第122話 ミレイさんVSレッドゴブリン
ミレイさんからの指導依頼最終日、警備員の榊から≪Mr.ジャスティス≫がキララと共にダンジョンに来ていることを聞いた俺達は、ひとまず、気にせずにダンジョンにやってきた。
今日は≪魔女の森≫のメンバーが全員来ているため、ミレイさんを入れると、7人となり、1人余ってしまう。
そこで、俺とミレイさんがパーティーを組み、残りの5人でパーティーを組んでもらうことにした。
とはいえ、行動は共にするし、たかが、10階層で誰かが死ぬことはないので、誰が誰と組もうと別に問題はない。
一応、ミレイさんから依頼を受けているのは俺個人なので、こういう形となった。
たとえ、ミレイさんがレッドゴブリンに敗れ、俺一人になっても、レッドゴブリン程度に遅れを取る俺ではないのだ。
俺達は準備運動がてら適当にモンスターを狩ったり、宝箱を探したりしながら、10階層を目指している。
これまでの依頼では、モンスターはほとんどミレイさんに戦わせていたのだが、今日は皆で倒すことにした。
もはや、ミレイさんにやらせることはないし、ミレイさんにはレッドゴブリンを倒すことに集中してほしいからだ。
俺達は何の問題もなく階層を進んでいった。
そして、最後に9階層で何回かミレイさんにハイゴブリンを倒させたところで、ボスであるレッドゴブリンがいる10階層へと行くことにした。
「いよいよだね」
ミレイさんが10階層のボスがいる扉の前でつぶやいた。
表情は真剣そのもので、ちょっと固い。
「すごく意気込んでいるところを悪いが、ここ10階層だぞ。なんかラスボスみたいな感じだけど」
ここまで長い冒険だったみたいな感じで、言ってるけど、依頼の期間は1週間も経ってないし、そもそも、仲間と一緒とはいえ、ミレイさんも倒したことがあるだろ。
「私にとっては、すごく濃密な1週間だった。今までの私は何をしていたんだろうって思う」
そこまでなの?
「ルミナ君、今までありがとう。本当はあなたに頼むのをメンバーやマネージャーに反対されてたんだ」
「だろうね。いくらなんでも、リーダーのミレイさんが来ているのに、他のメンバーがまったく来ないって、ありえないだろ」
さすがに俺でもわかる。
「やっぱりわかってたか…………でも、私はあなたに頼みたかった」
俺って、ミレイさんからの好感度がそんなに高いの?
そんなに付き合いもないだろ。
「酔狂なことで。何で俺に頼んだん?」
「≪ヴァルキリーズ≫に断られた時に、サエコさんとショウコさんがあなたを推薦したの。指導の依頼だったら、絶対に真面目にやってくれるって」
サエコとショウコか……
まあ、俺は指導は真面目にやるからな。
「なるほどねー。あいつらが俺を薦めたのか。まあ、あいつらとは付き合いが長いしな」
「それと1つ聞いてもいい?」
「どうぞ」
マジで、最終決戦前みたいだ。
ここ、学生でも倒せるボスだぜ?
「PKって何?」
あいつら、緘口令を破ったな。
本部長にチクってやろ。
「エクスプローラがエクスプローラを殺すこと。あいつらが俺をめっちゃ嫌ってるのは、俺があいつらを殺したからだな」
魅了して、瞬殺してやった。
「…………そう。深くは聞いたらダメだよね?」
「もう十分ダメだけど、上から睨まれたくなかったらこれ以上は聞かない方がいいよ」
「だよね」
「一応、指導の依頼だから、これも教えておくけど、自分が魅力的な女であることを忘れないようにね。ダンジョンの中は無法地帯だから。今年の春にも暴行事件があったろ」
「…………だね」
「あと一つ、ミレイさんが上を目指すなら知っておいた方が良いことがあるんだけど、それはレッドゴブリンを倒した後に教えるわ」
多分、教えることになると思う。
ミレイさんにも、シズルや他の仲間達にも……
「じゃあ、準備は出来たかな? 前に言った通り、お供のゴブリン軍団は俺達が倒すからミレイさんはレッドゴブリンに集中して」
