第044話 待望のタンクが向こうからやってきた……


 土井にタンクの紹介を頼んだ一週間後、俺は放課後に教室でシズルとダベっていた。


「今日はダンジョンに行かないの?」

「ちーちゃんとカナタが実家に用があるんだって」


 2人とも寮生である。

 ちなみに、シズルも寮生であり、アカネちゃんは実家から通っている。


「じゃあ、このあと出かけない?」

「そうしよう」


 わーい、デートだ。


「すまない。ちょっと良いかな?」


 良くねーよ!

 俺とシズルのランデブー(古い)の邪魔するな!


 俺はちょっとイラつきながら声の方を見ると、背の高い男がこちらを見ていた。


 その男は身長180センチはあり、短髪で左耳にピアスをつけている。


 まあ、そこそこに、ほんの少しだけ、イケメンであるような気がしないでもない。


「誰? 俺に用?」

「ああ、君が神条君だろう? ボクは瀬能レンだ。2年だね」


 2年が俺に何の用だ?

 まさか、名前を忘れたが、俺が殴ったヤツの友達じゃないだろうな?


「初めまして。確かに、俺が神条だ。何か用か?」


 俺はシュッシュッとシャドウボクシングを始める。


「やめなよ。あの、ルミナ君が何かしましたか?」


 シズルは俺を止めるが、何で俺のせいって、決めつけているんだ?


「誤解があるようだね。ボクは君の友人の土井君の紹介で来たんだが」


 マジで!?

 正気か?


「あのー、もしかして、ウチがタンクを募集してるって話?」

「そうだよ。少し、話をしたくてね」


 マジらしい。

 土井は役に立つ男だって、信じてたぜ!


「そ、そうなんですか、ありがとうございます」

「ルミナ君、良かったね」

「それで、少し話がしたいんだが、お邪魔だったかな?」


 うん。

 これからシズルとデートだからお前は帰れ。


「えーと、ちょっと、今日はー……都合がー……悪いかもー?」

「え? 大事な話でしょ?」


 俺は断りたいオーラを出したが、シズルからツッコミが飛んできた。

 

「……大丈夫です。じゃあ、これから話しますか。場所を変えます?」

「ああ、すまないが、頼むよ。それと、少しデリケートな話をしたいから、申し訳ないが、彼女には席を外してほしい」


 この野郎、俺とシズルのデートを邪魔するだけでなく、引き離しにかかりやがった!


 でも、お前ごときでは俺とシズルの固い絆は引きはがせないぞ!


「あ、わかりました。私は帰りますね。じゃあね、ルミナ君。また明日!」

「……うん。バイバイ」


 シズルは帰ってしまった。


「……じゃあ、食堂にでも行きますか」

「なんか、すまなかったね」


 ハァ……


 俺は席を立ち、瀬能さんとやらと食堂に向かった。


 


 ◆◇◆


 


 食堂に着くと、人はまばらにしかおらず、俺達は適当な席に座り、コーヒーを頼んだ。


「それで、話って?」

「ああ、君のパーティーがタンクを探していると聞いてね。できたら、入れて欲しいんだ」


 何故に?


「あ、あのー、2年生ですよね? 俺の評判を聞いてないの?」

「もちろん知っているよ。まあ、それはどうでもいいことだよ。エクスプローラなんて、大なり小なり問題を起こすもんさ」


 そうかな?

 自分で言うのも何だが、俺は小じゃないよ?

 大すぎない?


「そうですか……言っておきますが、リーダーは譲りませんよ」


 パーティーの乗っ取りは許さないぞ!


「もちろん君がリーダーで良いよ。確かに、ボクの方が年上だが、プロのCランクエクスプローラで、二つ名持ちの上につく自信はないよ」


 都合が良すぎて、マジで怪しいんですけど。


「…………」

「君が怪しんでいるのがわかるよ。君の所は女子が多いし、警戒しているのだろう? 特に君はRainさんにご執心のようだし」


 え!?

 わかるの?


「いや、そんな何故って、顔されても……さっきの君の落胆ぶりでわかるよ」


 いかん、ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。


「……急に真顔になるなよ。とりあえず、君の所に入りたい動機を聞いてくれないか?」

「……どうぞ」


 これじゃアヤマヤ姉妹だ。


 ポーカーフェイスってどうやるんだ?


「僕は将来、クランを立ち上げたいんだ」

「?」


 俺は可愛く、首を傾げる。

 

 勝手にすればいいじゃん。

 俺のパーティーと関係なくね?


