第067話 俺の地雷を踏んだら殺します


 夏休みの合宿遠征の行き先が名古屋支部に決まった。

 俺はユリコのことで納得がいかないが、伊藤先生の言うことを信じ、なるべく気にしないようにすることにした。

 

 そんなことがあった週末の土曜日。

 今日はダンジョン内に泊まる練習をする日である。

 俺は朝から家で仲間全員分の弁当を作る準備をしていた。


「相棒、俺っちのも頼むぜ。鶏肉とゆで卵で良いから」


 俺がキッチンで忙しなく働いていると、シロが自分の要望を伝えてくる。


「お前、来るの?」

「もちろん行くぞ。お前に≪クールリング≫を買ってもらったし」


 今週の始め、シロが駄々をこねたため、身体を冷やすことが出来るダンジョン産のアイテムを買いに行った。

 俺は首輪にでもしてやろうと思い、指輪の形をした≪クールリング≫を購入してやった。

 それをシロに渡すと、シロはあろうことかその≪クールリング≫を食べてしまったのだ。

 

 俺はびっくりしたが、シロいわく、それでも問題ないらしい。

 シロの体はどうなってるか気になったが、考えても無駄だと思い、考えるのをやめた。


「ふーん、まあ、ついでだし、お前の分も作ってやるよ」

 

 ついで、ついでで、とんでもない量になってしまったな。


 俺はもう半分、自棄であった。


 その後、シズルとちーちゃんがやって来て、手伝ってくれたため、なんとか6人+αの弁当を昼までに作り終えた。

 そして、3人で昼食を食べた後、待ち合わせの協会へと向かうことにした。

 

「ルミナちゃん、本当に料理が上手だったんだね」


 協会へと向かう道中に、ちーちゃんが意外そうな顔をして話しかけてきた。


「それはこっちのセリフだ。ちーちゃんなんか、絶対に料理しなさそうな感じなのに」


 この人はギャップ萌えでも狙っているんだろうか?

 

「ウチは両親が共働きなうえに、忙しいからね。子供の頃から作ってたんだ。シズルも上手だったね」


 ちーちゃんはシズルにも話を振る。

 

「ウチはお父さんがいませんから。お母さんが仕事に行っている間は、私が作ることが多かったんです。歌手の仕事を始めてからはあまりしませんでしたけど」

「あ、ごめん」


 ちーちゃんはバツが悪そうだ。

 

「いえ、気にしないでください。それよりもルミナ君はすごいね。ほとんど1人で作っちゃうんだから」

「そりゃあ、言い出しっぺだし」


 なんかハードルが上がってるから気合いを入れてしまった。


「あんた、いつでもお嫁さんに行けるよ」

「殺すぞ」


 俺は茶化してくるちーちゃんを睨む。


「ごめん、ごめん。あんたが無駄に女子力を発揮するもんだから」

「フン! 仲間のために作ってやったのに!」

「まあまあ、それは感謝してるよ。その優しさを周囲にも分けてあげれば、ルミナ君の評判も良くなるんじゃない?」


 優しさを振り分けた結果が、魔女っ娘クラブだろ。

 これ以上は嫌だわ!


「あんた、上級生の間でも評判が良くなっているよ」

「何でだよ? 魔女っ娘クラブとやらは、上級生にまで侵食したのか?」


 怖えーわ!


「いや、あんた、レッドオーガを倒しただろ? それでやっぱり二つ名持ちはすごいんだって、見直したらしい」


 そういえば、あの時、ギャラリーがいたな。

 ホノカしか目に入らなかったわ。

 もうちょっと綺麗に勝てば良かったかな?

