第099話 25階層を目指して
先生達に20階層まで連れてきてもらった後、ちょー強い俺は圧倒的な力でミノタウロスを倒した。
そして、先生達を先に帰らせ、仲間と共に21階層へとやってきた。
ダンジョンは10階層ごとに様相が変わる。
このロクロ迷宮は1階層から10階層までが洞窟系であり、10階層から20階層までは遺跡系のダンジョンだ。
そして、今、俺達がいる21階層は再び、洞窟系に変わっている。
1階層から10階層までも洞窟系のダンジョンであるが、10階層までは洞窟というよりトンネルだった。
この21階層は広さはこれまでと変わらないが、自然の洞窟といった感じで壁面の岩肌もゴツゴツしているし、床は平坦ではない。
ここにいると、まるで蟻の巣に迷い混んだような感じがする。
「ちーちゃん、ここのモンスターは?」
俺はダンジョン博士のちーちゃんに聞く。
「21階層は吸血トカゲと吸血コウモリだよ」
「吸血? 血を吸うの?」
「吸うね。しかも、吸われると、マヒ毒を流してくるから、そのまま動けなくなり、死ぬまで血を吸われ続けるよ」
何それ?
ちょーこえー!
絶対に嫌なんですけど……
「ヤバいじゃん!」
「そんなに強くないから大丈夫。ただ、両者とも隠れて獲物を狙うみたいだから、あんたとシズルはちゃんと索敵するんだよ」
「りょーかい!」
「わかりました!」
俺とシズルはちーちゃんの言葉に力強く頷いた。
俺達は俺とシズルを先頭にし、進み始めた。
ダンジョンの中はたいまつやライトがあるわけでもないのに、そこそこ明るい。
これまではそのことにそんなに疑問を抱かなかったが、この蟻の巣のような洞窟で明るいと、若干、気持ち悪い。
まあ、暗くても嫌なんだけど。
俺が一人で来なくて良かったーと思いながら歩いていると、隣にいるシズルの足が止まった。
「何か小さいのがいっぱいいる」
シズルがそう言うので俺の索敵で探ってみると、確かに何かいる。
「天井に10匹くらい張り付いてんなー。多分、吸血コウモリだろ」
コウモリの事は詳しくないが、天井に張り付いているイメージはある。
「だと思う。どうする? 魔法がいいかな?」
「ちーちゃん」
「火に弱いよ」
もはや用件を言わなくても、ちーちゃんは俺が聞きたいことを理解したらしい。
信頼関係だね!
「俺がやる」
俺はそう言って、進み、火魔法の射程範囲まで近づく。
俺の索敵によると、もう視認できるまで近づいているのだが、吸血コウモリがいると思われる天井には何もいない。
俺は両手でハートマークを作りつつ、ジーっと天井を見ていると、30cm程度のコウモリが見えてきた。
よく見ると、コウモリも可愛いく見えないこともないが、10匹以上もいると、きもい。
「≪隠密≫か……」
≪隠密≫は俺やシズルが所持している気配を希薄にするスキルだ。
普段は見えないが、注視すると、解けるのが特徴である。
吸血コウモリは≪隠密≫が解けて、姿が見えていることに気づいていないのか、天井からジッと動かない。
「ラブラブ、ファイヤーー!!」
俺はそんなコウモリ達にお得意の火魔法を放つ。
すると、コウモリ達は次々と燃え、暴れることも出来ずに地面に落ちた。
「あんま強くないね」
俺が落ちている魔石を拾っていると、シズルが近くに来た。
「だな。だが、俺やお前が使う≪隠密≫を持ってるわ。最初は全然わからんかった」
「本当に用心して進んだ方がいいね。奇襲されると危険だし」
特に後衛に回られると、痛い。
何故なら、弱い人が1名いるから。
「お前は戦闘に参加しなくていいから、敵を探ることに集中しろ」
「わかった」
俺よりシズルの方がローグ的に優れている。
俺の方がスキルのレベルが高いのだが、元来の資質か性格の問題だろう。
シズルは几帳面だし。
「瀬能、シズルを頼む」
「任せろ」
どうでもいいけど、何か嫌なセリフだな。
「この階層は基本的に俺がやる」
「僕も火魔法がありますよ」
カナタは火魔法が得意なので、貢献したいのだろう。
「お前は温存だ。いくらマナポーションがあるとはいえ、お前には大量のキルスパイダーを相手にしてもらわないといけない」
キルスパイダー相手には火が有効らしいので、主戦力はカナタになる。
シズルの火遁は威力は高いが、連発が出来ないという短所があるからだ。
「わかりました!」
俺達は探索の方向性を決め、再び、進みだした。
21階層は22階層への階段まで、そこまで遠くない。
しかし、吸血コウモリが多く出現し、その度に足を止めないといけないため、時間がかかってしまった。
それでも俺達は21階層を突破し、22階層に到達した。
「ちー「22階層も吸血コウモリと吸血トカゲだよ。ただし、吸血トカゲが多い。さっきの階層には出なかったけど、吸血コウモリよりは強いから気をつけて」
「ちーちゃん…………」
もはや、ちーちゃんは俺が呼ぶ前に食い気味で説明してくる。
俺がリーダーだよね?
