第043話 勇者パーティー


 ダンジョンで新生パーティーの初探索を終えた翌日、俺はクラスメートの土井にタンクの心当たりを聞くつもりであった。


 しかし……


「休み?」

「うん。風邪だって」


 朝、教室についたら俺の隣の席にいるはずの土井がいなかった。

 シズルに確認したら、どうやら土井は風邪で休みらしい。


 ちなみに、入学して少し経った後に席替えをした結果、俺は見事、ど真ん中の席となった。

 隣は土井である。

 そして、シズルの席は俺の席から離れている。


 次の席替え、まだかな?


「軟弱者だな」

「え? ルミナ君、一昨日、休んだのを忘れてるの?」


 そういえば、俺も休んだわ。


「仕方がない。ちょっとハヤト君のところに行ってくるわ」

「行ってらっしゃい。授業までには戻ってきてね」


 はーい。


 俺は自分の教室を出て、ハヤト君のいる1組へと向かった。


 1組に到着すると、窓際の一番後ろで、頬杖をつきながら外を見るハヤト君がいた。


 すげー。

 主人公っぽい。

 さすが、勇者さま(笑)。


 ちなみに、ハヤト君のジョブである≪勇者≫はかなり優秀なジョブらしく、ハヤト君はこの数ヶ月でメキメキと実力をつけていった。

 そして、まだ、学生でエクスプローラの正式免許を持っていないにもかかわらず、二つ名持ちになったのだ。


 二つ名はもちろん≪勇者さま(笑)≫である。


 本人はため息ばかりだったらしい。

 憐れだ。

 ちょーウケる。


「ハーヤト君、何してるの?」

「ん? ああ、神条か。猫撫で声はやめてくれ」

「何か黄昏てたから幼なじみっぽく言ってみたんだが、良くない?」

「今の幼なじみか? 大体、俺の幼なじみはアヤとマヤだぞ。嬉しくない」

「……ハヤト、何してるの? ……魔王は倒さないの?」

「似てるな。やめてくれ、頼む」


 俺の松島姉妹のモノマネは不評みたいだ。


 マヤとアヤはハヤト君の勇者ネタをイジッているから嫌なのだろう。


「せっかく練習したのに」

「君の努力は買うよ。似てたしな。それで何か用か?」

「タンクを探しててな。本当は土井に心当たりを聞こうと思ったんだが、あいつ、学校をサボりやがった」

「いや、風邪だよ。タケトは真面目だからアヤとマヤと違ってサボらないぞ」


 確かに真面目っぽい。

 だから、ウチのパーティーに入ってほしいんだがな。


「あいつがウチのタンクをやってくれると皆がハッピーなのになー。そういえば、アヤとマヤは?」

「ウチがハッピーじゃないし、タケトは譲らないぞ。アヤとマヤはトイレ。さっきまで、ここで天〇の剣かロ〇の剣を手に入れようって騒いでた」


 あいつらは本当に勇者イジリが好きだよな。


「まあ、≪勇者さま(笑)≫には聖剣が必要だわな」

「ハァ……俺は普通にエクスプローラをやりたかったのに」


 すげー。

 また俺、何かやっちゃいました? って言ってる。

 何をしても絵になるヤツだ。


 ちょーウケる。


「お前、何でジョブを公表したんだ? こうなることは、ちょっと考えれば、わかるだろ」


 バカなの?

 それとも自虐系主人公をやりたかったの?


