第121話 依頼最後の日
真面目さだけが取り柄の≪正義の剣≫の連中の様子がおかしかったらしい。
俺はあいつらが何かを仕掛けてこようと、気にはしない。
なぜなら、返り討ちにしてやるからだ。
昔は、反省し、善人になった俺を不当に逆恨みするけしからんヤツが多かった。
もちろん、そいつらは全員、ボコボコにしてやったし、そうこうしていると、俺も二つ名持ちとなった。
俺が二つ名を持ち、有名になってくると、そういうヤツらも減っていったのだ。
今考えると、そうやってきた俺をかばってくれたのがマイちんであり、≪Mr.ジャスティス≫だ。
リーダーである≪Mr.ジャスティス≫がそんなんだから、あいつら幹部連中もフラストレーションが溜まっていったのだろう。
次からは優しくしてやろうと思う。
『実際のところ、あいつらが何かしてきそうなのか?』
シロが念話で聞いてくる。
今は授業中である。
昨日、榊から忠告を受けた後、俺達は解散となった。
そして、ミレイさんと今日の放課後に10階層に行く約束をした。
『さあなー。あいつらだって、俺と戦って、勝てるとは思ってないだろ』
『そうなん? あいつらって、弱いのか?』
『うんにゃ、強いよ。でも、俺の方が強いし、対人戦闘で俺に勝てるわけがない』
俺は対人戦闘の経験が豊富だし、魅了魔法がある。
あいつらが俺に勝てる要素はない。
『じゃあ、闇討ちか?』
『大の大人がそんなことしねーだろ。ましてや、≪正義の剣≫だぜ?』
シャレにならん。
『まあ、これまでに築いてきた信頼を失うようなことはしないか……』
『もし、やるなら、俺がこれまでにやってきたことをネットでばら撒くくらいだろ。気にしない、気にしない』
『気にしないのか……』
だって、今さらなんだもん。
昔からエクスプローラやってる連中なら誰でも知ってるし、そもそも、ネットなんか嘘や真実が入り混じってる。
多少のネタになる程度だ。
『どうせ、すぐに話題はユリコに移る。俺のクズネタより、あいつのゲスネタの方が盛り上がるし』
ユリコは本当にひどいからなー。
『お前って、自分が好きな人に何かを言われると、すぐに泣くくせに、他の人間はどうでもいいんだな』
『そらそうだろ。気にしてるようだったら、とっくの昔にエクスプローラを辞めてるわ』
『まあ、これからは仲良くしろとは言わないが、ケンカを売るのはやめときな。ミサキとホノカが気まずくなるだろ』
そういえば、そうだ。
お姉ちゃんとホノカは≪正義の剣≫のメンバーだから、迷惑がかかってしまう。
『もうしないから、大丈夫だよ。俺はラブ&ピースの使者になったから』
『なんかだっせーな、それ』
確かに。
これからは清廉な魔女と名乗ろう。
◆◇◆
学校が終わり、放課後になると、シズルと共に協会へと向かう。
今日は≪魔女の森≫が全員集合する。
ちーちゃんと瀬能には勉強しててもいいよと言ったのだが、依頼最終日であることを伝えると、最後くらいは付き合うそうだ。
俺とシズルが仲良くおしゃべりをしながら協会に到着すると、ミレイさんを除いた他の4人はもう来ていた。
「おいーす。お前らが先に来てるなんて珍しいな」
「遅くなって、すみません」
俺とシズルはソファーに座って談笑している4人に声をかける。
「ああ、気にしないでいいよ」
「ミレイさんもまだ来てないしね」
「こんにちわですー」
「僕達もさっき来たところなんです」
4人は俺達に気付き、挨拶を返した。
「ミレイさんはまだなのか……」
学校も仕事もない暇人のくせに。
「今日で最後って言ってたけど、ミレイさんは大丈夫なの? あたしは最初しか知らないから心配なんだけど」
ちーちゃんと瀬能は初日の≪勇者パーティー≫合同での指導の時にしかいなかった。
なので、信じられないのだろう。
「大丈夫。驚くほど、成長したぞ。まあ、あの人は経験もあるし、レベルも高いからな。ぶっちゃけ、技術的なことは何も教えてないし、楽な依頼だわ」
「ふーん。そんなんでいいんだ」