「もちろん、今のボクでは無理だ。そこで、君の所に入って勉強したいんだよ。君はクラン≪ファイターズ≫の元メンバーだし、パーティーリーダーの経験も豊富だろう?」


 なるほど、有能な俺に師事したいわけだ。

 こいつは見る目がある男だな。


「ほぅ。でも、この学校にもクランがあるんじゃなかったっけ? なんとか騎士団っていうやつ」

「≪テンプル騎士団≫だね。実を言うと、僕はこの前まで、そこに所属してたんだ。でも、クランって言うけど、中身は部活やサークルの延長みたいなものでね。身にならないと思って辞めたんだよ」

「ふーん、まあ、学生だし、そんなものか……」

「ああ、居心地は悪くなかったけどね」


 瀬能さんは肩を竦める。

 

「何でクランを立ち上げたいんです? パーティーが大きくなって、クランになるのは、よく聞くが、最初からクランを立ち上げるっていうのは珍しいですよね」


 というか、聞いたことない。


 ≪ファイターズ≫にしても、≪正義の剣≫にしても、最初は6人パーティーだったはずだ。

 パーティーメンバーが増えて、クランになったのだ。


「やるからには上を目指したい。今はダンジョン攻略が停滞しているだろう? 今のエクスプローラ業界を変えたいんだ」


 何か、すげー事を言ってんな。

 政治家にでもなれよ。


「それはご立派な野望だが、出来ると思ってます?」

「もちろんさ。だから、普通のパーティーじゃなく、実力のある君のパーティーに入りたいんだ」


 実力があるんだってさ。

 こいつは良いヤツに違いない。

 

「他のパーティーは? この学校だったらトップは≪フロンティア≫でしょう?」


 お姉ちゃん…………

 ホノカ…………


 シクシク。


「もちろん知っているよ。同じ学年だしね。だけど、あそこはダメだよ」

「あん!? お姉ちゃんがダメだって言いたいのか!? 殺すぞ!!」


 こいつはとんだクズ野郎だ!

 

「き、急に怒るなよ。ビックリしたな。君のお姉さんは神条ミサキさんだろう? あの人は関係ないよ。問題なのはリーダーの佐々木だよ」


 佐々木?

 誰?

 あ! お姉ちゃんの肩に触ったゴミ野郎だ!!


「あのゴミが問題なのか?」

「ゴミって……知り合いなのか?」

「お姉ちゃんの肩に触った変態野郎だ」

「肩ぐらい別に…………いや、まあ、君の気持ちはわかったよ。素敵なお姉さんだもんな」


 こいつは本当に見る目があるな。

 やっぱり良いヤツだ。


「それで? その佐々木とやらが何か問題なのか?」

「まあね。実は彼とは中学の時からの知り合いなんだ。その時から良いライバルだったんだよ」


 なんだ、嫉妬か。

 向こうは≪正義の剣≫に参加する学園一のパーティーだもんな。


「彼は昔は向上心のある男だったんだが、最近は変わったよ」

「≪正義の剣≫に入って、天狗にでもなったか?」

「まあ、そんなところだね」

「バカだねー。≪正義の剣≫なんて、古くて、人数が多いだけの雑魚集団だぞ。強いのは上の連中だけ」


 リーダーの≪Mr.ジャスティス≫はもちろんだが、実力があるのは、母体であるパーティー≪正義の剣≫だけだ。


 残りの連中は≪ヴァルキリーズ≫にも劣る。


「あそこをそこまで言えるのは、君だけじゃないか?」

「逆だ、逆。あそこを神聖化してるのは、お前らアマチュアだけだよ。あそこは素行が良いから高ランクが多いだけで、中身は雑魚集団なんだぞ。雑魚の癖に威張るから俺達第二世代から嫌われている」


 あいつらはいつもランクを笠に俺らに指図する。

 そのくせ、問題が起きると何もできない。

 この前の暴行事件のようにな。


「そうなのか。学生にはそのあたりは見えないからな」

「見なくてもいいよ。どうせ、プロになればわかる。≪Mr.ジャスティス≫に聞いたが、あいつらも自分達の問題に気付いている。だから、有望な≪フロンティア≫を青田買いしたんだろ」


 俺は知らないが、おそらく、他のクランは良い顔はしてないだろうな。

 どこのクランだって、有望な学生を狙っている。


「それなのに、パーティーリーダーが天狗になったわけか。確かに、バカだな」


 瀬能は下を向きながらつぶやいた。

 