 まあ、無理だけど……


「良かったじゃない」


 シズルは嬉しそうに言った。

 

「まあ、評判が悪いよりかは良いか」


 なにせ、俺はあの≪白百合の王子様≫と≪教授≫と同格らしいからな。

 あいつらと同類と思われるのは嫌だ。


 俺はあの2人とは違うぞ、と思いながら歩いていった。




 ◆◇◆




 俺達3人は協会に着いたが、他の3人はまだ来ていなかった。

 俺達は他の3人を待とうと思い、近くのソファーに座ろうとした。


「よう、≪レッド≫!」


 俺が声が聞こえた方を振り向くと、クーフーリンがいた。


「お前、いつまで≪レッド≫と呼ぶ気だ?」

「昔からそう呼んでるから、変えろと言われてもなー」


 ハヤト君のパーティーに臨時で参加してた俺は、ハヤト君のパーティーメンバーであるこいつとも一緒に行動していた。

 その時からずっと≪レッド≫呼ばわりである。


「≪イエロー≫と呼べ」

「ダセーよ」


 俺もそう思う。

 戦隊物のダメキャラみたいだ。


 俺はもうこいつが≪レッド≫と呼ぶのを諦めている。


「それよりも、お前の後ろにいるヤツは……」


 そう。

 実はさっきからチラチラと後ろに見覚えがある男がいるのだ。

 

 ≪教授≫である。


「瀬田君、そろそろ紹介してもらえるかな?」


 ≪教授≫が前に出てきてクーフーリンに話しかけた。


 瀬田?


「≪教授≫、クーフーリンですって」

「それはすまんな」


 クーフーリンの本名って、瀬田なんだ。

 …………うん、どうでもいいな!


「≪レッド≫、知ってると思うが、≪教授≫だ」


 瀬田が≪教授≫を紹介してきた。


「どうも」

「はじめまして。君が噂の≪陥陣営≫だな。ふむ、本当に女性にしか見えんな」


 ≪教授≫は俺をジロジロと観察している。

 非常にうざいし、なんか寒気がする。


「マジでハヤト君のパーティーに入ったんだな」

「ああ、勇者というジョブに興味があってね。君は本当にあの≪陥陣営≫なのかね?」


 ≪教授≫は俺の胸を見ながら、聞いてきた。

 

 こいつ、どこ見て喋ってんだよ!

 凝視すんな!


「どこを見てる!? 違うから帰れや! 殺すぞ!」

「ふむ、≪陥陣営≫で間違いなさそうだ。興味深いな」


 人の話を聞けよ!

 興味を持つな!


「チッ! 俺らは用があるから行くぞ」


 本当は用があるのはここだから、別に動かなくてもいいのだが、≪教授≫と関わるとロクなことがなさそうなので逃げることにした。


「ああ、待て待て。1つ聞きたいのだが、良いかね?」


 ≪教授≫が逃げようとした俺を止めてきた。


「何だよ?」


 俺はうんざりしながら用件を聞いた。


「君は生理はきてるのかね?」

「は?」


 なんつった?

 

「だから、生理はきてるのかね?」



 ……………………。


 

「殺す!!」


 俺はとんでもないことを言い出した≪教授≫に殴りかかる。


「お、落ち着け!」

「そうだよ! やめなって!!」


 クーフーリンが正面から俺の肩を抑え、シズルが後ろから俺の腰を抱き止める。

 周囲のエクスプローラが騒ぎに気づき、こちらを注目しだした。


「離せ!! こいつは殺す!!」


 俺は必死に止めてくる2人を払おうとする。

 

「落ち着けって!」

「うーむ、マズかったかな? 殺されたくないし、ここは退散しよう」


 ≪教授≫は俺がクーフーリンとシズルに止められているのを尻目に、さっさと、どこかに行ってしまった。


「ハァハァ……クソが!!」

「ルミナ君、落ち着いて」


 ≪教授≫がいなくなったことで、クーフーリンとシズルが俺から手を離した。


「とんでもない人だね」


 ドン引きしていたちーちゃんが言った。


「おい、クーフーリン! あのボケを殺しておけ!!」

「落ち着けよ。あの人は頭がおかしいんだ」


 俺はあんなのと同類なのか?

 ありえねーだろ!


「まだユリコのほうがマシだぞ!」

「……俺もそんな気がしてきた」


 クーフーリンが落ち込みだした。


 苦労しろ!


「次に会ったら覚えておけよ」


 マジで殺す!


「俺から≪教授≫に言っておくから勘弁してくれ」


 クーフーリンが頭を下げてくるが、俺の怒りは治まらない。


 あー、イライラする!!