「指導なんて、基礎的なことを教えるだけで、そんなもんだ。そもそも、俺みたいなハルバードを振り回すエクスプローラが何を教えるんだって話だし」
タイプが違うバランス重視の万能型のミレイさんには、それこそ≪正義の剣≫が指導した方が良い。
まあ、それ以前に、レベル18のCランクに教えることなんてない。
そのレベルに達した者はスタイルが確立されているし、あとは自分で鍛えるもんだ。
ミレイさんはそのレベルなのに、基礎というか、心構えがなかっただけである。
「私って、ミレイさんみたいなタイプを目指した方が良いんですかね?」
アカネちゃんが顎に手を当て、聞いてくる。
アカネちゃんとミレイさんの能力は似ている。
前衛のミレイさんは槍を使い、回復魔法も使える。
ヒーラーであるアカネちゃんも槍を使う。
前衛、後衛と専門の違いはあるものの、スタイルは一緒だ。
「お前はどうしたい? お前はヒーラーだが、やろうと思えば、前衛もできる」
「なるべく、前衛はやりたくないです。でも、このパーティーのことを考えると、ミレイさんみたいなタイプの方がいいんじゃないかと……」
≪魔女の森≫にはちーちゃんがいる。
ちーちゃんは回復魔法も使えるから、アカネちゃん的には回復に専念するかを悩んでいるのだろう。
「お前がパーティーのバランスを考えるなんて、成長したなー」
「いや、そりゃ考えますよ」
アカネちゃんはちょっとむくれた。
「俺はお前は後衛で良いと思うけどな。ただ、レアジョブを目指したいなら、前に出た方が良いかもしれん」
「…………レアジョブ」
アカネちゃんは見た目や言動からは想像がつかないが、運動神経が良いし、前衛の適性も高い。
前衛、後衛の両方の適性がある場合は、経験的にレアジョブが発現することが多いのだ。
「俺の知り合いでいえば、サエコだ。あいつは剣士だったが、回復魔法も使えた。そしたら、そのうち、なんか出てきた」
めっちゃ嬉しそうだった。
同期の俺やショウコ、そして、あきちゃんがレアジョブなことに嫉妬してたから。
「私が出てくるとしたら何ですかね?」
「知らね。槍と回復魔法が使えるレアジョブって何だ?」
俺は詳しそうな上級生2人に聞く。
「≪パラディン≫? でも、あれはタンクか……アカネには無理そう」
「うーん、回復魔法だし、騎士系だとは思う」
アカネちゃんが騎士って……
すぐ逃げるのに騎士はねーだろ。
「アカネちゃん、ないみたい」
「えー……」
アカネちゃんが露骨にがっかりした。
「まあ、未発見があるしねー」
「そうそう、アカネはレアスキル持ちだし、適当にやってたら何か出るんじゃないの?」
適当って……
未発見の場合は狙って発現することが出来ないので、言いたいことはわかるが、言い方が悪いぞ。
「アカネちゃんはレアスキルが≪逃走≫だし、後ろでチマチマやりながらヒーラーやってよ。レアジョブが発現するなら、前に出るより、そっちだと思う」
「≪臆病者≫とか≪卑怯者≫とかじゃないですよね? そんなのは嫌ですよ」
確かに嫌だわ。
「大丈夫。俺は見捨てないから」
「センパイに優しくされると、すごく不安です……」
アカネちゃんが可哀想だ。
笑わないように我慢しよ……
「ちなみに、僕は?」
カナタも聞きたいらしい。
ってか、こいつ、俺の弟子だったわ。
「お前はメイジを極めろ。どう考えても、お前はメイジだ」
カナタは最初に≪魔術師≫になった時から≪火魔法≫と≪土魔法≫を持っていたらしい。
初っ端から魔法を2種類も持っていたのに、メイジを辞めてどうする。
「わかりました!」
うんうん。
お前は素直に真っすぐ伸びな。
「あ、ボクも聞いていい?」
瀬能も聞いてきた。
まあ、流れでいけば、聞いてくるのはわかるが、多分、俺よりも詳しいだろ。
「いや、お前こそ騎士系だろ。地道にタンクしな。それが一番近道」
「だよね」
まあ、自分の事だし、知ってるわな。
「私は?」
シズルも聞いてきた。
いや、お前、レアジョブの≪忍者≫だろ。
「お前はすぐにでも≪踊り子≫になれるだろ」
なってもいいぞ。
「一応、聞いてみただけ」
でしょうね。
となると、最後はちーちゃんかな?
