第010話 くノ一参上! にんにん!


 -ロクロ迷宮 第1階層-


 俺達は仲良く(?)手を繋ぎながらダンジョンの中に入ると、そこはいつものトンネルのような洞窟であった。


「ここがダンジョン……なんか思ってたより明るいね」

「だろ? ちなみに、ダンジョンは基本的に10階層単位でフィールドが大きく変わる。このロクロ迷宮は10階層までは洞窟系だ。11階層以降になると、遺跡系へと変わる。俺達はこれからランダムワープのある11階層を目指すが、今のままだと問題がある」

「10階層のボスね?」


 シズルは本当に勉強していたみたいで、俺の言いたいことを良く理解してくれる。


「ああ、10階層のボスは、レッドゴブリンっていうゴブリンのデカいヤツだ。デカいし、力が強い強敵ではあるが、魔法を使ってこないから俺とは相性が良い。ハッキリ言えば、俺にとっては雑魚だな。ただ、お供にゴブリンをたくさん連れているから、お前を庇いながらは戦えない。これからジョブを決めるが、ジョブを決めたら、お供のゴブリンに対処できるようにレベル上げを行う」

「どれくらい上げればいいの?」

「ゴブリンに対処するくらいならそんなに上げなくても良いが、その後、深層に行くことを考えるとレベル10は欲しい。その辺は時間と進捗状況を見てだな」


 レベル10程度あれば、深層のモンスターでも、一撃死は避けられるだろ。


「わかったわ。あ、何か目の前に文字が見える。えっと、『あなたのジョブを選択してください』って」


 シズルを見ると、確かにシズルの前に文字が浮かんでいる。

 これはダンジョンに初めて入った人間全員に起きる現象だ。


「下にジョブのリストがあるだろう? それがお前がなれるジョブだ。なれるジョブはそいつのこれまでの人生経験などから決まると言われている。何がある?」

「えっ……と、なんかいっぱいあるんだけど」


 シズルはそう言うと、俺の方にリストを見せてくる。


 ほう?

 それは優秀なことだ。

 どれどれ……




----------------------

あなたのジョブを選択してください


名前 雨宮シズル


選択可能ジョブ


 ≪剣士≫

 ≪格闘家≫

 ≪盗賊≫

 ≪地図家≫

☆≪踊り子≫

 ≪吟遊詩人≫

☆≪忍者≫

----------------------




「…………うん」


 色んな意味ですげー!


 俺はシズルのジョブリストを見て驚いた。


「えーと、変かな? 良いジョブがない……とか?」


 固まってしまった俺を見て、シズルは心配そうに聞いてくる。


「いや、すまん。えーと、まず、普通は最初に選択可能なジョブって2つ、3つなんだ。7つもあったからビックリした」


 天才の俺でさえ、5つだったのにー。


「そ、そうなんだ、じゃあ良かったの……かな? この中だと、どれが良いのかな?」


 俺は心の中でちょっと嫉妬したが、すぐに切り替えて説明を続ける。


「まず、☆マークがついてるのが、特別職っていうレアジョブだ。最初から選択できるのは強味だな」


 まあ、俺も最初からレアジョブは選択できましたけどね。

 フッ。


「じゃあ、この≪踊り子≫か≪忍者≫がいいの?」

「まあ、そうだな。ただ悪いことは言わないから≪踊り子≫はやめておけ」


 ≪踊り子≫。

 通称エロジョブ。

 

 ≪踊り子≫は非常に有用なジョブである。

 仲間の能力を嵩上げするバフ系や、逆にモンスターの能力を下げるデバフ系のスキルを多く覚える。

 このジョブがパーティーにいれば、パーティー全体の戦力が大幅に上昇するため、どのパーティーやクランも欲しがるジョブである。

 

 だが、≪踊り子≫になるヤツは少ない。

 何故なら、≪踊り子≫が装備できる防具は露出が多かったりと、妙に扇情的だからである。

 

 俺も≪踊り子≫を見たことあるが、すげーエロかったのを覚えてる。

 

 そんな≪踊り子≫になるには、淫乱の素質が必要という都市伝説もある。


 本当かな?

