第023話 学校スタート!


 いよいよ、今日から学校が始まる。

 

 川崎支部の学園のままだったら、そんなに思うことはないだろうが、俺にとっては、東京本部の学園は初めてである。


 ちょっと緊張する。


 そんな俺は、現在、着替え中である(化粧はリップのみ)。

 

 今日は初日の為、授業はないが、入学式がある。

 そのため、制服を着ないといけないのだが、俺は持っていない。

 

 入学式は私服で後ろの方にいればOKと言われたが、よく考えたら、その後のクラスで集まる時に俺だけ私服である。

 ただでさえ、注目の的なのに、目立ちすぎる。


「相棒、遅刻するぜ。早く選べよ」


 ベッドの上にいるシロが急かすように言う。

 

 シロに言われて時計を見ると、確かに、そろそろ出ないと遅刻しそうである。

 遅刻でさらに目立つのはごめんだ。


「なあ、この黒系の服と白系の服だと、どっちが良いかな? 黒系だと魔女っぽくて良いし、白系は清楚な感じがするだろ?」

「……………………入学式だし、白系にしたら? 始まりは無垢な感じがいいと思うぞ」

「そうか。じゃあ、そうするか」


 シロから物凄い呆れた感じが伝わってくる。

 

 言いたいことはわかるぞ。

 でも、変な格好して目立ちたくないのだ。


 俺はシロの助言通りに白系の服に着替える。


「よし! 行くか。シロ、来い」


 俺は着替え終わると、ベッドの上にいるシロに手を差し出す。

 すると、シロは俺の腕をいつも通り、ニョロニョロと這い上がり、服の中に入っていく。


『相棒。学校にいる時は声をかけない。どうしても話さないと行けない時は、こんな感じで念話する』

『了解。入学式の時にいきなり、くすぐるなよ』

『しねーわ。大人しくしてるから安心しろ』


 俺はシロと学校時の決め事を確認する。

 

 シロも俺の事を気にしてくれてるのだ。

 本当に良いヤツである。


 俺は準備が完了したので、学校へと向かう。

 

 道中、在校生や俺と同じく初々しい新入生らしき人間が多く見られた。

 

 当たり前だが、皆、制服である。

 やはり目立ちそうと思ったが、ここまで来たら、開き直ることにした。

 

 少し歩き、学校に着くと、校舎の入口の横に人だかりができていた。

 

 ん?

 ああ、クラス表が貼ってあるのか。

 俺は何組かな?


 俺はその人だかりの方へ行くと、周囲から視線を感じたが、無視することにした。

 

 俺が今話題の有名人であることよりも、制服の集団の中に1人だけ私服がいるからだろうな。

 我慢、我慢。


 クラス表を確認すると、どうやら1年生は4クラスほどあるようだ。

 

 俺はこの学校に知り合いはほとんどいない。

 

 できたら、シズルと同じクラスが良いなと思いながらクラス表を見てみる。


 シズル、シズル……いた!

 

 あいつは3組だ。

 名字が雨宮だから見つけやすいわ。

 

 俺の名前は3組にあるかな?

 えーっと……やった!!

 シズルと一緒だ!!

 これでクラスで完全に浮くことは避けられたぞ。


 俺は悲しいことを思いながら、シズルと同じクラスであることを喜ぶ。

 

 俺はクラスを確認したので、入学式がある体育館に向かった。

 

 体育館に入ると、すでに多くの新入生が席についていた。

 

 俺は後ろの先生達が立っている所に向かう。

 

 ちなみに、父兄はいない。

 ダンジョン学園は基本的に親でも立ち入り禁止なのだ。


 俺は後ろにいた先生方に軽く自己紹介をし、指定の場所に立たせてもらった。

 もちろん、先生方にも大注目であった。


 しばらく、隣に立っている先生(おっさん)と世間話や女になった経緯を話していると、入学式が始まった。

 

 入学式は学園長の挨拶に始まり、新入生、そして、生徒会長の挨拶と続いている。

 ちなみに、新入生代表をしたのは、イケメンだった。

 死ね。

 

 そして、生徒会長もメガネをかけたイケメンだった。

 くたばれ。


 しかし、退屈だわ。

 寝るわけにもいかねーし。


『おい、シロ、なんか面白いことを話せ』

『学校では、お前の為に大人しくするって言ったのに、お前から話しかけんのかよ。面白いことか……お約束で悪いが、俺っちは白蛇だから『尾も白いって言ったら、マムシ酒みたいにするぞ』

『冗談でもやめろよ。お前が無茶振りしたんだろうが。大人しくしてろ』


 俺はシロにも相手にされず、完全に暇になってしまった。

 俺はアクビを我慢しながら、頑張っていたら、ようやく入学式は終わった。

 

