第077話 いざ調査へ


 3日目の夜に告白され、そのことをお姉ちゃんとちーちゃんに一晩中、からわれた俺はげんなりしていた。

 何しろ、あの2人のテンションは高く、朝までいじられたからだ。


 俺は朝まで絡んできて、今は眠っている二人を横目に部屋を出て、旅館のロビーへと向かった。


 今日は合宿遠征4日目。

 今日はせっかくの合宿遠征なのに、本部長からの依頼により、クズ3人を含む臨時パーティーでニュウドウ迷宮を調査しないといけないのだ。


「おはよう、神条。また、眠そうだな」


 俺が1階のロビーに降りると、すでにハヤト君が待っていた。


「よう。昨日は寝てなくてなー」


 俺はあくびをしながら答えた。


「君はいつも寝てないな。この前のダンジョン祭の時もだったろ」


 そうだったかな?

 あ、思い出した。

 ホノカとケンカしてて、謝罪する言葉を一晩中、考えていたんだ。


「お前は寝たのか? せっかくの修学旅行なのに」

「実を言うと、俺も寝不足だよ。盛り上がっちゃってな」


 やっぱりそうだろうなー。


「誰かにコクられたか?」

「いや、そんな素敵なイベントはなかった」

「ふーん」


 意外だ。

 さわやかで、将来有望なハヤト君ならこの合宿の雰囲気に当てられた女子が声の1つでもかけてそうだが……

 やはり、ロリコン疑惑が根付いているのかもしれん。


「しかし、緊張するな」

「何で?」


 ゾンビだからか?


「だって、今日のメンバーって、皆、二つ名持ちだろう? 緊張するって」

「いや、お前も二つ名持ちじゃん」


 ≪勇者様(笑)≫。

 あと、クーフーリンは二つ名持ちじゃねーぞ。

 まあ、クーフーリンが二つ名みたいなものだけど。


「俺のって、二つ名なのか? 単純に馬鹿にされているだけじゃないか?」

「うーん、微妙」


 半々って、ところだろうなー。


「それに二つ名持ちの中でも、有名どころが来るだろ?」

「まあ、そうかもしれないけど……」


 ≪Mr.ジャスティス≫はともかく、他のヤツらは悪名だろ。


「神条も二つ名持ちだし、場違い感がすごいんだ」

「それは俺もそう思うな。でも、護衛付きの体験ツアーとでも思えよ。俺は適当に遊ぶつもり」


 どうせ、他のヤツらがでしゃばるだろうし、俺は遠くから魔法を放つ予定だ。

 ゾンビ相手に接近戦なんてしたくない。


「うーん」

「そんなに気になるならお前も前に出ろよ。9階層までの魚モンスターならお前の雷魔法と相性がいいだろ。お前、ニュウドウ迷宮には入ったか?」

「ああ、一応、昨日、タケトとアヤとマヤの4人で行ったよ」


 タケトはともかく、アヤとマヤも行ったのか。

 あいつらが行くとは思わなかったな。


「じゃあ、大丈夫だろ。ん? 来たぞ」


 俺とハヤト君が話していると、≪Mr.ジャスティス≫がやってきた。


「おはよう。もう来てたのか。早いな」

「おはようございます」

「よう。お前一人か?」

「他の人は協会で待ってるよ。ユリコさんが自分が行くって、駄々をこねてた」


 あいつの考えていることが手に取るようにわかる。


「絶対に連れてくるな。あいつは学生には毒だ」

「わかっているよ。クーフーリン君に見張ってもらっている」


 クーフーリンは嫌な役回りになったんだな。

 笑える。


「じゃあ、行くか」

「そうだな。江崎君の準備は大丈夫かい?」

「はい。今日はよろしくお願いします!」


 ≪Mr.ジャスティス≫の問いにハヤト君は元気に答えた。


「よし、行こう」


 俺達はバスに乗り込み、名古屋支部の協会へと向かった。


 


 ◆◇◆



 

 名古屋支部の協会に到着し、協会に入ると、人だかりができていた。


「何だ、あれ?」


 俺は人だかりを指差し、首をかしげる。


「ハァ……ユリコさんだよ。彼女はほら、≪踊り子≫だから……さ」


 あの痴女、すでにあの格好をしているのか……


「すまないが、どいてくれないか?」


 ≪Mr.ジャスティス≫が人込みをかき分けながら、進んでいく。


 俺は関わりたくないので、その場で待機だ。


「何?」


 ハヤト君はよくわかっていないらしい。


「ユリコ、≪白百合の王子様≫は踊り子だ。お前も知ってるだろ?」

「踊り子って、あの?」

「そう」


 淫乱、ビッチ、変態。

 都市伝説だが、ドスケベしかなれないと言われているレアジョブだ。

 まあ、そう思われているのは、ほとんどユリコのせいだが。


 そして、その装備品は肌面積が多いことで知られている。


 ちなみに、シズルも適性があった。

 なんか、興奮するね!


