第076話 バレない二股方法を募集中!


 合宿遠征2日目。

 午前中に軽くご当地ダンジョンに入った後、女子に囲まれてモテモテ状態となった俺はお疲れモードであった。

 しかし、午後からシズルと二人っきりで、海を満喫していると、疲れなど吹き飛んでいった。

 まあ、お邪魔蛇がいたが……


 シズルが水着で海にいると、ナンパがすごそうだが、この海は学生の貸し切り状態であるため、ナンパもなく快適である。

 学生連中の場合は俺がいるため、シズルに声をかけるヤツはいないのだ。

 途中、お姉ちゃんやホノカ、パーティーメンバー達の姿も見え、皆、海を満喫している様子だった。

 

 夜は夜で、お姉ちゃんやちーちゃんと遊び、俺は合宿遠征を思う存分に楽しんでいた。

 ちなみに、お姉ちゃんを貸し切り風呂に誘おうとしたのだが、ちーちゃんの冷たい目が気になったのでやめた。

 お姉ちゃんには一人で貸し切り風呂に入ってもらった。


 3日目は、クラス全体で球技を楽しんだ。

 そこで話を聞くと、やはり、ほとんどの人間がダンジョンに行ってなかった。


 

 そして、3日目の夜。

 

 俺は呼び出しを受けた。

 

 俺が旅館の売店で両親への土産を物色していると、声をかけられたのだ。

 そいつは中等部の男子であり、話があるから外に来て欲しいと言われたのである。

 

 ものすごく嫌な予感がしたが、後輩を無下にはできないと思い、呼び出し場所に向かった。

 

 そこは旅館と海の間にある休憩所みたいな所であり、ベンチなどが並んでいる。

 そして、夜の海と旅館のライトで妙に良い雰囲気であった。


 えー……

 マジでー……


 相手はまだ来てなかったが、俺はこの雰囲気を見て、絶対に告白だと思った。


 俺、男なんですけどー。

 どうしよう?

 いや、断るは断るんだけど、何て言って断ろう?

 死ね、はマズいし、キモい、もダメだよね?

 うーん……


 俺は海を見ながら悩んでいると、相手がやってきた。

 俺はその相手を見て、ホッとした。


「神条先輩、お待たせしてすみませんでした。中等部3年の織田ヒトミです」


 女子である。

 背はアカネちゃんと同じくらいで小柄な可愛らしい子だ。

 

 さっきの男子は何だったんだ?

 

「どうも。あれ、さっきの男子は?」

「あ、森山君は幼なじみです。すみません、声をかけづらくてお願いしたんです」

「そ、そう」


 焦ったー!

 良かったー!

 でも、幼なじみでくっつけよ!


「あ、あの、神条先輩はお付き合いしてる人はいますか?」


 織田さんとやらは顔を赤らめ、もじもじとしながら聞いてきた。

 

 あ、やっぱり告白っぽい。

 どうしよう?

 可愛いし、付き合っても良さげ。

 少なくとも、昔の俺なら食いついていたな。


「いないけど……」


 俺はこの後の展開が予想できている。


「そうですか。あ、あの、好きです! よかったら、私と付き合ってもらえませんか?」


 キター!

 初めて告白されたー!

 イエーイ!

 

 ……とは思えない。

 俺はこの子と付き合う気がないからだ。


「ごめん」

「そ、そうですか……やっぱり女同士ですし、気持ち悪いですよね……」


 織田さんは泣きそうな顔で落ち込んだ。


「え? あ、いや、そうじゃなくて……」


 いや、俺、男なんですけど……

 ねえ?

 君、もしかして、ソッチなの?

 俺が男なのを知ってる?

 男の俺と、あんなことやこんなことをしたいんじゃないの?


