第011話 ダンジョン探索開始!


 シズルのジョブとスキルを決め、俺の好感度が落ちたところで、いよいよ本格的なダンジョン探索を開始することにした。

 

 俺達は今、目の前のジェリー状のモンスターと対峙している。


「シズル、これがスライムだ」

「これが? なんか弱そうね」

「実際、弱いぞ」


 目の前のスライムは、俺達にまったく気付いておらず、通路の隅に生えている草に覆い被さって草を溶かしている。

 

 食事中か?


「なんか、かわいいわね。 どうやって倒すの?」

「スライムの中に小さな石が見えるだろう? あれがスライムの核だ。スライムは核以外を攻撃してもまったくダメージを与えられないが、核を潰せば、簡単に倒せる。鈍いうえに攻撃パターンも飛びかかってくるだけだから、雑魚だな」


 俺はそう言うとスライムに近づき、腰から剣を抜くと、スライムに突き刺した。

 スライムはまったく反応出来ずに核を突かれると、煙となって、魔石を残して消えた。


「まあ、こんな感じだ。スライムは飛びかかる時に震える癖があるから、スライムが震えだしたら気をつけることだな」

「何か簡単ね」

「1階層だからな」


 俺は魔石を拾い、背のカバンに入れると、シズルの方を向く。


「次はお前がやってみろ。近づいて、ナイフで刺すだけだ」


 俺はそう言って、周囲を観察し、スライムを探す。

 目には見えないが、スキル≪索敵≫により、30メートル先にスライムがいることを確認する。


「いた。この先だ。いけるか?」

「ええ、大丈夫よ」


 シズルは緊張気味に頷く。


 まあ、≪度胸≫のスキルを持っていたから大丈夫だろ。


 俺はシズルのスキル構成を思い出し、問題なさそうだと判断すると、シズルを促しながらスライムの方へと歩き出す。


「シズル、あれだ」


 少し歩くと、スライムが見えたので、俺はスライムの方を指差す。

 シズルはごくりと息を飲むと、ナイフを構えながらスライムにゆっくりと近づく。


「シズル、そのスライムはこちらに気付いているぞ。気を付けろ」


 俺がそう言うとシズルは一瞬立ち止まったが、すぐに覚悟を決め、再び、スライムに近づいていく。

 

 シズルとスライムの距離が3メートルほどになるとスライムが震えだした。

 

 俺はシズルに声をかけようとしたが、途中で声をかけるのをやめる。


 ここで躓くようなら1ヶ月以内に深層に行くのは無理だ。

 こいつのエクスプローラとしての資質は高そうだし、ここは様子を見るか。

 

 俺はシズルの才覚を信じ、見守ることにした。

 

 シズルとスライムの距離が2メートルほどになった時、俺はそろそろだなと思った。

 その瞬間、スライムがシズルに向かって飛びかかってきた。

 

 スライムはシズルの顔に向かって飛びかかるが、シズルは冷静にそれを横にステップして躱す。

 躱されたスライムはそのまま床に落ち、べちゃっと潰れてしまった。

 すかさず、シズルは持っていたナイフを立て、スライムの核に突き刺した。

 突き刺されたスライムはそのまま煙となって消え、その場には魔石とシズルのナイフだけが残された。

 

「おめでとう。初のモンスター撃破だな。いい線いってると思うぞ」

「はぁはぁ、ありがとう」


 シズルは緊張していた息を整えながら額の汗を拭う。


 上出来だな。

 身のこなしも見事だった。

 これは伸びそうだわ。


 俺はシズルのエクスプローラとしての確かな才覚を感じながらシズルに近づく。


「身体はどうだ? 最初はスキルによる強化で、心と身体が一致しないもんだが」

「ええ、大丈夫よ。さすがにスライムを躱した時はビックリしたけど、すぐに馴染んだわ」

「よし、何回かスライムを狩ったらゴブリンに挑む。その前にシズル、これをやる」


 俺はそう言うと、アイテムボックスの中から刃渡り40センチ程度の短剣を取り出し、シズルに見せる。


「短剣? いいの?」

「ああ、そんなナイフでは、スライムはともかくゴブリンは危ない。使え」

「あ、ありがとう」


 俺はシズルの後ろに回ると、シズルの腰に短剣を取り付ける。


 うひょー。

 エロい腰回りだなー。


 例によって、軽くセクハラをした俺は、シズルの前に回る。


「シズル、剣を抜いてみろ」

「うん」


 そう言うとシズルは腰の鞘から剣を抜き、構え、戻す。

 その動作を何回か行った後、俺を見る。


「どう? こんな感じかな?」

「ああ、いい感じだ。基本的にダンジョン探索中は、武器は納めておくことだ。ずっと持っていると危険だし、何かあった時に手放しやすいからな。家に帰ったら、先ほどの動作を練習しておけ。スムーズに抜剣できるようにならないといけないからな」

