第098話 ミノタウロスという名のかませ犬


 先生達に先導されて、19階層までたどり着いた俺達は19階層の小部屋で一泊した。

 そして、翌朝、俺は目が覚めると、テントの外に出る。

 俺が外に出ると、すでに他のパーティーメンバーは起きていたらしく、テーブルに座り、朝食を食べていた。


「おはよー」


 俺に気付いたシズルが挨拶をしてくる。


「おはよ。お前ら、早いなー」

「スタンピードが起きてる最中だもん。早起きくらいするよ」

「それもそうだな」


 うーん、まったく考えずにグースカ、ピーと寝てたわ。


「ルミナ君も食べる? パンしかないけど」

「もらう。先生達は?」


 俺はシズルから菓子パンを受け取りながら聞く。

 部屋の入口に陣取っていた先生達の姿が見えないのだ。


「周囲を偵察してくるんだって」

「年甲斐もなく、はしゃいでんなー」

「怒られるよ」

「わかってるよ。でも、あいつらの昨日のグダグダ加減を見ただろ」


 前半は調子が良く、俺達は先生達をさすがだと尊敬の目で見ていた。

 しかし、後半はやれ足が痛いだの、やれ腰が痛いだの、まあ、ひどかった。


「引退して、結構経ってるみたいだしね」

「誰か、無理すんなって言ってやれよ」

「リーダーのあんたが言いな」


 ちーちゃんがお茶を飲みながら俺に言う。


 この人、昨日の事をまだ引っ張ってるよ。


「ちーちゃん、寝れた?」

「ああ、安眠枕のおかげで休めたよ」


 さすがは安眠枕、神経質なちーちゃんもぐっすりだ!

 

「良かったね!」

「急に優しくしなくても、あたしはリーダーなんてやらないよ」

「ほんとにぃ?」

「誰もあんたからリーダーの座を奪わないって」


 むむむ、どうやら本当らしい。


「センパイ、何でそんなにリーダーがいいんですか?」


 アカネちゃんが聞いてくる。


「一番偉いから。逆に何でリーダーやりたくねーんだよ」

「バカな答えですねー。リーダーなんて、責任と面倒なことを押し付けられるだけじゃないですかー」

「まあ、お前には無理だ」


 アカネちゃんがリーダーのパーティーなんて、秒で解散だろ。


 俺達が会話をしながら朝食を取っていると、小部屋の入口の扉が開き、先生達が戻ってきた。


「神条、起きたか」


 先生達がこちらにやってくると、伊藤先生が対面に座った。


「おはようです」

「ああ、おはよう。お前は本当に図太いな」

「先生達が見張ってくれていますから、安心して休んでましたよ」


 嘘だけど。

 この階層のモンスターであるあばれ牛が扉を開けるわけねーじゃん。

 例え、キルスパイダーがこの階層に来てたとしても蜘蛛じゃ、扉を開けられねーよ。

 

「そうか。先ほど、周囲を偵察に行ったが、あばれ牛しか確認出来なかった。まだ、スタンピードはこの階層までは来てないらしい」

「そりゃあ良かった。おい、シロ、スタンピードはどのくらいで地上まで来るんだ?」


 俺はスタンピードに詳しいであろうシロに聞く。


「具体的な時間はわからん。だが、20階層で滞ると思う。ボスがいるからな。そして、20階層のボスが倒されたら、後は一気に降りてくる。ボスを倒せるだけの数が揃っていることになるからな」


 キルスパイダーはそんなに強くないと聞いている。

 しかし、数の暴力でミノタウロスを倒すのだろう。

 そして、ミノタウロスを倒すほどの力なら、後はその力で階層を駆け抜けていく。

 なにせ、低階層に行くほど、どんどんモンスターの質は下がり、弱くなっていくのだから。


「安心は出来ない訳だ」

「まあ、相棒が親玉を倒しちまえば、関係ねーよ」

「フッフッフ、そうだな」


 クイーンスパイダーだか、なんだか知らんが、俺様の敵ではあるまい!

 俺様、最強!


