第116話 可愛ければ何でも許されると思うなよ! あ、お姉ちゃんはいいんだよ


 ≪Mr.ジャスティス≫からメルルの情報を聞き出した俺は翌日、再び、ミレイさんとダンジョンに来ていた。


 今日は昨日、付き合って貰った≪勇者パーティー≫の3人はいない。

 そうなると、俺達は7人になってしまうのだが、瀬能とちーちゃん、そして、シズルはお休みだ。


 先輩2人はいい機会だから、エクスプローラ試験の勉強をするらしい。

 俺のために頑張ってほしいものである。

 まあ、あの二人は勉強も出来るし、優秀だから大丈夫だろう。

 もし、落ちたら、めっちゃ煽ってやる。


 シズルは病院に行くらしい。

 別に体調が悪いわけではない。

 シズルのお母さんに付き添うらしい。


 今年の春に重篤だったシズルのお母さんはポーションを飲んで全快したが、一応、検査は継続的に行っている。

 俺は何回か、シズルのお母さんに招かれて、家に行っているので、そういう話を聞いていた。


 なので、今日は俺とカナタとアカネちゃんにミレイさんを加えた4人パーティーである。


 そして、今日も6階層でミレイさんをオークと戦わせている。

 ミレイさんは先ほどもオークと戦っていたが、昨日と変わらず、オークに負けた。


「…………もう辞めようかなー。実家の青森に帰って、適当に次男坊を捕まえて、リンゴ園を継ごうかなー」


 ミレイさんはダンジョンの中だというのに、泣きそうな顔で膝を抱えてしまった。


 ってか、ミレイさん、青森出身なんだ。


 俺はもうちょっと様子を見ようかと思っていたが、そんなミレイさんを見て、アドバイスすることにした。


「あのさ、ミレイさん。ミレイさんって、なんで槍を使ってるの?」

「槍? 私は前衛の適性があったけど、剣は怖いから槍にした。情けないよね…………」


 同じ前衛の武器でも、剣と槍の大きな違いは間合いである。

 槍の方がリーチがある分、モンスターに近づかなくてもいい。

 これを理由に槍を使うエクスプローラは多い。

 ってか、それが普通だ。


「だったら、距離を取れよ。槍使いが突っ込んでどうする」

「だって、近づかないと、モンスターにはダメージが通らないし」


 まあ、気持ちはわかる。


「ハァ……アカネちゃん、あっちに1体いるから手本を見せてあげて」


 俺はため息をつき、アカネちゃんにお願いした。


「わかりましたー」


 アカネちゃんは数ヶ月前では想像できないくらいに意気揚々と俺が指差した方に歩いていく。


 そして、アカネちゃんの前にオークが現れると、オークは早速、その丸太のような腕でアカネちゃんを殴ろうとした。

 アカネちゃんはそれを槍で受けながすと、後ろに1、2歩下がり、槍でオークの足をつく。

 オークはうざそうに腕を振るうが、アカネちゃんがさらに下がったため、当たらない。

 オークは明らかにイライラしだし、大きく腕を振りかぶった。


 モーションが大きくなり、隙が出来た瞬間、下がっていたアカネちゃんは、一気に距離を詰め、槍をオークの喉元に突き刺す。

 オークは片膝をつくものの、最後の力を振り絞り、アカネちゃんを殴ろうとするが、アカネちゃんは手早く槍を抜き、また下がってしまった。

 オークは追撃をすることも出来ず、地に伏せ、そのまま息絶えた。


「…………すごい。あの子、ヒーラーだよね?」


 ミレイさんはオークに完勝したアカネちゃんを見て、感嘆の声をあげた。


「終わりましたー」


 アカネちゃんは嬉しそうに言いながら、こちらに戻ってきた。


「アカネちゃんって、レベルいくつなの?」

「12」

「レベル12の、しかも、年下の後衛に負けるのかー…………ルミナ君、リンゴ好き? お歳暮に送ってあげるね」


 諦めんなよ……


「リンゴは好きだよ……いやいや、あれが槍の戦い方なんだよ。危なくない距離でチクチクやって、隙を見つけたらブスってやるの。アカネちゃんに出来て、あんたが出来ないわけないだろ」

