第024話 勇者(笑)


 クラスメイトに囲まれ、質問攻めにされていたシズルは、この後、約束があるからと言って、俺の所に来た。


「ごめん、待った?」


 ちょー待ったわ。

 俺を1人にするなよ。

 疎外感がハンパないんだ。

 

 中学の時は気が合う連中もいたが、ここでは、浮いている気がする。


「いや、さっきまで相談に乗ってたし、問題ないぞ。お前はもういいのか?」


 俺はチラリとシズルを注目するクラスメイトを見る。


「うん。この後、ダンジョンに行こって、言ったじゃない。お昼食べて、行こうよ」

「そうだな」


 俺とシズルはクラスメイトを尻目に教室を後にした。


 


 ◆◇◆




「2人共、高校初日はどうだった?」


 ダンジョンに入る申請の為に、マイちんの所に行ったら、マイちんがニヤニヤしながら俺達に聞いてきた。


「大注目だったよ。皆、制服なのに、俺だけ、この格好だからね」


 俺とシズルは昼食後、着替えずに協会へ来ていた。

 周りにはオリエンテーションに参加するためか、学生がたくさんいる。


「すごかったよ。皆、ルミナ君を見るんだもの」

「まあ、確かに目立つわね。ルミナ君、暴れてない?」

「暴れねーわ。俺は真面目にエクスプローラをやるんだよ」


 本当は1人、2人くらいは殴りたかったけど。


「よろしい。これからダンジョンよね? オリエンテーションで学生が多いから、1、2階層はやめたほうがいいわよ」

「さすがに、大勢の前で、あの格好は嫌だし、そうする。ルミナ君、いい?」


 俺だって、シズルのエロ衣装を他の学生に見せる気はない。


「今日は3階層にする。シズルは11階層まで行ったが、ほとんど俺が対処したからな。3階層から攻略して行くよ」


 シズルのレベルは7だし、スライムやゴブリンがメインの1、2階層でやることもないだろ。


「わかったわ。申請しておく。それと2人共、もし今後、ダンジョンの奥に行くなら気を付けたほうがいいわ」

「今のところはそんなに奥に行く予定はないが、何かあったの?」

「ええ、実は最近、ダンジョンの奥に行った女性エクスプローラが襲われる事件が起きているの」

「お、お、俺じゃないぞ!」


 本当に俺じゃないぞ!

 俺は基本、シズルとシロといる。

 シズルとシロが証人になってくれるはずだ。


 なってくれるよね?


「ルミナ君を疑っていないわよ。動揺しないでくれる?」


 いや、なんとなく焦る。


「それって、大丈夫なんですか?」


 元芸能人であり、この手の事に敏感であろうシズルは不安そうだ。

 

「一応、こうやって、皆に注意喚起してるわ。それと、≪正義の剣≫と≪ヴァルキリーズ≫が動いているみたい。犯人を捕まえるまでは貴方達も気を付けて」

「俺がいるパーティーを襲うバカはいねーと思うけどな。そんなヤツはゴミ箱にポイッだよ」

「シズルはもちろんだけど、貴方も女の子なのよ。女の子2人だけのパーティーなんて、狙ってって言ってるようなものよ」


 そうでしたね。

 私は女の子。

 …………ハァ。


「わかったよ。気を付ける」

「よろしい。それとルミナ君、今日はダンジョンの警備員が榊君と鈴村君だけど、お礼を言っておきなさいよ。気絶していた貴方を医務室に運んだのはあの2人なんだから」


 へー、そうなんだ。

 じゃあ、礼ぐらい言うか。


「わかった。ダンジョンに行く時に声をかけるよ。じゃあ、オリエンテーションが始まる前に行くか」

「ええ、行きましょう」


 

 俺とシズルはマイちんにDカードを提出し、ダンジョンへと向かった。

 

