第112話 人を信じることって大事!


 指導の依頼を受けるかを保留し、明日、ミレイさんと一緒にダンジョンに行くことを約束した。


 話を終えたミレイさんはアイドルの仕事があるため、帰って行ったので、俺達も今日は解散することにした。


 のだが……


「ルミナちゃん、ちょっといい?」


 帰ろうと思って、立ち上がると、ちーちゃんが俺を止めてきた。


 話があるって言ってたもんね……


「なーに?」


 ちーちゃんがパーティーを抜けるって言ったら、泣きつこう!


「このパーティーの今後の事なんだけどね。あたしらって、学年が違うじゃん?」


 瀬能、ちーちゃんは2年生。

 俺とシズルは1年生。

 カナタとアカネちゃんは中等部の3年生だ。


「違うねー。お前らは先輩だな」

「そうなんだよ。このパーティーの当面の目標はあんたが男に戻るためのトランスバングルを入手することだろ? そして、それに必要な時間は1年、2年じゃないと思う」


 ワープの罠に乗って、深層に行く手段もあるが、そんな低い可能性にかけるほど、俺もバカじゃない。

 地道にやっていくしかないが、そうするには時間がかかる。


「だと思う」

「そうなると、あたしと瀬能は先に卒業する。だから、これからどうするか、瀬能と話し合ったんだ」


 やっぱそうだよね……


「話し合いというか、チサトさんが一方的にしゃべってただけだけどね」


 瀬能が苦笑しながら茶化す。


「うるさいな。それでね、そろそろ、あたし達も卒業後の進路を決めないといけないんだよ」

「お前ら2年じゃん。卒業はまだ先だろ」

「いや、この時期には決めておかないといけないんだ。あんたらも来年の今頃には学校から言われるよ」


 そんなに早いんだ……

 まあ、俺はエクスプローラを続けるからどうでもいいや。


「それで?」

「はっきり言うと、あたしはちょっと悩んでてね。それで瀬能やマイさんに相談に乗ってもらってたんだよ」

「マイちんにも?」

「ほら、あんたが前に協会の職員がどうとか言ってたじゃん」


 ちーちゃんはあんまり強くないけど、頭が良い≪学者≫だ。

 エクスプローラよりは協会の職員に向いている。


「ああ、スカウトね。来たん?」

「来た来た。それで相談に乗ってもらったんだよ」

「ふーん。協会の職員になるの?」


 やめた方がいいと思うな(願望)


「いや、めんどくさそうだし、つまんなさそうだからやめた」

「…………つまんない」


 こら!

 ここにはまだ、マイちんがいるんだぞ!

 落ち込んじゃったじゃないか!


「お前、協会の職員を前にして、よく言えるな」


 ちょっとは空気を読めよ、生意気サイドテール!


「だって、あの話を聞いて、なる気にはなれないし」


 あの話?


「どんな話だったの?」


 ちょっと気になるな。


「専属のめんどくささとか」


 専属……って、俺じゃん!

 

「え? マイちん、俺の事をめんどくさいとか思ってんの?」


 ちょーショック……

 泣きそう……


「ルミナ君、専属っていうのはね、高ランクのエクスプローラにつくんだけど、別にずっと同じ人がつくわけじゃないの」

「そうなの? でも、俺の専属はずっとマイちんだし、川崎支部からもついてきたじゃん」

「ハァ……あのね、私が貴方の専属になった時、私は正式な職員じゃなくて、バイトだったのよ」


 そういえば、当時のマイちんは高校生だった。

 職員なわけがないな。


「確かにそうだったね」

「私はね、高校を卒業したら、普通の会社に就職しようと思ってたの」


 えー!

 ダメだよー!

 泣いちゃうぞ!


「でも、貴方にそう言ったら、嫌だー!って泣き出したじゃない」


 もう泣いてたわ……

 全然、覚えてない。


「そうだっけ?」

「そうよ。しかも、他の職員も皆、貴方の専属をやりたくないって言って、慰留されたの」


 マジ?

 俺って、そんなに嫌われてんの?


