第136話 ユリコはゲス。ちょーゲス!


 25階層の探索を終え、協会に帰還した後、キララから怪しいヤツがいると、警告を受けた。


 俺はすぐに、その情報を≪ヴァルキリーズ≫のリーダーであるサエコに伝えることにした。

 サエコは情報に感謝していたが、女エクスプローラへの注意喚起くらいしかできないと言われた。


 怪しいという理由だけで、何かをすれば、悪いのは先に手を出した方になってしまうかららしい。


 俺はキララが可哀想だろと言ったのだが、怪しいだけで逮捕出来たら、お前はとっくに塀の中だと言われると、何も言い返せなかった。


 キララには悪いが、あいつが何かをされるのを待つ事にしようと思う。

 そうすれば、大義名分はこちらのものだ。


 大丈夫!

 お前の処女の仇は討ってやる(笑)


 と、キララにメッセを送ったのだが、既読がついたあと、何も返信はなかった。

 それから何度かメッセを送ったのだが、既読すらつかなかった。

 どうやらブロックされたらしい。


 冗談が通じないみたいだ。


 俺はまあいいかと思い、その日は休むことにした。


 そして、翌日の日曜日、今日はダンジョン探索はお休みである。

 俺は休みなら、シズルと出かけようかと思ったのだが、あいにく、シズルは用事がある。

 俺はしゃーないなーと思い、アヤとマヤを誘ったのだが、ダンジョンに行くと言われ、断られてしまった。


 俺は見事に振られたので、家でふて寝をしていたのだが、シロが出かけたいと言ってきた。


 このクソ寒いのに、外に出かけるのは嫌だったが、シロの言う通り、家にいてもつまらないので、映画を見に行くことにした。


 俺は部屋着から着替えると、映画館のあるショッピングモールへと向かった。


 俺は一人寂しく、映画館受付前で何を見ようか悩んでいると、チャラそうなナンパ野郎に何度も声をかけられている。


 あー、やっぱり誰かを誘えばよかった。

 一人だと、すげー声をかけられる。


「よう」


 ほら、また来た。


 俺は辟易しながら声が聞こえた方をを見ると、そいつは男じゃなかった。


「…………ユリコ」


 何で、こいつがここにおんねん!


「久しぶりだなー。お前、全然、私の電話に出ないな」

「お前、何故ここにいる」


 こんな都会で知り合いに会う確率はどれくらいだ?

 しかも、それがこいつ。


 俺はものすごく疑っている。

 こんな偶然があるわけない。


「正直に言え。どうして、俺がここにいることがわかった?」

「いや、本当に偶然。私もびっくりだ」


 絶対に嘘だ。

 どこぞの2流ラブコメじゃあるまいし。

 そもそも、こいつが一人で映画を見るとは思えない。


「どこからついてきた?」

「信じてないなー」

「当たり前だ」

「もしかしなくても、お前、俺の家を知ってんじゃないだろうな?」

「いや、知らんよ」


 …………知ってるな。

 こいつは俺の家からついてきたんだろう。

 そして、偶然を装って、近づいてきたのだ。


「あっそ。お前は何してんの?」

「当然、映画を見に来た」

「ふーん。何を見んの?」

「あれ」


 ユリコが指さしたのは俺が見ようか悩んでいたアクション映画だ。

 こいつが見るとは思えん。


「そっか。俺はあっちを見るから。じゃあなー」


 俺は興味もない恋愛映画を指さし、去っていく。

 しかし、ユリコはそんな俺の肩を掴んだ。


「こらこら。お前は恋愛映画には興味ないだろ。本当はあっちのアクション映画を見たいんだろ?」

「いや、俺はアクション映画は好きじゃないんだ。恋愛映画が好き」

「嘘つけ。ちゃんと調べたんだぞ」


 ほら。

 なんか調べてるし。


「ぼろ出るのがはえーよ」

「いいからアクション映画を見ような。お前に頼みたいことがあるんだよ」

「メッセで送れや」


 そもそも、映画を見ながら会話できんわ!


「いや、送ったから。お前、ブロックしてるだろ」


 そういえば、してるな。


「解除してやるから、消えろや」

「話くらい聞いてくれ。お前にしか頼めないんだよー」

「チッ! 何だよ?」


 俺は嫌々、話を聞くことにした。


「ここじゃあ、何だから、静かな所に行こう」

「殺すぞ」


 静かな所って、あそこだろ。


「あー、じゃあ、その辺の喫茶店でいいや」

「最悪な土日になったわー」


 昨日は虫地獄、今日はユリコ。

 俺、何かした?


