第104話 ホワイトドラゴンが優勢になると、ちょっと嬉しそうなシロ


 40階層のボス部屋にワープした俺はシズルとヤる…………いやいや、限定付きとはいえ、男に戻るために、ボスに挑むことにした。

 

 しかし、俺の目の前にいるのはシロのちょーデカいバージョンだ。

 そんなホワイトドラゴンは俺を見下ろし、息を吸った。


「いきなりかよ!!」


 俺はすぐに自分にプリティーガードをかけ、ハルバードを構えた。

 直後、ホワイトドラゴンの口から白いブレスが吐かれた。


「冷てー!」


 俺はブレスを食らったのだが、たいしたダメージはなかった。

 ただし、結構寒い。


「ホワイトドラゴンのブレスは氷属性だ」

「お前が暑さに弱い理由がわかった」


 白いし、氷だし、火に弱そうだな。

 よーし!


「ラブラブー、ファイヤー!!」


 俺はハルバードをアイテムボックスに仕舞い、火魔法を放った。

 俺の火魔法がホワイトドラゴンの胴体に直撃する。

 しかし、ホワイトドラゴンはまったく動じず、火魔法が当たった胴体にも火傷一つ付いていなかった。


「あれ?」

「ホワイトドラゴンはマジックバリアを張っているから、たいして魔法は効かない。ハルバードでやれ」


 マジかよ!

 さすが40階層のボス。

 とんでもないスペックだ。


「行くぜぇーー!」


 俺は再び、ハルバードを取り出し、ホワイトドラゴンの巨体に切りかかった。

 俺がホワイトドラゴンに接近し、ハルバードを振ると、ホワイトドラゴンはその巨体からは想像が出来ないくらいのスピードで躱した。

 そして、あっという間に30メートルくらいも離れると、そこからブレスが放たれる。


「冷たっ!」


 またしても冷たいブレスが俺に直撃した。


 俺はたいしたダメージではないと判断し、そのままホワイトドラゴンに突っ込んだ。

 しかし、ホワイトドラゴンは俺が近づくと、またしても距離を取り、ブレスを放ってきた。

 

「冷たーい! って、うぜぇ!!」


 ダメージはほぼないし、このくらいなら俺のスキル≪自然治癒≫で回復できる。

 しかし、こちらが攻撃しようと近づくと、距離を取るため、攻撃できない。


「あいつ、何なん!? 図体はデカい癖に、やることが小さいぞ!」

「うーん、何とか攻撃しろ」


 シロはアドバイスになっていないアドバイスを送ってくれた。


「クソッ! これでも食らえ!!」


 俺はカボチャ爆弾を取り出し、ホワイトドラゴンに向かって投げた。

 カボチャ爆弾は一直線にホワイトドラゴンの元に行くが、ホワイトドラゴンはまたしても、速いスピードで躱し、距離を取った。

 そして、俺のカボチャ爆弾は誰もいないところに落ち、むなしく爆発した。


「あいつ、速いな!」

「だろ?」


 お前は何で自慢気なんだよ!

 同族だからか?

 言っておくが、向こうはドラゴンで、お前は蛇だからな!


「クソが!!」


 俺はスキル≪気合い≫で青の化身を使う。

 俺の体から青いオーラみたいなものが出て、すぐに消えた。


 青の化身はリスクなしで、スピードとパワーが上昇する。


「今度こそ、俺のハルバードをぶちこんでやる!!」


 俺は再び、ホワイトドラゴンに近づく。

 すると、ホワイトドラゴンは今度は逃げずに、その場でジッとしている。

 そして、大きく息を吸った。


「でかいブレスが来るぞ!!」


 シロが耳元で叫ぶ。


「食らえや! デストロイヤー!!」


 俺はまだホワイトドラゴンと距離があったが、構わず、ハルバードを振り、スキル≪斬撃≫を繰り出した。

 ハルバードから5つの斬撃がホワイトドラゴンに向かうのと同時に、ホワイトドラゴンからブレスが吐き出される。

 ブレスは先ほどまでよりも大きい。


 俺の斬撃とホワイトドラゴンのブレスがぶつかると、俺の斬撃がブレスを切り裂き、ホワイトドラゴンを襲う。

 しかし、切り裂かれたブレスも勢いそのままで俺を襲った。


「冷たい、冷たい!!」

「ギューー!!」


 俺とホワイトドラゴンは同時に叫んだ。

 とはいえ、どちらがダメージが大きいかは一目瞭然である。


 俺はなんか微妙にあちこち凍っているが、その程度である。

 ダメージはほぼない。

 

 しかし、ホワイトドラゴンは俺の斬撃を5つ共食らっている。

 ホワイトドラゴンも俺の斬撃を見て、逃げようとしたのだが、図体がデカすぎることが災いした。

 ホワイトドラゴンの胴体にはズタズタに切り裂かれ、血がホワイトドラゴンの白い身体を汚している。


「チャーンス!!」


 俺は好機と思い、突っ込む。


 ここで俺のスキル≪冷静≫が仕事をしだした。


 待てよ。

 俺って、いつもここで調子に乗って、失敗してないか?

