第078話 ゾンビ地獄


 ニュウドウ迷宮のモンスター増加について調査に来た俺達は、10階層のボス部屋への扉まで来ていた。


「ここのボスって何だ?」


 俺はボス部屋に入る前に、横にいるユリコにボスについて聞く。


「デスシャーク。でっかいサメだ」


 B級映画みたいだな。


「強いん?」

「別に。噛みつきにさえ、気をつけていれば、雑魚だな」

「ふーん。お前ら、俺がやってもいいか?」


 俺は前にいる前衛共に声をかけた。


「僕はいいけど、急にどうした?」


 リーダーである≪Mr.ジャスティス≫が聞いてくる。


「いや、少しは働かないといけないかなーって」


 殊勝なことを言っているが、本音は次の階層のゾンビを相手にしたくないからだ。

 おそらく、ショッキングなゾンビ相手にハヤト君を前には出さないだろう。

 そうすると、俺が代わりに前に出されそうだから、ここで貢献しておき、ゾンビはユリコに任せようという魂胆なのだ。


「私は構わんよ」

「勝手にしろ」

「俺は自信がないから神条に任せる」


 前衛の≪教授≫、クーフーリン、ハヤト君の3人も同意してくれた。

 横にいるユリコは興味がなさそうだ。


「よし、じゃあ、俺が行くから、お前らは下がってな!」


 俺は全員の同意が得られたので、他のメンバーを押し退け、前に出る。

 そして、ボス部屋への扉を開けた。


 ボス部屋に一人で入ると、そこは50メートル四方の広い部屋だった。

 そして、中央には丸い池みたいな水たまりがある。

 

「相棒、きっと、あそこから出てくるぜ。賭けてもいい」


 シロが服から出てきて、定位置の肩までやってきた。


「賭けにならねーわ」


 誰がどう見ても、あそこから出てくるだろ。


「じゃあ、仕事しますか!」


 俺はそう言って、アイテムボックスからハルバードを取り出し、水たまりに近づく。

 俺が歩いていると、水たまりに波紋が広がり始めたので、足を止め、構えた。

 すると、水たまりから体長5メートル以上はあるサメが飛び出してきた。


「おー、サメだ!」


 あれはホホジロザメだ!

 

 俺は空中を泳いでいるサメに少し興奮した。

 男の子はサメが好きなものなのだ。


 サメ、もといデスシャークはしばらく空中を泳いでいたが、俺を視認すると、口を開けて、猛スピードで突っ込んできた。


「うわ! はやっ!」


 俺は予想以上のスピードで突っ込んでくるデスシャークにビックリしたが、タイミングを見計らい、噛みついてくるデスシャークにハルバードを振るった。


 ブンッ!

 

「あれ?」


 しかし、俺のハルバードは空を切った。

 

 デスシャークは俺のハルバードが当たる直前に噛みつきを止め、空に逃げたのだ。

 そして、再び、空を優雅に泳ぎ出した。


「何、あれ? やる気あんのかね?」

「さあ? サメの考えてることはわからん」


 俺はハルバードを構え続けるが、デスシャークは一向に降りてこない。


「おーい! 降りてこーい!」


 俺はデスシャークに声をかけるが、デスシャークは聞こえていないのか、まったく反応しない。


「おい、≪Mr.ジャスティス≫、何だ、あれ?」


 俺は後ろを振り向き、≪Mr.ジャスティス≫に聞こうとした。

 すると……


「ルミナ君!!」

「ん?」


 ≪Mr.ジャスティス≫が前方を指差したため、前を向くと、さっきまで優雅に泳いでいたデスシャークが俺に突っ込んできていた。


 ズルっ!!


 俺はデスシャークの噛みつきを横に転がりながら回避した。

 そして、受け身を取りながら立ち上がり、デスシャークにハルバードを振り下ろす。

 しかし、デスシャークはすぐに空中へと逃げてしまい、またしても、空振りしてしまった。


「汚いサメだなー」

「相棒が油断しただけだろ」


 まあ、そうだけど……


「手伝ってやろうかー?」


 俺が再び空中で漂っているデスシャークを見上げていると、ユリコが笑いながら言ってきた。


「うっせー! 黙って見てろ!!」


 俺はバカにしてきたユリコの方を向き、怒鳴った。


「ルミナ君!」


 そんな俺を見て、≪Mr.ジャスティス≫が叫んだ。


 うるせーな。

 わかってるよ。


 俺は後ろを確認せずに、ハルバードをぶん回す。


「二度も同じ手に引っ掛かるか!!」

 

 俺のハルバードは、今度こそ、後ろに回っていたデスシャークに当たった。

 デスシャークは俺の一撃を受けたため、血が吹き出し、地面にのたうちまわっている。


「死ね! デストロイヤー!!」


 俺はそんなデスシャークに向かってハルバードを振り下ろすと、5つの斬擊がデスシャークを襲う。

 俺のスキル≪斬擊≫による必殺技を受けたデスシャークは引き裂かれ、煙となって消えた。


「チッ! 手こずらせやがって!」

「お疲れ」


 舌打ちをし、文句を言う俺を≪Mr.ジャスティス≫が労ってくれた。


「10階層のくせに強くないか? 9階層までのお魚天国が嘘のようだったぞ」

「ここは10階層のボスから急に強くなるんだ。だから、学生は9階層までなんだよ」


 あー……何で立入禁止が中途半端な9階層までなのかなーとは思っていたが、確かに、あれ相手に学生ではキツいな。


「おい、ユリコ! どこが雑魚だ!?」


 お前のせいで油断したんだぞ!


