第115話 ≪Mr.ジャスティス≫って、本当に(都合の)良いやつだな!


 ミレイさんからの依頼を受けることに決め、ミレイさんを一人で10階層のボスであるレッドゴブリンを倒せるくらいに強くすることに決めた俺は、ミレイさんを一人でオークに突撃させた。

 その日は、合計で10回くらい戦わせたが、ミレイさんは、一人では一度も倒すことが出来なかった。

 

 そんなことをしていたら、いい時間になったため、明日また挑戦させることに決め、その日は解散となった。

 

 なお、ミレイさんに俺の現在の評判の状況から迷惑がかかるかもしれないと言ったのだが、心配はないそうだ。


 というのも、俺のパーティーには元芸能人のシズルがいるかららしい。

 シズルは、自称ではもう歌手は辞めたと言っているが、芸能事務所に席は残っているし、世間は辞めたという認識はない。

 そんな状況なので、同じ芸能人繋がりで、ミレイさんが俺達と行動しても、特に問題はないそうだ。



 そして、家に帰ってきた俺は、いつものように携帯をいじっているシロを眺めながら考え事をしていた。


 うーん。

 あそこまで出来ないとはねー。

 前衛のくせに、攻撃も防御もなっていない。

 最初は度胸がなくて、ダメなのかと思っていたが、あれはそれ以前だ。


 ミレイさんは巨体のオーク相手に何も考えていないかのように、真っすぐ突っ込むのである。

 俺やクーフーリン、もしくは、瀬能ならば、それでも良い。

 だが、ミレイさんの様な力も防御も微妙なヤツがオーク相手にまともに突っ込んでいいわけがない。


 ミレイさんは1対1でモンスターと対峙した経験が極端に少ないんだろうなー。


「ハァ……めんどくせ」


 俺は思わず、ため息が出た。


「依頼の期限は1週間だろ。そのくらい付き合ってやれよ」


 シロが携帯を見続けながら言う。


「本当は1ヶ月くらいは要るんだけどなー」


 今日、協会に戻った俺はミレイさんに依頼の期限を伝えた。


 ミレイさんは、それを聞くと、上目づかいで訴え始めたが、俺は断固として、拒否したのだ。


 別に、ミレイさんが嫌いなわけではない。

 だが、俺も忙しいし、仲間達があそこまで俺のために付き合ってくれると言ってくれたので、俺は仲間と共にダンジョン攻略を進めたいのだ。


「実際のところ、ミレイはどうだ?」

「別に悪くないな。ただの経験不足。よくあることだ」


 センスがないわけでもないし、レベルも高い。

 あとは経験を積ませてやればいい。


「なんであんな感じなんだ? 俺っちはお前がエクスプローラになった時を知らないが、シズルやアカネ、カナタはほぼ初心者だった。それでもちゃんとやれてただろ」

「シズルは才能があったし、≪度胸≫のスキルもあった。アカネちゃんは俺がめっちゃ鍛えてやった。カナタは…………あいつは真っすぐなヤツだろ」


 天然マイペースとも言う。


「ふーん。なるほどねー」

「まあ、それでメルル(笑)に勝てるかは知らん。そもそも勝ち負けの定義もわからん」


 ミレイさんがレッドゴブリンを倒したところで人気を維持できるかもわからんし、そもそもメルル(笑)が本当に人気が出るかもわからん。


「メルルの実力はわかんねーんだよな?」

「うーん、探りを入れてみるか」

「探り? どうやって?」

「そんなもん、クランリーダーに聞けばいいだろ」

「…………連絡先、知ってんの?」


 知らねー……

 あ、でも、待てよ。


「シロ、サエコに電話して」

「あん? 俺っちは今、心理テストしてんだけど……」


 お前、何してんの?

 自分の存在が何か忘れてんの?