 俺はユリコと共にショッピングモール内のコーヒー店にやってきた。


「頼みって、何だよ」


 お互い、コーヒーを頼み、注文したコーヒーがやってくると、俺は早速、本題に入る。


「実はなー。私って、この前、東京本部に復帰したんだけど、協会に着いて早々に変なのに絡まれたんだよ」


 あっ……(察し)

 

「若い男女2人組か?」

「それそれ。お前、知ってんの?」


 俺がそいつらをお前の所に行くように焚きつけた。

 まあ、高橋先輩の方は絶望してたけど。


「最近、こっちに来た2人組だわ。第2世代を目の敵にしてる。あきちゃんやクーフーリンに勝ったから次はお前なんじゃね?」


 しらばっくれよう。


「へー。あの2人に勝つなんてすごいな。私達の中でも武闘派の2人なのに」


 確かに武闘派だ。

 だけど、頭がね…………


「まあ、勝敗も微妙っぽいけどな。多分、お前と勝負がしたいんだよ」


 井上先輩だけね。


「なるほどねー。それで挑んできたのか……」

「もうやったん?」

「いや、タイムアタックとやらを提案されたんだけど、私って、野良だし、東京本部に戻って、日が浅いから頼めるパーティーがいないんだ」


 ソロで行けよ。

 お前なら大丈夫。

 そして、死ね。


「まさかと思うが、その臨時パーティーに俺を入れたいとか?」


 まさかね!

 あはは!


「お前しかいない。≪ヴァルキリーズ≫は頼めないし、他のエクスプローラはあんま知らない」


 多分、あきちゃんは嫌がるだろうし、クーフーリンも仲間の事を考えて、協力はしないだろう。


「嫌だ」

「頼むよー」


 ユリコがめっちゃ頭を下げてくる。


「何で、そこまで、あいつらとやりたいん? 無視しろよ」

「いや、このままでは、私達第2世代がバカにされてしまう」


 とっくの前にされてるよ。

 ってか、お前はそんなことを気にするような人間じゃないだろ。


「正直に言え。本音は?」

「勝ったらサヤカちゃんと食事に行く」


 あぁ……

 高橋先輩の絶望した顔が浮かぶぜ。


 多分、ユリコが勝負を受けるかわりに提案したんだろう。

 何も知らない井上先輩は軽く考え、受けたんだ。

 そして、高橋先輩の顔は真っ青……っと。


「食事で終わるん?」


 一応、聞いてみよう。


「は? メインディッシュはその後に決まっているだろ」


 うーん、可哀想な高橋先輩……

 ちょーウケる。


「勝負って、いつ?」

「今日の夕方」


 はえーよ!


「俺は明日、学校だから嫌」

「いいじゃん。お前にも抱かせてやるぞ」


 ………………ゲスだ。


 本当にゲスいヤツだ。

 ってか、俺、女だぞ……抱かせてやるって言われても……

 いや、ユリコも混ざるのか……


 俺のメリットねーじゃん。


「サエコもノイローゼになるわけだわ」

「サエコはむずいんだよなー」


 女の事しか頭にないな、こいつ。


「ハァ……俺の仲間に手を出さないという約束が出来るならいいぞ」

「えーー! Rainはー? あのダウナー系の美人ちゃんはー? 小悪魔ちゃんはー?」


 しっかり調べとる……


「ダメ。ついでに、クーフーリンの仲間の双子もダメ」

「えー! あのロリ双子を交互に『自主規制』する予定なのに!」


 殺そうかな?


「お前、学生はやめとけよ。協会や政府がガチギレするぞ」

「あんなヤツらが怖くて王子様はできんよ」


 マジで、ヤベーなー、こいつ。


「あ、お前の姉妹は?」

「表に出ろ! 殺す!!」


 俺は静かに立ち上がり、ユリコの髪を掴んだ。


「イタタ! わかったよ。手を出しません。これでいいだろ?」


 ユリコはまったく反省してない様子だが、一応、言質は取った。


「約束を破ったら、手足をもぐからな」

「おー、こわ。お前は本当にやりそう」

「本当にやるが?」


 当たり前じゃ! ボケ!


「リョナはやめとけよー」


 頭が痛くなってきた…………

 はよ、高橋先輩を生贄に捧げて帰ろ。


「ほら、じゃあ、協会に行くぞ」

「あれ? 映画は?」


 見る気、失せたわ!!





攻略のヒント

 初めてダンジョンに入ると、ジョブとスキルの選択が出来るようになる。

 この際、全員、何かしらのジョブやスキルを習得でき、これまで、ジョブやスキルが1つもなかった人間は確認されていない。


『ダンジョン白書 ジョブとスキルの選択』より

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