第084話 誕生日
クラスの話し合いにより、文化祭の出し物を決めた後、篠山と山崎は伊藤先生に報告に行った。
そして、伊藤先生の許可を得ると、次は役割分担を決めることになった。
とはいえ、俺はオーク肉の補充係に決まっている。
焼きそばに使う肉の量など、たかが知れているし、前日に少しオークを狩れば、俺の仕事は終了だ。
実にいい役割をゲットしたものである。
ちなみに、シズルは調理係になった。
シズルが接客をするのはマズいと考えた篠山が配慮して決めたのだ。
篠山にも、友人を思いやる気持ちがあるようだが、その気持ちを少しでもいいから俺や山崎にも分けてほしいものである。
そして、クラス全員の役割が決まると、この日は解散となった。
今日は二学期初日のため、授業はないのだ。
俺は解散となると、すぐに中等部の校舎へと向かった。
文化祭の前日にオーク肉を補充するのに、アカネちゃんとカナタに手伝ってもらおうと考えたのだ。
別に、オークごときなら俺一人でも問題はないのだが、一人は寂しい。
クラスで手伝ってくれそうなヤツもいないし、あいつらなら、きっと手伝ってくれるだろう。
俺はアカネちゃんとカナタの教室を目指し、中等部の校舎を歩いている。
前に、中等部の校舎に来た時もそうだったが、俺が中等部にいると、ものすごい注目される。
早くしないと、アカネちゃんとカナタが帰ってしまうため、声をかけられたくはない。
俺は早歩きをし、急いでますアピールをする。
そのおかげか、チラチラと見られはしたものの、誰からも声をかけられずに、アカネちゃんとカナタの教室に到着した。
そして、到着してから気づいた。
携帯で連絡すれば良かった……
『お前は本当にバカだな』
うっせー!
俺はシロの悪口を気にせず、教室の扉を開けた。
教室に入り、見渡すと、まだ学生が残っており、その中にはアカネちゃんとカナタの姿もあった。
「あ、神条さん!」
カナタが俺に気づき、近づいてきた。
「よう! ちょっといいか? お前とアカネちゃんに頼みたいことがあるんだ」
「何です?」
「あれー、センパイ、こんな所で何してるんですかー?」
俺とカナタが話していると、アカネちゃんもやってきた。
「お前らに話しがあるんだけど、ちょっといいか?」
「私達、これから出かけるんですけど」
アカネちゃんとカナタが2人で出かけるの?
こいつらって、そんなに仲がいいのか?
「デートか?」
「違いますよー…………ねえ? そういえば、センパイって、知ってるのかな?」
「……さすがに、知ってるでしょ」
後輩2人が目の前でコソコソしだした。
なんかイラつく。
「何だよ?」
「あのー、来月の始めって、何の日か知ってます?」
「文化祭だろ」
それくらいは知ってる。
バカにすんな!
「あ、知らないっぽい」
「…………えー」
アカネちゃんが俺を馬鹿にし、カナタは呆れている。
アカネちゃんはともかく、カナタが呆れるって、相当なことだ。
「いや、文化祭だろ?」
「文化祭の最終日です」
「後夜祭か?」
文化祭の最終日は後夜祭があり、なんかのイベントをやるらしい。
「違いますよ。シズル先輩の誕生日です。何で知らないんですか…………」
え!?
そうなの!?
「パーティーメンバーで誕生日プレゼントを贈ろうって話になって、僕達はこれからプレゼントを見に行くんです」
パーティーメンバーでって、俺、聞いてねーけど。
俺もパーティーメンバーだよね?
ってか、リーダーだよね?
「俺、ハブ?」
「だって、センパイはセンパイで贈るもんだと思ってましたし。まさか、それ以前に誕生日を知らないなんて…………」
アカネちゃんがすげー刺々しい。
「逆に聞きたいんだけど、お前らは何で知ってるの?」
「シズル先輩は芸能人でしたし、調べればわかりますよ」
な、なるほどー。
そっかー。
「あ、あの、僕達、これから百貨店に行くんですけど、一緒に行きます? 神条さんも話があるって言ってましたし」
カナタが気をつかってくれている。
「そうだな。俺も行く」
「そうしてください。センパイのプレゼントをチェックします!」
何で、お前にチェックしてもらわないといけないんだよ。
「別にいらねーけど」
「センパイ、自分のセンスに自信があります?」
「…………ない」
「チェックします。シズルは俺のものーとかほざいている人は信用できません。どうせ、えっちぃ下着を贈るんでしょ?」
「贈るか!」
ド変態じゃねーか!
