第064話 鏡の前でポーズの練習をしていたことは内緒


 15階層に行くことに決めた俺達は、道中の階層をなるべくモンスターと相対さないように最短距離で進んだ。

 そして、10階層のボスも倒し、目的地である15階層の手前の14階層に到達した。


「14階層か……これまではメイジアントには遭遇しなかったが、ここではさすがに避けれないか」

「お願いね」


 俺の隣にいるシズルは手伝う気はないようだ。


「君のら、フフ……ラブラブファイヤーでやってくれよ」


 これまで我慢していた瀬能がついに笑った。


「なんだろう? お前に笑われると、すげームカつくな」


 俺は瀬能を睨みながら言った。


「ごめん、ごめん。もう少ししたら慣れるから」


 瀬能は手を合わせ、平謝りしてくる。


 断言する。

 こいつは俺がラブラブファイヤーを使ったら絶対に笑う。


「チッ! 行くぞ……って、もう来たよ……」


 言ったそばから、俺の索敵がメイジアントを発見した。

 そして、俺の反応で前衛にいるシズルと瀬能は後ろに下がった。


 こいつら、メイジアントは完全に俺に任せるつもりだ。


 薄情者達が後ろに下がったため、俺は両手でハートマークを作り、構える。


「何してんの?」


 後ろでちーちゃんが何か言っているが、気にしない。

 俺がちーちゃんを無視しつつ、構えていると、前方からメイジアントが3匹現れた。

 俺はなるべく近づきたくないので、視認すると同時に魔法を放った。


「ラブラブ、ファイヤー!!」


 俺は魔法を唱えながら、両手で作ったハートマークを前方に突き出すと、ハートマークから火炎放射器のような炎がメイジアントに向かう。

 炎はメイジアント達に当たると一気に燃え広がり、メイジアント3匹をまとめて焼きつくした。

 そして、メイジアントはあっという間に煙となって消えていった。


「よし、行くぞ」


 俺は後ろを見ずに、魔石を拾い、そのまま15階層への階段へと歩きだした。


「………………」


 誰も喋らない。


 おしゃべりなパーティーというわけではないが、ある程度は喋りながら探索をするパーティーなのに。


「……瀬能、別に笑ってもいいぞ」


 俺は後ろを振り向かずに言った。


「い、いや、すごい威力だったね。これなら虫エリアも突破できそうだ」


 おや?

 耐えたぞ?