「わかった。皆もお願いします」
ミレイさんは俺達の方を向き、頭を下げた。
「任せておいてください」
「頑張って」
「ミレイさんなら余裕ですよ」
「応援してまーす」
「頑張ってください!」
ミレイさんは仲間達からの励ましを受けて、微笑むと、再び、扉を見る。
そして、よしっと声を出し、扉を開け、中へと入っていった。
俺達もそれに続き、中に入る。
ボス部屋の中央にはハイゴブリンよりも大きいゴブリンが座っている。
何度も見たボス、≪赤い悪魔≫の異名を持つ、レッドゴブリンだ。
俺はこいつに苦労をしたことなんてない。
というよりも、前衛職でこいつを倒せないようならエクスプローラを引退した方がいいと言われているらしい。
オークが初心者の登竜門なら、レッドゴブリンは今後、エクスプローラを続けるかどうかの指標となっているみたいだ。
頑張っても倒せないようなら才能がないから辞めろ。
掲示板にはそう書かれている。
俺もそう思う。
こいつに苦労しているようなエクスプローラがオーガやミノタウロスを倒せるとは思えないからだ。
ミレイさんはそれを知っているのだろう。
だから、レベル18もあるのに、たかが10階層のボスを相手に、こんなにも真剣なのだ。
ミレイさんはレッドゴブリンに近づいていく。
俺達もその後ろで、お供のゴブリン軍団に備えた。
ミレイさんが近づいていくと。レッドゴブリンは立ち上がり、手を上げた。
ゴブリン軍団を呼んだのだ。
レッドゴブリンの後ろから多種多彩なゴブリン軍団がどこからともなくやってきた。
そして、レッドゴブリンが手を振り下ろすと、ゴブリン軍団が一斉に襲ってくる。
「シズル!」
「――忍法、雷迅の術!!」
俺がシズルに合図すると、ハイゴブリンやゴブリン達の後ろにいたゴブリンメイジがこてんと転がった。
シズルの雷迅でマヒしたのだ。
「よっしゃ、うぜえのは消えたな。瀬能、行くぞ!」
「勉強のストレスを発散できるな」
俺と瀬能はハイゴブリンやゴブリンに突っ込む。
俺は1体のハイゴブリンに突っ込むと、ジャンプし、ハイゴブリンの顔面に跳び蹴りを食らわしてやった。
まともに食らったハイゴブリンは首の骨が折れたようで、首がちょっと気持ちの悪い方向に曲がり、息絶えた。
俺はそのまま周囲にいるゴブリン共を殴り殺していく。
もちろん、すべて一撃だ。
俺の≪怪力lv6≫は伊達じゃない。
そうこうしていると、ゴブリン軍団達はいなくなっていた。
俺が蹴散らしている間にも、瀬能やシズルも倒していっているし、後衛も魔法で放っていたのだ。
俺は仲間の状況を確認するが、アカネちゃんの姿だけが見当たらない。
「あれ? アカネちゃんは?」
俺はいつの間にか隣にいたシズルに聞く。
「扉の所」
シズルにそう言われて、扉の方を見ると、アカネちゃんが扉まで逃げていた。
「あいつ、何してんの?」
「逃げたら、レアジョブが出るかもーってことで、逃げてみるってさ」
「あっそ」
好きにしろよ。
本当に≪臆病者≫か≪卑怯者≫が発現するぞ。
「グギャギャーー!!」
ゴブリン軍団がすべていなくなると、レッドゴブリンが咆哮をあげた。
あとはミレイさんの出番だ。
俺達はあとのことを任せ、見学することにし、ミレイさんの後ろに集まった。
「アカネちゃん、出た?」
俺はアカネちゃんにレアジョブが出たか聞いてみる。
「出ませんでしたー」
だろうね。
「やっぱり地道にやったほうがいいぞ」
「はーい」
アカネちゃんは緊張感ゼロで手を挙げる。
こいつ、大丈夫か?
「ミレイさんがやるんだから、静かにしな」
俺とアカネちゃんがしゃべっていると、ちーちゃんが俺とアカネちゃんに苦言を呈する。
「はーい」
「お前は先生か……」
俺達は黙って、ミレイさんを見守ることにした。
ミレイさんは槍を構え、レッドゴブリンと相対する。
「さあ、来い!」
ミレイさんは威勢よく、レッドゴブリン相手に吠えた。
あの人、誰?
