第102話 ねえ、知ってる? タランチュラの毒ってたいしたことないんだよ


 俺はクイーンスパイダーの特異種とやらと対峙している。

 

 クイーンスパイダーはキルスパイダーと同様に火が弱点だろう。

 しかし、多用は出来ない。

 

 俺の火魔法は両手を使うため、もし、躱されたら、俺は両手を前に付き出しているという完全に無防備な状態で攻撃を受けないといけなくなる。


 クイーンスパイダーは毒持ちらしいが、俺は状態異常に耐性があるため、毒は怖くない。

 しかし、クイーンスパイダーの両前足には鋭い爪が見える。

 あれを受けたらちょっとマズい。


 やはり、ハルバードで戦うべきだろう。


 俺は敵の戦力を分析し、スキル≪気合い≫を使おうとした。


「相棒、灰の化身はもちろんだが、赤の化身も使わない方がいいぞ」

「何で?」


 一応、ボスだぞ。

 俺の奥の手を使うべきだろう。


「お前も知っているだろうが、虫系モンスターは一部を除いて、防御力はない。リスクを負って、無駄に力を伸ばすのは得策じゃない」


 灰の化身を使えば、3分後に死ぬ。

 赤の化身を使えば、5分後に激痛により、ロクに動けなくなる。


 確かに、こんな虫にそんなに力は要らない。

 素の俺のパワーで十分だ。


「よし! 俺様の強さを見せてやるぜ!!」


 俺はハルバードを頭上で風車のように回転させ、クイーンスパイダーに突っ込んだ。

 

 クイーンスパイダーはそんな俺を右前足で突き刺そうとしてくる。

 俺はその右前足をハルバードで叩きつけるように振り下ろした。


 すると、俺のハルバードはいとも簡単にクイーンスパイダーの右前足を切断する。

 俺はそのまま突っ込み、目がたくさんあって、気持ち悪い顔面を殴ろうとした。


「チッ!」


 俺が殴ろうと拳を握ると、クイーンスパイダーの残っている左前足が横から突こうとしているのが見えた。


「ラブラブファイヤー!」


 俺はハルバードをアイテムボックスに仕舞うと、瞬時に両手でハートマークを作り、俺を狙っていた左前足を焼きつくした。


 これで厄介な前足はなくなったな。


 俺はハルバードを取り出し、クイーンスパイダーの顔面に叩き込もうと、振り上げた。


「しゃがめ!!」


 俺はシロの叫び声に反応し、すぐに攻撃を止め、地に伏せた。

 すると、俺の頭上をクイーンスパイダーの右前足が勢いよく通過していった。


「あれ?」


 俺はすぐに立ち上がると、バックステップでクイーンスパイダーから距離を取った。


 そして、クイーンスパイダーを観察すると、先ほど、俺がハルバードで叩き切った右前足が普通に付いていた。

 それどころか、火魔法で焼いた左前足まである。


「あれれ?」

「あれはスキル≪再生≫だ。特異種ならではの能力だろうな」


 ズルくね?

 無敵じゃん!


 レッドオーガもそうだったが、特異種ってヤツはすげーわ。

 それに比べて、ウチのシロときたら、喋るだけだもん。

 ブレスを吹けよ!


「お前な…………俺っちが喋れなかったら、お前はさっき死んでただろ」


 シロちゃん、カッコいい!

 さすが、俺の相棒だぜー!


「どうやったら倒せるんだ?」

「スキル≪再生≫は無限じゃない。いつか使えなくなる。しかし、そんな面倒なことをしなくても核を潰せばいい」

「核?」

「人間で言えば、心臓や脳だ」

「あいつにあんの?」


 虫に脳みそがあんのか?

 