「まあまあ、じゃあ、行きましょうか」
俺達は教室を出ると、百貨店へと向かった。
百貨店に向かう道中、文化祭前日にオーク狩りを手伝ってほしいことを伝えると、2人は了承してくれた。
そして、百貨店に着くと、俺は2人と別れ、シズルの誕生日を物色し、すぐにプレゼントを決めた。
『早くね?』
シロがプレゼントを速攻で決めた俺にツッコんできた。
こういうのはフィーリングなんだよ。
俺はプレゼントを決めると、別フロアでプレゼントを見ていたアカネちゃんとカナタの所に向かう。
「お前らは決めたか?」
俺は雑貨コーナーで小物を見ていた2人に声をかけた。
「え? もう決めたんですか?」
「…………センパイ、シズル先輩のことを本当に好きです?」
「好きだぞ」
あい、らぶ、しずーる!
「プレゼントを選ぶのが早すぎです……まったく愛を感じません」
女はすぐにそういうことを言うよな。
前に、お姉ちゃんとホノカにも言われたことがあるぞ。
「男なんて、こんなもんだろ。なあ、カナタ?」
「え!? まあ、そんな一面もあるような、ないような…………」
あれ?
「で? 何にしたんです?」
「髪留め。あいつって、髪が長いし、綺麗じゃん」
「………………前に、松島姉妹にバレッタを贈ったって、言ってませんでした?」
「え!?」
カナタがすっとんきょうな声をあげた。
「あげたぞ」
アヤとマヤは双子なうえ、格好も似せているから区別がつかない。
だから、色違いのバレッタをあげ、俺の前ではつけるように言ったのだ。
「他の女子に贈ったものと、同じものを贈るんですか?」
そういう風に言われると、ダメな気がする。
「ダメかなー?」
「ダメです」
「ぼ、僕もマズい気がします」
カナタもダメだと思うらしい。
「センパイ、女の子は自分だけの特別がほしいんです」
めんどくせーって言ったら、多分、口を聞いてもらえなくなるんだろうなー。
「じゃあ、何にすればいいんだよ」
「アクセです」
「重くね?」
付き合ってもいない男子から女子にアクセサリーはマズいだろ。
それくらいは俺でも知ってるぞ。
「本来なら、付き合っていない女子にアクセを贈るのはNGです。最悪です。でも、シズル先輩は若干、重い人ですし、先輩との関係性なら問題ありません」
さりげにシズルをディスっている。
こいつ、たまに毒を吐くよなー。
「僕も2人の関係性なら大丈夫だと思いますよ」
カナタも賛成らしい。
「うーん、じゃあ、ゆびわ…………じゃなくて、ネックレスにしようかな」
指輪って、言おうとしたら、アカネちゃんの目が絶対零度になった。
「じゃあ、ちょっと見てくる」
「先に言っておきますが、高価すぎるのはダメですよ」
「わ、わかってるよ」
高いものは良いもの。
高いものを選べば、間違いない!
と思ってたことは内緒にしよう。
俺はそそくさと逃げるようにアクセサリーコーナーに向かった。
俺はアクセサリーコーナーに着くと、ガラスケースに入っているネックレスを見ながら悩んでいる。
いつもならこの中で一番高いものを選ぶ。
しかし、それは間違いであり、悩まないといけないらしい。
俺はシズルの容姿、格好、趣味などを思い出しながらシズルに似合いそうなネックレスを選ぶ。
時間をかけて頭をフル回転させ、ようやく一つのネックレスに絞ると、アカネちゃん先生の所に戻った。
「あ、あのー、決めました」
「そうですか。じゃあ、それにしてください」
アカネちゃん先生はこっちを見てくれない。
怒ってる?
「あのー、チェックは?」
「センパイがシズル先輩を想って、決めたのなら大丈夫です。ちゃんと喜んでもらえます。というか、これ以上は他の女子に意見を求めないでください」
「は、はーい」
俺はすぐにアクセサリーコーナーに戻り、決めていたネックレスを購入した。
ネックレスを買い、2人の所に戻ると、アカネちゃんとカナタもプレゼントをいくつかに絞ったようだ。
後日、瀬能とちーちゃんを加えた4人で話し合って決めるらしい。
「あのー、俺は?」
やっぱり、ハブ?
「僕達は当日の朝にパーティーメンバーからって言って渡します。神条さんは後夜祭の時にでも、個人で渡してください」
おー!
何か雰囲気があって、良さそう。
カナタって、モテそうだなー。
「じゃあ、そうする。お前らって、すごいなー」
「この人、大丈夫かな?」
「うーん、大丈夫…………だと思う、よ?」
その後、3人で帰ったのだが、帰る途中、俺を見る2人の目が若干、可哀想な人を見る目だった気がする。
攻略のヒント
ダンジョン学園東京本部の文化祭は10月7日から9日の3日間で行われます。
各クラスは出し物を決めたら担任の先生に報告してください。
また、部活、クランなどでも出し物を行いたい場合は申請書を生徒会に提出してください。
みんなで文化祭を成功させましょう!
『生徒会文書 文化祭の出し物について』より
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