第063話 俺が知らない間に成長してるなー……俺、リーダーだよね?


 合宿遠征でダンジョンに行くことに決め、俺が一人ぼっちじゃなくなったことに安心した俺は、仲間を連れて、協会に行くことにした。

 

 道中、お疲れのマイちんのために差し入れを買い、灼熱の太陽の下、歩いて協会へと向かった。

 なお、俺の相棒は家というか、クーラーの下から動きたくないそうで、留守番となった。


 協会に着くと、クーラーがガンガンに効いており、地獄のような外と比べると、天国のようであった。


「ああ、涼しいですー」


 アカネちゃんが協会に着くなり、幸せそうな顔で言った。

 俺も汗がスーッと引いていくのがわかる。

 皆も同じ気持ちであろう。


 俺達はクーラーの涼しさを満喫しながら受付へと向かう。

 クーラーの涼しさで幸せな気分に浸っていたが、受付に近づくと、俺達とは対照的に暗い表情のマイちんがいた。


「おはよう、マイちん…………大丈夫?」


 俺は挨拶をするが、あまりにもマイちんの表情が暗いので心配になってきた。


「おはよう。私は大丈夫よ」


 マイちんは笑っているが、目が笑っておらず、全然、大丈夫に見えない。


「あ、あの、これ、ケーキだから、休憩中にでも食べて」


 俺は道中で買ったケーキを渡す。


「あらー、ありがとう。とっても嬉しいわ。でも、貴方から何かを貰うと、勘ぐってしまうわね」


 ひでー。

 俺の気配りをそんな風に思うのかよ。


「いや、マイちんの顔が死んでるから、大丈夫かなって思って」

「私の顔、死んでる?」


 マイちんが自分の顔を指差し、俺の隣にいるシズルに確認する。


「えーと、死んではいないけど、だ、大分、キテるなーって感じです」


 シズルは言いにくそうに言葉を選んでいる。


「そう……最近、忙しくてね……」

「ホントに大丈夫?」


 このままだと、選択しちゃいけない選択をしそうだ。


「大丈夫よ。山は越えたから。先週までは、問い合わせやエクスプローラ対応で家にも帰れなかったけどね」


 とんだブラックだな。

 よく見たら、他の職員も顔が死んでいる気がする。

 

 俺は受付内にいる他の職員を見ながら、心配になった。


「バカ共に変なことを言われなかった? 名前と住所を教えてくれたら引退させにいくよ?」

「大丈夫だからやめてちょうだい。これ以上、私の仕事を増やさないで」

「あ、はい」


 マイちんの顔が無表情になったので、俺は怖くなって即答した。

 目が死んでいるのに、無表情になられると、怖すぎる。


「私のことはいいから。ダンジョンに行くんでしょ? ほら、早く行きなさい」


 マイちんは俺達からDカードを受け取ると、追い払うように言った。


「じゃあ、行ってくるわ」

「いってらっしゃい。あ、ケーキ、ありがとね。本当に嬉しいわ」


 俺達はマイちんと別れ、ダンジョンへと向かった。

 

 マイちん、休みなよ……




 ◆◇◆




 ダンジョンの1階層に着くと、俺達は各自の成長を確認することにした。


「まず、聞きたいんだが、タイムアタックのあの速さは何だ? いくらお前らでも速すぎだろ」


 俺は一番気になっていたことを聞く。


「あれは雨宮さんの≪忍法≫だよ」


 俺の疑問に瀬能が答えた。


「忍法? どんなのだ?」


 俺はシズルを見る。


「えーと、これ」


 シズルは俺にステータスを見せてくれる。


 どれどれ…………




----------------------

名前 雨宮シズル

レベル8→10

ジョブ 忍者

スキル

 ≪身体能力向上lv4≫

 ≪疾走lv3≫

 ≪空間魔法lv2≫

 ≪度胸lv1≫

 ≪隠密lv3≫

☆≪忍法lv1→2≫

 ≪諜報lv2→3≫

 ≪投擲lv1≫

----------------------

☆≪忍法lv2≫

  忍術が使えるようになる。

  使用可能忍術

  火遁、水遁

  雷迅、風迅

----------------------




 忍法がレベル1から2に上がっている。

 そして、新しい忍術として雷迅と風迅を覚えたようだ。


「なんだこれ?」


 雷迅も風迅も名前だけではよくわからない。

 

