第068話 頑張れアカネちゃん


 俺がソファーに座り込むと、シズルとちーちゃんが俺の両隣に座り、他愛のない話で気を紛らわせてくれた。


 しばらく3人で話していると、瀬能とアカネちゃんとカナタがやって来た。


「こんにちわでーす。って、センパイ、どうしたんですか?」


 アカネちゃんが俺の表情を見て、聞いてきた。


「さっき、≪教授≫に会ってな。嫌なことがあったんだ。内容は聞くな」

「そうですかー。あ、お弁当は作ってくれました? まさか、忘れちゃいないですよね?」


 アカネちゃんは明るく振る舞い、深くは踏み込んでこなかった。

 この子は普段はうざい子だが、空気が読める良い子なのだ。


「ちゃんと作って持ってきたぞ。お前が大好きなピーマンを大量に入れてやったから、残さず食えよ」

「ひどい! ドS!!」


 アカネちゃんはピーマンが大嫌いである。


「ちゃんとアカネちゃんの分はピーマンを抜いてあげてたじゃない」


 シズルがばらした。


「んもう、センパイったらー、ツンデレさんですかー?」


 やっぱり、うぜぇわ。


 俺はもうアカネちゃんの相手をするのをやめた。


「お前らは準備できたか?」


 俺はアカネちゃんを放っておき、カナタと瀬能に話しかけた。


「はい! 大丈夫だと思います!」


 カナタはいつも通り、元気いっぱいに答える。


「ボクも問題ないよ。それよりも今日はどういう予定にするんだ?」


 瀬能がお泊まりのスケジュールを聞いてきた。


「ああ、昼間は14階層を目指して、ゆっくり探索する。おそらく、その辺で夕方になるだろうから、戻って、6階層で泊まりだな」

「6階層か……オークが出るが、大丈夫か?」

「深層すぎてもダメだが、浅いと弱すぎて練習にならん。オークならちょうどいいだろ」

「それもそうか」


 いくら初めてとはいえ、低階層のゴブリンやビッグラットなどでは緊張感が出ない。

 それに比べ、オークならそこそこ警戒しないといけない。


「よし! 忘れ物もなさそうだし、行くか」


 俺達はマイちんの所に行き、泊まりの申請を行い、ダンジョンへと向かった。

 