 途中、警備員の2人がいたので声をかける。


「よう。この前は世話になったらしいな。ありがとよ」

「おう。気にするなよ。しかし、本当にルミナなんだな」


 俺が声をかけるとチャラいほうの榊が答えた。


「当たり前だろって言いにくいのが、辛いな」

「ハハハ」

「話は聞いている。ダンジョンの深層を目指すんだってな。いくらお前がいるとしても、2人で深層はきついだろう。早く他のパーティーメンバーを加入させたほうがいい」


 笑っている榊の横で厳つい顔をした鈴村も答える。


「まあな。それは俺達もわかってるんだが、条件に当てはまる良いエクスプローラがいないんだ」


 俺の事を受け入れ、シズルに執着しない人間となると、かなり狭められる。

 ほとんど、俺のせいだけど。


「確かに、それはムズいなー。お前らのパーティーってことは、同じ学生が良いんだろ? 野良とかどうだ?」

「野良? 野良ってなんです?」


 榊が俺と鈴村の会話に入ってくると、聞き慣れない単語を聞いたシズルが榊に質問する。


「野良ってのは、はぐれとも言うが、固定のパーティーを組まないエクスプローラのことだよ。固定のパーティーだと、しがらみやノルマとかあって、嫌がるヤツも結構いるんだ」


 エクスプローラにも、それぞれペースと言うものがある。

 毎日潜りたいヤツもいれば、家の手伝いとかで、たまにしか潜らないヤツもいる。

 

 そういう理由で固定パーティーを組まず、臨時でパーティーを組んで活動するヤツが一定数いることは確かである。


「野良か。まあ、同級生がダメそうなら、そっちも当たってみるか。ちなみに、良い野良のヤツっているか?」

「いや、さすがにその辺は知ってても言えねーよ。俺ら警備員だぜ? 一応、個人情報は守らねーと。ただ、学園の2年生は腕のある野良が多かったな」


 榊が初めて、まともなことを言っている気がする。

 こいつ、本当に榊か?


「俺達の先輩か。考えてみるわ。ありがとよ」

「まあ、気長に探せ。パーティーの拡充は焦っても、良いことないぞ」


 俺はまともな榊を信じられない目で見ながら、野良のエクスプローラについても検討することにした。




 ◆◇◆


 


 初めて良いことを言った榊達と別れ、ダンジョンに入った俺達は、1階層、2階層をノンストップで突破し、3階層にやって来た。


「3階層はゴブリンとビッグラットよね? この前はルミナ君が全部倒したけど、ビッグラットはそんなに強くないの?」


 以前は、俺が走りながら瞬殺したので、まったく参考にはならなかったようだ。


「ビッグラットはただのでかいネズミだ。噛みつきだけを気を付ければいい」

「わかった。今日は私が前衛でもいいかな? 以前は戦わなかったから、戦っておきたいの」

「そうだな。じゃあ、任せるわ」


 俺はシズルの熱意に感心する。


 とはいえ、シズルはもう低階層でやることがほぼないな。

 11階層以降に行ったほうが良いのだが、さすがに2人では事件も起きているようだし、危ないか。

 

「おい、相棒」


 俺がシズルを観察し、思考していると、シロが服の中から出てきて、話しかけてきた。


「なんだよ? ご飯ならもうあげたろ」

「ちげーよ。完全にペット扱いだな。俺っちのことじゃなく、シズルの事だよ。あいつはもう武器を変えたほうがいいぞ。あいつの実力と見合ってねー。相棒も午前中にクラスメイトに言ってただろ」


 俺はシロから指摘されて、シズルを見る。

 

 シズルはビッグラットをスピードで撹乱し、華麗に攻撃している。

 しかし、シロが言うように、スピードの割には攻撃力がない。

 おそらく、武器の耐久を考慮して、加減しているのだろう。


「本当だ。気がつかなかった。あいつ、エクスプローラになって半月なんだがなー。すげーわ」


 シズルはビッグラットを片付け、俺の所に戻ってきた。


「お待たせ。ビッグラットなら楽勝ね。動きが遅いから、私とは相性が良いみたい」

「お疲れ。相性以前にお前はもう11階層に行っても問題なさそうだ。適当に各階層を探索したら11階層に向かう。その前に仲間探しだなー」

「そうね、そうしましょうか。クラスメイトから良い人がいないか、情報を集めてみるわ」

「俺も同僚のエクスプローラに当たってみるわ。だが、期待はするな。俺達の世代は変わり者が多いから」


 ダンジョンが解放されて、初期にエクスプローラになったのが第一世代。

 

