第069話 お泊まり……エロい意味じゃないよ?


 見事にウルフを1人で倒したアカネちゃんをおだてて、調子にのらせた俺達は、アカネちゃんにウルフを倒させながら、11階層を中心に時間をつぶしていた。


 そして、アカネちゃんに疲れが見え始めたくらいで夕方になったため、切り上げることにした。


「この辺にしておくか」

「だね。6階層に戻ろう」


 俺とちーちゃんはアカネちゃんの状態を見て、今日の探索を終えることに決めた。


 探索を終えた俺達は、11階層から6階層まで戻り、探索前から宿泊地に決めていた6階層の小部屋に到着した。

 到着後、小部屋に人やモンスターがいない事を確認し、泊まりの準備を各自開始する。


 テントは小部屋の扉から離れた位置に男子用、女子用、俺用を3つ並べ、テントと扉の間に見張り用の椅子とテーブルを出した。

 本当は焚火がしたいが、さすがにダンジョンで焚火は無理だ。


「ところで、他のパーティーとバッティングしたら、どうするんですか?」


 俺が1人で寂しく俺用テントを組み立てていると、カナタがこちらにやってきた。


「ケースバイケースだな。知り合いや信用できるパーティーなら、同じ部屋で泊まるが、知らんヤツらだと避けることもある。特に女がいると慎重にならないといけない。まあ、ウチの場合は、他所のパーティーのほうが逃げるから安心しろ」


 俺がいるからね。

 知り合いにも避けられるんだぞ!


「なるほどー。神条さんがいれば、安心ですね!!」


 まあな。

 カナタは良いように捉えてくれるから好きだわー。


「あんたって、本当に信用がないんだね」


 ちーちゃんは悪いように捉えてくるから嫌いだわー。

 正しいのはちーちゃんのほうだけど。


「俺がいるおかげで、モンスターだけに集中できるんだから、感謝してほしいね」

「はいはい」


 ちーちゃんは俺を適当に流し、準備を続ける。


 その後、俺達は準備を終えたところで、見張り用の椅子に座り込んだ。


「疲れましたー」


 今日、一番働いたアカネちゃんが腕を伸ばしながら言った。


「お前を先に休ませてやろう」

「はーい」


 優しい俺はアカネちゃんを先に休ませることにした。


「ルミナ君、見張りの内訳はどうするの?」


 俺は隣にいるシズルに聞かれて、説明していなかったことに気づいた。


「2人1組の3交代で見張りをする。経験者の俺とちーちゃんと瀬能が別れる感じだな」

「誰と誰が組むの?」


 実は決めてない。

 適当でいいかなと思っていたのだ。


 俺はシズルに聞かれて、マジメに考えてみることにした。


 ……うーん、前衛と後衛が組んだほうが良いと思う。

 しかし、そうすると、必然的に未経験者唯一の前衛であるシズルと経験者唯一の後衛のちーちゃんが組むことになる。


 俺はシズルとが良い!


「あたしとシズルが組むのが自然だね。前衛と後衛だし」


 ちーちゃんに先手を打たれてしまった。

 チッ! しかし、ここで否定するのはマズい。


「そう……だな。じゃあ、シズルとちーちゃんな。残りは…………」


 カナタとアカネちゃんか…………

 男女で別れるのが自然だろうなー。

 でも、カナタが良いな。


「男女で別れようか。ボクはカナタ君と組むよ」


 今度は瀬能に先手を打たれてしまった。

 チッ! しかし、ここで否定するとアカネちゃんがうるさい。


「じゃあ、そう……しよう。アカネちゃん、喜べ。俺とだぞ」


 俺はアカネちゃんと組むことになってしまった。

 いつも俺の自慢話をすごいねとか、さすがですねと褒めてくれるシズルかカナタが良かったのだが、まあ、仕方がない。


「第一希望と第二希望を取られてショックを受けた顔されても喜べませんよ」

「気のせい、気のせい。俺達は幼なじみじゃないか」


 俺達、仲良し!