「それで正式に職員になったの?」

「ええ、そうよ。貴方が川崎支部からここに移ってきた時も、本来だったら、専属は代わるわ。でも、当たり前のように、私も移動させられたのよ」


 ……なんかゴメン。


「な、なるほどー。マイちん、コーヒー飲む?」


 俺は慌てて、立ち上がり、コーヒーを淹れようとする。


「急に優しくしなくてもいいわよ。別に嫌じゃないし。ここだけの話、特別手当も出てるから」


 特別手当って……

 俺、完全に厄介者扱いじゃん。


「まあ、そんな話を聞いて、協会の職員になろうとは思わない」


 マイちんの補足説明(?)が終わると、ちーちゃんが再び、話し出す。


 だろうね。

 当人が言うのもなんだけど、俺も嫌だわ。

 

「ふーん、じゃあ、エクスプローラを続けるんだ?」


 問題はここからだ。


「だね。それで、次に悩んだのは、このパーティーで続けるかなんだ」


 だろうねー。


「お前らは先に卒業する。卒業後、生活リズムが異なるこのパーティーに居続けるのは難しいか?」


 学年が違うパーティーが卒業時に解散するのはよくある話だ。

 だから、同学年でパーティーを組むのが望ましい。


「それなんだよ。あんたらは学校があるから、あたしらは昼間、暇になるだろ? それでどうしようかと思って」

「で? どうするんだ?」


 よし、泣きつくぞ!


「だから、瀬能と話し合って、免許を取ろうと思ったわけ」


 ん?

 意味わからん。


「話がつながってないぞ」

「今のうちに免許を取れば、早めにランクが上がるだろ? そうしておけば、卒業後も野良でやっていける。昼間は野良やって、夕方にあんたらと合流する」


 プロにも野良エクスプローラはいる。

 しかし、プロの場合だと、実力を求められ、高校を卒業したてのE、Dランクは中々、パーティーを見つけられない。

 ただし、これが高ランクになれば、引っ張りだこだ。


 実際、ユリコやあきちゃんは野良だが、実力があることは周知の事実なため、人気だ。


「お前、野良でやっていけんのか? パーティークラッシャーのくせに」


 お前は人間関係の構築がド下手だろ。


「あんたね……あたしは元々、野良やってたじゃん。野良はドライだから人間関係のしがらみなんかないよ」


 契約のみの関係なんかな?

 よく考えたら、俺は野良をやったことないからわかんないわ。


「なるほど、なるほど。じゃあ、卒業後もウチに残るんだ?」

「そうする。まあ、あんたらを放ってはおけないしね…………カナタもいるし」


 ちーちゃんはそう言いながら、目線を空中に逸らす。


 ツンデレかな?


「わかった…………よし、ちーちゃんは裏切者じゃない!……制裁は不要っと(ボソッ)」

「怖いことを言わないでよ」

「俺、ちーちゃんを誤解してたわー。絶対に裏切る反逆者だと思ってたわー。マウント大好き女とか、生意気サイドテールとか思ってて、ゴメンなー」

「…………いいよ。あんたはそういうヤツだよ」


 よし、よし!

 ちーちゃんは良いヤツだった。

 さすがはちーちゃん、えらい!


 さてと……


「で? お前は?」


 俺は変な顔をしているちーちゃんから目線を切り、瀬能を見た。


 こいつは絶対に裏切る。

 反逆者瀬能だ。

 制裁確定!


「ボクは普通に君のパーティーのままだよ」


 あれ?


「んんー? 何で?」


 お前はさっさと抜けて、クランを立ち上げるかと思ってたんだけど。


「いや、君が男に戻るまでは付き合うって話だったろ」


 そうだっけ?


「そんなことを言ってたか?」

「なあ、神条の記憶力はどうなってんだ? 最初にパーティーに入る時に、お前が言い出したことだろ」

「そうだったかなー。その後の話のインパクトが強すぎて忘れた」

「お前な……」


 瀬能が呆れた感じで首を横に振った。


 あ! お前、今、俺の事をバカにしてるだろ!

 俺のせいじゃないわ!

 お前がゲイとか言い出すからだろ!!


「昼間はどうするん?」

「ボクも野良だね。そうやって実力を付けつつ、人材を探したりするよ。ボクの場合は時間がいくらあっても足りないんだ」


 まあ、こいつは志が高いから時間が余ることはないか……


「じゃあ、お前も残るのか?」

「そう言ってるだろ」

「だよな。うん、信じてた!!」

「……嘘つけ。絶対に制裁の事しか考えてなかったろ」


 こいつ、エスパー?


「んなわけねーだろ。いやー、俺はいい先輩達を持ったなー」


 めでたし、めでたし!


「こいつ、マジでひどいね」

「今さら、先輩を敬えとは言わないけど、少しは気にかけろよ」


 敬う、敬う(笑)



 よーし、これで≪魔女の森≫崩壊は防げたな。

 明日からまた、真面目にエクスプローラをやっていこう!!


 おー!!





攻略のヒント

 エクスプローラのランクがCランク以上になると、専属がつく。

 ただし、パーティー内に複数Cランク以上がいる場合は、パーティーに1名ずつとなる。


『エクスプローラ協会HP 受付について』より

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