 そして、第一世代に憧れて、学んできたのが第二世代。

 

 現在はダンジョン学園のカリキュラムに沿った第三世代である。

 

 俺はこの中では、第二世代になる。

 この世代は変人世代とも呼ばれている。


 俺は変人じゃないがな………………いや、女になったから変人筆頭だわ。


 俺は衝撃の事実に落ち込む。


「ハァ……それよりも、お前の武器を変えたほうがいいな。それは俺が武具販売店で買った安物だし、お前はもうちょっと良い武器に変えたほうがいい」

「うん。武器については、変えようと思ってる。今、色々と検討中」

「相棒、誰か来るぜ」


 俺とシズルが武器の更新について話していると、ふいにシロが他者の接近を教えてくれた。

 

 シロは俺に伝えると、俺の服の中に隠れる。


 俺とシズルは警戒しつつ、待っていると、通路の奥からパーティーと思わしき、4人のエクスプローラが現れた。

 

 そのパーティーは男が2人、女が2人であり、4人の若さから学生であろうと思っていたが、その内1人は知己であることに気付いた。


「なんだ、土井じゃねーか。さっきぶりだな」


 4人の内の1人はクラスメイトであり、午前中に俺に武器の相談をしてきた土井タケトであった。


「ああ、さっきぶりだな。お前の助言通り、初心者用の斧を買ったよ」


 土井は俺に斧を掲げてみせる。


「おう、頑張れよ。で、そいつらがお前のパーティーメンバーか?」

「ああ、そうだ。こっちの男がウチのリーダーの江崎ハヤトだ。こっちの女子2人は松島アヤ、マヤ姉妹だ。双子だな。俺達は幼なじみなんだ」


 土井は俺達にパーティーメンバーを紹介してくれた。

 

 江崎ハヤトは剣を背負っており、いかにもスポーツマンって感じで、爽やかな男である(けっ!)。

 

 双子らしい松島アヤ、マヤは身長が150センチ程度の小柄の女子で、ローブに身を纏い、杖とメイスを持っている。

 

 おそらく、江崎が剣士、双子がメイジとヒーラーだろう。


「どうも。土井と同じクラスの神条ルミナだ。こっちも同じクラスの雨宮シズル」

「雨宮よ。よろしく」

「ああ、1組の江崎ハヤトだ。よろしく」

「…………陥陣営だ」

「…………Rainだ」


 爽やかなハヤト君の後ろで双子がボソッと言っている。

 俺は変な双子だなと思ったが、気にしないことにした。


「お前らもダンジョン探索か?」

「ああ、俺達はダンジョン探索を開始してから日が浅いからね。早めに慣れたいんだ」


 ハヤト君が代表して答える。

 多分、こいつがこのパーティーのリーダーだろう。

 

「そうか、あまり奥には行くなよ。聞いてると思うが、奥は危ないらしいぞ」

「らしいね。どちらにせよ、俺達はまだ、駆け出しだからそんなに奥には行けないよ。そうだ、君はCランクのエクスプローラだろ? ちょっと相談があるんだが」


 また相談?