「いつも否定するくせに」


 だって、幼なじみじゃねーもん。


「細かいことを気にするなよ。じゃあ、シズルとちーちゃんが最初の見張りな。次に瀬能とカナタ。最後が俺とアカネちゃん」

「いいんじゃない?」


 ちーちゃんの同意を受け、皆が納得したので、そういうことになった。

 とはいえ、まだ夕方の6時くらいなので眠くはない。


「就寝は9時からで、3時間交代な」

「ということは、明日は6時からなの? 早くない?」


 さすがに早すぎると思ったらしく、シズルが聞いてきた。


「まあ、早いな。でも、明後日は学校だし、明日の昼にはダンジョンから帰還する予定」

「今回は練習だし、それでいいと思う」


 瀬能も俺に同意のようだ。


「なるほど。確かに、早めに終えないと、月曜の授業に響くもんね」


 授業?

 それはどうでもいいよ。


「ルミナ君、補習になりたくないでしょ?」

「はい」


 俺はシズルに言われて、はいとしか言えなかった。


 お前は俺の母親か?


 その後、仲間の親睦を深めながら、俺が作った弁当を食べた。

 弁当は皆に好評だった。

 俺が人に料理を振る舞うことは少なく、若干、心配だったのだが、喜んでもらえて良かったと思う。

 また作ってくれと言われたが、もう、めんどくさい。

 早起きは嫌なのだ。


 弁当を食べ終えた後は、ダンジョン探索の事や学校の事を話し、時間をつぶしていった。

 そうこうしていると、就寝の9時になったので、シズルとちーちゃんに見張りを任せ、俺達は先に休むことにした。

 

 アカネちゃんは女子用のテントに行き、瀬能とカナタは男子用のテントに行った(カナタ、大丈夫かな?)。

 俺も自分専用のテントに行き、休むことにした。


「俺は寝るけど、お前はどうする?」


 俺はテントの中に入り、空間魔法で寝巻きに着替えると、シロに休むのか聞いてみた。

 

「俺っちは起きてるわ」


 たまに忘れるが、シロはモンスターなので、食事も睡眠も基本的には必要がない。

 しかし、俺が寝ると、シロも暇なので、携帯をいじるか、寝るらしい。


「だったら、シズルの所に行け。大丈夫だとは思うが、あいつらは心配だ」

「ん。じゃあ、そうするわ」


 俺が頼むと、シロは了承してくれ、テントからニョロニョロと出ていった。

 初心者のシズルと頼もしいようで頼りないちーちゃんの2人は不安なのだ。

 まあ、瀬能とカナタも違う意味で不安だがな。


 俺はシロに任せれば安心だと思い、寝ることにした。

 寝るには早い時間だが、俺はいつでもどこでも寝れるという、どっかの誰かさんみたいな特技があるのだ。


 おやすみ~。




 ◆◇◆




「おい、相棒。起きろよ」


 俺が女に囲まれ、ウハウハしていると、耳元で声が聞こえてきた。


「それは夢だ。だらしない顔してねーで、起きろ。時間だぞ」


 ああ、そうか、ここはダンジョンか……

 良い夢だったのに。


「起きるよ~。ふわーあ」


 俺は上体を起こし、腕を伸ばす。


「ほら、起きろ。俺っちはアカネを起こしてくる」


 シロはそう言って、テントの外に出ていった。


 良く考えたら、男子が女子のテントに行くわけにもいかないから、交代の声かけを考えないといけなかった。

 俺は男としか泊まりをしていないから気づかなかったな。

 シロがいてくれて、良かったわ。


 俺は内心、シロに感謝しながら、テントの外に出る。

 すると、外には見張りを終えた瀬能とカナタがいた。


「ういーす。お疲れさーん。お前らはもう休んで良いぞ」


 俺は瀬能とカナタに声をかけた。


「君はまた……」


 瀬能がこちらを見て、首を振る。


「どうしたん?」

「神条さん、着替えてください。というより、服を着てください」


 俺はカナタに言われて、上は肌着、下はパンツだけなことに気づいた。

 ダンジョン内は温度変化は少ないが、外の気温とリンクしているため、そこそこ暑い。


「悪い。寝ぼけてたわ。カナタ、今のうちに、目に焼きつけてもいいぞ」

「僕はいつものカッコいい神条さんのほうが良いですよ」


 おー、すげー!