「脳はわからんが、心臓はあるだろ。胴体を狙え」

「やってみる」


 俺は右手をクイーンスパイダーに向けて、前に出す。


「ラブリー、ストリーム!!」


 俺が魔法を唱えると、クイーンスパイダーの足元が光りだした。

 そして、そこから複数のハートの矢じりのラブリーアローが現れ、クイーンスパイダーを貫く。


「キィーー!!」


 クイーンスパイダーからキモい鳴き声があげ、暴れだした。

 そして、クイーンスパイダーはその場でジャンプすると、壁に張り付く。


「ラブリーアロー!」


 俺は追い討ちをかけるため、壁に張り付いて動かないクイーンスパイダーの胴体を狙った。

 しかし、クイーンスパイダーはわしゃわしゃと足を動かし、躱した。


 マジでキモい。


 そして、先ほど放ったラブリーストリームの内、2本の矢がクイーンスパイダーの胴体を貫いていたのだが、再生しだした。


「チッ! うぜー!」


 再生を終えたクイーンスパイダーは壁からジャンプし、再び、地面に降りてきた。


 俺はそんなクイーンスパイダーにハルバードを構え、突っ込んだ。


「死ねぇー!」


 俺はクイーンスパイダーに突進し、ハルバードを振り下ろそうとした。


「シャー!!」


 すると、クイーンスパイダーの口からブレスか放たれた。


「毒だ!」


 シロが慌てて、俺の服の中に逃げる。

 俺は毒なんか効かないと思い、そのまま毒ブレスに突っ込んだ。

 

 しかし……


「ギャーー! 目がぁー!!」


 毒は確かに俺には効かないが、ブレスが目に入ってしまった。

 

「バカか!? って、後ろに跳べ!!」


 俺は瞬時にバックステップで後ろに下がったが、目が見えないため、バランスを崩し、後ろに転び、頭を強打した。


「痛い」

「アホ! 早くポーションを使え!!」

 

 俺はアイテムボックスからポーションを取り出し、飲んだ。

 すると、すぐに目の痛みが消え、視界が開けてきた。


「クッソー!! さすがは特異種! 知能が高いぜ!!」


 目潰しとはやるな!


「あの蜘蛛も、そんな意図はなかったと思うぞ」


 いや、きっと狙っていたに違いない!


「なんて頭の良いヤツなんだ!」

「…………そうだな」


 シロが考えていることはわかる。

 どうせ、俺をバカだと思っているんだろう。

 

「ぶっ殺してやる! パンプキンボム!」


 俺はハルバードを持っていない左手を天に掲げる。

 すると、カボチャ爆弾が落ちてきた。


「吹き飛べー!!」


 俺はカボチャ爆弾をクイーンスパイダーに向かって投げる。

 俺が投げたカボチャ爆弾は放物線を描き、クイーンスパイダーの頭上に落ちていく。

 すると、クイーンスパイダーは糸を吐き、カボチャ爆弾をぐるぐる巻きにした。


「バカめ! デストロイヤー!!」


 俺はクイーンスパイダーが糸を吐いた瞬間にハルバードを振り、必殺技を放った。

 俺が振ったハルバードから5つの斬撃が飛び出し、クイーンスパイダーを襲う。


 クイーンスパイダーは先ほどの俺の行動で、俺をバカだと思ったはずだ。

 絶対に余裕をこき、カボチャ爆弾のみを糸で対処すると思い、俺はカボチャ爆弾を囮にしたのである。


「わはは! 俺様、天才!!」


 ドッカーン!!


「あれ?」


 俺が放った5つの斬撃はクイーンスパイダーを襲うことはなかった。

 何故なら、俺の斬撃はクイーンスパイダーに当たる前に、クイーンスパイダーの目の前に落ちたぐるぐる巻きのカボチャ爆弾に当たり、爆発したのだ。


 俺は予想外の結果に固まっていると、爆発の煙が消えてきた。

 

 爆発をモロに食らったクイーンスパイダーは顔半分と右の足全部が吹き飛んでいた。


「計算通り!!」

「嘘つけ」

「うるさい! えーっと、トドメだー!!」


 俺は結果オーライと思い、クイーンスパイダーにダッシュで斬りかかろうと近づく。

 すると、クイーンスパイダーは俺には背(?)を向け、逃げようとする。


「逃がすかー!!」


 俺は後ろを向き、隙だらけのクイーンスパイダーにトドメの必殺技を放とうと、ハルバードを振り上げた。


「食らえ! デスト――げっ!!」


 俺が必殺技を放とうとした直後、クイーンスパイダーのお尻から糸が飛び出してきた。

 

 俺はそれを躱せず、モロに食らってしまう。

 そして、次々と糸が飛び出し、俺はぐるぐる巻きにされ、簀巻き状態となってしまった。


 それでも何とか引きちぎろうとするが、粘着性と収縮性を持ち合わせた糸を引きちぎることが出来ない。


「相棒!!」


 シロが叫ぶが、まったく引きちぎることが出来ない。

 さらに、俺は一緒にぐるぐる巻きにされたハルバードの重みで、地面に倒れてしまった。


 そんな餌状態の俺にクイーンスパイダーが近づいてくる。


「助けてー」


 俺は情けない声を出すが、もちろん、そんな事を聞くクイーンスパイダーではない。


 クイーンスパイダーは徐々に再生しつつ、俺に近づいてきた。

 そして、大口を開ける。


「私、美味しくないよー」


 もちろん、そんな事を聞くクイーンスパイダーではない。


 ひえぇー!