 

 俺はシズルにどう説明しようかなと、悩んでいると、シズルは持っていたカバンから本を出し、本を読み始める。


「この職業ガイドブックを見ると≪踊り子≫は有用そうね? でも、≪忍者≫は書いてないわ」


 シズルはガイドブックを見ながら考えている。


「≪踊り子≫の衝撃で気付かなかったが、俺も聞いたことないな。≪忍者≫って何だ? 螺○丸でも使えるかね?」

「≪踊り子≫ってそんなにダメなの? 私は写○眼がいいわ」

「あー、ぶっちゃけて言うと、≪踊り子≫はエロジョブって呼ばれている。そいつになると色んな意味で人気者になれるぞ。晒し者とも言うが……」


 まあ、お前は似合いそうだけど。


 俺はなるべくシズルの体を見ないようにしながら、≪踊り子≫について説明する。


「それは嫌ね。じゃあ≪忍者≫かしら? これって、どんなスキルがあるのか、わからないのかな?」

「わからん。スキルもだが、選択する時に説明がないから、地雷を踏むヤツも結構いたぞ。通称、生贄だな。でも、レアジョブやレアスキルの場合は、大丈夫だと思うぞ。さすがに、≪忍者≫がエロいとは思わんし」


 房中術があるといいな。

 ぐひひ。

 

「じゃあ、≪忍者≫にしてみる。強そうだしね。でも、何で私に≪忍者≫の適性があったのかな? 忍者漫画が好きだから?」

「さあ? 俺も≪銃使い≫があったな。銃なんて触ったこともねーのに。結構、適当なんじゃねーの?」


 バカのホノカが≪賢者≫だしな。

 でも、お姉ちゃんは≪聖女≫だし、合ってるな。

 うーん、よくわからん。


「よし、≪忍者≫になろう。えい!」


 シズルは気合いをいれながらジョブを選択した。


「どうだ? 忍者になれたか?」

「うん、多分……あ、次はスキル選択みたい。えっと、所持ポイントは13ポイントだって」


 俺はシズルの初期ポイントを見て、再び、驚愕した。


 は!?

 13?

 こいつ、天才か?


「そう……か、13ポイントか。普通は5、6ポイントなんだぞ。…………俺でも10だった」


 当時、協会や他のエクスプローラから羨望や嫉妬の目を向けられ、鼻高々だった俺よりも多いよ。


「え、そう……なんだ。なんか、ごめんね」

「いや、謝るなよ。それにお前の目的を考えれば、これはかなり良いことだぞ。これなら、かなり時間短縮が出来そうだ」


 俺は醜い嫉妬の心を捨て、今は目的達成が第一だと、意識を切り替える。


 ふん! エロ女のくせに。


「それで、初期スキルを持っていないか? レアジョブの場合、オリジナルスキルがあるから多分持っていると思うぞ」


 房中術こい!

 

「どうやって確認するの?」

「心の中で念じれば出てくるぞ」

「なるほど。よし、ステータス!!」


 言わなくていいっちゅーに。

 恥ずかしいヤツだな、このエロ女。


 シズルが叫ぶと目の前にシズルのステータスが現れる。

 



----------------------

名前 雨宮シズル

レベル1

ジョブ 忍者

スキル

 ≪度胸lv1≫

 ≪隠密lv1≫

☆≪忍法lv1≫

 ≪諜報lv1≫

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 ……初期スキルが4つもある。

 ちなみに俺は3つだった。

 また負けたよ……


「スキルが4つもあるのはすごいぞ。それで忍法って何だ? 影○身でも出来るのか?」


 房中術はなしっと、解散!


