第120話 争いは何も生まないぞ!
ポンコツミレイさんは仲間の死をきっかけに覚醒し、スーパーミレイさんへと進化した(嘘)。
ハイゴブリンを華麗に倒したミレイさんはドヤ顔で俺達後衛のところに戻ってきた。
「どう?」
うぜ。
「すごい、すごい!」
「ミレイさん、かっこいい!」
アヤとマヤはミレイさんを見直したようで絶賛する。
「ま、まあ、いいんじゃないの? 特別に合格点をあげてもいいわ!」
俺はそっぽを向いて、ミレイさんを誉めた。
「何でツンデレ?」
「お姉さまって、たまに変なことをするよね」
あんまウケなかった……
ウケないと、ちょっと恥ずかしい。
「まあ、冗談はさておき、ミレイさん、やれば出来るじゃん」
「ありがとう。やっぱり、後ろに一緒に戦ってくれる人がいると、安心するんだよね」
正義のヒーローみたいだな。
「本来はパーティーで活動だろうし、いいんじゃない? もうオーク相手にも一人で戦えるし、ハイゴブリン程度なら楽勝。もう十分だよ。今日は適当にハイゴブリンを狩って、次でレッドゴブリンに挑もう」
今のミレイさんなら苦戦することはあっても、負けることはないだろう。
「レッドゴブリンか……周りのゴブリン達は?」
「俺が秒で片づけるから、ミレイさんはレッドゴブリンだけに集中すればいいよ」
ミレイさんがお供のゴブリン軍団を倒す必要性はない。
あんなものは仲間で協力して、倒すのものであり、ミレイさんに必要なのは、レッドゴブリンとタイマンすることだ。
「わかった。じゃあ、それでお願い」
ミレイさんは以前の様におどおどしていない。
完全に自信がついたようだ。
ぶっちゃけ、もう依頼を終えても問題ないと思う。
ここまでやれるのならミレイさんは勝手に強くなるし、時間はかかると思うが、Bランクになることも可能だろう。
俺の役目はもう終わっている。
今までもこんなことがよくあったが、こうやって、皆が俺を抜いていくのだ。
後輩2人はまだわからないが、このままいけば、ちーちゃんと瀬能、そして、シズルもBランクにはなれる。
BランクとCランクの恩恵の差はほとんどない。
でも、俺の威厳と名誉のために、俺のランクを上げてほしいものだ。
「よっしゃ、じゃあ、探索を続けようぜ」
「はーい」
「…………ダンジョンが私を呼んでいる」
「…………ゴブリンが私を呼んでいる」
双子は片目を手で隠し、厨二っぽく言っているが、ゴブリンに呼ばれるのは嫌だわ。
その後、ゴブリンメイジは俺達が排除し、ハイゴブリンをミレイさんが倒すという形で何度か戦い、いい時間になったので、ダンジョンから帰還することになった。
9階層の帰還の魔方陣で戻ってきた俺達を警備員のちゃらい方の榊が迎えてくれた。
しかし、行きの時に見かけた堅物な鈴村がいない。
「お! おかえり」
榊は仕事中にもかかわらず、携帯をいじりながら声をかけてきた。
「よう。鈴村は?」
「トイレ」
「お前ら、仕事しろよ」
「してるよ。お前らがちゃんと帰ってきたかの確認。おつかれさん」
楽な仕事だなー。
俺が榊と話していると、こことロビーを繋ぐ扉が開いた。
そして、扉からぞろぞろとおっさん5人と黒髪の女が入ってきた。
もちろん、≪正義の剣≫とキララである。
そいつらは俺達と目が合うと、まっすぐ俺達の元にやってきた。
「こんにちは、ミレイさん」
俺達の前にやってくると、キララがいつものようにミレイさんに牽制の挨拶をする。
「こんにちは。これからダンジョンですか?」
「ええ。ミレイさん達は帰ってきたところみたいですね。お早いお帰りで」
キララはフッと笑う。
「そうですね。ルミナ君達はまだ学生で、そんな遅くまでは付き合わせるわけにもいきませんから」
「俺ら若いから。16歳なんだ」
俺はフッと笑った。
「いちいちムカつきますね……」
「ルミナ君、私の味方をしてるつもり? 私の方が大ダメージなんだけど」
あ、ごめん。
「ま、まあ、俺らも四捨五入すれば20歳だから。一緒、一緒」
「………………は?」
あ、ミレイさんは四捨五入したら30歳だった。
ごめん。
「キララ、助けて」
「キララって、呼ぶのやめてもらえません?」
かき乱して、楽しもうと思ったのに、両方を敵に回してしまった。
俺は助けを求めて、榊やアヤマヤ姉妹を見るが、榊とアヤマヤ姉妹はそっぽを向いて、他人のふりをしている。
薄情なヤツらだ。
「ふん! そんな調子では、いつまで経っても、ミレイさんが成長できんぞ。ミレイさん、今からでも遅くない。≪陥陣営≫なんかに頼らず、我らの所に来ないか?」
俺があわあわしていると、≪正義の剣≫のおっさんAが空気を読まずに言った。
おっさん、ナイス!