 入学式の後は新入生は各クラスに行くようにと、学年主任らしい先生が言っている。


 俺は目立ちたくないので、全員が行ってから行こうと思い、待っていると、制服に身を包んだシズルがやってきた。


「ルミナ君、おはよう。本当に後ろにいるんだね」

「おはよ。先生みたいだろ」

「ちょっと若すぎるよ。同じ3組だったよね。行こ」


 シズルは俺と一緒に教室に行ってくれるらしい。


 なんと心がキレイな御方なんでしょうか。

 ありがたや、ありがたや。


 俺はシズルと一緒なら大丈夫と思い、この制服軍団に混ざって、3組の教室へ行くことにした。


「このあと、担任の先生から説明があって、自己紹介だよね? そのあとはオリエンテーションだっけ? 何するのかな?」

「オリエンテーションは俺らには関係ないぞ。あれは、まだダンジョンに行ったことないヤツらの実地研修だからな。俺らはそのまま帰っていいんじゃないか?」


 確か、そんなんだったような?


「そうなの? もし、帰ってもいいんだったら、ダンジョンに行こうよ。昨日、休んだし」

「働き者だなー。暇だし、いいぞ」

「じゃあ、行こっか。でも、やっぱり注目されてるね。私よりも」


 そうなのだ。

 さっきからチラチラというか、かなり見られている。

 隣にRainさんがいらっしゃるにもかかわらずだ。

 

 これが同僚のエクスプローラなら殴るのだが、ぺーぺーの学生、しかも、同級生を殴るわけにもいかない。

 俺は中学の時とは違うのだ。


「やはり、白系の服ではなく、黒系にしておくべきだったか。黒系なら制服と同系色だし」

「服もだけど、髪だと思うよ。金色に輝いてるもん」


 そっちかよ!

 

 周りを見ると、やはり、黒髪が多い。

 本来なら、同じ黒髪でも、シズルの艶やかな黒髪も目立つのだが、それ以上に金色は目立つ。

 

 ってか、なんで金色なんだ?

 どっかの島で惨劇でも起こしたほうがいいか?


「元は黒髪なんだがなー」

「まあ、皆、明日から私服だろうし、髪だって、その内、派手になるでしょ」


 エクスプローラは派手なヤツが多い。

 髪を赤く染めたり、変なマントをつけるヤツもいる。

 目立ってスポンサーをつけたいのだろう。


「だといいな。お前も明日からは私服で来いよ。俺を1人にするなよ。絶対だぞ!」


 俺はシズルにおんぶにだっこである。

 

「はいはい。トイレもついていってあげようか? …………そういえば、トイレはどっちに行くの?」

「職員用の女子トイレに行け、だとよ。更衣室も職員用。まあ、≪空間魔法≫の早着替えがあるから、更衣室には行かないが」


 その辺はかなり協議したようだ。

 面倒くさいヤツが来て、ごめんね。


「そうなんだ。夏の合宿遠征の時の部屋割りはどうするんだろうね? 一人部屋?」


 ダンジョン学園の生徒は、1つのダンジョンばかりに行くため、他のダンジョンがどういうものかを学ぶ遠征の行事がある。

 とはいえ、修学旅行みたいなものであり、ほとんど遊びに行くような感じだ。


「さあ? でも、皆が旅館の部屋でワイワイやってるのに1人は嫌だな。お前の部屋に入れてくれ」


 皆が好きな人を言い合ったりして、盛り上がってる隣の部屋で1人でいる…………嫌だ、寂しすぎる。


「他にも人がいるから無理だよ。男子部屋は…………まずいよね?」

「嫌。男子嫌い」


 俺が目立って視線を浴びるのが嫌な理由は、物珍しさで見てくる視線の中に好色が混じってることがあるからだ。

 俺だって、シズルの身体をよくそういう目で見ているから気持ちはわかるのだが、嫌なものは嫌である。


 そんな会話をしていると、1階にある3組の教室に着いた。

 ちなみに、2年生は2階、3年生は3階である。

 

 教室に着くと、すでに半分以上は席が埋まっている。

 教室の前のホワイトボードに貼ってある席順を見ると、出席番号順(五十音順)のようだ。

 俺の席は廊下側から3列目、前から3番目である。


 微妙な場所だ。

 あ行のシズルの近くとは思っていなかったが、微妙すぎる。

 

 後ろの端っこが良かったなー。

 まあ、神条だから仕方ないか。


 俺とシズルは席を確認した後、自分の席へ移動した。

 ちなみに、出席番号1番のシズルは廊下側から1列目の1番前である。

 

 席に座り、待っていると、次第に教室の全ての席が埋まり、担任の先生がやってきた。

 担任は女の先生である。若くはない。


「全員いるな。今日からお前らの担任になる伊藤ハルミだ。よろしくな」


 ん?