「いや、魔法を使えよ。サメ相手に接近戦をするな、アホ」

「早く言え!」

「言う前にさっさと行くからだろ」

「…………ふん!」


 はいはい、俺が悪いんですよー!

 

「すぐ拗ねる。可愛いだけだぞ」


 ユリコはそう言いながら、俺の尻を触ってくる。

 

「うっせー! 俺の尻を触んな!!」


 俺はユリコの手を振り払い、怒鳴った。


「もういいかね? さっさと先に進もう」


 ≪教授≫はそう言って、先に進んでいく。


 協調性のないヤツだな。


 俺達は≪教授≫の後に着いていき、11階層へと向かった。


 ちなみに、デスシャークを倒したことで、俺のレベルが上がった。

 そして、メルヘンマジックをレベル4に上げ、ヘルパンプキンを覚えた。

 ヘルパンプキンはシロいわく、パンプキンボムより強いカボチャ爆弾らしい。

 使いづらいこと、この上ないな。


 


----------------------

名前 神条ルミナ

レベル27→28

ジョブ 魔女

スキル

 ≪身体能力向上lv5≫

☆≪自然治癒lv6≫

 ≪空間魔法lv2≫

 ≪怪力lv6≫

☆≪斬撃lvー≫

☆≪魅了lvー≫

☆≪気合lvー≫

 ≪索敵lv3≫

 ≪罠回避lv2≫

 ≪冷静lv2≫

 ≪隠密lv5≫

 ≪投擲lv1≫

☆≪メルヘンマジックlv3→4≫

 ≪薬品鑑定lvー≫

☆≪使役~蛇~lvー≫

☆≪魔女の素養lvー≫

----------------------

☆≪メルヘンマジックlv4≫

  魔女のみが使える魔法。見た目はメルヘンだが、強力な魔法を使えるようになる。

  使用可能魔法

  ラブリーアロー、パンプキンボム

  ラブラブファイヤー、ラブリーストリーム

  プリティーガード、ヘルパンプキン

----------------------


 


 11階層に着くと、俺の思惑通り、ハヤト君を後ろに下げ、代わりにユリコが前に出た。

 とはいえ、出てくるゾンビは≪Mr.ジャスティス≫とクーフーリンが相手をしており、俺達は適当に魔法を放つだけである。


「ハヤト君、大丈夫か?」

 

 ハヤト君は後ろにいるが、ゾンビを見て、顔を青くしていた。

 ゾンビは某ゾンビゲームのような見た目をしているため、気持ちはすごくわかる。


「いや、キツい。君は?」

「吐きそう」

 

 俺はゾンビを初めて見たわけではないが、慣れているわけでもないので、かなり気持ち悪い。

 そんなゾンビに接近戦をしている≪Mr.ジャスティス≫とクーフーリンを尊敬したい。


 でも、ばっちいから近づくなよ!


「あの人達、何で平気なんだろう?」

「頭がイカれてんじゃねーの?」


 俺とハヤト君は後ろで悶絶しているというのに、他の4人はケロッとしている。

 今も、≪Mr.ジャスティス≫とクーフーリンはゾンビ4体と戦っていた。

 うー、うー、言いながら襲いかかってくるゾンビを剣や槍で倒している。

 そして、最後の1体の顔面をクーフーリンの槍が貫き、戦闘は終了した。


「うぇ……」

「……キモ」


 俺とハヤト君は口を抑えた。


「2人共、大丈夫かー?」


 気分を悪くしている俺達に返り血を浴びているクーフーリンが気をかけてくれる。


「お前ら、何で平気なんだ? 俺達、帰りたいんだけど……」

「お前らが海でキャッキャ、ウフフしてる間に、俺達はずっとゾンビを相手にしてたんだよ。いい加減、慣れた」


 そういえば、こいつらは丸3日、ここでゾンビの相手をしていたのか…………御愁傷様。

 しかし、この光景に慣れるもんかね?


「な、慣れます?」

「何回か吐いたが、2日目くらいで何も感じなくなったな」


 ハヤト君が口元を引きつらせながら聞くと、クーフーリンがあっけらかんと答えた。


 お前、大丈夫か?

 心が死んでない?