 ダンジョンに着くと、普段なら低階層は飛ばして、15階層辺りの適正階層に行くのだが、今回はゆっくりと進んでいる。


「何で奥に行かないんですか?」


 2階層でゴブリンを倒したところで、カナタが聞いてきた。


「今日は泊まりの練習だからな。最初はある程度の余裕を持った状態で泊まって、徐々に慣れていったほうがいいだろ」


 未経験者が半分なのに、いきなり、体力や精神力が尽きた状態でやるわけにはいかない。


「なるほど。じゃあ、今日は軽く流す感じですね」

「だな」

「だったら、最初から夕方に集合でいいじゃないですかー」


 アカネちゃんが不満を漏らす。


「それじゃあ、ただのキャンプだろ」


 まあ、キャンプも楽しそうだけど。


「なあ、神条、低階層は柊さんを前に出さないか?」


 俺が後輩共に説明していると、瀬能が意外なことを言い出した。


「何でですかー!?」

「前に出すのは構わないが、理由でもあるのか?」

「構いますよー!」


 アカネちゃん、うるさい。


「ずっと思ってたけど、柊さんの槍の腕は中々のものだろう? せっかくだし、低階層で練習したらと思って」


 瀬能が言いたいことはわかる。

 アカネちゃんはチキンだが、運動神経も良いし、センスもある。


 昔、アカネちゃんを指導していた時に気づいたことだ。

 しかし、俺としては、どうしても泣いていた印象が強い。

 ホノカの後ろをトコトコとついてくる小動物がアカネちゃんなのだ。


「うーん」


 前にもオークと対峙させたことがあった。

 上手くやれてたとは思うが、ギャーギャー騒いでうるさかった。

 あの時に、こいつは後ろでヒールさせておこうと決めたのだ。


「ちーちゃんはどう思う?」


 俺は後衛を纏めているちーちゃんに聞くことにした。


「良いんじゃない? 後衛からしたら接近戦が出来る後衛がいると心強いよ。あんたはもちろんだけど、シズルもあまり後ろを気にかけないからね」

「……すみません」

「……ごめんなさい」


 俺とシズルは自覚があるため、何も言い返せずに謝った。


 俺は前衛だから、後ろは気にしなくても良いのだが、一応、リーダーだ。


 シズルは遊撃なので、本来ならば、攻撃もするが、援護がメインである。

 当然、後衛の護衛もしないといけないのだが、シズルはスキルや能力が完全に攻撃に寄っている。


「うーん……」

「あんたにとっては、小さいころから知っているアカネが可愛いのかもしれないけど、甘やかしすぎじゃない?」

「甘やかす!? どこが!? いつもイジメられてましたけど!?」


 アカネちゃんは嘘つきだなー。


「じゃあ、アカネちゃん、前に出ろ」


 俺はちーちゃんの言うことも、もっともだと思ったので、今日はアカネちゃんに近接戦闘をさせることにした。


「え!? マジですか!?」

「マジ、マジ。俺は可哀想だから後ろの方が良いと思うんだが、皆がお前を高く買っている。仕方がない」


 残念だ。

 うん、実に残念だ。


「顔が笑ってますけど」

「気のせいだ。活躍したいんだろう? 援護してやるから頑張れ。メイジアントでいいか?」

「嫌ですよ!!」


 アカネちゃんはものすごい勢いで拒否してきた。


 そんなに全力で嫌がるモンスターを俺に押しつけるなよ。


「じゃあ、ウルフな」

「は、ハードルが高くないですか? 私のレベルは9ですよ?」


 ウルフは11階層のモンスターだ。

 多少、適正より高いが、誤差だな。


「後衛に到達する可能性があるモンスターは速いモンスターなんだから仕方がないだろ。皆、手伝うから大丈夫だよ」


 例え、力が強くても、遅いモンスターなら俺が倒すので問題ない。

 後衛に到達するのは、俺やシズルが捌ききれない速いヤツだ。


「が、頑張ります」


 アカネちゃんは覚悟を決めたように頷いた。


 本当にアカネちゃんも成長したなー。

 きっと、俺のおかげだな!


 俺達は当初のまったり計画からアカネちゃんを鍛えよう計画に変更し、11階層でウルフを相手にすることに決めた。


 


 ◆◇◆



 

 11階層に着いた俺達はウルフを探していた。

 

 11階層で出現するモンスターはハイゴブリン、ゴブリンメイジ、そして、ウルフである。


 本来ならば、毒持ちのウルフには出てきてほしくはないのだが、今回はアカネちゃんのために、いっぱい出てきてほしいところだ。


 俺は索敵のスキルでモンスターを探っていると、お目当てのモンスターの気配を感知した。


「アカネちゃん、出番だぞ。ウルフが2匹とハイゴブリンが1匹だわ」


 俺は後ろに控えていたアカネちゃんに声をかけながら手招きをし、前に出させる。


「え、援護してくださいよ?」


 アカネちゃんは顔を引きつらせながら、おずおずと前に出てきた。


 こいつ、本当にビビりだな。

 マジで、何でエクスプローラをやってるんだ?