「俺も公表するつもりなんてなかった。でも、協会の圧力に屈したんだ」

「協会が何で圧力なんかかけたんだよ?」

「君の方が詳しいだろうが、今の世代は無個性って、言われているだろ? 君達、第二世代は良くも悪くも華がある。そういった華が欲しいんだってさ」


 エクスプローラは一種のエンターテイメントが必要である。


 毎年、死人が出ているのに、エクスプローラになりたいヤツの数が増え続けているのは、そういったエンターテイメントや魅力があるからだ。


 普通ならエクスプローラなんてブラックもいいとこである。

 しかし、一攫千金が望めるうえ、活躍して有名になれば、スポンサーもつくし、メディアに引っ張りだこだ。


 そして、モテる。


 実際にエクスプローラの中にはアイドルや女子アナと結婚するヤツも少なくない。


「そんなもんは断固として拒否しろよ。最後に自分の味方になるのは自分だぞ」

「その自分主義がうらやましいよ。まあ、こっちにもメリットがあったんだ」

「メリット? 金? 女?」

「君、欲望しかないの?」


 当たり前だろ。

 他に何が要るんだよ。


「俺がエクスプローラになった動機は金持ちになって、女を取っ替え引っ替えすることだ」


 それなのに自分が女になってしまった。

 そういう教訓的な物語がありそうだ。


「君がエクスプローラになったのって、小学生だろ? そんな俗物まみれの小学生は嫌だな」

「お前だって、似たような動機だろ? 隠すなよ。ここには男(?)しかいないぞ。さあ、お前の性癖を言え。やはりロリか?」

「話が変わってるぞ。あと、やはりって何だよ!?」


 お前、マヤとアヤのロリ姉妹をはべらせてるし。


「何の話だったっけ? あ、公表するメリットって何だよ?」

「タンクの話だろ。まあいいか。メリットは俺のパーティーの残り2枠を紹介してくれるって言われたんだよ」

「プロ?」

「プロ」


 それはすごいな。


 学生パーティーに参加してくれるプロなんて滅多にいないぞ。

 ましてや、リーダーが学生のハヤト君なら、なおさらだ。


「へー、良かったな。で? 誰が入ってくれたん?」

「多分、君の知り合いだと思う。≪クーフーリン≫って槍使いだ。もう1人はまだ決まってない」


 クーフーリンって、川崎支部で俺にケンカを売ってきたBランクエクスプローラだ。


 実力はかなりのものである。

 まあ、一発でKOしてやったが。


「あの自称≪クーフーリン≫か。Bランクだろ? よく入ってくれたな」

「だな。正直、信じられないよ」


 協会もマジでハヤト君に期待してんだな。


「……≪陥陣営≫だ」

「……お姉様だ」


 俺とハヤト君が話していると、アヤとマヤが帰ってきた。


「よう、ロリ姉妹。仲良く連れションか?」

「……ロリじゃない」

「……私達はトイレなんか行かない」


 こいつらは昭和のアイドルらしい。


「ちょっとハヤト君を借りてるぞ」

「……何の話?」

「……デートの誘い? Rainさんは?」

「誘ってねーよ。こいつの性癖について、話してただけだ」

「違うだろ!」


 お前がロリって話だろ?


「……ハヤトの性癖?」

「……きっとマニアック」

「俺は普通だよ!」

「隠すな。人は皆、多少のアブノーマルな趣味があるもんだ」


 さあ、言え。

 誰にも言わんから。

 

 ちょっと掲示板に書き込むだけだ。


「……≪陥陣営≫は?」

「……アヤ、この人はシスコン」

「……そうだった。そして、女装趣味」

「……業が深い」

「女装じゃねーよ」


 女装か?

 これは女装って言うのか?


「……で、ハヤトは?」

「……大丈夫。私達は理解がある」

「……きっと、ロリ」

「だから、普通だよ! あと、神条、モノマネを辞めろ」


 似てたろ?


「……ハヤト、ロリ?」

「……そういえば、昔、小学生が好きだった」

「……やっぱりロリなんだ」

「小学生の時だろ! 小学生が小学生を好きになるのは普通だろ! あと、神条、本当にモノマネを辞めろ」


 ハヤト君をイジるのは楽しいなー。


「ハヤト君がロリと分かったところで本題だ。ウチのパーティーはタンクを探してるんだが、心当たりないか?」

「長い前置きだったな。あと、ロリじゃない!」


 必死に否定すればするほど、ホントっぽく聞こえるな。

 

「……タンク?」

「……タケト?」


 ロリ姉妹が顔を見合わせながら聞いてくる。

 

「……タケトくれ」

「……ヤダ」

「……クーフーリンあげる」

「……いらない」

「気味が悪いからやめろ」


 ……わかった。


「ウチにシズルがいるだろ? タンクを募集すると、変なヤツが来そうなんだわ。それで、信頼できるヤツを紹介してほしくてなー」

「そう言われても、俺も知り合いは少ないぞ。少なくとも、1年は無理じゃないか? ほとんどパーティーを組んでるし」

「タケトが詳しいんじゃないかな?」

「確か、タンクの先輩と訓練してたよね」


 お前ら、普通に喋れんのかい!


「何かの集まりか?」


 俺は普通の喋り方になったアヤとマヤに聞く。

 

「一種の部活動みたいな感じ。同じジョブ同士で情報交換をしたりしてる」

「私達もメイジやヒーラーの集まりに参加してるよ。入学してすぐに誘われた」


 やっぱり、そういう集まりがあるんだな。

 

「俺は誘われてない……」

「ハヤト君は勇者だからな。特別職は孤高なんだよ」


 落ち込むなよ。

 お前が落ち込むと、顔がニヤけるだろー。

 

「……一匹狼?」

「……カッコいい」

「……だろ?」

「お前らって、すぐにふざけるよな?」


 ……楽しいよ?