 ホワイトドラゴンだろーが。


「そんなの後でいいじゃん」

「しゃーねーなー」


 シロはしぶしぶ承知し、携帯を操作しだした。

 プルルルル、という音が俺の携帯から聞こえてきている。

 しばらくすると、通話がつながった。


『…………もしもし』


 つながりはしたものの、聞こえてくるサエコの声は不機嫌そのものだ。


「やっほー、サエコ。元気か~?」

『……元気じゃない』

「どうしたんだー? ユリコかー?」

『……ああ。あいつ、もう嫌だ……』


 めっちゃ疲れてんなー。

 気持ちはわかるけど。


「どうすんだ?」

『今、本部長と話し合い中だ。出禁取り消しの取り消しを要請してるが、多分、無理。接見禁止が落としどころになると思う』

「接見禁止かー。ユリコが守ると良いな」

『なあ、神条。あいつをこっそり殺してくれないか?』


 大分、キテんなー。

 立花にブチ切れていたお前はどこに行ったんだよ。


「嫌だよ」

『ハァー…………』


 サエコは深いため息をついた。


「ショウコはなんて?」

『なんも。あいつは気楽なもんだ』


 ショウコはガードが堅い女で、ユリコ相手にも隙を見せない。

 あのユリコが諦めたくらいである。


 俺も昔、後ろからショウコのケツを触ろうとしたら、見てもいないのに腕を掴まれたことがある。

 まさしく、二つ名通りの≪難攻不落≫だ。


「俺も狙われてるから、何とかしてほしいわ」

『とりあえず、接見禁止までは持っていく。あとは各自で自衛しかないな。ハァ……私達もこれからダンジョン攻略をしていきたいのになー』

「そうなん?」

『≪正義の剣≫には負けたくない』


 大手クラン同士の争いかねー?

 どうでもいいや。


「ほーん。まあ、頑張れ」

『ああ。で? そんなことを聞くために電話してきたのか?』


 あ、忘れてた。


「お前さぁ、≪Mr.ジャスティス≫の電話番号を知らね?」

『≪Mr.ジャスティス≫? 暴行事件の時に交換したから知ってるけど……』


 俺の読み通りだ。

 さすが、俺!

 賢い!


「教えてー」

『いいけど、宣戦布告でもするのか?』

「なんで俺が≪Mr.ジャスティス≫に宣戦布告をせにゃならんのだ」

『いや、お前、めちゃくちゃケンカ売ってんじゃん。ウチの連中も引いてたぞ』

「知らね。俺は過去を振り返らない主義だから」

『お前は相変わらず、自己中だな。まあ、今さらか……電話番号だな。送ったぞー』

「さんきゅー。じゃあなー」

『ああ。お前と話せて、少しは元気が出たよ。おやすみ』


 サエコは自嘲ぎみに笑い、電話を切った。


 あいつ、相当参ってんなー。

 クランリーダーってのも大変なんだろうな。


「シロ、≪Mr.ジャスティス≫にかけて」

「はいよー」


 シロは再び、携帯を操作しだす。

 そして、再び、プルルルル、という音が俺の携帯から聞こえ、通話がつながった。


「もしもーし、≪Mr.ジャスティス≫! 俺だよ、俺!」


 詐欺みたいだな。


『…………ルミナ君かい?』

「おー! よくわかったなー」

『そんな高い声で、そんなしゃべり方をするのはルミナ君だけだよ。なんで僕の番号を知ってるんだい?』


 俺って、そんなに声が高いか?

 女になったからかな?

 自分じゃわからん。


「サエコに聞いた。お前に聞きたいことがあるんだよ」

『ああ、サエコさんか……聞きたいことって?』

「お前のところにメルルっているだろ? そいつって、どんな感じなん?」


 リーダーなら詳しいだろ。


『メルル? え? 誰?』


 え?