「何さ?」
「お前、やっぱり俺からリーダーの座を奪うつもりだろ」
俺の仕切りを取るな!
「めんどくさいなー」
でしゃばりめ!
そんなんだから他のパーティーで煙たがれるんだ!
バーカ、バーカ!
「そんなことよりも、先に進もう」
瀬能が俺とちーちゃんの間に入ってきた。
瀬能は自分の実家の安否がかかっているから、早く進みたいのだろう。
でも、そんなことって…………
重要なんだよ?
特に俺の場合は人望がないんだから。
「ハァ…………行くぞ!」
「はいはい」
ちーちゃんはやれやれといった感じで答えた。
その後、俺達は23階層を目指し、22階層を進みだした。
22階層はちーちゃんが言うように吸血トカゲが多く出てきた。
吸血トカゲは体長が1メートルを越えるでかいトカゲだ。
こいつも吸血コウモリと同様に強くはないが、≪隠密≫を持っていた。
姿が見えないのに、俺の索敵に反応があったため、索敵が反応している所を凝視していると、でかいトカゲが現れ、さすがにビビった。
しかし、たいして強くはないので、俺のハルバードの餌食にしてやった。
そして、22階層を突破し、23階層へと到達した。
ここまで、キルスパイダーを見ていないことから、まだ、スタンピードはそこまでの規模ではなさそうだ。
「ちーちゃん! 23階層は!?」
「はいはい。ヘルホーネットと食人蛾だね」
俺が勢いよく振り向き、ちーちゃんに聞くと、ちーちゃんは呆れながら答えた。
「ヘルホー、ネット? 網?」
「ヘル、ホーネット。日本語で地獄のスズメバチ」
何で食人蛾は日本語なのに、地獄スズメバチは英語なんだよ!
これじゃあ、俺が馬鹿みてーだろ!
「強そうだな」
「強いし、速い。正直、あたし達にはキツいね」
うーん、ちーちゃんが死にそう。
ってか、カナタも無理か。
「シズル、いつでも雷迅を使えるようにしておけ」
「わかった」
「この階層は俺のパンプキンボムで一掃しながら進む」
索敵で探り、近づく前に倒してしまうしかない。
「精神力は大丈夫?」
「マナポーションを使うから大丈夫」
マナポーションに使用制限はない。
飲めば飲むほど、精神力が回復するのだ。
本部長にいっぱいもらったから使いまくってやる!
ただし、トイレが近くなる。
我慢、我慢!
素敵なレディたる俺様は漏らしたりしないのだ!
「わかったわ。ルミナ君に任せる」
「よし! 行くぞ」
俺はそう言うと、一人、前に出て、歩きだした。
しばらく歩いていると、視認は出来ないが、空を飛んでいるモンスターを感知した。
俺は相手がヘルホーネットか食人蛾を確認せずに、パンプキンボムを取り出し、投げる。
直後、通路の奥から爆発音が聞こえ、俺の索敵に反応がなくなった。
「倒した。さっさと行こう」
俺は24階層を目指し、一直線に進む。
道中、やはり空を飛んでいるモンスターを感知したが、確認をせずにパンプキンボムを投げまくった。
何度かマナポーションを飲むはめになったものの、順調に進み、ついに23階層を突破し、24階層へと到達した。
攻略のヒント
モンスターにはウルフなどの獣系やゾンビなどのアンデット系など、様々な種類が確認されている。
その中でも虫系のモンスターは世界中全てのダンジョンで確認されており、ダンジョンを攻略するうえでは、避けては通れないモンスターである。
とはいえ、大型の虫モンスターは嫌悪するエクスプローラは多い。
エクスプローラを目指す人は覚悟をしておくといい。
なお、殺虫剤は一切、通じないので注意すること。
『週刊エクスプローラ 嫌いなモンスター(虫編)』より
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