「何度も言いましたが、私は≪正義の剣≫には入りませんし、依頼の途中で、依頼先を変えるような不義理はしません。私はルミナ君で満足していますから」
うーん、この言い方だと、俺が知らないところで、何度かミレイさんを勧誘してるな。
依頼を断っておいて、俺が依頼を受けると、ミレイさんが欲しくなったのかねー。
しかし、こいつら、人を誘うのが下手すぎるだろ。
めっちゃ上から目線だし、感じが悪すぎる。
人の事を言えないけどね!
「こいつは暴れて人様に迷惑をかけることしか脳がないクズだ。ミレイさんに悪影響だし、悪いことを言わないから我らの所に来い」
こいつ、どうしたん?
いくらなんでも言い過ぎだし、ミレイさんに命令しちゃダメでしょ。
そんなことがわからないヤツらじゃなかった気がするが……
『それほどまでに頭にきてんだよ。お前が煽りすぎたせい』
終わったことをぐちぐちと…………
ちっせー。
『いや、終わったのはお前の頭の中でだけだろ』
はいはい(笑)
「言い過ぎです。あなた達が優れたエクスプローラで、信頼できるクランであることは承知していますが、今の言葉は聞き流せません」
ミレイさんが怒った。
「事実だ。こいつが何をしてきたかをミレイさんは知らないんだ。人殺しのクズめ!」
おっさんはそう言い、俺を睨んでくる。
それ、緘口令が敷かれてるやつじゃない?
言っていいの?
「…………もういいです。私は今日で9階層まで行きました。明日、10階層のボスを倒して依頼を終えますので、この話はもう終わりにしましょう」
ミレイさんは何かをあきらめたように無表情になり、肩を落としながら言った。
「きゅ、9階層ですか……?」
キララがびっくりしながら俺を見る。
「そらそうだろ。ミレイさんはCランクだぞ。10階層と言わず、20階層のミノタウロスぐらいは倒してほしいもんだわ」
「…………10階層」
どうした、キララ?
「まあ、お前も頑張れ。≪正義の剣≫は歴史あるクランだから、ちゃんと鍛えてくれるよ。あ、でも、俺を抜いてBランクにはなるなよ」
こいつのことは知らないけど、≪踊り子≫は有用だからランクが上がるのも早そうだ。
「…………貴様は」
おっさんが俺を再び、睨む。
なんなん、こいつ?
「どうでもいいけど、早く行けば? もう7時過ぎてるぞ」
俺はめんどくさくなってきたので、道を譲った。
「…………メルルさん、行こう」
「…………はい」
≪正義の剣≫とキララはダンジョンへと向かった。
「なにあれ?」
俺はヤツらは歩いて行った方向を見ながら聞く。
「ねえ、ルミナ君。≪正義の剣≫のことをどう思ってるの?」
ミレイさんが質問に質問で返してきた。
「別になんも…………あー、でも、うるさいし、うざいな」
どちらかと言えば、嫌いかな?
「そうなんだ……」
お前もなんなん?
「ルミナ、≪正義の剣≫はな、第2世代には負けたくないんだ。その中でも特にお前には負けたくないんだよ」
何かを見かねた榊が説明してくれる。
「まあ、あいつら、俺らの事を嫌ってるしなー」
リーダーの≪Mr.ジャスティス≫はあんな性格だから、俺らにも優しいが、幹部共は違う。
俺らの事をめっちゃ嫌ってる。
まあ、俺らが≪正義の剣≫のリーダーである≪Mr.ジャスティス≫をめっちゃ舐めているからだろう。
自分達のリーダーが舐められていれば、頭にもくる。
「ヤツらは今回の依頼の事を含めて、お前に対抗心を持ってる。なのに、お前は≪正義の剣≫のことがまるで眼中にない。そらあんな感じになるわ」
「ふーん。そもそも俺はそういうライバル的なのに興味ないしなー。昔は思うところもあったんだけど、学生の俺じゃあ、あいつらとは立ってる土俵が違うもん」
まあ、それでも俺の方が強いけどね!
「あいつらはそう割り切れないんだろうな。特にお前は…………いや、なんでもない」
榊は何かを言おうとしたが、アヤマヤ姉妹とミレイさんを見て、口をつぐんだ。
ああ、PKか…………
そういえば、俺って、昔、あいつらとやったんだった。
昔、PK討伐の時に≪正義の剣≫をボコボコにしてやった記憶がある。
まあ、直後、東城さんにボコボコにされたけど。
ホント、あいつらって、昔の事をぐちぐちと……
女々しいヤツらだぜ。
『俺っちは≪正義の剣≫が可哀想に見えてきたわ』
あいつらなんて、無視だ、無視。
今は依頼が大事。
「まあ、今度、≪Mr.ジャスティス≫に謝っておくよ」
「なるべく早い方がいいぞ。あいつら、なんか変だった。何かをするかもしれん」
「ふーん」
楽しく生きられないのかねー。
ラブ&ピースが大事なのに。
攻略のヒント
エクスプローラ同士の私闘を禁じる。
また、争いが私闘に発展しそうな場合は注意、もしくは、勧告を行う場合がある。
『エクスプローラ協会HP 禁止事項』より
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