第100話 ちーちゃんは空気が読めない子


 マナポーションの連続使用による採算度外視作戦で23階層を突破した俺達は24階層にやってきた。


 俺達はこの作戦のおかげで、ダメージを受けずに、ここまで来ている。


 非常に順調である。


 俺のお腹以外は…………


 俺は本部長にもらった大量のマナポーションで火魔法を連発し、蜘蛛軍団を倒そうと考えていた。

 しかし、いくらマナポーションに使用制限がないとはいえ、マナポーションは液体である。

 そんなものを飲み続ければ、俺のお腹だって、タプタプにもなる。


 我慢出来るかと思っていたが、ヤバいかもしれん。


「お前ら、俺が漏らしても、ドン引くなよ」

「急に何?」


 シズルはいきなり変なことを言い出した俺を変な目で見る。


「マナポーションを飲みすぎた。まだ大丈夫だが、戦闘中に催すかもしれん」

「えー…………確かに、たくさん飲んでたけど」


 まだ漏らしてないのに、引かれている。


「あのー、この後、僕も大量に飲むことになりません?」


 俺とシズルの会話を聞いていたカナタがおそるおそる手を上げ、聞いてきた。


「カナタ、すまん」

「えー……やっぱりですか」


 カナタが落ち込む。


 気持ちはすごくわかる。

 

 いくら男でも、この年で漏らしたくない。

 しかも、仲間とはいえ、同年代の、しかも、女子もいる中で漏らせば、ダメージはでかい。


「ねぇ、もしかしなくても、私も?」


 さっきまで、俺に引いてたシズルも自分の立場を理解したらしい。

 なにせ、シズルは火遁や雷迅で大活躍の予定なのだ。


「お前は…………」


 お前はふとももが丸出しの格好だから、たいしてダメージはねーよ。


 と、一瞬思ったが、精神的には、女であるシズルが一番ダメージを受ける。

 下手すれば、ひきこもりになるかもしれん。


「………………仕方、な、い…………いや、でも…………うーん…………ちょっと待って」


 シズルの心の中は葛藤で一杯だろう。

 漏らすのなんて最悪だが、状況が状況だ。


「お前はここぞという時に風迅や雷迅を使え。それまでは瀬能と一緒に後衛の3人を守るんだ。この前のゾンビ共もそうだったが、乱戦になる可能性が高い」


 乱戦になると、瀬能一人で3人は守れない。

 遊撃は元々、援護がメインの役割だ。

 こういう時は前でなく、後ろに回った方がいいだろう。


「そ、そうかな。じゃあ、そうする」


 シズルはホッとしたようだ。


 正直に言うと、シズルの…………いや、何でもない。


「カナタ、二人で地獄に行こうぜ」

「一人は嫌ですが、二人ならダメージは半分ですよね!」

「ダンジョンを出れば、きれいになるしな!」


 俺とカナタは半分自棄である。


「よーし! ちーちゃん、24階層は!?」


 俺は気合いを入れ、ちーちゃんに24階層の出現モンスターを確認する。


「…………ヘルホーネット、人食蛾、鬼ムカデ、キングコックローチ。ここがあたし達が避けたかった虫エリアだよ」


 ああ…………俺のお漏らしの可能性がぐーんと上がった。


「そうか…………俺が大活躍できる階層だな。ところで、コックローチって何?」

「…………ゴキブリ」

「マジかよ、絶対に近くに寄りたくねーわ」


 俺は他の4人を見る。


 誰か、やらない?


「ルミナ君、愛してる!」

「センパイ、だーいすき!」

「ボクは後衛を守らないと!」

「僕はキルスパイダーまで温存でしたね!」


 俺のお漏らしが決定した。


「…………行くぞ」


 俺はもう考えるのをやめることにした。



 25階層に向けて出発した俺達は前の階層と同様に俺のパンプキンボムを連発し、この24階層を進んでいる。

 俺は精神力が尽きそうになると、アイテムボックスからマナポーション取り出し、飲む。


 そして、パンプキンボムを放ち続けた。


 途中から俺がモンスターを倒しても、誰も称賛しないし、しゃべらない。


 何でだろうね?