「俺、今日の晩飯を食べられるかな?」

「シロ、俺の晩飯はお前にやるよ」

「マジで!? ラッキー!」


 シロはいいなー。

 この光景を見ても食欲があるんだから。

 俺は無理。

 絶対に吐く。


「話は終わったかね? では、先に進もう」


 ≪教授≫がそう言うので、俺達はさらに奥へと進んでいった。


 その後も奥へ進んでいくが、出てくるモンスターはゾンビばかりであった。

 しかも、奥へ行けば行くほど、その数は増えていき、18階層では、ついに、俺とハヤト君の目の前にもやってきた。


「うー!」

「……ひぇ!」

「ハヤト君、伏せろ! ラブラブファイヤー!!」


 俺はハヤト君が伏せたと同時に、両手でハートマークを作り、火魔法を放つ。

 炎をまともに食らったゾンビは燃え尽きたが、嫌な匂いが辺りに立ち込めた。


「おぇ……」

「ロクロ迷宮に帰りたい……」


 ハヤト君と俺はかなり参っている。


「≪教授≫、昨日より数が増えてますね」

「確かに。やはり次の階層に何かありそうだな」


 ≪Mr.ジャスティス≫と≪教授≫が何やら考察しているが、俺はどうでもいい。

 そんなことより、早く帰りたい!

 こんな依頼、受けるんじゃなかった!


「シロ君、このゾンビの大量発生をどう考える?」


 ≪教授≫が俺の肩にいるシロに意見を求める。


「原因はいくつか思いつくが、情報が少なすぎるな」


 適当に答えろよ!

 早く帰ろうぜ!!

 

「ふむ、一番可能性の高いのは?」


 どうでもいいじゃん!

 早く帰ろうぜ!!


「相棒、うるさい」


 ……しゅん。


「おそらくだが、シャーマンがいるな」

「シャーマン?」


 スーパーマンみたいなモンスターかな?

 

「ああ、シャーマンはゾンビを作り出すモンスターだ」


 全然、違った。

 最悪なモンスターだ!

 

「そんなヤツがいるのか?」

「滅多には出ないモンスターだ。シャーマン自身は弱いが、ゾンビを大量に生み出す厄介なモンスターだな」

「ふむ。それでこんなにゾンビがいるのか……しかし、モンスターは階層を移動しないのではなかったかな? ゾンビの増加傾向は次の19階層と聞いているが」

「基本的には移動しないな。だが、移動することもある。実はモンスターが生み出すモンスターはダンジョンにとっては異物なんだ。だから、モンスターが生み出すモンスターは元々いるモンスターからしたら敵になり、通常のモンスターはモンスターが生み出したモンスターを襲う。だから、モンスターが生み出すモンスターはそんなには増えないんだ。だが、シャーマンの様なモンスターは次々とモンスターを生み出すから、その内、パワーバランスが崩れる。そうしたら、通常のモンスターは上の階層に逃げる。逃げたことでモンスターが居なくなった階層は新たにモンスターをポップする。それが繰り返されるとこんな感じになるな」


 ???

 え?

 何?

 

「お前、日本語を喋れよ」

「ハァ……19階層ではシャーマンが生み出したゾンビが増えすぎて、天然のゾンビがこの階層に逃げて来てるの。そんでもって、ゾンビがいなくなった19階層では新しいゾンビがポップするけど、そいつらもこの階層に来るの。それの繰り返し」


 ふーん……

 ヤバいじゃん!!


「ゾンビが無限に発生してんの!?」

「まあ、そうだな」


 おぇー。

 

「え!? このままいくと、どうなるの?」

「どんどん上の階層に行くな」

「そのままいけば、もしかして、ゾンビが外に出るの!? バイ○ハザード!?」


 イヤー!!

 

「いや、スタンピードは起きねえよ。ゾンビがいくらいようが、10階層のデスシャークの餌食だ。ボスは普通にモンスターを襲うからなー」


 スタンピード?

 何、それ?

 よくわからんが、バイオ○ザードが起きないならいいか。


「よくわからんが、シャーマンを倒せばいいんだろ?」

「まあ、そうだが、俺っちの仮説が合ってるかは知らねーぞ」

「シャーマンって、どんなヤツなんだよ?」

「仮面被ったイカれたモンスターだ。見ればすぐにわかると思うぞ」

「だってよ。埒が明かないから19階層に行って、シャーマンを探そうぜ。俺は早く帰って、幸せな合宿遠征に戻りたい」


 何が悲しくて、ゾンビに囲まれないといけないんだ。


「≪教授≫、どうします?」


 ≪Mr.ジャスティス≫が≪教授≫に意見を求める。

 

「まあ、色々と気になる事もあるが、≪陥陣営≫の言うことももっともだ。19階層に行こう」

「よっしゃ、さっさと行こうぜ。俺は後ろで火魔法を放っているからな。ほら、先に行け!」


 俺はそう言って、≪Mr.ジャスティス≫の背中を押す。

 

「ルミナ君、言っておくけど、僕もゾンビは嫌なんだよ」


 いいから行け!

 俺はゾンビに近づきたくねーんだよ!


 俺はプロ4人を前に押し出し、19階層を目指すことにした。

 

 しかし、ユリコは何で平気なんだろ?

 やっぱり、頭がおかしいヤツは平気なのかね?



 


攻略のヒント

 ゾンビはモンスターであり、本当に人の死体というわけではないし、噛まれてもゾンビにはならない。

 また、全て男性であり、子供や老人のゾンビもいない。


『週刊エクスプローラ 恐怖のモンスター特集 ゾンビ編』より

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