 百点満点の回答だ!

 俺が女に目に焼きつけてもいいと言われたら、視か……凝視するのに!


 俺はカナタの言葉に感心していると、女子用テントからアカネちゃんが出てきた。

 もちろん、ちゃんといつものローブ姿である。


「うわっ! センパイが魔女から痴女にジョブチェンジしてる!」

「誰が痴女だ!」


 俺は否定しながら空間魔法でいつもの≪知恵者の服≫に着替えた。


「着替えてもやっぱり……」

「うるせー! ほら、見張りをするぞ。カナタと瀬能も寝ろ!」


 俺はニヤニヤしているアカネちゃんを黙らせ、男2人を男子用テントに行くように促した。


「ボク達は寝るけど、静かに頼むぞ」

「おやすみなさい。あとはよろしくお願いします」


 瀬能とカナタはそう言って、男子用テントに入っていった。


 俺はアカネちゃんと一緒に小部屋の中央の椅子に座り、見張りを開始する。

 シロはいつのまにか俺の服の中にいる。


「ちゃんと寝たか?」


 俺はお疲れであろうアカネちゃんを気づかい、聞いてみた。


「はい。おかげさまでぐっすりでした。こんなにダンジョン探索で疲れたのは初めてですよ」


 アカネちゃんはそう言うが、嬉しそうな笑顔を浮かべている。

 

「良かったな。少しは自信がついたか?」

「はい! まだ少し、怖いですけど、頑張れそうです。センパイの所に来て良かったですよ」


 アカネちゃんは前のパーティーではあまり活躍出来なかった。

 だから、余計に嬉しいのだろう。


「なら良かった。ホノカとケンカした甲斐があったわ。二度とゴメンだがな!」

「それは私も嫌です。ホノカちゃんって、センパイと一緒で容赦がないから」


 あいつも口が悪いからな。

 決して、俺に似たわけではない。

 初めて会った時から口が悪く、母さんによく怒られていた。


「ホノカと仲良くしてやってくれ」

「はい! 同じことをお姉さんとホノカちゃんにも言われました。センパイと仲良くねって」


 あ、なんか恥ずかしい。


「そうか。ところで、お前は合宿遠征の予定を決めているのか?」


 俺はこれ以上触れてほしくなかったので、自然に話を逸らすことにした。


「センパイ達って、嫌な流れになると、露骨に話を逸らしますよね。本当にそっくりですよ」


 バレてる……

 前にシズルとちーちゃんにも言われたなー。

 