もう俺の教え子であるポンコツリンゴ女はこの世にはいないようだ。
レッドゴブリンはそんなミレイさんに突進し、殴りかかる。
ミレイさんはそれを横に躱し、槍を突く。
「グギャー!」
ミレイさんの一撃を胴体に受けたレッドゴブリンは叫び声をあげるが、あまりダメージはなさそうだ。
その証拠に、レッドゴブリンの目は怒りに満ちており、戦意はまるで落ちていない。
まあ、牽制の一撃だし、ダメージがないのは当たり前だが。
ミレイさんに突かれ、怒ったレッドゴブリンは低く構える。
おそらく、体当たりだろうなー。
俺はそんなレッドゴブリンを見て、予測を立てる。
もちろん、ミレイさんもそんなことはわかっているだろう。
なのだが、ミレイさんはレッドゴブリンと同じく、腰を落とし、低く構えた。
あの人、バカ?
レッドゴブリンの体当たりを受ける気だ。
俺がハラハラしながら見ていると、レッドゴブリンがミレイさんに突っ込んだ。
ミレイさんはそれを槍で受けようとする。
直後、ドンっと音がした。
しかし、ミレイさんはびくとも動かず、レッドゴブリンを完全に受け止めている。
レッドゴブリンは醜悪な顔のため、表情はわからないが、驚いているような気がした。
ああ、そういえば、ミレイさんは怪力のスキルも持ってたな。
ほんと、アカネちゃんにそっくり。
「すごいね」
ちーちゃんがそんなミレイさんを称賛する。
「万能型は躱してもよし、強引にいってもよし、だからなー」
「あの人、すごいのか、ダメな人かわからないね」
皆がそう言う。
俺もそう思う。
レッドゴブリンを受け止めたミレイさんはそのままレッドゴブリンの腹を蹴り上げる。
「グガ!」
さすがに、これはダメージがあったようで、レッドゴブリンは膝をついた。
それを見たミレイさんはゴブリンの顔面を槍で突こうとする。
しかし、レッドゴブリンはその槍を躱し、カウンターでミレイさんの顔を殴ろうとした。
直後に鈍い衝撃音が聞こえてきたが、ミレイさんはその一撃を左腕で受け止めてる。
そして、ミレイさんは右腕で突き出していた槍を引くと、レッドゴブリンの足を貫いた。
「グギッ!」
槍で足を突かれたレッドゴブリンが悲鳴をあげると、ミレイさんはバックステップで後ろに下がった。
「決まったな」
俺はミレイさんの勝利を確信し、つぶやいた。
足を突かれ、ロクに動けなくなってしまったレッドゴブリンでは、ミレイさんの次の一撃を躱すことはできない。
次のミレイさんの一撃がトドメだろう。
距離を取っていたミレイさんは右足を後ろに引き、低く構えると、体重を左足に乗せた。
ミレイさんは突っ込んで、レッドゴブリンを突くのだろう。
足を負傷したレッドゴブリンでは躱せないし、ミレイさんの力を受けて、生き残れるとは思えない。
終ー了ー。
俺はミレイさんの勝利を確信し、ホッとしていると、ミレイさんが突っ込んだ。
「――ライトニング!!」
俺がミレイさんの最後の一撃を感慨深く見ていると、俺達の後ろから甲高い声が聞こえた。
俺達が一斉に後ろを振り向くと、青い光が俺達の横をすり抜けていく。
俺はそれを反射的に目で追うと、その青い光は膝をついて、自らの最後を待つレッドゴブリンに命中した。
「グギャーー!!」
元々、ダメージを受けていたレッドゴブリンはその青い光を受けると、断末魔をあげて、倒れる。
そして、そのまま煙となり、魔石と宝石を残して消えていった。
俺はレッドゴブリンの死を確認すると、再び、後ろを見た。
そこにいるのは、めっちゃえっちな格好をしている黒髪ポニーテール女とおっさん5人だ。
そいつらはもちろんキララと≪正義の剣≫である。
俺以外の仲間やミレイさんは呆然とキララと≪正義の剣≫を見ている。
ほらね。
やっぱり教えることになった。
さて、ここからは俺の得意分野。
悪くて、汚いエクスプローラの裏の姿だ。
攻略のヒント
各地にあるダンジョンの10階層のボスはそこまで強くないと言われている。
しかし、実際は非常に強く、それまでの階層に出てくるモンスターとは一線を画す存在だ。
なのに何故、そこまで強くないと言われているかの理由は、ダンジョンは11階層から難易度が一気に上がるからである。
そのため、各地のダンジョンで10階層のボスを倒せないようならば、エクスプローラを続けるべきではないと言われているのだ。
『とあるエクスプローラのブログ 最初のボスについて』より
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