「神条、頼むから調子に乗って、油断だけは止めてくれよ」

「わかってますよー」


 その油断の結果が、今の女の姿なのだ。


「さて、そろそろ行きますか」


 伊藤先生がそう言うと、先生達が立ち上がったため、俺達も立った。


「先生達、大丈夫です? 昨日は大分、お疲れのようでしたけど」

「あとはこの階層と次のボスだけだから、大丈夫だ」


 ホントかよ…………

 まあ、確かに先生達に疲労の色は見えない。


「じゃあ、お願いします」

「ああ。最後に確認しておく。お前らは今日、25階層にいると思われるクイーンスパイダーを殺ってもらう。ただし、絶対に無茶はするな。無理だと判断したらすぐに帰還の結晶を使え」

「わかってますってー」

「それと今日、明日の内に帰ってこなかった場合は全滅と見なす。すまんが、救助に行ける人員がいないんだ」


 先生達は申し訳なさそうな表情を浮かべている。


「まあ、そうでしょうよ。そもそも救助に行けるヤツがいるんなら、そいつがスタンピードを止めればいいんだから」


 学生である俺達がここにいる時点で俺達に援護などない。


「本来なら、お前達に任せるべきではないことだ。力がない教師で本当にすまん」

「大袈裟だなー。たかが蜘蛛の群れじゃないですか? 踏み潰して…………燃やしてやりますよ」


 やっぱり踏み潰すのは嫌だ。

 想像しただけでトリハダが立つ。


「お前のその強気だけが救いだよ」


 だけは余計だ!


「なんでこう悲観的なのかね。俺を誰だと思ってるんだ? お前らはここより別のダンジョンを心配しろよ」


 少なくとも、東城さん達がいる川崎支部とユリコがいる名古屋支部は大丈夫だろうが、他は知らない。


「すまん。頼む」


 先生達が俺達に頭を下げた。

 

 頭なんか下げなくてもいいから、俺の成績をどうにかしてほしいわ。


「はいはい。さっさと行って終わらせましょうよ」

「そうだな」


 先生達が頭を上げると、出発となった。

 

 俺達は昨日と同様に、先生達に先導されて進んでいく。

 この19階層に出現するモンスターはあばれ牛である。

 先生達は遭遇したあばれ牛を鮮やかな連携で倒していった。


 その戦いを見て、俺達は先生達を見直していたのだが、徐々に先生達の動きに陰りが見え始める。


 やっぱりダメじゃん。

 全然、疲労が取れてない…………


 先生達は30歳を越えているとはいえ、まだ若いし、動ける。

 しかし、数年のブランクが効いているのだろう。

 ダンジョンと外では、感じるストレスがまるで違うのだ。


 それでも先生達はあばれ牛を倒していく。

 すごいなと思うのは、先生達がどんなに弱っていても、敵からの攻撃は受けていないことだ。

 ヒーラーである森本先生のヒールがもっぱら体力回復に使われているぐらいである。


 俺は先生達を呆れと感心の目で見ていたが、それと同時にミノタウロスは無理だろうなと思っていた。

 ミノタウロスの倒し方は避けながら攻撃をするという持久戦になる。

 今の先生達では体力的に厳しいだろう。


 先生達はその後もあばれ牛を倒しながら進み、ついに20階層へと到達した。

 20階層に到達した俺達はボス部屋の扉を開き、進む。

 ボス部屋は前に来たときと変わらず、広い空間の中央にリングがある。

 そして、そのリング中央には巨大な牛モンスターであるミノタウロスが仁王立ちしていた。


「ようやく来ましたね」

「ですな。ミノタウロスを見るのは何年振りでしたかな?」

「私は3年以上前ですよ。しかし、相変わらず、強そうですなー」


 先生達はミノタウロスを見ながら思い出に浸っている。


「さて、皆さんの体力はどうですかな?」

「いやー、正直、厳しいですが、何とかしましょう」

「そうですね。何人か死ぬかもしれませんが、やれないことはないでしょう」


 どうも先生達の体力は限界っぽい。


 俺は後ろにいるちーちゃんを見る。

 すると、ちーちゃんは何も言わず、ミノタウロスに向けて、顎をしゃくった。


 まあ、俺がやったほうがいいな。

 先生達に任せると、時間が掛かりそうだし。

 