「とにかく、タケトに聞いたほうが良いわけだな?」

「だね。上級生はクラン≪テンプル騎士団≫があるからタンク系は充実しているよ」


 俺から見て、右にいるロリが答える。

 

「≪テンプル騎士団≫? 何だ、それ?」

「学生クランだよ。プロじゃないけど、タンクやヒーラーを集めて、何かやってる。私も誘われた」


 俺から見て、左にいるロリが答える。


 ヒーラーということは、お前がアヤだな。


 松島姉妹はアヤがヒーラー、マヤがメイジである。

 実は区別がつかない。


 うーん、よし!


 俺はアイテムボックスから白と赤のバレッタを取り出した。


「何、それ?」

「バレッタ?」


 俺は白のバレッタをヒーラーのアヤにつけ、赤のバレッタをメイジのマヤにつけた。


「……プレゼント?」

「……浮気だ。Rainさんにチクろう」

「お前らは同じ顔で区別がつかねーからそれつけろ。外してもいいが、俺が来たらつけろよ」

「……区別ついてなかったんだ」

「……ひどい」


 いや、お前らの区別がつくヤツっているの?

 

「君、バレッタを持ってるんだ」


 いっぱい持ってるぞ。

 お前にもやろうか?


「それで? ≪テンプル騎士団≫に入ったのか?」

「断った。宗教に興味はない。タケトも誘われたけど、断ったはず。でも、自由参加の練習には参加しているみたいだから知り合いはいるはずだよ」

「≪テンプル騎士団≫って名前だけで、宗教は関係ないんだけどね」

「なるほど。それは期待できそうだな」


 どうやら土井は思ったより交遊関係が深そうだ。

 

「俺は誘われていたことも、初めて知ったよ。何かすごい疎外感が……」


 ハヤト君は本当に憐憫が似合うなー。

 ちょーウケる。


「よし、希望が見えてきたな。しかし、こんな日に休みやがって。何で風邪をひくかねー?」

「多分、カラオケでオールしたから」

「昨日、クーフーリンに誘われたんだ」


 学生相手にカラオケなんか誘うなよ。

 

「相変わらず、迷惑なヤツだな。お前らも行ったの?」

「……途中で帰った」

「……あいつ、ウザい」


 こいつらはちょこちょこ、その芸風を入れてくるな。

 もう全会話をそれで統一したら?

 

「それが正解だわ。真面目なタケトは断れなかったか……」

「多分ね。クーフーリン、お酒も飲んで、うざガラミしてたよ」


 ダメな大人だな。

 

「ちなみに、ハヤト君は?」

「……誘われてない」


 ついにハヤト君もモノマネをしだした。

 ……違うか。


「ハヤトは用事があるって、言ってたからね」

「来なくて正解だよ」


 ちょっとハヤト君が可哀想になってきた。


 お前、リーダーだよな?


 ハヤト君が可哀想になったところで先生がやってきた。

 俺は授業が始まりそうになったので、自分の教室に戻ることにした。



 そして、教室に戻ると、シズルが話しかけてきた。


「どうだった?」

「ハヤト君が可哀想だった」

「いつものことじゃない」


 そうなんだけど、お前もひどいね。


 この日はダンジョンにも行かず、パーティーメンバー拡充の進展もなかった。



 そして、翌日、土井が登校してきたので、話を聞いてみることにした。


「ウィース、ちょっといいか?」

「ああ、タンクの話だろう? 昨日、電話でハヤトから聞いた」


 ハヤト君は事前に電話で知らせてくれたみたいだ。


 良いヤツだねー。

 きっと早死にするな。


「そうそう。アヤマヤ姉妹から聞いたけど、お前、先輩らと繋がりがあるんだろう?」

「繋がりってほどではないが、聞いてみることはできるぞ。何か希望があるか?」

「能力は二の次でいいから性格だ。ウチのシズルの事を考慮してくれ」

「なるほど、確かにな。何人か心当たりがあるから聞いてみる」


 頼りになるー。

 

「頼むわ。最悪、お前がウチに入ってくれてもいいぞ」

「ハハ、無理だ」

「だろうな」


 わかってますよ。


「ただ、あまり期待はしないでくれ。言いにくいが、お前のパーティーは……その、な?」


 土井は言いにくそうに言葉を紡いだ。

 

「わかってる。俺のパーティーというか、俺だろ? 話をするだけでいいぞ。お前にも立場ってもんがあるだろうし」

「すまん。一応、最近、パーティーを抜けた人がいるから、その人に声をかけてみる」

「頼むわー」


 2年生は俺の悪評が広まっているらしいから期待できないんだよな。


 3年生に期待かな?



 しかし、1週間後、俺の予想は外れることになる。




 

攻略のヒント

 ダンジョン内で怪我をしても、帰還すれば怪我は治る。

 しかし、体力は回復しない。


 また、ダンジョン外で怪我し、ダンジョンに入って帰還しても、その怪我は治らない。


『はじまりの言葉』より

 

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