「わかった」


 俺は内心、シズルのスジの良さに感心しながらレクチャーする。


「よし、じゃあ、スライム狩りといくか。さっきは俺のスキル≪索敵≫でスライムを見つけたが、今度はお前のスキル≪諜報≫で探せ。見つけたら、俺に声をかけないでいいから、スキル≪隠密≫を駆使して倒せ」


 ≪諜報≫は敵や罠、宝箱の位置がなんとなくわかるスキルだ。

 敵のみを探す≪索敵≫より効果は低いが、雑魚なスライムやゴブリン程度ならlv1でもわかる。


「了解。じゃあ、行きましょうか」


 シズルは頷きながらそう言うと、ダンジョンの奥に歩き出す。

 俺はそんなシズルの後ろ姿を眺める。


 こいつ、才能あるし、便利だわ。

 依頼を終えたあともパーティー組んでくれねーかな?

 エロいし。

 

 テンプテーションが永続的に使えるスキルなら良かったなー。


 俺はいつも通り、最低なことを考えながらシズルの後を追った。


 しばらく歩くと、俺のスキル≪索敵≫が30メートル先のスライムを発見した。

 

 俺はシズルに何も言わないでいると、シズルはそのまま歩いていたが、スライムとの距離が20メートルになると、立ち止まった。

 シズルはしばらく立ち止まっていたが、少し考える素振りを見せた後、腰を屈め、低く構えた。

 

 すると、シズルの気配が希薄になっていく。

 スキル≪隠密≫である。

 

 シズルがそのままゆっくり歩いていくと、スライムが見えてきた。

 

 俺もスキル≪隠密≫を使うことにした。

 邪魔しちゃいけないからね。


 俺がスキルを使いながらシズルを観察していると、シズルはそのままスライムに近づいていく。

 シズルとスライムの距離が1メートルほどになると、シズルは腰の短剣に手を伸ばした。

 

 スライムは目の前にいるシズルにまったく気がついていない。

 

 シズルは腰の短剣を抜くと、そのままスライムを切りつける。

 スライムは核ごと真っ二つになると、煙と共に消えていった。

 

 煙の後には魔石と小瓶が残された。


「よし、やった! ルミナ君、こんなもんかな? ってあれ?」


 シズルはガッツポーズをしながらこちらを向くが、俺の姿が見えないことに驚く。


 あ、スキル≪隠密≫使ってるから見えないんだ。

 俺の≪隠密≫はlv5だからレベル1のシズルじゃ気付かないわ。


 俺はこのままシズルの後ろに回って、ケツでも触ろうかと思ったが、今後の事を考え、スキル≪隠密≫を解いた。


「悪い。邪魔にならないように俺も≪隠密≫を使ってたわ。ちゃんと見てたぞ。見事だった」

「わっ! ビックリした! すごいわね。全然わからなかった」


 シズルは急に現れた俺にビックリしたようだ。

 

「≪隠密≫は相手からしたらそんな感じだ。他のエクスプローラの前では使うなよ。気付いて攻撃されても文句は言えないからな」

「わかった。急に現れると、確かに身構えるわね」

「≪隠密≫は有用なスキルだが、過信するな。≪索敵≫みたいなスキルを持っているモンスターには気付かれる。あと、匂いも消せないから鼻のいいモンスターにも要注意だ」

「わかったわ。確かに≪隠密≫を使ってる時って、集中しないといけないから無防備になるしね」


 その通り。

 よくわかってらっしゃる。

 偉い!