 俺は必死に暴れた。


「火遁の術!!」


 俺が食べられそうになっていると、後ろから女神さまの声が聞こえてきた。


 そして、俺の頭上を螺旋を描いた火炎が通過し、クイーンスパイダーを焼いた。

 クイーンスパイダーは苦手な火を食らい、暴れだす。


「神条さん、我慢してください! ファイヤー!!」


 カナタの声が聞こえてきたため、声がした方を見ると、俺に火魔法が飛んできた。


「おい!!」


 どこ狙ってんだよ!!

 って、ギャー!!


「あちち、あちー!!」


 俺はカナタのフレンドリーファイヤーで火だるまになる。

 しかし、カナタの火により、俺をぐるぐる巻きにしていた糸が消えた。


 おー!!

 頭良い!!

 

 カナタ、信じてたぜ!!


「プリティーガード!」


 糸が消え、動けるようになった俺は立ち上がり、自身にプリティーガードをかける。

 すると、俺に纏わりついていた火が消えた。


「ウオォーー!! シールド、バッシュ!!」


 俺はカナタを誉めてやろうとしていると、俺の脇を瀬能が大盾を構え、勢いよく通過していった。

 俺はそれを目で追うと、瀬能はそのままクイーンスパイダーに突撃する。

 そして、シズルの火遁を食らい、暴れていたクイーンスパイダーは突っ込んでくる瀬能に気づかず、シールドバッシュをまともに食らった。

 

 瀬能はそのまま壁にクイーンスパイダーを叩きつける。


「神条、今だ!!」


 瀬能は暴れるクイーンスパイダーを抑えたまま、こちらを振り向いた。


「瀬能、よくやった! お前の墓は立派なのを立ててやるぞ!! お前ら、通路に逃げろ! 急げ!!」


 俺は瀬能にお別れを言った後、仲間に指示を出し、通路に向かって、走る。

 すると、前に出ていたシズルとカナタも走り出した。


 俺が走っていると、前方には、何故か動いていないキルスパイダー達と足の遅いちーちゃんが見える。

 そして、そのはるか先には、とんでもないスピードで走り、すでに通路に到達しているアカネちゃんが見えた。


 スキル≪逃走≫か……

 マジで天敵から逃げるハムスターのようだ。


 俺はアカネちゃんに呆れつつも、走る。

 そして、遅いちーちゃんに追い付いた。


「捕まれ!」

「ひゃ!」


 俺は亀なちーちゃんを後ろから抱え、そのまま走り出した。


「…………」


 ちーちゃんは大人しくしており、そのまま、通路に到達する。

 俺はちーちゃんを降ろすと、カナタとシズルも俺達に追いついてきた。

 

「ヘル、パンプキーン!!」

 

 俺は瀬能との約束を守り、真っ赤な地獄カボチャを取り出し、瀬能とクイーンスパイダーの元に投げた。


「走れ!」


 俺はさらに奥に逃げるように言い、走り出す。

 そして、数秒後に凄まじい爆発音と共に爆風が俺達を襲った。


 俺達はその爆風を受け、前に転がっていく。

 何回ゴロゴロしたかはわからないが、ようやく回転が止まったため、後ろを振り向いた。


 部屋の中は煙で見えないが、俺の索敵にクイーンスパイダーの反応はない。


 

 瀬能は見事、死亡フラグを回収し、スタンピードを止めたのだ。


 英霊に敬礼!

 まあ、普通に生き返るけど。

 



 

攻略のヒント

 ≪ファイターズ≫が開発した生贄アタックなる攻撃手法は非常に危うい方法である。

 ≪ファイターズ≫にとっては、魔法職が少ないという欠点を補うために使用しているのだろうが、イジメや度胸試しなどの危険行為を誘発する可能性が非常に高い。

 したがって、この攻撃手法の禁止を協会本部に要請する。


『エクスプローラ協会要請書 川崎支部支部長』より

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