 あんなにデカいんだし、不用意に近づいたら危ないだろ。


「食らえー! ラブリーストリーム!!」


 俺はホワイトドラゴンに突っ込んでいたのだが、急ストップし、魔法を放った。

 ホワイトドラゴンの下の地面が光りだす。

 

 いくらホワイトドラゴンにマジックバリアがあろうと、俺のハートの矢は貫通力がある。

 これを複数食らえば、ダメージもあるだろう。


 光りだした地面からハートの矢が複数出てきてホワイトドラゴンの図体を突き刺した。

 そして、なんとハートの矢がホワイトドラゴンを持ち上げた。


「あれぇ?」

「なまじマジックバリアがあるせいで、貫ききれないんだ。隙だらけだぞ」

「よっしゃー! 計算通りだぜー!! くたばれ! デストロイヤー!!」


 俺は1メートル程度、浮き上がっているホワイトドラゴンに必殺技を放った。


 ホワイトドラゴンは俺の斬撃に気づき、避けようと身をよじるが、ラブリーアローが突き刺され、宙に浮いているため、動けない。


 そして、斬撃は串刺し状態のホワイトドラゴンを襲い、胴体を再び、斬っていく。


「ギューッ!!」


 斬撃を食らったホワイトドラゴンが叫び声を上げると、ホワイトドラゴンを持ち上げていたラブリーアローは消え、ホワイトドラゴンはドシンッと音を立てて、地面に落ちた。


「ギュー……」

 

 ホワイトドラゴンはダメージが大きいらしく、情けない声を上げ、地に伏している。


 俺は今度こそ、好機と思い、ホワイトドラゴンの首をちょんぱするため、ハルバードを振り上げながら、ダッシュで近づく。

 そして、ホワイトドラゴンの顔付近に近づくと、首にハルバードをたたみこもうとした。

 

 その瞬間、ホワイトドラゴンと目があった。


 ホワイトドラゴンの目は戦意に満ちており、まだやる気だ。


「チッ!!」


 俺は瀕死の分際でムカつくなと思った。


 そして、構わず、ハルバードを叩きつける。


 しかし、俺のハルバードはホワイトドラゴンに

 当たらなかった。

 それどころか、ホワイトドラゴンが俺から離れていく。

 

 いや、違う!

 

 俺が遠ざかっているのだ。


 俺の目にはホワイトドラゴンの尾が見え、それと同時に腹部に鈍痛が走っている。


「クソッ!」


 どうやら俺がハルバードをたたみこむ前に、ホワイトドラゴンの尻尾によるなぎはらいが当たり、吹き飛ばされたようだ。


 俺は地面に落ち、ゴロゴロしながらと何とか受け身を取った。

 そして、すぐにホワイトドラゴンの方を見るが、ホワイトドラゴンはいない。


 死んだのか?


 俺はホワイトドラゴンが死んだと思った。


「上だ!!」


 俺はシロの声を聞き、ハッと上を見上げる。


 すると、俺の頭上にはホワイトドラゴンの巨体がのしかかろうとしていた。


「マジかよ!」


 俺の頭には、どうやって飛んだんだとか、まだそんな元気があるのかと、どうでもいいことが浮かんでいる。


「ナメんな!!」


 俺は赤の化身を使い、能力をさらに引き上げると、左足に力をこめ、地面を蹴った。

 そして、マジカルフライを使いながら、勢いよく飛ぶ。


 そして、落ちてくるホワイトドラゴン目掛けて、フルパワーで蹴った。


「ギューー!!」


 ホワイトドラゴンの体重がいくらかは知らないが、かなり重いだろう。

 しかし、俺の力はそれを越えており、ホワイトドラゴンは叫び声を上げ、蹴り飛ばされた。


「ざまあみろ!!」


 蹴り飛ばされたホワイトドラゴンは飛んでいき、地面に叩きつけられる。

 しかし、ホワイトドラゴンはすぐにこちらを向き、突進してきた。


「あいつ、効いてないのか!?」


 俺の必殺の一撃を何度も受けているのに、未だにピンピンしている。


「いや、かなり効いている。最後の力を振り絞っているんだ!」


 どうやら消える前の蝋燭らしい。

 