「そうかなー」


 完全に自信を喪失してんな。


「大丈夫だって。アカネちゃんなんか、最初はゴブリン相手に泣いて、もらし……いやいや、大変だったんだから」

「そうなの?」

「そうそう」


 アカネちゃん、痛いから蹴らないで。


「私に出来るかなー」

「いや、ミレイさん、Cランクじゃん。冷静になれよ。相手はオークだぞ。たかが初心者の登竜門じゃねーか」

「……そうだね。よし、やってみる」


 ミレイさんはようやく立ち上がり、槍を構えた。


「あっちに2体いるからやれ。カナタ、1体はお前の魔法で頼む」

「はい!」


 カナタは俺が指差した方を向き、詠唱を開始する。

 そして、ミレイさんも槍を構えた。


「ファイヤー!!」


 オークが現れると同時に、カナタが火魔法を放った。

 奇襲に近い攻撃だったため、オークはまとも食らい、1体はそのまま倒れ、燃え尽きた。

 オークは火魔法に弱いのだ。


 もう1体はそれを見て、怒り、カナタに突撃しようとするが、その前に我らがミレイさんが立ちはだかった。


「がんばれー」

「ふぁいとー」


 後輩2人はミレイさんに声援を送る。


 そんな気はないだろうが、お前ら、ちょっとバカにしてない?


「よーし!」


 とはいえ、ミレイさんは声援を聞き、やる気を出したみたいだ。

 アイドルだし、力にはなるのかもしれん。


 ミレイさんは槍を構え、ジッと動かず、様子を見ている。

 オークはそんなミレイさんを持っている棍棒を力任せに振り回し、襲った。

 ミレイさんはそれを冷静に受けたり、躱しながら後退する。

 そして、オークが空振ったタイミングで槍を振った。

 すると、槍はオークの首に当たり、オークの頭は胴体とあっさり離れてしまった。


「あれ?」


 槍を巧みに操っていたミレイさんは動きを止め、煙となっていくオークをポカンと見つめている。


「はい、お疲れさん」

「すごいですー」

「Cランクって、強いですねー」


 俺達はオークに勝ったミレイさんに拍手した。


「まだ、牽制だったんだけど……」


 ミレイさんは首を傾げながらつぶやく。


「いや、だから、あんたはレベル18だろうが。オークなんて、下手したらレベル10以下の学生でも倒せるんだぞ」

「…………私って、もしかして、弱くない……?」


 何を言ってんだ、こいつ。


「お前な……Cランク以上はエクスプローラ全体で見れば、上位10%だぞ。いくら協会からの心証が良いからといって、弱くて、高ランクになれるかよ」


 エクスプローラは死と隣り合わせだ。

 協会が弱いヤツのランクを上げるわけがない。


「そ、そっかー。私って、実はすごく強かったんだー!」


 そこまでは言ってない。


「強い、強い。じゃあ、どんどん行こう」


 まあ、言わなくてもいいや。

 せっかく自信がついたみたいだし、このまま木に登ってもらおう。


「おーし! やるぞー」


 ミレイさんは元気になり、そのまま一人でダンジョンの奥に歩いて行く。


 索敵は?


「ひゃーー!」


 やっぱりドジっ子ポンコツキャラで行けよ。


「プロの方って、ああいうダメな……いえ、えーっと、おっちょこちょいな人が多いんですか?」


 カナタが必死に言葉を選びながら聞いてきた。


「んなわけあるか。お前らはああはなるなよ」

「はい……」

「なりたくないですねー」


 まったくだ。


「話してないで助けてー!!」

 