「あー、そのー、俺は好きな人がいてー、だから、ヒトミちゃんとは付き合えないんだ。ごめんね」


 俺は予想外の反応にしどろもどろである。


「……雨宮先輩ですか?」


 嘘ついても、しゃーないし、正直に言おう。

 

「えーと、まあ」

「……そうですか、わかりました。すみません、こんな所に呼び出して変なことを言ってしまって……」

「いや、好きって、言われて嬉しかったよ」


 本当はビミョーだけど。


「そうですか? 良かったです。これからも神条先輩を応援してますので、頑張ってください!」


 ヒトミちゃんはそう言って、走り去っていった。

 明るく振る舞ってたけど、泣いてたね。


「ふう……」


 俺はヒトミちゃんが見えなくなるのを確認すると、ベンチに座りこんだ。


 人生初告白がこれか……

 まあ、今の俺は女だしな。

 男の俺を知っているヤツなんて、この学園にはほとんどいない。


「うーん……」

「お兄ちゃん……」


 俺がベンチに座り、ボーッとしていると、後ろから声がした。

 もちろん、俺をお兄ちゃんと呼ぶのは一人しかいない。


「何だ? 見てたのか?」

「うん」


 俺が後ろを振り向くと、ホノカが気まずそうな顔で立っていた。

 そして、その隣にはアカネちゃんもいた。


 2人は俺の隣に座る。


「お前ら、知ってたのか?」

「うん。相談されたし」

「ごめんなさい」

「相談されたのなら無理だって言えよ。俺が受けると思ったのか?」


 わかるだろ。


「断るだろうなーって思ってた。でも、ヒトミちゃんがどうしてもって言うし」

「あの、センパイは覚えていないでしょうけど、ヒトミちゃんは川崎支部に居たんですよ?」

「そうなの?」


 悪いが、まったく覚えていない。

 ってか、じゃあ、男の俺を知っていたのか……

 ならば、何故に告白してきたんだ?

 自分で言うのもなんだが、絶対に付き合いたくないだろうに。


「はい。川崎支部でセンパイに新人指導をしてもらったらしいです。その時から好きだったみたいです」


 そうか……

 川崎支部時代の俺を……

 

「趣味悪いな」

「ひどいことを言うね。まあ、私もそう思うけど」

「何で、今になって、コクってきたんだ?」


 タイミングが悪すぎだろ。

 俺、女だぞ。


「川崎支部の時は勇気が出なかったらしいです。そうこうしているうちに、センパイが追い出されてしまったんですよ」


 それはごめんね。

 賄賂を送ったら追放されちゃったんだ。

 

「ヒトミちゃんは親の都合でこっちに引っ越してきたんだけど、東京本部に来てみたら、お兄ちゃんがお姉ちゃんになってたんだ」


 お姉ちゃんって、言うな!


「俺が男に戻るまで待てばいいのに」


 女のほうが良かったのか?


「あのね、お兄ちゃんが男に戻る前に勝負したかったんだよ。お兄ちゃんが男に戻ったらシズルさんと付き合うだろうし」

「ん? そんな風に思われてんの?」


 まあ、そうなる予定ではあるが……

 

「だって、いつも一緒にいるし。今日だって、2人で海で遊んでたでしょ? お兄ちゃんはあれだけど、男女2人で海なんて、そりゃあねー」


 どうでもいいが、兄をあれ呼ばわりすんな。


「むしろ、シズル先輩がそう思われてますよ。だから、センパイが男に戻る前にと思ってる男子がシズル先輩に告白祭りです」


 マジで!?


「どこのどいつだ!?」

「お兄ちゃん、相手の男子に突撃するのはやめなよ?」

「それをしたら本当に嫌われますよ?」


 やばい。

 我慢、我慢!


