよ」
「や、やめた方がいいと思うな。そういうのはイジメに発展するし、詮索は良くないよ」
「赤点賢者って、名付けた人がなんか言ってるし……」
「あー、センパイ。クリスマス、どうでした?」
クロネちゃんは自分が逃げるために、俺を生贄にしてきた。
そして、どこかに逃げていたお姉ちゃんがそれを聞きつけ、寄ってきた。
そして、俺の隣に座る。
「どうだった? どうだった!?」
うっぜ……
「ヤッた? 白百合の王子様2号になった?」
ホノカもうっぜ……
「ってか、センパイ、避妊はしてくださいよー? そんなパーティー崩壊は勘弁です」
全員、うっぜ……
お前らには一生彼氏ができないおまじないをかけておくわ。
魔女の呪いを思い知れ!
『メルヘンマジックをレベル8にすると覚えられるぞ。相手を呪う魔法』
何それ!?
えっぐ!!
あ、お姉ちゃんに……いや、可哀想か。
攻略のヒント
年末年始のお知らせ
本協会では年末年始も営業いたしますが、利用人数の減少が予想されているため、対応する職員を少なくして営業いたします。
何卒、ご理解とご協力をお願いいたします。
『エクスプローラ協会HP 年末年始の営業について』
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