 メルル(笑)の方を応援しようかな……


 その後、立ち直ったミレイさんはオークを何回か倒し、2体同時のオークも倒せたところで、この日の探索を終えることにした。


 そして、探索を終え、協会のソファーで今後の予定を詰めていると、ミレイさんの元にライバルがやってきた。


「こんにちわ、ミレイさん。調子はどうですか?」


 もちろん、相手はメルル(笑)こと近藤キララである。


「まあまあ、ってところです」


 ミレイさんは謙遜しているかのように言うが、その表情は自信に満ち溢れている。


 何故、オークを倒したくらいで、自信を持てるのかが疑問だ。


「そうですか。それは良い事です」


 メルルはミレイさんの表情で順調な事を察したようで、ちょっと悔しそうだ。


「キララ、お前の方はどうなんだ?」


 俺はちょっと探りを入れることにした。


「キララって言うな!」


 プププ。

 やっぱり気にしてんだ。


『お前は人の嫌がることを見つけるのが本当に上手いな』


 すごいだろー。


「どうしたんだよ、キララ。親からもらった大事な名前だろー」

「だから、キララって言うな! ってか、私の名前を誰に聞いたんだ!」

「誰だっていいだろ、キララ」

「ムカつく! 人には触れてほしくないこともあるんだよ!」


 おやおや~。

 アイドルらしくない言動だなー。


「マジ、ウケる」

「こいつ、マジでムカつく。そういうテメーの名前はなんだよ」


 あれ?

 俺の事、知らねーの?

 まあ、ルーキーだし、しゃーねーか。


「俺は神条ルミナだ」

「え!? ≪陥陣営≫!?…………いや、テメーの名前も大概だろ」


 は?

 めっちゃカッコイイだろ。

 死んだ母親が付けてくれたんだぞ!


「キララに言われたくねーわ」

「どういうセンス? テメーの親、絶対にヤンキーだろ。顔を見てみたいわ」


 もう死んでるよ。

 まあ、ヤンキーだったけど。


 生母の写真を見たことあるが、ヤンキー座りして中指を立ててる金髪女だった。


 似なくて良かったわ。


「ふん! 親不孝者め」

「テメーの方が絶対に親不孝だろ」


 めっちゃ孝行しとるわ!


「あの……ケンカはよくないよ」


 置いてけぼりになっていたミレイさんが俺とキララの間に入った。


 今、いいところなんだから止めんなや!

 良い子ぶりやがって!


「良い子ぶらないで貰えます? すごくムカつきます」


 ……気が合うね。


「センパイ、センパイ。マイさんが見てますよ(ボソッ)」


 アカネちゃんが俺の腕をグイグイと引いて、コソッと教えてくれた。


 やべー。

 そうだった。

 俺は良い子になるんだ。


「こらこら、2人とも。争いをやめるんだ。アイドル同士、仲良くしろよ」

「え!?」


 よし、全ての責任を押し付けよう。


「アイドルの覇権を巡って争うのは分かる。でも、他の人の迷惑をかけたらいけないぞ。キララはともかく、ミレイさんは年長者だろ」

「私のせいにされた!?」


 お前のせいだよ。


「ミレイさん、何度も言っているが、あんたはCランクだろ? ここには中等部の学生もいるんだ。俺のかわいい後輩に悪い影響を与えないで貰えない?」

「え!? ごめん……」


 謝ったな?

 非を認めたな?


「本当に頼むわ……」


 俺はやれやれと首を横に振る。


「キララ、うちの依頼人が迷惑をかけたな。今日のところは帰ってくれ」

「えー……こいつの情緒、ヤバくない?」


 キララはミレイさんに同意を求める。


「いいから帰れや。お前の本名を掲示板に書き込んでやろうか?」

「あ、マジでヤバいヤツだ。帰る、帰る」


 キララは慌てて帰っていった。


「ふぅ……セーフ」


 俺は汗を拭った。


「この人、すごいね?」


 ミレイさんが後輩2人に問いかける。


「はい! すごいです!」

「はい! ひどいです!」


 どっちがどっちのセリフかは明白だ。


「君達もすごいねー。私、ルミナ君の後輩じゃなくて良かった……」


 ミレイさんはホッとしたように、胸を撫で下ろした。


 よーし、明日からはミレイさんには9階層のゴブリン軍団に突っ込んでもらおう。





攻略のヒント

 どのダンジョンも10階層まではそこまで難易度は高くない。

 11階層以降はダンジョンにもよるが、一気に難易度が高くなる傾向があるので、注意すること。


『ダンジョン指南書 ダンジョン探索の注意点』より

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る