ドキドキ。
………………。
「………………何?」
俺はちーちゃんがしゃべるのを待っていたのだが、返ってきたのは冷めた目つきだった。
さすが、ちーちゃん。
空気が読めねーぜ。
「試験、頑張ってね」
「あんがと」
俺はやれやれと首を振ると、ミレイさんの姿が見えた。
「遅くなって、ごめんねー。何を話してたの?」
俺達に気付いたミレイさんは小走りでやってくると、謝りながら聞いてくる。
「おつー。レアジョブについて」
「レアジョブ? いいよねー。私もなりたい」
皆、なりたいよ。
俺は3つもあるけどね(ドヤァ)。
「そういえば、≪踊り子≫は? ないの?」
シズルもキララもなれたんだから、ミレイさんがなれても不思議じゃない。
「私、ダンス、下手くそだから」
あんたって、マジで何なら出来るんだよ。
◆◇◆
ミレイさんと合流した後、マイちんに申請してもらい、ダンジョンに行くことにした。
ダンジョン入口に向かっている途中、警備員2人が見えた。
今日は榊だけじゃなく、鈴村もちゃんといるみたいだ。
「よう、そういえば、今日もダンジョンって言ってたな」
暇そうな榊が話しかけてくる。
「ああ、今日は10階層に行く。ミレイさんとは今日で最後になると思う」
「そっかー。まあ、他のエクスプローラが嫉妬してるしなー」
やはり嫉妬されているのか……
まあ、ミレイさんは人気だし、しゃーない。
「神条、気をつけてな」
「はいよー」
俺は鈴村にも挨拶したので、ダンジョンに向かおうとした。
「ルミナ、ちょっといいか」
歩き始めた俺を榊が止め、俺の肩に腕をまわし、小声で囁いてくる。
「なんだよ。告白ならノーだぞ」
「真面目な話だ。さっき例の新人と≪正義の剣≫がダンジョンに行った。しかも、≪Mr.ジャスティス≫を連れて、だ。これまでに≪Mr.ジャスティス≫が新人指導に付き添ったことはない。何かあるぞ。気をつけな」
うーん、あの≪Mr.ジャスティス≫が何かをするとは思えんがなー。
「わかった。ありがとよ」
「ああ…………しかし、お前、おっぱいでかいな」
榊は肩を組んだまま、俺の胸元を凝視している。
「……掲示板にセクハラ警備員って、書き込んでやろうか?」
「やめてくれ。もう書かれてんだから」
こいつ、どうしようもないな。
俺は呆れながら榊の腕を払い、今度こそ、ダンジョンへと向かった。
攻略のヒント
俗に言う第1世代の年齢層が30歳を超えており、引退するものが増加している。
政府としては、このまま優秀なエクスプローラの数が減るのは許容できない。
エクスプローラ協会には、エクスプローラ資格取得の難易度を下げることを望む。
『日本政府からエクスプローラ協会への通達』より
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