「先生、ここまでありがとうごさいました。後は俺達でスタンピードを止めますので、先生達は帰って休んでください」


 俺は先生達に近づき、礼を言うと、そのままリングに上がった。


「おい、神条!」


 俺は先生を無視し、そのまま歩いて、ミノタウロスに近づく。


「ブモォォォーー!!」


 ミノタウロスは落ちていた斧を拾うと、凄まじい声量のおたけびをあげた。


「うるせーよ」


 俺はミノタウロスのおたけびに動じず、そのまま歩き続ける。

 そして、俺とミノタウロスの距離が10メートル程度になったところで足を止め、アイテムボックスからハルバードを取り出した。


「さあ来い」


 俺の言葉に反応したかはわからないが、俺がそう言うと、ミノタウロスは斧を振り上げ、突進してくる。

 そして、俺の前に来ると、そのまま斧を振り下ろした。


 俺はハルバードを両手で持つと、勢い良く振り下ろされる斧に向かってハルバードを振った。

 すると、俺のハルバードはミノタウロスの斧を砕いた。

 ミノタウロスは斧の破片が周囲に飛び散るのを呆然と見ている。

 俺はハルバードを振った後、そのまま、ミノタウロスの右足を切りつけた。


「ブモォォー!」


 俺が切った右足から血が吹き出てると、ミノタウロスの巨体を支えていた右足が膝をつき、ミノタウロスが俺目掛けて倒れてきた。


「死ねや!!」


 俺は自分に向かってくるミノタウロスの顔面を思いっきり殴り飛ばす。

 俺に殴られたミノタウロスはそのまま吹き飛び、リングに仰向けで叩きつけられた。


 ミノタウロスは瀕死のまま、何とか立ち上がろうと、もがいていたが、徐々に、その力も弱まり、ついには力尽き、動かなくなった。

 

 そして、数秒後には煙となって消えた。


「さすが相棒! ミノタウロスがゴブリンに見えたぜー!」

「フフフ、ミノタウロスなど、俺様にかかればこんなもんよ!」


 実際、俺はミノタウロスに苦戦したことなんかない。

 パワーしか脳がないミノタウロスは俺にとってはカモなのだ。


 俺は魔石とドロップした宝石を拾うと、皆の所に戻る。


「さすがは≪陥陣営≫。あのミノタウロスがまるで相手にならないとは」

「二つ名持ちは違いますなー」

「確かに、スタンピードを恐れないのも頷ける強さだな」

「噂以上の強さですねー。これでメイジなのだから恐ろしい」

「神条、やってもらってすまんな」


 先生達は五者五様の反応で俺を称える。


「まあ、こんなものです。先生達は安心して帰って、祝杯の準備をしていてください」


 わはは!

 俺様、つえー!!


「さて、ミノタウロスまで神条に任せてしまいましたが、我々は帰りますか」

「無念ですが、私達が手伝えるのはここまでですね」

「雨宮、斉藤、瀬能、柊、斉藤、そして、神条。生徒を守れない無力な我々を許してくれ。そして、頼む! スタンピードを止めてくれ」


 伊藤先生が再び、頭を下げた。

 

「はい!」

「まあ、がんばります」

「任せておいてください!」

「センパイがいるから大丈夫ですよー」

「ここまでありがとうございました!」

「しつけーなー。余裕だっちゅーに」


 これ以上、フラグを立てないでほしいわ。


「我々は帰還の魔法陣で帰る。後は頼んだぞ!」


 先生達はそう言って、ダンジョンから帰還した。


「じゃあ、俺らも行くか。準備はいいな?」

「うん!」


 俺達は21階層への階段を降りていった。





攻略のヒント(その1)


 全国一億人のあきちゃんファンの皆、元気ー?

 私は超元気ー!!


 さーて、これまで好評だったエクスプローラ紹介も今日で最終回!!