「この雷迅は殺傷能力はないけど、相手をマヒさせることができるの。タイムアタックはこれを使って、モンスターと戦わずに一直線でゴールを目指したのよ」


 なるほど、モンスターと戦わなかったから、あの速さでゴールできたわけか。


「なんかズルい気もするが、便利そうな技だな。風迅は?」


 もう1つの忍術も気になる。


「風迅は竜巻が起きるね。すごいんだけど、広い所で使わないと巻き込まれるよ」


 相変わらずのオーバーキルな技なわけね。

 こいつと俺はそんなんばっかだな。


「使いどころが難しいが、それは今更か」

「だね。っていうか、他の忍術と同じで、かなりの精神力を使うから、頻繁には使えない」


 まあ、こいつは素の能力が高いから、別にいいか。


「お前らは? 俺がいない間にレベルは上がってんだろ」


 俺は他のパーティーメンバーも確認することにした。


「えーと、こんな感じ」




----------------------

名前 斎藤チサト

レベル11→12

ジョブ 学者

スキル

 ≪集中lv3≫

 ≪エネミー鑑定lvー≫

 ≪空間魔法lv1→2≫

 ≪回復魔法lv2≫

 ≪水魔法lv1→2≫

 ≪風魔法lv1≫

 ≪身体能力向上lv1≫

☆≪記憶術lvー≫

----------------------

名前 斎藤カナタ

レベル6→8

ジョブ 魔術師

スキル

 ≪火魔法lv2→3≫

 ≪土魔法lv1≫

 ≪疾走lv1≫

 ≪集中lv2→3≫

 ≪身体能力向上lv1≫

----------------------

名前 柊アカネ

レベル7→9

ジョブ プリースト

スキル

 ≪身体能力向上lv1→2≫

 ≪怪力lv1≫

 ≪回復魔法lv2→3≫

 ≪高速詠唱lv2→3≫

☆≪逃走lvー≫

----------------------

名前 瀬能レン

レベル13→14

ジョブ 重戦士

スキル

 ≪身体能力向上lv2≫

 ≪デコイlvー≫

 ≪鉄壁lv4≫

 ≪怪力v1→2≫

☆≪痛覚耐性lvー≫

 ≪空間魔法lv2≫

----------------------




 なるほど、他の連中は順調に自分の長所を伸ばしたわけか。


「しかし、お前ら、レベルが上がりすぎじゃね?」


 元々、レベルが高いちーちゃんと瀬能は1だが、他は2も上がっている。


「まあ、13、14階層でレベル上げしてたからな」


 瀬能が代表して答える。


「あまり無理するなよ。全滅したら終わりだぞ」


 瀬能にとっては適性階層だろうが、他の連中はキツかろうに。

 