 俺は瀬能の忍耐力に感心した。


「………………」


 そして、再び、沈黙のまま、15階層に向けて歩いていく。


「………………」

「…………萌え萌えキュン」


 ふいにアカネちゃんがボソッとつぶやいた。


「ふ、ふふっ、ふふふ」


 後ろから瀬能の笑い声が聞こえてきた。


「おもしろいか?」


 俺は後ろを振り向かずに瀬能に聞く。


「いや、別に…………ふふ」


 瀬能は頑張っていたが、俺が後ろを振り向くと、笑ってしまった。


「魔女というより魔法少女ですね」


 アカネちゃんはものすごく嬉しそうな顔をしている。


「ラブリーストリームを見たら、びっくりすると思うぞ」


 俺は俺をバカにするアカネちゃんに復讐することにした。


「ふひひ、見せてくださいよ~」

「いいぞ」


 俺の索敵が前方にメイジアント1匹を発見したため、アカネちゃんの要望に応えることにした。


「メイジアントが1匹だ。下がってろ」


 俺は皆を下がらせ、左手を通路の奥にかざした。

 しばらくすると、メイジアントが俺達の前に姿を現した。


「ラブリーストリーム!」


 俺が魔法を唱えると、メイジアントの足下が光りだした。

 そして、その光からハートの矢じりをした無数のラブリーアローがメイジアントを引き裂いていく。

 メイジアントは体液を撒き散らしながらバラバラになり、煙となって消えていった。


「な? 魔法少女じゃなくて、魔女だろ?」


 俺は後ろを振り向き、アカネちゃんに言った。


「キモ! やめてくださいよ!! まともに見ちゃったじゃないですかー!!」


 アカネちゃんは口元をおさえ、怒ってきた。


「お前が見たいって言ったんだろ」

「想像していたやつと180度違いましたよ!」


 まあ、俺も初めてゴブリン相手に使った時はビビった。

 そして、一緒に探索していたアヤとマヤにすげー怒られた。

 他の男3人からも顔を青くしながら文句を言われた。


「すごいけど、これからは虫相手には使わないでね」


 シズルが笑顔で責めてくる。


「本当に頼むよ」

「お願いします」


 ちーちゃんとカナタは若干、顔が青くなっている。


「じゃあ、俺の魔法を笑うな」

「努力するよ」


 瀬能もバラバラになり、体液を撒き散らす虫に堪えたのか、顔を青くして言った。


「フン! 行くぞ!」


 俺達は再び、歩きだし、15階層へと向かった。




 ◆◇◆




 その後、ある程度の戦闘はあったが、特にトラブルもなく、15階層へと到達した。


「何かいる」


 15階層を歩いていると、シズルが何かに気づき、足を止めた。

 俺はシズルの様子を見て、索敵で奥を探る。

 俺の索敵は5匹ほどの知らないモンスターの反応を感知した。


「地面を歩いているから突撃ウサギだと思う。5匹だ」


 俺がそう言うと、瀬能が盾を取り出し、構えた。


「瀬能、ちょっと待て。シズル、お前の雷迅を見せてくれ」

「わかったわ」


 俺はシズルの雷迅を見ていないので、どんなものか気になるのだ。


 俺達が足を止めて待っていると、奥から体長50センチくらいの青いウサギが現れた。

 可愛く見えないこともないが、額には鋭い角があり、目には敵意がありありと出ている。


「雷迅!」


 シズルはいつもの忍法スタイルから雷迅を放った。

 俺は雷迅と言うくらいだから、雷でも起きるかと思っていたが、特に何かが出てくるわけでもなかった。

 不発かなーと思っていると、突撃ウサギ達は急に痺れだし、コテンと転がった。


「こんな感じ」


 シズルは忍法スタイルを解き、俺の方を向きながら言った。


「うん、何て言ったらいいか、わからん。こいつらはもう動けないのか?」


 俺は突撃ウサギに近づきながら聞く。


「うん。当分は動けないと思うよ」


 確かに、これならダンジョン祭のタイムトライアルで優勝できるわ。


「すげーな」

「例によって、精神力を使うから、あまり使えないよ」


 これで連発できたら、チートすぎるわ!