「≪Mr.ジャスティス≫はリーダーシップもあるし、実力もある。だが、あいつは致命的に甘すぎる。まあ、俺みたいな問題児からしたら、そのおかげで助かってはいるんだがな」


 アカネちゃんの時もそうだが、俺が前に問題を起こした時も、あいつはかばってくれた。


 良いヤツではあるし、感謝もしてるが、ダメだと思う。

 俺にとっては、都合が良いので、指摘はしないが。


「瀬能さんがクランリーダーになりたいなら、その辺に気を付けることだな。厳しすぎてもダメだが、優しすぎると舐められるぞ」

「勉強になるよ」

「勉強しろ。あと、良い仲間を見つけることだ。≪ヴァルキリーズ≫のサエコなんて、リーダーとしての適性は皆無だ。でも、副リーダーのショウコがそれを補っている」


 まあ、ウチもシズルとちーちゃんが補っているんですけどね。


 感謝してるよ?


「本当に勉強になるな。やはり、君のパーティーに入りたいな。入れてくれないか?」


 うーん、どうしよう?

 都合よくタンクが入りたいって言ってるのだから、入れてもいい。


 でも、こいつ野心家すぎる気がする。


 物腰は柔らかだが、気づいたらパーティーを乗っ取られそう。

 そして、いつのまにかシズルを取られるかもしれんな。


 シロ、どう思う?


『わからん。嘘は言っていないと思うが、隠し事もありそうだ』


 シロでもわからんか……


「正直に言ってくれ。何故、俺のパーティーなんだ? 学生じゃなくても、他のパーティー、何だったらクランにでも入ればいいだろ」

「では、ここからは誰にも言わないと約束できるかい?」


 瀬能さんはこれまでにこやかだったのに、急に真顔になった。


 急に怖い表情になるなよ。

 漏らしちゃうだろうが。


「いいぞ。俺もパーティーリーダーだ。志望動機を誤魔化すヤツを入れる気はない」

「ふふふ。本当に勉強になるよ。まず、さっき言ったクランを立ち上げたい、というのは本当だ。だから、君のパーティーに入っても、いずれは抜けることになると思う」

「それは別にかまわん。俺だって、このメンバーで生涯パーティーを組むとは思ってねーよ」


 少なくとも、こいつとちーちゃんは俺より先に学園を卒業する。

 

 そうなれば、多分、辞めることになるだろう。

 弟がいるちーちゃんは微妙だが。


 シズル?

 あいつはずっといる。


「それは助かる。そこを気にする人も多いからね」


 まあ、せっかく育てたのに、辞められたら困るからな。

 ましてや、最初から腰かけって言ってるヤツを育てる気は起きない。


「俺の目的は深層に行って、男に戻ることだ。それまでは付き合ってもらうぞ」

「もちろんだよ。ボクも深層には行きたいからね」


 一応、ある程度はパーティーに居てくれる気はあるようだ。

 

「それで? 他の理由は?」

「これからが秘密な話だよ。君のパーティーに入りたいのは、女子が多いからだよ」

「………………」


 帰るか。


「お疲れ様です。結果は後日、郵送しますので」

「ち、ちょっと待て! 話は最後まで聞いてくれ!」

「いえいえ、よくわかりましたので。貴方の今後の活躍をお祈りしています」

「すまん。言い方が悪かった、帰らないでくれ!」

「もう死ねよ……散々、カッコつけておいて、ウチの女どもが目的なんだろ? 二度とシズルに近づくなよ。近づいたら殺すからな」


 マジで時間の無駄だったな。

 土井の野郎は人の話を聞いていたのか?


 明日、文句を言ってやろう。


「本当にすまない。頼むから話を最後まで聞いてくれ。別に女子が目的ではないんだよ」

「チッ! 手短にな。人のデートを邪魔しやがって」


 俺は帰ろうと立ち上がったが、瀬能が必死に止めるもんだから、一応、話を聞いてやることにした。


「で? 何?」


 俺は小指で耳をほじりながら聞く。


「ボクは一応、先輩なんだが」

「だから何だよ。俺がそれを気にすると思うか? 2年なら知ってんだろ?」

「ハァ……まあ、そうだね。リーダーの言うことには従うよ」

「お前は不合格だがな」


 誰がリーダーだ!

 お前は一生、野良してろ。


「実はボクは女性に興味がないんだ」

「あっそ。それはご立派なことで」


 ん?


 今、変な事言わなかったか?




攻略のヒント

 ダンジョンは最深階層はダンジョンによって異なる。

 一番深いダンジョンでも99階層までである。


『はじまりの言葉』より

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