「そんなことないぞ。世間話だよ」

「まあ、いいですけど。合宿遠征の予定と言われてもダンジョンに行くんじゃないんですか?」

「いや、毎日は行かねーし。2、3日ほど適当にやる予定だよ」


 これがこのロクロ迷宮ならマジメにやるが、他所のダンジョンなんてどうでもいい。

 どうせ、もう行かない。


「それで良いんですか?」

「別に違うダンジョンの空気を感じられればいいだろ」


 合宿遠征はそういう実習なのだ。


「シズル先輩やカナタ君はやる気満々ですよ?」

「ぶっちゃけ、それに付き合うだけだ。多分、ちーちゃんも瀬能もそう思ってる」


 あいつらもどんなもんかなーって思っている程度だと思う。


「やる気ないですねー」

「修学旅行でマジメに修学するか?」

「しませんねー。遊びです」

「だろ。合宿先は海が綺麗らしいぞー」


 伊藤先生いわく、海に面した宿泊施設らしい。


「いいですねー。ダンジョン探索なんて適当にして、夏らしく海で泳ぎましょうよ」


 ほら、アカネちゃんもこっちの不真面目サイドにやってきたぞ。


「だなー。いやー、今年の夏は夏っぽいことができるなー」


 去年の合宿遠征は山登りだった。

 夏のクソ暑い中、山に登らされて、マジで苦痛だったのだ。


「…………あのー、センパイも泳ぐんですか?」

「当たり前だろ。俺は泳ぎも得意なんだぞ」


 お前も知ってるだろ。

 昔、ホノカとお姉ちゃんの4人で一緒にプールに行ったじゃん。


「知ってますけど、水着はどうするんです?」

「………………」


 水着…………

 海パンは…………アウト。

 となると……………


「え? スク水?」

「長いこと考えた結論がそれですか!? マニアックですよ。自分の容姿を考えてください」


 アカネちゃんに引かれた。

 でも、金髪巨乳な俺がスク水はないか……

 そうだ! スク水はアヤとマヤのロリ姉妹に着させよう。

 きっと、ハヤト君が喜ぶぞ!


「俺は何を着ればいいんだ? ってか、女用の水着は嫌だなー」

「さっき下着姿だったじゃないですか。センパイの基準がわかりません」

「大勢に見られるのが嫌なんだよ。カナタや瀬能に見られたところで、気にせんわ」

「気にしてくださいよ。じゃあ、センパイは浜辺で待機です?」


 それも嫌だなー。

 保護者みたいじゃん。


 浜辺でシズルの水着姿を見ているの?

 嫌だよ。

 戯れたいよ。


「諦めて着るか……コスプレ、コスプレ、水着はコスプレ……よし! 大丈夫!」


 俺は自己暗示により、水着を着ることにした。


「センパイって、闇が深そう……いつか爆発しないでくださいね。それで、水着はどうするんです? お姉さんかホノカちゃんに見繕ってもらいます?」


 お姉ちゃんとホノカはもう信用しない!

 あいつらと買い物に行くと、騙されて、変なものを買わされてしまうのだ。


「お姉ちゃんはフリフリがついたものを選び、ホノカはエロいの選ぶのが容易に想像できる」


 あいつらは俺を着せ替え人形扱いするから嫌い!


「あー、まあ、そんな感じですねー。じゃあ、私達が選びましょうか?」


 うーん、それも嫌だなー。

 こいつは俺をバカにするし、ちーちゃんは鼻で笑いそう。

 そして、シズルは苦笑いしながら似合うねって言いそう……

 

 でも、1人で買いにはいけない。

 そんな勇気はないし、誰かの意見がほしい。


「アヤとマヤに付き合ってもらうからいいや」


 あいつらなら付き合ってくれるだろうし、普通に対応してくれるだろ。


「高等部のあの松島姉妹ですか? …………大丈夫かな? 言ったほうがいいかな?」


 アカネちゃんがボソボソとつぶやいている。


「なんだ? お前、あの2人を知っているのか?」


 あいつらって、有名なの?

 双子だし、珍しいといえば珍しいが、そんなに注目することでもない。


「あのー、魔女っ娘クラ…………いえ、松島先輩達は勇者の江崎先輩の仲間だから有名なんです!」


 なんか、アカネちゃんの口から不穏な単語が聞こえた気がする。

 気になるが、まあ、いっか!

 

 ロリ姉妹以外には頼れそうなのがいないのだ。


「あいつらも有名なんだな。まあ、優秀だし、キャラも立っているからな」


 あの双子芸が報われたのか。


「良い感じのを選んでもらおう」

「が、頑張ってください」


 何を頑張るんだよ。


 俺とアカネちゃんはその後もダベりながら時間をつぶしていった。



 


攻略のヒント

 『魔女っ娘クラブ』定期連絡!


 お姉様が魔女のコスプレを!?


 写真が欲しい方は高等部1年1組の松島アヤまで連絡を。


 皆でお姉様を応援しよう!


『とある怪文書 魔女っ娘クラブについて』より

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