 俺達はその後も進み続け、ついに25階層への階段までやってきた。


「お前ら、後ろを向いてろ」


 俺は階段の前にまで来ると、後ろを向き、仲間に声をかけた。


 皆、返事もせず、素直に後ろを向く。


 俺はその隙に早着替えで下半身を露出すると、色々と処理をする。

 そして、替えの下着を履き、≪知恵者の服≫の一部を水で濡らし、タオルで拭いた。

 まだ、多少、濡れているが、俺は再び、≪知恵者の服≫を装備する。


「もういいぞ」


 俺は後ろを向いている仲間に声をかけた。


「さて、ここまでは順調に来たな。いよいよ、この階段を降りれば、蜘蛛軍団と対決だ」

「一応、言っておくけど、次の階層のモンスターはキルスパイダーとデスワームだよ。ただまあ、キルスパイダーだろうね」


 ダンジョン博士ちーちゃんは色々とスルーして教えてくれる。


「25階層は地図がないんだよな?」

「ないね。どうする? 闇雲に探してたら埒が明かないよ」

「確かに」


 どうしよう?

 もう漏ら…………マナポーションを飲みまくるのは構わないが、さすがに戦い続けるのはキツい。


「相棒、クイーンスパイダーはキルスパイダーに自分を守らせる習性がある。蜘蛛が多い所を進めば、クイーンスパイダーにたどり着けるぞ」


 ダンジョン博士2号のシロがアドバイスをしてくれる。


「なるほど。それで行くか」

「いよいよだね」


 シズルが25階層への階段を見て、つぶやく。


「クイーンスパイダーの所に着いたら、お前らはキルスパイダーを引き付けてくれ。そのスキに俺がクイーンスパイダーを仕留める」

「ボクがデコイで引き付ければいいんだな?」


 瀬能のデコイはモンスターのヘイトを集めることが出来るスキルだ。

 危険だが、母体であるクイーンスパイダーを倒さないと、意味がない。


「ああ。他の連中は瀬能を援護しろ」

「わかった」

「はーい」

「僕も覚悟を決めましたよ!」


 カナタの覚悟はきっとアレだろう。


「ルミナ君はどうやってクイーンスパイダーに近づくの? クイーンスパイダーはキルスパイダーに守られているんだよね?」

「空を飛んで近づく。蜘蛛なんぞ、空中から爆撃してやる」

「そういえば、マジカルフライがあったね」


 俺はメルヘンマジックで飛べるのだ。

 ダンジョンでの使い道はあまりないが、便利な魔法である。


「神条、何としてでも、クイーンスパイダーを倒してくれ」


 瀬能が真剣な目をして言う。


「わかってる。お前らはヤバくなったら帰還の結晶で逃げろ。俺は最悪、自爆する」


 俺にはヘルパンプキンや灰の化身がある。

 これらを使えば、死ぬかもしれんが、最悪、クイーンスパイダーを倒せることができるだろう。


「大丈夫なの?」


 シズルが心配して聞いてくれる。


「あんま死にたくないが、1階層で防衛戦なんてしたくない。ここまで来たら、確実に仕留める」


 というか、あんなに大見得を切っておいて、倒せませんでした、とは言えない。


「わかったわ。私達も無茶はしないつもりだけど、頑張る」

「ああ、そうしろ」


 俺達は25階層へ進むための最終準備をし、いよいよスタンピードに挑むことにした。


「さあ、行くぞ!」

「「「「おー!」」」」

「はいはい、あれ? あ、ごめん」



 ちーちゃん…………





攻略のヒント

 ダンジョンでは、何が起きるかわからない。

 水魔法でびしょ濡れになったり、泥まみれになることもある。

 なので、装備品のスペアはもちろんのこと、替えの下着やタオルを持っていくと良い。


『週刊エクスプローラ ダンジョン探索の小技集』より

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