「知らないのか? 生意気そうな≪踊り子≫のヤツ」

『ああ、もしかして、近藤さん?』

「近藤?」

『あれ? 最近、ウチに入った近藤キララさんじゃないの? 黒髪でポニーテールの子』


 メルルだ。

 しかし、あいつ、本名はキララって言うんだな。

 芸名とたいして変わらねーじゃん。


「多分、そいつ。どんな感じ?」

『どんな感じって言われても……可愛らしい子だとは思うよ』

「お前、あんな生意気そうなのがいいの? いや、そんなことはどうでもいい。エクスプローラとしてだよ」

『生意気って…………君が言う? エクスプローラとして、って言われても、僕はほとんど知らないよ。新人の育成は他の人達に任せてるから』


 こいつ、俺のことを生意気って思ってんだな。


「お前、リーダーだろ。知っとけよ」

『最近は攻略に力を入れてるからねー。育成は別の班だよ』


 使えねー。


「ちなみに、どこまでいったん?」

『30階層のボスで足踏みしてる。ルミナ君、手伝ってくれない? ボスのゴーレムが固くてさー。30階層付近でゴーレムがいっぱい出てきたから嫌な予感はしてたんだよ』


 ゴーレムか……

 俺なら多分、苦戦はせんな。

 戦ったことがないから知らんけど。


「いいけど、俺が手伝ったところで、それ以降はどうすんだよ。後で困るだろ」

『だよねー。やっぱ地道にやるしかないか……』

「頑張れ。そして、トランスバングルを手に入れろ」

『僕達が手に入れてもいいのかい?』


 当たり前だろ。

 そっちのほうが楽だし。


「お前らの方が先に進んでんだし、人数も多いだろうが。はよしろ。俺はさっさと男に戻りたい」

『あ……僕達がトランスバングルを譲るのは決まってるんだ……』

「ああん? お前、俺に女のままでいろってか? 最低だな。ハァ…………わかったよ。しゃーねーから金ぐらいは払ってやる」

『あ……しかも、タダで貰おうとしてたんだ……』

「何のために≪Mr.ジャスティス≫を名乗ってんだよ。お前は人が困っているのを助けようとは思わんのか?」


 ちなみに、俺は思わない。


「えー…………わ、わかったよ」


 うんうん。

 実に良いヤツだ。


「で? メルルの事は全然知らないのか? 少しくらいは聞いてるだろ」

『なんでそこまで知りたいんだ? 君の好みはもうちょっと、こう……グラマー? な感じだろ』


 30歳を超えたおっさんが何を言い淀んでだよ。

 はっきり、おっぱいが大きいと言えや。


「お前、ミレイさんの件を聞いてないのか?」

『ミレイさん? あの人がどうかしたの?』


 こいつ、何も知らないんだな。


 俺は仕方がないので、ミレイさんの事を説明してやった。


『へー、あっちの業界も大変なんだねー』

「俺もその辺はよくわからん。でも、依頼は依頼だからな。マイちんの手前、断れんのだ」


 マイちんには散々、迷惑をかけてしまった。

 本当に嫌われる前に、評価を上げておかねばならない。


『えー、でも、僕も仲間を売って、情報を流せないよ』

「ミレイさんが勝って、お前らに不利益でもあんのか? メルルにしても、エクスプローラに集中できるから、お前らにとっても良い事だろ」

『いや、それはそうなんだけどさ…………』

「大丈夫。お前から聞いたとは言わないから」


 はよ、しゃべれや。


『うーん、とはいっても、たいしたことは聞いてないなー。優秀であることは間違いないし』

「サポーター専門か?」

『そりゃあ、≪踊り子≫だしねー。ユリコさんみたいな感じではないよ』


 ふむふむ。


「ちなみに、人間性はどうだ?」

『気が利く良い子だって、聞いてる。ウチでも人気なんじゃないかな?』


 おっさん共の姫状態か…………

 男って、いやだねー。


「なるほどねー。お前はミレイさんとメルルだと、どっちがいい?」

『アイドルとしてってこと? うーん、昔から知ってるミレイさんの方を応援したいかなー。それを抜きにしたら近藤さんかな。なんかこう、守ってあげたい感じ』


 ……うわ……キモ。

 30歳を超えたおっさんは25歳のミレイさんよりも20歳のメルルが良いんだって。


「……ふーん」

『え? 若干、引いてない? き、君はどうなんだよ』

「ミレイさんの方が大きいからミレイさん」

『聞いた僕がバカだったよ』


 ばーか。


「まあ、わかったよ。あんがとさん。じゃあなー」

『あ、待って。ルミナ君さー、ウチにケンカを売るのをやめてくれないかなー?』


 俺は話を終えたので、立ち上がり、テーブルまで歩く。


『ウチの連中が爆発寸前なんだよ。この前だって――プツッ


 俺はノイズをシャットダウンした。


「謝るんじゃなかったのか?」


 テーブルの上にいるシロが俺を見上げ、聞いてくる。


「謝罪っていうのは電話なんかじゃなくて、直接、言うもんなんだよ。失礼になっちゃうだろ」

「正論だなー」


 だろ?

 俺は礼儀をわきまえたジェントルマン(レディー)なんだ。





攻略のヒント

 当HPでは確認されたジョブ、スキルを参照いただけます。

 また、ジョブやスキルの詳細もご覧いただけますが、どなたが所持しているか等の個人情報は本人の許可がない場合は表示されておりませんので了承ください。


『エクスプローラ協会HP 確認されているジョブとスキル』より

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る