 面倒くせーな。


 俺は内心、嫌だと思ったが、評判を良くしておこうと思い、相談に乗ってやることにした。


「なんだ? 今度は防具か?」

「いや、違うよ……ああ、タケトが武器の相談をしたんだったね。ありがとう。俺らは初心者だから助かったよ。それで相談なんだけど、ちょっとこれを見て欲しいんだ」


 ハヤト君はそう言って、俺に自分のステータスを見せてくる。




----------------------

名前 江崎ハヤト

レベル3

ジョブ 勇者

スキル

 ≪度胸lv2≫

 ≪身体能力向上lv2≫

 ≪雷魔法lv2≫

☆≪かばうlvー≫

☆≪魔法剣lvー≫

----------------------




 …………フッ。

 勇者って。


 俺は真剣に聞いてくるハヤト君を見て、笑うのを必死に堪える。


「……お前、魔王でも倒すのか?」

「アヤとマヤにも言われたよ」


 ハヤト君はいつのまにかシズルに纏わりついている松島姉妹を見ながら苦笑する。


「協会は何て?」

「それが相談なんだけど、実はまだ、協会に報告していないんだ。まずいとは思ってるんだけど」


 まあ、勇者は躊躇するわな。

 絶対、掲示板で笑われる。


「気持ちはわかるが、新規ジョブは報告の義務があるぞ」

「わかってる。だけど……ね?」

「報告しないと、やはりまずいか?」


 歯切れが悪くなったハヤト君の代わりに土井が聞いてくる。


「特に罰則はないが、協会への心証は良くしておいたほうがいい。今からでも言ってこい。≪勇者≫だから躊躇しましたって言えば、理解してくれる。まあ、わかってると思うが、注目はされる」


 ざまあ。

 せいぜい注目されて、俺より目立ってくれ。


「だよね。わかった。相談に乗ってくれてありがとう。ちょっと言ってくるよ……ハァ」


 ハヤト君達はシズルと仲良くおしゃべりをしている松島姉妹を連れて、帰還魔方陣の方へ歩いていった。


 

「勇者さまだってよ。笑いを堪えるのに必死だったわ」

「やめなさいよ。まあ、私もちょっと笑いそうになったけど」

「だよな? おい、シロ。≪勇者≫って知ってるか?」

「俺っちも知らねーな」


 どうやらシロも知らないらしい。


「ハヤト君はこれから大変だな。今年一番の話題が俺からハヤト君に変わったわ」

「嬉しそうねえ。あのパーティーと組むつもりはないの? 私達と組めば、バランス的には悪くないと思ったけど」


 タンクの土井、格好からおそらくヒーラーとメイジであろう松島姉妹。

 そして、勇者さま。

 悪くないと思うが…………


「いや、ないな。戦力的には良いが、あのパーティーはハヤト君がリーダーだろう。他の3人もハヤト君がリーダーじゃないと納得しないと思う」

「私達があのパーティーに入るのは?」

「Cランクの俺がルーキーのパーティーにか? ないな。あと、俺はリーダーじゃないとやだ」


 ルーキーに指示されるのはゴメンだ。


「そういえば、前にそんなことを言ってたわね。私はあのマヤちゃんとアヤちゃんならいいかもって思ったんだけど」

「懐かれてたな。あの双子を引き抜く訳にもいかないだろうし、縁がなかったな。それにしても、お前もその格好になれたもんだなー」

「言っておくけど、良くは思ってないわよ。もう諦めただけ」


 俺はシズルのエロ衣装を見ながら、よく人前に出れるなと感心する。


「相棒。言っておくが、お前の格好も相当だぞ。左肩は露出しているし、胸も強調されてる服だろ」


 俺の≪知恵者の服≫はシズルの≪闇の装束≫と違い、露出は少ないのだが、所々、扇情的ではある。

 

 シズルのエロい格好ばかりに目がいくため、忘れてた。


「ルミナ君はカッコいいから大丈夫だよ」


 そのセリフは男の時に聞きたかったよ。

 

 あと、男は女のかっこ良さには注目しない。

 エロいかエロくないかだ。

 ひどいね、まったく。


 その後、1時間ほど探索したので俺達も帰ることにした。


 



攻略のヒント

 エクスプローラの各世代には、特徴がある。

 

 ー第一世代ー

 日本でダンジョンが解放された初期にエクスプローラになった世代。

 オーソドックスなスキル構成が特徴だが、地雷スキルを習得するなど、スキルの習得に失敗した者も多い。

 通称、生贄世代。

 

 ー第二世代ー

 第一世代に感化されてエクスプローラになった世代。

 第一世代に師事した者が多いが、格好が奇抜であったり、スキル構成が特殊な者が多い。

 また、個人主義者が多い。

 通称、変人世代。

 

 ー第三世代ー

 ダンジョン学園の卒業生を中心とした世代。

 効率重視のスキル構成をしており、優秀な者が多い。

 しかし、他の世代と比べて、突出した者が少なく、個性がない世代でもある。


『週刊エクスプローラ 世代別に見るエクスプローラの特徴』

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