「よう、クソガキ! 2日ぶりだなー」


 ≪Mr.ジャスティス≫が人だかりを解散させ、3人連れて、こちらに戻ってきた。


「ユリコ……相変わらず、すげー格好だな」


 ユリコはほぼ水着同然である。

 そして、なぜかシースルーの羽衣を纏っている。

 非常にエロい。


「お前は何でジャージなんだ? いつものエロい格好はどうした?」


 お前がいるからジャージで来てんだよ!

 

「俺はエロくねーよ! ってか、何で、俺の普段の格好を知ってんだ!?」

「まあまあ」


 ユリコは例によって、肩を組んでくる。

 すげーいい匂いがするし、目の前に胸が見えるため、ドキドキしないでもないが、それどころではない。


「離れろ! 俺に触るな、って、どこ触ってんだよ!!」


 ユリコが俺の尻を撫でてきたため、振り払う。

 ちょっと、触り方が上手いのが余計に腹立つ。


「わはは。可愛い反応だなー」

「こいつ……!!」

「ユリコさん、頼むからルミナ君にちょっかいをかけないでくれよ」


 不穏な空気を感じ取った≪Mr.ジャスティス≫が間に入ってきた。


「もう挨拶はいいかね? 私は早くダンジョンに行きたいのだが」


 ≪教授≫はまったく空気を読まずに言う。


「よう、ハヤト。ちゃんと寝たかー?」

「え? あ、クーフーリンさん、おはようございます」


 全員が全員、マイペースすぎて、すでにカオス状態だ。


 絶対にうまくいかないパーティーである。


「≪Mr.ジャスティス≫、≪教授≫の言う通り、ダンジョンに行こうぜ。こいつらは放っておくと、収拾がつかなくなる」

「そうだな。君がまともに見えるパーティーか……」


 ん?

 こいつ、失礼なヤツだな。


「じゃあ、頼むぜ、リーダー」

「え!?」

「お前がリーダーだ。Aランク」

「君がやれば? いつもリーダーをやりたがるじゃないか?」


 絶対に嫌だわ!


「俺とハヤト君は学生でお客さんだ。≪教授≫は調査がメイン。クーフーリンとユリコはリーダーの経験がない。お前しかいない」

「えー……わ、わかったよ」

 

 俺は泥船パーティーのリーダーを≪Mr.ジャスティス≫に押し付けることに成功した。


「じゃあ、皆、そろそろダンジョンに行こうか」


 俺達はリーダーに従い、ダンジョンへと入っていった。



 ダンジョンに入ると、クーフーリン、≪教授≫、≪Mr.ジャスティス≫、ハヤト君が前衛となって進んでいく。


 俺がハヤト君を前衛にしようと提案すると、クーフーリンや≪教授≫は自分のパーティーのリーダーを鍛えたいという思惑があったようで賛成してくれた。

 ≪Mr.ジャスティス≫も賛成してくれたが、ユリコは興味がなさそうだった。


 後衛は俺とユリコである。

 ユリコは前衛でもいけるのだが、前衛はすでに4人いるため、バランスを取って、後衛に回った。

 

 ちなみに、俺は後衛に立候補した。

 ゾンビ相手に前衛をやりたいと思う気持ちがわからない。


「ところで、どこを目指すんだ? 俺とハヤト君は何も聞いてねーぞ」


 俺は後ろから前にいる≪Mr.ジャスティス≫に目的地を聞く。


「あ、すまない。僕達は昨日までの3日間で17階層までは調査が終了している。モンスターの増加が見られるのは19階層だ。だから、今日はそこを目指す」


 19階層って、遠くね?


「え? 泊まりか? さすがに、それはまずいぞ。俺達は明日、東京に帰るんだぜ?」


 合宿遠征最後の夜がダンジョンとか絶対に嫌だぞ!


「大丈夫だよ。このニュウドウ迷宮は東京本部のロクロ迷宮と違って、広くないんだ。調査も終了しているし、17階層までなら午前中で着くよ」

「ふーん、じゃあ、任せるわ」

「よし、出発だ!」


 俺達は17階層に向けて出発した。



 このニュウドウ迷宮の低階層に出現するデスフィッシュは雷魔法に弱い。

 そのため、ハヤト君が活躍していた。

 たまに、前衛3人からアドバイスを貰ったりしながらも、ハヤト君を中心に順調に進んでいっている。


「あれが≪勇者様(笑)≫かー。結構、やるじゃん」


 後衛で暇してるユリコが話しかけてきた。


「協会がすげー期待している。実際、才能はあると思う」

「ふーん。私も前に協会からあのガキの下につけって言われたんだよなー」


 結局、≪教授≫になったが、ユリコはハヤト君の仲間の第一候補だった。

 

「そういえば、そうだったな。≪ヴァルキリーズ≫が騒いでたらしいぞ」

「フフ、知ってる。誰にも言うなよ。実はまだ連絡を取っている子もいるんだ」

「マジで? サエコが聞いたら怒るぞ」

「サエコの嫉妬は怖いからなー」


 そういう意味じゃねーよ!