「ふーん、まあいっか。さっさと転がってるヤツらを始末しよう」


 俺達は痺れて動けない突撃ウサギをサクッと倒し、更に奥へと進むことにした。


 その後も何度も突撃ウサギの群れと遭遇したが、突撃ウサギはそんなに強くないため、瀬能が抑え、俺とシズルが倒していった。

 そして、16階層の階段まであと少しというところで、俺の索敵がウィスプらしきモンスターを発見した。


「ちーちゃん、知らないモンスターを2匹発見した。多分、ウィスプだ」

「わかった。あたしがやる」


 ちーちゃんはそう言うと、前に出てきた。

 何気にちーちゃんが前に出るのは初めてである。


「すげー心配になる絵面だなー」


 俺は前に出てきて、杖を構えるちーちゃんを見ながら言う。


「頼りなくて悪かったね」


 ちーちゃんが拗ねている。

 でも、仕方がない。


「心配だからプリティーガードをかけてやろう」


 俺はちーちゃんに手をかざすと、ちーちゃんがピンク色に光りだし、すぐに消えた。


 プリティーガードは色に目をつぶれば、他のメルヘンマジックとは違い、普通だ。


「ありがと」


 ちーちゃんはお礼を言うと、詠唱を始めた。

 俺も魔法で援護するため、手をかざした。


「来たよ」


 俺の隣にいるシズルが言うように、空中にふわふわと浮かぶ鬼火のようなものが現れた。


 ウィスプはその場から動かずに、ふわふわと佇んでいる。

 ここで何をしているのかと、観察してはいけない。

 こいつらは火魔法を詠唱しているのだ。

 見つけたら速攻で倒さないと、文字通り、火の雨が降る。


「ウォーター!」

「ラブリーアロー!」


 俺とちーちゃんがそれぞれ魔法を放った。

 それと同時にウィスプから火魔法が2つ飛んできた。


 俺とちーちゃんが放った魔法はそれぞれのウィスプに当たったため、倒すことができた。

 しかし、ウィスプが放った火魔法も俺とちーちゃんに向かってきていた。


 俺の方に飛んできた魔法は俺に直撃した。

 しかし、魔法に耐性がある俺はたいしたダメージを受けなかった(熱かったけど)。


 ちーちゃんの方にも飛んできたが、ちーちゃんに当たる前にピンク色のもやが現れ、火魔法をかき消した。


 俺が事前にかけたプリティーガードだろう。

 どうやら、これくらいの魔法ならガード出来るようだ。


 俺はプリティーガードを習得してからは、ハヤト君達と低階層で探索していたため、プリティーガードを使っていなかった。

 そのため、効果を見るのは、初めてである。


「ふぅ……ルミナちゃんのプリティーガードがあって助かったよ」


 ちーちゃんは息を吐きながら、お礼を言ってくる。


 いくらちーちゃんでも火魔法を1発食らったぐらいでは死なないと思うが、貧弱のイメージが強すぎるため、すごく心配だ。


「思ったより、使えそうな魔法だったわ。これならウィスプはなんとかなるな」


 ウィスプは火魔法しか使わないため、ちーちゃんを前に出すことができる。


「かなりびっくりしたけどね」


 まあ、ちーちゃんが前に出ることなんてないし、慣れてないだろうな。


「もう16階層に着くけど、16階層のモンスターは?」


 もう100mも歩けば、16階層への階段に着く。


「16階層は15階層と同じで突撃ウサギとウィスプが出る。でも、ウィスプの出現頻度のほうが高いね」


 この15階層で出現したモンスターは、ほとんどが突撃ウサギだった。

 突撃ウサギは一度に5匹以上出るうえ、遭遇率も高い。

 いくらそんなに強くないとはいえ、重装備の瀬能と良く動くシズルには疲れが見えている。

 しかし、ウィスプが中心ならなんとかなりそうだ。


「16階層に行こう。今日はそこまでだな。瀬能、シズル、大丈夫か?」

「ああ、問題ないよ」

「私も大丈夫」


 瀬能とシズルが了承したため、俺達は16階層へと向かった。

 


 16階層はちーちゃんが言うように、ウィスプが中心に出現し、突撃ウサギはほとんど出現しなかった。


 ウィスプは水魔法が使えるちーちゃんを中心に倒していき、たまに俺のラブリーアローとカナタの土魔法を使いつつも、危なげなく倒していった。

 しかし、さすがに出現するウィスプの量が多くなったため、ちーちゃんの精神力が尽きてしまった。


「さすがにキツいね」


 さすがのちーちゃんも弱音をはいた。


「しゃーねーよ。数が多すぎる」


 俺達のレベルの限界だろう。


「今日はここまでにしておこうよ。これ以上は無理だと思うぞ」


 瀬能はちーちゃんの様子を見て、撤退を進言してきた。


「だなー。帰るか……」


 今のレベルでこれ以上進もうと思うと、泊まりにするか、精神力を回復するマナポーションが必要になる。

 マナポーションは普通のポーションよりかは安価だが、それでもそこそこの値段はする。


 俺達は近くにあった帰還魔法陣で協会へと帰ることにした。


 



攻略のヒント

 マナポーションは一般の需要がないため、通常のポーションと比べれば、安価である。

 とはいえ、メイジなどのエクスプローラには必須のアイテムであるため、安くはない。


『ダンジョン指南書 マナポーションについて』より

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