「ウルフ1匹を残してやるから、それを倒せ。危なくなったら助けてやるよ。カナタ、ウルフを1匹だけ魔法で倒せ」

「わかりました!」


 後ろにいるカナタに魔法を準備するように言うと、カナタが頷く。


「瀬能、シズル、ハイゴブリンは任せた」

「了解」

「任せて」


 瀬能とシズルも頷いた。

 全員の指示を終えたため、俺はアカネちゃんの後ろに回り、両肩に手を置き、落ち着かせる。


「素早いモンスターは最初に攻撃するな」

「わかってます。まずは防御して、攻撃させてから、攻撃するんですよね」


 アカネちゃんは頷き、手順を確認する。


 これは昔、俺が教えたことだ。

 当時は、焦って、俺の言いつけをまったく守らなかった。

 今は、ビビっているが、冷静のようだ。


 俺がアカネちゃんを落ち着かせていると、ウルフとハイゴブリンが現れた。


「ファイヤー!」


 モンスターの姿を視認すると、事前に詠唱をしていたカナタが火魔法を放った。

 カナタの放った火魔法はウルフに命中し、ウルフは火だるまになった。


 その間に、ハイゴブリンを瀬能が抑え、シズルが攻撃している。

 あちらもすぐに終わるだろう。


「行け」

「はい」


 俺がアカネちゃんの両肩から手を離すと、アカネちゃんは前に出て、ウルフと対峙した。


 ウルフは前に出てきたアカネちゃんを睨みながら、グルルと吠え、威嚇している。

 アカネちゃんは槍を構え、ジッと動かない。


 ウルフはアカネちゃんを睨みながら左右に動き、飛びかかるスキをうかがっている。

 しかし、アカネちゃんは動かず、スキを見せない。

 そんなアカネちゃんに焦れたウルフは足を止めた。


「ガウッ!!」


 そして、低く構えたと思ったら、アカネちゃんに飛びかかってきた。

 アカネちゃんは槍の柄で飛びかかってきたウルフの噛みつきを抑えると、勢いが止まったウルフを蹴り上げた。


「――ギャン!!」


 蹴りを受けたウルフは空中で悲鳴をあげ、悶絶し、地に落ちた。

 アカネちゃんは小柄だが、怪力のスキルを持っているため、地味に力が強いのだ。


 アカネちゃんは地面で横たわっているウルフに槍を突き刺し、トドメをさした。


 俺はアカネちゃんがウルフを倒したので、ハイゴブリンの方を見ると、瀬能とシズルはハイゴブリンを倒し終えたらしく、こちらを見ていた。


「お疲れ。やればできるじゃん」

「はい!」


 俺がアカネちゃんに声をかけると、アカネちゃんは元気よく返事をした。

 すると、戦闘を終えた他のメンバーも集まってきた。


「アカネちゃん、すごいね! ウルフ相手に完勝じゃない」


 シズルがアカネちゃんに近づきながら褒めた。


「えへへー。そうですかー?」


 アカネちゃんが頭をかきながら、照れくさそうに笑っている。


「アカネって、本当に運動神経がいいね。あの蹴りは誰かさんを彷彿させたよ」


 ちーちゃんは俺に近づき、アカネちゃんを褒める。


 本人に言ってやれよ、ツンデレ。


「俺が教えた。ちーちゃんにも教えてやろうか?」

「いい。どうせできない」


 でしょうね。


 ちーちゃんは俺がバカにしているのに気づいたらしく、睨んできた。


「あんたの後輩指導って、あんなのを教えているの?」

「教えてねーよ。アカネちゃんには自信をつけさせてやろうと思って、殴り方や蹴り方を教えてあげたの」

「カナタには教えなくていいからね」

「魔法が使えるカナタには必要ねーよ」


 あいつは十分に強い。


「ならいいけど」


 この人は俺が教えたら、カナタが不良にでもなると思ってんのかね?


「カナタは近接戦闘をしたいか?」


 俺は確認のため、近くにいるカナタに聞いてみた。


「いえ、別に……憧れはしますけど、僕は向いてませんからね。魔法を鍛えます」

「だってさ」


 俺はカナタを弟子にしたが、こいつはメイジとして育てるつもりだ。

 カナタはチキンなアカネちゃんと違って、度胸があるし、近接戦闘を教える必要もない。


「わかった」


 ちーちゃんって、ブラコンだなー。


「よーし、次、行くぞ~」


 俺とちーちゃんが話していると、隣でシズルと瀬能に褒められていたアカネちゃんは、さっきまでのビビりが消え、元気に宣言した。


「やる気があるんだか、ないんだか…………」


 ちーちゃんはそんなアカネちゃんを見て、苦笑した。


 あいつはただのお調子者だよ。



 


攻略のヒント

アナ「エクスプローラを目指している人達へのメッセージをお願いします」

Mr.ジャスティス「皆、エクスプローラは楽しいぞ!」

竜殺し「人々の役に立つ素晴らしい仕事だ。一緒に頑張ろう」

うさぎのぬいぐるみ「…………」

ネコのぬいぐるみ「…………」


『テレビ番組 日本のトップエクスプローラを丸裸』より

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