 

 最終回に紹介するのはこいつでーす!!


 神条ルミナ君!!


 この人を知らないエクスプローラはいないよね。

 日本三大ランク詐欺にて日本三大エクスプローラの恥!!

 そして、圧倒的な強さを誇る≪陥陣営≫でーす!!

 ルミナ君は噂通り、ものすごく強いエクスプローラだよ(あと性格も悪いし、バカだよ)。

 

 何といっても、すごいのはパワー!

 ものすごく重いハルバードを振り回し、オーガだろうがミノタウロスだろうが一撃で倒してしまう化け物だよー。

 

 そして、真に恐ろしいのはスキル≪魅了≫!

 このスキルは相手を魅了状態にしてしまうという女の敵みたいなスキル!

 でも、安心して!

 効果時間は数秒だから。


 しかーし、この数秒は戦闘においては致命的!

 数秒動きを止められ、その隙にハルバードでグシャ!!

 この必勝パターンがあるから、どんなにムカついても、ルミナ君にケンカを売ったらダメだよ!


 あと、皆も知っての通り、今は魔女になり、女の子になっちゃってます!

 

 意味がわからないよね。

 

 まあ、ルミナ君は昔から意味がわからない子だったから仕方ないね!


 女になったその姿は金髪きょにゅーな美人!

 

 死ね!


 ふぅ…………



 ルミナ君はまだ高校生だけど、私とは同期になります。

 昔はよくパーティーを組んだものです。

 

 そして、何故か、私の名前を覚えない。

 春子じゃねーよ!

 秋子だよ!!


 昔から可愛くないガキだったね!


 ふぅ…………


 

 ルミナ君は東城さんの≪ファイターズ≫にいたんだけど、今は東京本部の学生でパーティーを組んでいるよ。

 皆が羨ましがっているRainさんのパーティーだね!


 ルミナ君は口も態度も悪いし、暴力的な人だけど、悪い人じゃな…………ごめんなさい、悪い人です。

 何とか誉めたいんだけど、ルミナ君の良いところが浮かばないんだよね~。


 

 うーん………………やっぱりないな!



 

 じゃあ、ここでいつもの裏話でも話しちゃいますか!!


 しかし、ルミナ君の裏話はひどいのが多すぎて言えない…………


 なので、ライトなのを教えまーす!!


 ルミナ君は小学生の時にエクスプローラの免許を取ったんだよー。

 当時も筆記試験があったんだけど、私とは隣同士だったんだー。




 あのガキ、カンニングしてたよ!!

 服の中にカンニングペーパーを仕込んでた……


 まったく信じられないね!!

 最低のクズだよ!!




 さーて、これでエクスプローラ紹介は終わります。

 もしかしたら、またやるかもしれませんが、区切りをつけます。

 次からはいつものモンスターの生態ブログに戻るよ!!


 みんなちゃーんと、毎日チェックしてね?


『≪モンコン≫ことBランクエクスプローラ春田秋子のブログ』より





攻略のヒント(その2)


 今日は待ちに待ったエクスプローラ試験があった。

 俺は筆記試験が不安だったが、天才的なアイデアを思いついた。

 覚えられないなら、紙に書いて持っていけばいいのだ!!


 そして、試験の時、隣に座っていたチビと友達になった。

 俺はこのチビのあきちゃん(はるちゃんだったか?)と協力して、見事やり遂げたのだ!


 あきちゃんが試験官を見張り、俺が回答を書くという見事な連係プレイだった。

 試験が終わった後に、思わず、あきちゃんとハイタッチしたよ。

 

 いやー、天才すぎて自分が怖いな!


『神条ルミナの日記』より





攻略のヒント(その3)


 下記2名は筆記試験の回答がまったく同じであり、不正をした可能性が高い。

 しかし、証拠不十分のため、失格にすることはできない。

 よって、下記2名を合格とし、エクスプローラ免許を発行するが、要注意人物として、協会は注意すること。


   受験番号133 神条ルミナ

   受験番号134 春田秋子


『第4回エクスプローラ試験 筆記試験監督員』より

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