 この人って、元Bランクの渡辺さんじゃん。

 引退したって聞いてたけど、教師になったのか。


 伊藤(旧姓渡辺)先生はBランクとして活躍していたが、同パーティーの男と結婚したので引退したのだ。

 俺は彼女と直接的な面識はないが、旦那のほうは、何回かあったことがある。


 その後、ダンジョン学園の説明が長々と続いていたが、ようやく自己紹介タイムとなった。


「まあ、ダンジョン学園の説明はこんなものだ。わからないことがあったら、その都度、聞いてくれ。この後はオリエンテーションがある。ダンジョン未経験者は午後から協会に集合だ。あ、経験者は帰っていいぞ。よーし、じゃあ、お前ら、自己紹介をしろ。まだ、パーティーを組んでないヤツはアピールの場でもあるからそのつもりでな。じゃあ、出席番号順で雨宮から」

「あ、はい。高校からこのダンジョン学園に入った雨宮シズルです。よろしくお願いします。パーティーは同じクラスの神条……君と組んでいます」


 指名されたシズルが立ち上がって自己紹介をする。

 皆、特に男子はRainであるシズルに色めき立った。


 目立て、目立て。

 お前が目立って、俺の存在感を消すんだ。

 ってか、お前、今、君づけを躊躇しただろ。


 その後も、出席番号順に自己紹介をしていく。

 皆、自分のジョブやスキル、パーティーの有無を紹介する。

 

 そして、俺の番になった。


「川崎支部から編入してきた神条ルミナです。知ってると思うけど、こう見えても男だ。俺はエクスプローラの経験がそこそこあるから相談くらいは乗れるのでよろしく。パーティーは雨宮さんも言ったけど雨宮さんと組んでいる」


 俺はなるべく目立たない、かつ、パーティーメンバー勧誘の為に良い人アピールをすることにした。

 さよなら、中学の時の俺。


 その後も自己紹介は続いていき、特に事件もなく終わった。

 電波的なヤツがいれば良かったのに。


 自己紹介も終わり、その場は解散となったのだが、Rainであるシズルの元には、多くの男女が集まっていた。


「あの、雨宮さんってRainだよね? 私、ファンなんだー」

「どうして、エクスプローラになったの?」


 多くのクラスメイトがシズルを質問攻めにしている。

 シズルはそんな野次馬連中に無難に答えている。


 人気者だねー。

 俺のところには誰も来ないぞ。

 ……ん?


 俺がシズルを羨望のまなざしで見ていると、俺の席に巨漢の男がやってきた。


「ちょっといいか。先ほどの自己紹介でも言ったが、俺は土井タケトという。ジョブは≪盾士≫だ。よろしく」


 ≪盾士≫は典型的なファイター系のタンクである。

 確かに、この巨漢ではピッタリだ。


「ああ。俺は神条だ。よろしく。何か用か?」


 告白?

 ごめんなさい。

 私、好きな人(お姉ちゃん)がいるんです。


「神条はCランクのエクスプローラだと聞いた。実は相談に乗ってほしいのだ」

「相談? いいぞ」


 ふふん、早速、頼られちゃったよ。

 こいつ、でかいし、いいタンクになりそう。

 仲間になってくれねーかな?


「早速で悪いな。俺は先月からパーティーでダンジョンに潜っているんだが、≪盾士≫だから当然、盾を持つ。そして、武器に斧を使おうと思ってるんだが、≪盾士≫に良い斧ってあるか? お前はハルバードを使うと聞いたので相談に乗ってほしいのだ」


 もうパーティー組んでるんですって。

 残念!


「盾を使うんだから、当然、片手で持てる斧だな。タンクは敵を盾で押さえて攻撃する。だから、リーチは短くていい。あと、最初は初心者用を使え。レベルが上がっていくにつれて、良いものに変えていったほうがいいぞ。最初から良いもの使うと、伸びないからな」


 武器に関していえば、良いもので攻撃すると、雑な技術でもモンスターは倒せてしまう。

 当然、技術は上がらなくなる。


「なるほど。ちなみにだが、それはメイジやヒーラーもか?」


 お仲間かな?

 

「そいつらは別に良いものでもいいぞ。どうせ、すぐに精神力が尽きるから」


 良い杖を使えば魔法の威力は上がる。

 しかし、その分、精神力も多く使うのだ。

 

「ああ、確かに。参考になった。ありがとう」


 土井は俺に礼を言うと、カバンを持って教室を出ていった。


 この調子でいけば、仲間が出来るのかね?

 ハァ、俺も帰るか。

 シズルは…………まだ、囲まれてるよ。


 俺はこれからどうやってあの中に入って、シズルに声をかけるか悩み続けた。





攻略のヒント

 来月より編入してくる神条ルミナは、先日、信じられないことだが、女性に性転換したようである。

 

 神条ルミナを女子として扱うか、男子として扱うかは、非常にデリケートな問題であるため、先生方は注意して対応していただきたい。

 

 また、他の学生への影響も加味し、トイレや更衣室は職員用を使ってもらうことになっている。

 女性職員はトイレに神条ルミナがいたとしても、驚かず、神条ルミナが傷つかないように、理解と協力をお願いする。


『ダンジョン学園東京本部 回覧文書』より

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