 そんな俺を見て、クーフーリンはすまんと謝り、そそくさと≪教授≫のあとを追っていった。


「大丈夫? 気にしないほうがいいよ」

「無理言うな。すげームカつく!」


 ここまで人の地雷を踏み抜くか!?


「何の騒ぎだ?」


 俺がイラついていると、本部長がやって来た。


「何でもねーよ!」


 俺は怒鳴るように答える。


「いや、そこまで騒いでおいて、何でもないはないだろ」

「あ、あの、本部長さん、ルミナ君は悪くないんです」

「そうそう、あれは≪教授≫が悪いよ」


 シズルとちーちゃんが俺を庇い、≪教授≫を責める。


「そんなことを言われてもな……おい、神条、何があった?」

「ああん!?」


 俺はイラつきのあまり、本部長を睨み付ける。

 

「あのー、マイさんを呼んでもらえませんか? ちょっと本部長さんには説明しにくくて……」

「うーむ、ちょっと待ってなさい」


 シズルがマイちんを呼ぶように頼むと、本部長はマイちんを呼びに行った。


「ルミナちゃん、ちょっと落ち着きなよ。せっかく黄色になったんだろ」

「チッ!」


 俺がちーちゃんに言われて精神を落ち着かせようと深呼吸していると、本部長がマイちんを連れて戻ってきた。


「どうしたのよ? 急に暴れだして」


 やってきたマイちんが俺に聞いてくる。

 

「マイさん、ちょっと……」


 シズルがマイちんを連れて距離を取り、耳打ちした。


「……が…………でー………ルミナ君に………です」

「…………本部長、どうも≪教授≫が悪いようです」


 耳打ちを終え、状況を理解したマイちんが本部長に言った。


「一応、聞いておきたいんだが、マズいのか?」


 本部長は責任者だし、把握はしておきたいのだろう。


「それはちょっと…………」


 マイちんが言い淀む。


「うーむ……まあ、神条のことは基本的に桂木君に任せているからな。おい、神条、とりあえず、不問にするが、あまり騒動を起こすなよ。せっかく赤じゃなくなったんだからな」

「わかってる。俺の機嫌がこれ以上悪くならないうちに消えろ」


 俺がイラつきを隠さずに答えると、本部長は納得がいかない様子で本部長室に戻っていった。


「ルミナ君、大丈夫?」


 マイちんが心配そうに聞いてきた。

 

「大丈夫」

「ならいいけど、あまり気にしちゃダメよ」


 マイちんも気にするなと言う。

 おそらく、皆も気にはなっていたのだろう。

 しかし、あえて誰も触れなかった。

 触れてはいけないと配慮したのだ。

 

 とはいえ、俺の反応でわかっただろうな。


「お前ら、他の連中には言うなよ!」

「うん。でも…………」


 シズルが言いにくそうに下を向いた。


「なんだ?」


 俺はシズルの反応を見て、嫌な予感がした。

 

「ルミナちゃん、その…………だったら、隠しなよ。あんたの家の洗面所に普通に置いてあるじゃん」


 ちーちゃんが指摘してきた。


 そういえば……


「…………じゃあ、他の連中も知ってるのか?」

「男2人はわかんない。でも、アカネは確実に気づいてると思う」


 まあ、あいつも女子だしな。

 

 カナタも気づいてるかもしれん。

 俺もそうだが、姉や妹がいると、自然にそういうことを知ってしまう。

 

 瀬能は………わからん。

 

「もういい。これには触れるな……」


 俺はイラつきとへこみが混ざった複雑な感情を抱き、ソファーに座り込んだ。


 



攻略のヒント

アナ「エクスプローラになって良かったことは何ですか?」

Mr.ジャスティス「やはり多くの仲間ができたことですね」

竜殺し「国や国民に少しでも貢献できることだ」

うさぎのぬいぐるみ「…………」

陥陣営「人を殴っても協会に揉み消してもらえ――おい、離せ! こらー!!」


『テレビ番組 日本のトップエクスプローラを丸裸』より

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