「よし、じゃあアイテムを拾え。魔石の他にもドロップしただろ」

「ああ、そういえば」


 シズルはそう言うと、魔石と小瓶を拾う。

 シズルは魔石をカバンに入れると、小瓶を覗くように観察する。


「なにこれ? ポーション?」

「いや、それはスライムローションってヤツだ。美容に良いらしいぞ」

「へー、これがあのスライムローションかー。結構、高い美容液だよね? 人気であまり店に出ないのよねー」

「そうなのか? その辺のことは詳しくないから、よく知らないが……じゃあ、それは売らずに取っておけよ」

「いいの? そういえば、ドロップ品とかの成果の分配ってどうなるの? 私は教えてもらってる立場だし、全部、ルミナ君のものかと思ってたけど」


 まあ、そういうケースもある。

 しかし、指導されているエクスプローラも成果がないと、生活が出来なくなるから少しは分配はされる。


 俺はどうしようかと悩んだが、Cランクの俺からしたら、1階層の成果など、たかが知れている。

 強欲にそんなものを求めるよりも、今は目の前のエロ女の好感度を上げるほうが良い。


「俺の場合、パーティーの成果は、きっちり人数割と決めている。よくある分配方法は、敵を倒したヤツが全部もらう方法だが、これは揉める。パーティーは、アタッカーであるファイターやメイジだけでなく、ヒーラーやローグもいて、こいつらも十分に貢献しているからな。まあ、今回はお前の総取りでいい。初探索の御祝儀だな」


 俺はキメ顔でそう言い、落ちた好感度を上げにかかる。


「え、いいの? ただでさえ、私は教えてもらってるのに……ルミナ君、赤字になるんじゃ?」

「はっきり言うが、この依頼そのものが赤字だ。後輩や新人への指導なんかで儲けは考えない。これは慈善事業みたいなものだ。俺だって、かつては先輩達に無償で指導してもらったんだよ。その恩を後輩に返すだけだ」


 本当は協会への点数稼ぎと、あわよくば、お前をパーティーに勧誘できないかと企んでるですけどね。

 

「へー、すごい。そんなこと考えてるんだー。でも、ルミナ君にもそんな時代があったのね」


 俺が≪ファイターズ≫に入った時は、先輩方に色々と教えてもらったなー。

 大半が悪いことだったけど。

 

 だって、あいつら、クズなんだもん。


「まあ、そんなに深く考えるな。どのみち、美容ローションなんかいらん。お前が自分で使えばいい。早速、それをアイテムボックスに入れてみろ。念じればいい」


 俺は自分の思惑を隠し、シズルの好感度を見事に上げると、今度は≪空間魔法≫のレクチャーをする。


「よーし、アイテムボックスに入れー」


 だから、念じればいいんだよ。

 お前は口に出さないと気が済まないのか?


 俺はちょっと呆れたが、新人だし、仕方ないかと納得した。


「入ったか? じゃあ今度は出してみろ」

「スライムローション、出てこーい!」


 もういいや、ツッコまないぞ。


 シズルはアイテムボックスからスライムローションを出し入れして見せると、嬉しそうに笑っていた。

 はいはい、かわいい、かわいい。

 

 その後、危なげなく、スライムを何度か倒したので、いよいよゴブリンに挑むことにした。


「よし、スライムはもういいな。スキルの使い方もバッチリだ。後は回数をこなしていくうちに上手くなる。じゃあ、いよいよ、おまちかねのゴブリン狩りといこう」


 俺がスライム狩りに合格点を出すと、嬉しそうにしていたが、次はゴブリン狩りであることを伝えると、シズルは緊張な面立ちになる。


「ゴブリン……か」

「そう悲観するな。ゴブリンなんか雑魚だぞ。お前はセンスあるし、問題ない」


 本当は強さではなく、ヒト型であることを気にしていることに気付いていたが、あえて触れなかった。

 

 ここが、エクスプローラの最初の関門である。


「ゴブリンって、強くないのよね? 物語だと群れたりして、脅威だったりもするけど」


 女を拐って、薄い本展開にしたりね。

 

「もっと深層にいけば、群れているが、低階層は問題ない。基本的に一体だし、武器も棒やナイフだ」


 深層のゴブリンはレベルも高いし、弓を持っていたりする。

 これが結構うざい。


「ふう、よし、やってみるわ!」


 最初は俺がやって見せようと思ったが、シズルの様子をみて、いきなりやらせても大丈夫だと判断した。


「スキル≪度胸≫があるヤツは違うね。じゃあ、やってみろ。あ、≪隠密≫は禁止な」


 俺が≪隠密≫を禁止すると、俺を不満そうに見てきた。


 あれ?

 好感度がまた下がった?




攻略のヒント

 モンスターは死ぬと、煙と共に消え、魔石を残す。

 魔石にも質があり、基本的には、強い敵ほど質が良い魔石を残す。

 また、稀に、倒したモンスターに関連するアイテムを残す。

 ただし、ボスは例外であり、ボスは必ずアイテムを残す。


『はじまりの言葉』より

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