「ちょっと見てみるね。私は影○似の術がいいな」




----------------------

 ≪度胸lv1≫

  どんな状況になろうとも、気後れしない。

----------------------

 ≪隠密lv1≫

  敵に気付かれにくくなる。

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☆≪忍法lv1≫

  忍術が使えるようになる。

  使用可能忍術

  火遁、水遁

----------------------

 ≪諜報lv1≫

  敵や罠、宝箱の位置が大まかにわかる。

----------------------




 火遁? 水遁?

 房中術はどこ?


「火や水でも出せるのか? ちょっと使ってみろよ」

「うん。はぁぁ、火遁の術!!」


 俺がシズルに試すように言うと、シズルは人差し指と中指を立て、顔の前に持ってくると、お決まりの格好で術を唱える。

 にんにん。

 

 すると、シズルの前に炎が現れ、螺旋を描きながらシズルの前方に飛んでいく。

 炎は壁にぶつかると爆散し、炎が一気に広がった。


 スゲ~! かっけー!!

 ってか、強えー!!


「わ、わ、すごい!! ねえ、すごくない?」

「おー! すげーな!! むっちゃカッコいいぞ。ほら、早く水遁も出せよ」


 興奮した俺は、はしゃいでいるシズルを急かすように言う。


「よーし! おぉぉ、水遁の術!!」


 シズルは例によって、また、忍者っぽい格好で術を唱える。

 にんにん。

 

 すると、シズルが見ている方向の上から大量の水が滝のように落ちてきた。


 うわっ! 冷た!!

 ってか、すげー。


 俺達は落ちてきた水飛沫を被りながら呆然と大量の水を見ていた。

 

「すげーな。≪忍者≫は当たりジョブだな」

「うん、なんて言ったらいいかわからないけど、すごいね。でも、なんか身体が重くなってきた」


 シズルはだるそうな表情を浮かべている。


「威力が高い分、精神力を使うみたいだな」


 精神力はゲームでいうところのMPのことだ。

 精神力が尽きると、魔法や技などのアクティブスキルが使えなくなる。

 魔法や技がどのくらいの精神力を使い、自分がどのくらいの精神力を持っているかは、数字で現れないため、ちょっと厄介である。


「ふぅ、そうみたいね。私のレベルが低いこともあるだろうけど、あまり頻繁には使えそうにないわ」

「まあ、奥の手だな。とりあえず、新しいスキルを取るか」


 俺はそう言ってシズルに新規スキルの習得を促す。


「うん、まず、≪空間魔法≫をlv2まで取るとして、他は何がいいかな?」


 あ、やっぱり≪空間魔法≫取るのね。


「ちょっとスキルリストを見せてみろ」


 俺はそう言ってシズルの習得可能スキルを確認し、スキル習得に必要なポイントの傾向からシズルの成長タイプを確認する。


 魔法系よりファイター、ローグ系のほうが必要ポイントが少ないな。

 そちらのほうに適性がありそうだ。


「お前は接近戦タイプだな。ただ、力で押すファイター系よりはスピードで攪乱するローグ系だ。そちらを伸ばしてたほうが良い。どうする? それでもメイジ系に進みたいっていうなら止めはしないが」

「うーん、魔法使いに憧れないわけじゃないけど、≪忍法≫があるし、忍者っぽくスピードタイプにしようかな」


 やはりシズルも魔法に憧れがあるみたいだが、忍者の道に進むらしい。


「じゃあ、そっち系統のスキルを取れよ。俺はパワータイプのファイター系だが、昔はスピードタイプだったからアドバイスは出来るぞ」

「そうなの? あ、じゃあルミナ君のステータス見せてよ。参考にする」


 シズルはお願いと、手を合わせて言ってくる。


「ん? そうだな、よし。ほら、これが俺のステータスだ」


 俺は心で念じながらステータスを出す。


 口には出さないぞ。

 恥ずかしい。

 



----------------------

名前 神条ルミナ

レベル22

ジョブ グラディエーター

スキル

 ≪身体能力向上lv5≫

☆≪自然治癒lv5≫

 ≪空間魔法lv2≫

 ≪怪力lv5≫

☆≪斬撃lvー≫

☆≪魅了lvー≫

☆≪気合lvー≫

 ≪索敵lv3≫

 ≪罠回避lv2≫

 ≪冷静lv2≫

 ≪隠密lv5≫

----------------------




「おー!! すごい! さすがCランクね」


 ふふふ、まあな。


 俺はちょっと得意気になる。


「まあ、このくらいはな。おすすめは≪身体能力向上≫だな。これはスピード系だろうとパワー系だろうと必須になる」

「じゃあ、それを取ろうかな……って、なんか不穏なスキルが見えるんだけど」


 あ、気が付いた?