 とはいっても、それは赤の化身を使っている俺も同様である。


「それは好都合! トドメを刺してやるわ!!」


 俺はハルバードを構えた。


「ギューー!!」


 ホワイトドラゴンは叫び声を上げながら、突っ込んでくる。


「食らいやがれ! デストロイヤー!!」


 俺はハルバードを振り、斬撃を繰り出した。

 

 俺のハルバードから放たれた斬撃が正面からホワイトドラゴンを襲う。

 すると、ホワイトドラゴンは避けようと身をよじった。


「テンプテーション!!」


 俺はそんなホワイトドラゴンに精神力を振り絞り、魅了魔法をかける。

 ホワイトドラゴンの目から戦意が消え、動きが止まった。


 ホワイトドラゴンの動きが止まった瞬間、正面から斬撃がホワイトドラゴンに当たり、切り裂かれる。

 そして、俺は体の精神力喪失によるダルさを我慢し、ハルバードを持って、飛び上がった。


 斬撃を食らい、今にも死にそうなホワイトドラゴンは何とか顔を上げ、俺がいた方を見る。

 

 しかし、俺はすでにそこにはいない。


 俺は宙に飛んでおり、今はホワイトドラゴンの頭上にいた。


 ホワイトドラゴンは誰もいない方を唯々、見ており、俺はそんなホワイトドラゴンの首にハルバードを叩きこんだ。


 俺が斬ったホワイトドラゴンの首から血が吹き出し、ホワイトドラゴンは悲鳴も叫び声も上げることなく、絶命した。


 ホワイトドラゴンは煙となり、消えていく。

 

 俺は何とか着地をするが、立つことは出来なかった。


 精神力が尽きているのだ。


「ハァハァ…………勝ったか?」


 俺は勝っていることは知っているが、確認する。


「ああ、さすが相棒。確実に倒したぞ。早くマナポーションを飲め」


 俺はアイテムボックスからマナポーションを取り出し、飲んだ。


「だりぃ」

「そりゃあな。ほれ、そこにお目当ての物が落ちているぞ」


 俺はシロに言われて、ホワイトドラゴンがいた方を見ると、そこには魔石と共に小さな指輪が落ちていた。


 俺は立ち上がり、魔石に目もくれず、指輪を拾う。


「これがシズルとヤ…………男に戻れるためのアイテムか…………」

「相棒、頼むからゆっくりやれよ」

「俺、早漏じゃねーぞ」


 多分ね!


「そういう意味じゃねーよ! 段階を踏めって言ってるんだ! マジで嫌われるぞ!」


 冗談だよ。

 シャレのわからないヤツだな。


「絶対に冗談じゃねーな。頼むぜ」

「わかった、わかった。ところで、これってどう使うんだ? つけて、念じればいいの?」

「そうだ。使いたい時にアイテムボックスから出すのがいいぞ」


 トランスリングを指につけっぱなしにし、ふとした瞬間に男に戻りたいなーと思ってしまったら、勝手に男に戻ってしまうわけだ。

 そして、2ヶ月以上も待たされる。


 アイテムボックスに入れておこう。


 俺はトランスリングをアイテムボックスに入れると、次は魔石を拾った。


「なんだこの魔石? 色が白いぞ」


 普通の魔石の色は黒や赤だ。

 白なんて見たことない。


「そりゃあ、ホワイトドラゴンなんだから白いに決まってんだろ」

「決まってるのか……」


 そういえば、レッドオーガの魔石の色は赤だった。

 じゃあ、ブルーなんちゃらって、モンスターがいれば、魔石の色は青なのかな?


「深く考えるなよ。高く売れそうだからいいじゃねーか」

「それはそうだ」


 どうせ売ってしまうのだから魔石の色なんかどうでもいいな。


「さて、帰るか」

「41階層には行かないのか?」

「行くわけねーだろ」


 もう疲れたし、とある部分が気持ち悪いから早く帰りたい。


「じゃあ、帰って祝勝会といこう」

「だなー。さあ、英雄の凱旋だ!」

「えいゆう(笑)」


 俺は40階層の帰還の魔法陣に乗り、協会へと帰還した。





攻略のヒント

 スタンピードの兆候が見られていたダンジョンの内、東京本部のロクロ迷宮は10月10日に≪陥陣営≫率いる≪魔女の森≫がクイーンスパイダーを討伐したことで沈静化に成功。


 なお、川崎支部のダイダラ迷宮、名古屋支部のコナキ迷宮も同日に対象モンスターが討伐され、沈静化した。


『報告書 エクスプローラ協会→防衛大臣』より

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