「わかっているよ。ただ、このパーティーの場合、雨宮さんと柊さんがいるからね」


 ローグのシズルは生存率が高いし、アカネちゃんは≪逃走≫がある。

 よほどのことがない限り、大丈夫なわけか。


「まあ、俺としては嬉しいことだけどな」

「ボク達も無理をしたつもりはないよ。それより、君はどうなんだ? レッドオーガを倒して、レベルが上がったんだろう?」


 俺の番か…………

 俺の≪メルヘンマジック≫をバカにされる番だ。


「……ほい」




----------------------

名前 神条ルミナ

レベル24→27

ジョブ 魔女

スキル

 ≪身体能力向上lv5≫

☆≪自然治癒lv6≫

 ≪空間魔法lv2≫

 ≪怪力lv6≫

☆≪斬撃lvー≫

☆≪魅了lvー≫

☆≪気合lvー≫

 ≪索敵lv3≫

 ≪罠回避lv2≫

 ≪冷静lv2≫

 ≪隠密lv5≫

 ≪投擲lv1≫

☆≪メルヘンマジックlv1→3≫

 ≪薬品鑑定lvー≫

☆≪使役~蛇~lvー≫

☆≪魔女の素養lvー≫

----------------------

☆≪メルヘンマジックlv3≫

 魔女のみが使える魔法。見た目はメルヘンだが、強力な魔法を使えるようになる。

 使用可能魔法

 ラブリーアロー、パンプキンボム

 ラブラブファイヤー、ラブリーストリーム

 プリティーガード

----------------------




「……うん。≪メルヘンマジック≫を上げたんだね」


 瀬能が無表情で淡々と言う。

 こいつが無表情になる時は、笑いを我慢している時であることはわかっている。


「対虫用に火の魔法が欲しかったんだよ」

「ラブラブファイヤーですね!」


 アカネちゃんは嬉しそうだ。

 こいつはすぐに俺をバカにする。


「ねえ、このプリティーガードは?」


 シズルだけはまともだ。

 いい加減に慣れたんだろう。

 他のヤツらは俺と目線を合わせない。


「魔法をガードできるんだと。俺は魔法に耐性があるから、あまり使えない魔法だな」

「瀬能先輩にかけたら良いんじゃないの?」

「なるほど」


 俺はシズルに言われて、この魔法の使い道に今更ながらに気づいた。


「しかし、あんたのレベルで3も上がるって、レッドオーガはすごかったんだね」


 ちーちゃんは正気に戻ったらしい。


「実際、相打ちだからな」

「神条さんでも苦戦するモンスターが4階層にいたんですよね? 僕達の番だったらどうなっていたんだろう」


 カナタが言うように、レッドオーガが俺達の順番より前に現れていたらヤバかっただろうな。

 帰還の結晶を使うタイミングを間違えたら、全滅だったかもしれん。


「まあ、シロが言うには、偶然に偶然が重なったような出来事だから今後はないだろ」

「だと、いいですけど」


 そんなことをいちいち気にしてたらダンジョン探索なんてできない。


「まあ、ヤバそうだったら逃げよう。俺は帰還の結晶を持っているし、大丈夫だ」


 帰還の結晶はあと1回ほど使えたはずだ。


「そうだね。それで今日はどうする? 14階層に行く?」


 ブラコンのちーちゃんはカナタを安心させるために、肩に手を置きながら聞いてきた。


「15階層に出現するモンスターは? メイジアントを相手にするのは嫌だ」


 メイジアントはキモいから誰も相手にしたくない。

 そして、メイジアントの担当は俺である。


「15階層は突撃ウサギとウィスプだね。メイジアントは出ない」

「ウィスプ? 何ですか、それ?」


 聞き覚えがないのか、シズルがちーちゃんに聞く。


「ウィスプは実体がない火の塊みたいなヤツだよ。物理攻撃がまったく効かないから魔法で倒す必要があるんだ」

「じゃあ、カナタ君に任せます?」

「あー、ウィスプは火魔法も効かないんだ。カナタは火魔法が得意だから向いてないね」


 カナタは土魔法も使えるが、火魔法のほうが適性がある。


「じゃあ、チサトさんの風魔法か水魔法?」

「そうだね。ウィスプは水に弱いから、あたしの水魔法で対処するよ」


 シズルの水遁でもいいのだろうが、オーバーキルだし、かなりの精神力を使うため、多くは使えない。

 

「お任せします。突撃ウサギは?」

「突撃ウサギはまんまだね。額に角があって、突撃してくるウサギ。あんたらで対処してよ」


 突撃ウサギは川崎支部のダイダラ迷宮でも出てくるモンスターだ。

 そんなに強くない。


「15階層に行くか。そっちのほうが楽そうだし」


 俺はメイジアントとやりたくない。


「なんか15階層の方が難易度が低くない?」

「ウチのパーティーに水魔法が使えるヤツがいるから楽なんだ。ちーちゃんがいなかったら難易度は跳ね上がるぞ」


 ウィスプは水魔法があれば弱いが、水魔法がないと強い。

 ウィスプは遠くから火魔法を撃ちまくってくるし、こちらの物理攻撃は効かないという非常に厄介なモンスターなのだ。

 俺がグラディエーターだった時なら逃げるしかできない。


「ウチのパーティーって、誰かが対処できるようになってるね」

「一応、それを意識して集めたからな。俺とお前は偏りがひどかったから」


 俺とシズルは攻撃に偏りすぎていたから、後衛の3人とタンクを探したのだ。


「あたし達で対処できないのは、雷魔法が有効なモンスターだね。誰も覚えてないし」

「適性はないのか?」


 俺は攻撃魔法を使うちーちゃんとカナタに聞く。

 

「僕は火魔法と土魔法以外の適性は低いですね」

「あたしは属性に偏りはないけど、あまり手を広げたくないんだ。攻撃魔法は2種類に留めておきたい」


 多くの属性の魔法を覚えると器用貧乏になるのか……

 じゃあ、仕方がないか。


「まあ、対処が出来なかったらシズルの雷迅で足止めして逃げるか」

「それがいいね」

「よし、じゃあ、14階層はスルーして、15階層に行こう。ついてこい! お前ら!!」


 俺は15階層に行くことに決め、久しぶりに号令をかけた。

 

「おー!」

「おー」

「はいはい」

「急に何?」

「多分、久しぶりだから、リーダーアピールをしたいんだと思います」


 やっぱり揃わない……




攻略のヒント

アナ「皆さんの息抜きは何ですか?」

Mr.ジャスティス「仲間との打ち上げですね」

竜殺し「家族と一緒にいる時だな」

白百合の王子様「女」

陥陣営「女…………って言いたいなー」


『テレビ番組 日本のトップエクスプローラを丸裸』より

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