「≪魅了≫か? まあ、怪しい名前だもんな。これは俺が初期から持っていたレアスキルだな」

「へー」


 いかん! シズルの目が冷たい。

 好感度が下がってる。


「いや、これはそんな変なスキルじゃない。ほら見てみろ」




----------------------

☆≪魅了lvー≫

  相手を魅了状態にする魔法が使える。効果時間は3秒。

  使用可能魔法

  テンプテーション

----------------------

 



「うわ、想像通りの最低スキルだ!! ちょっと向こう行ってよ」


 シズルはドン引きし、俺から距離を取る。


「待て、待て!! 3秒だぞ、3秒!! しかも、精神力をむっちゃ使うから連続使用も無理だ!! この魔法は相手を魅了状態にし、動きが止まったところを攻撃するスキルなんだよ」


「どっちみち、最低スキルじゃん。相手を魅了しておいて、攻撃するなんてサイテー」


 相手を魅了状態にして短剣でクビを掻っ切るという俺の必勝パターンを卑怯呼ばわりするとは。


「昔の話だよ! 今は使ってない! マジで」

「ふーん、まあいいけど。私に使わないでよ」


 誰が使うか!!

 テンプテーションは3秒間は俺の事を好きになるが、3秒後はむしろ、嫌われるんだぞ。


 俺はかつて、お姉ちゃんに使い、無茶苦茶怒られ、1週間も口を聞いてもらえなかったことを思い出す。

 

 ちなみに、母、姉、妹と血が繋がっていないうえ、この≪魅了≫スキルを持っていることを知った昔の仲間にエロゲ野郎と呼ばれたことがある。

 

 ちょっと笑った。

 殴ったけど。


「ま、まあ、俺のスキルはともかく、お前のスキルだ。≪身体能力向上≫と≪空間魔法≫だな? 後はスピードを上げるスキルとローグ系を取っておけ」


 俺はシズルにスキルを取るように促すと、シズルは俺を軽蔑した目をしていたが、すぐに切り替えてスキルを習得する。




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名前 雨宮シズル

レベル1

ジョブ 忍者

スキル

 ≪身体能力向上lv1≫new

 ≪疾走lv1≫new

 ≪空間魔法lv2≫new

 ≪度胸lv1≫

 ≪隠密lv1→2≫

☆≪忍法lv1≫

----------------------

 ≪身体能力向上lv1≫

  身体の使い方が上手くなり、自身の潜在能力を引き出す。

----------------------

 ≪疾走lv1≫

  スピードが上昇する。

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≪空間魔法lv2≫

  空間魔法が使えるようになる。

  使用可能魔法

  アイテムボックス、早着替えの術

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「よし、こんなものだろ。じゃあ、ダンジョンを探索するぞ」


 俺は誤魔化すように言い、シズルとダンジョン奥へと歩いていく。


 うーん、好感度がむっちゃ下がった気がする。





攻略のヒント

 スキルは適性のジョブであれば、少数のポイントでスキルを習得できる。

 適性ではないスキルを習得するには、かなりのポイントが必要だが、その場合は転職がおすすめである。

 ただし、転職はいつでも可能であるが、自分がなれるジョブでないといけない。

 ダンジョンでレベルを上げるのも重要だが、普段の行動から意識し、修行に励み、なれるジョブを増やすことが重要である。

 それこそがエクスプローラとして成功する秘訣である。


『ダンジョン指南書 エクスプローラの心得』より

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