「ふぅ……しかし、皆にそう思われてるんだな」

「まあ、見てればわかりますよ。だから、ヒトミちゃんも告白したんです」


 俺は2人の話を聞いて、なんとなくだが、納得した。

 

「お前ら、ヒトミちゃんには言うなよ…………多分、川崎支部の時にコクられたらOKだったな」


 結構、可愛かったし、断る理由もない。

 まあ、俺は性格が悪いし、長続きはしないと思うけど……


「でしょうね。まあ、言いませんよ。ってか、言えません」

「お兄ちゃんに遊ばれ、ヤンキー女になるヒトミちゃんが目に浮かぶよ」


 ホノカの中の俺は相当、ダメなヤツみたいだ。

 でも、多分、正解。


「お前ら、ヒトミちゃんと俺の悪口でも言って、慰めてやってくれ」


 あんなのと付き合わなくて、正解だよ!

 ……みたいな。

 

「そうします。私、センパイの悪口を言うのは得意ですから!」

「事実を言えばいいもんね!」


 可愛くない妹と自称幼なじみだ。


「頼むわ」


 俺は2人にヒトミちゃんのアフターケアを頼み、旅館の自室に戻ることにした。



 俺は旅館の中に入り、両親へのお土産を買うと、自室に戻った。


「おかえり。遅かったね」

「おかえりー」


 自室に戻ると、昨日、一昨日同様にできあがった2人がテーブルの前に座っていた。


「ちょっとね。2人共、俺が好きな人って知ってる?」

「…………え?」

「シズルちゃんでしょ?」


 お姉ちゃんはあっけらかんと言ったが、ちーちゃんは固まってしまった。


 お姉ちゃんはともかく、ちーちゃんのその反応は何だ?


「ねえ? 俺が男に戻ったらシズルと付き合うと思う?」

「そうじゃないの? 私はそう思ってたけど。急に何? あ、わかった! さては、ルミナ君、告白されたな~」


 できあがったお姉ちゃんはちょっとうざい。


「なーんだ。びっくりしたー。お姉ちゃんが好きーとか言い出すのかと思った。そっかー、告白されたのかー」


 ちーちゃんはホッと胸を撫で下ろした。


 こいつもできあがって……いや、いつも通りだわ。


「別に、そういうわけじゃないけど、どう思ってんのかなーって」

「あんたは本当に誤魔化すのが下手くそだね。シズルも一昨日から告白されまくってるし、修学旅行マジックってヤツ?」

「シズルって、告白されてんの?」


 アカネちゃんが言ってた告白祭りか!


「まあ、シズルは人気だしね。2年の男子がよくあたしに紹介してって言ってくるよ」

「初耳ですけど!」


 2年のボケ共め!

 

「あんたに言ったら怒るじゃん。まあ、断ってるから大丈夫だよ。あんたがシズルを気にして、パーティーメンバーを集めてたことは知ってるしね」

「ふーん」


 俺は平静を装う。

 

「ぷぷぷ、ちょー気にしてる」


 あ、やっぱり、こいつもできあがってるわ。

 うざい。


「シズルちゃんなら大丈夫だよー。今日だって、2人で仲良く海で遊んでたでしょ? 大丈夫、大丈夫! よっ、ご両人!」


 お姉ちゃんは大丈夫ではなさそうだ。

 うざいし、古い。


「別に、気にしてないし……」

「まあまあ、そんなことより、誰に告白されたのさ? クラスの子? それとも魔女っ娘クラブの子?」

「もしかして、男子? キャー!」


 クソうぜえ!


 俺はその後、明るくなるまで、2人に絡まれた。


 どうして、女は色恋の話になると、うざくなるんだろう?




 

攻略のヒント

 ダンジョン学園名古屋支部の学生はニュウドウ迷宮をメインに活動するが、10階層以降は立入禁止のため、ニュウドウ迷宮の9階層をクリアした学生は近くのコナキ迷宮で活動する。

 コナキ迷宮はニュウドウ迷宮より難易度が高いが、特殊なモンスターが少ないため、学生向けのダンジョンである。

 

『ダンジョン学園名古屋支部HP 入学案内』より 

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