 湧いてんのか?


「お前、そのうち、マジで免許取り上げられそうだな」

「そうなったら、そうなったで海外に行くよ」


 こいつは本当にすげーわ。

 まったくためらう気がない。


「シズルに手を出したらマジで殺すからな」

「えらい執着してるなー。前にも、姉と妹に手を出したら殺すって言われたし、何? ガチでRainのことが好きなの?」

「そうだが? 手を出そうとしても殺すからな!」

「ふーん。まあいいけど」


 どうせ、お前を手に入れたら、Rainも私のものって、思ってそう。


「俺に手を出そうとしても無駄だぞ。俺はレズになる気はない」

「何で? お前、男だろ? 男のお前が女の私と寝て、問題があるのか?」


 …………いや、まあ、そう言われるとそうなんだけど。


「お前、昔、私のことをすげーエロい目で視姦してたじゃん」


 そんな恰好をしてればねー。


「まあ、そんなこともあった気がする」

「じゃあ、問題ないだろ」


 大有りじゃ!


「いや、女同士はちょっと……」

「ホモとレズだったら、どっちがいい?」


 男の人はちょっと……


「そりゃあ、女が好きだし」

「じゃあ、男にヤラれるのと女をヤルのどっちがいい?」


 女が好きです!!


「女!」

「私は女だぞ?」

「確かに…………」


 俺はユリコのそこそこある胸を凝視する。


「何か問題があるか?」

「ない! ……って、騙されるか!!」

「お前って、本当にバカだなー」


 くっ!

 こんなヤツの口車に乗るところだった!


「お前らって、本当に仲良しだな」


 俺とユリコがしょうもない話をしていると、前にいるクーフーリンがこちらを振り向いて言う。


「仲良くない」

「仲良しだぞ。一緒に≪ダンジョン攻略し隊≫をナンパしに行ったじゃないか」


 懐かしい話である。

 昔、ここにいる≪Mr.ジャスティス≫と≪竜殺し≫、そして、ユリコの4人で取材を受けたことがある。

 しかし、俺とユリコは何故か途中で追いだされてしまい、むしゃくしゃした俺達は隣のスタジオで収録していたエクスプローラアイドルの≪ダンジョン攻略し隊≫に絡みに行ったのだ。

 俺はサインを貰ったので満足だったが、ユリコがひどかった。

 口説いたり、セクハラしたりと、大暴れだった。

 結果、何故か俺も出禁になり、川崎支部の支部長に怒られてしまったのだ。


 俺、悪くないよね?


「懐かしいね。君達の回答が本当にひどかったことを覚えているよ」


 一緒に取材を受けた≪Mr.ジャスティス≫も話に加わってきた。


「ユリコはひどかったが、俺はそうでもなかったろ」

「いや、君も十分にひどかったよ」


 そうか?

 真面目には答えなかったが、変なことは言ってないと思うけど。


「どうでもいいが、少しは真面目にやれんのかね? 一応、学生の手前だぞ」


 ≪教授≫が苦言を呈する。

 

 俺も学生でーす。


「真面目にって言われても、俺ら暇だし。なあ?」

「うん、暇。こんな低階層で後衛がやることなんてないし」


 俺とユリコは顔を見合せ、反論する。

 

「まあ、そうだが」

「それに、そこの勇者君一人で十分じゃん」

「そうそう、ハヤト君は相性が良いし、俺達の出番はない」

「とはいえ、真面目にやってくれたまえ。一応、本部長からの依頼だぞ」

「はいはい」


 俺とユリコは≪教授≫の言うことを聞き、黙っていることにした。


 そんなこんながありつつも、ハヤト君を中心にデスフィッシュを倒していき、俺達はボス部屋がある10階層に到着した。





攻略のヒント

 攻撃魔法は火、水、風、雷、土が基本魔法として、認知されている。


 火魔法は虫や植物に強く、動物系のモンスターにも有効なことが多い。

 水魔法は火属性のモンスターに強いうえ、水は飲用できるため、便利である。

 風魔法は岩石系のモンスターに強く、岩石系のモンスターは他に有効な攻撃手段が少ないため、重宝する。

 雷魔法は水系のモンスターに強く、攻撃範囲も広い。

 土魔法は防御に優れており、攻防一体でバランスの良い魔法である。


『ダンジョン指南書 魔法属性の有効性』より

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