第16話 自覚(2)指令外出
空は晴れ渡り、絶好の行楽日和である。
「うっ……痛い」
筋肉痛にあえぐ1年生の声が漏れた。
無事に課外活動を決めたピヨたち1年生だが、その活動に新たに時間を取られ、また、疲弊していた。休みの日に外へ行こうとウキウキしていたのも懐かしく、ピヨはベッドの上でゴロゴロして過ごそうと決めていた。
「ピヨー。あれ?出かけないの?ゴールデンウィークなのに」
体力のある皆瀬は、どうということもないらしい。
「腕が痛い、腰も背中も痛い、指も痛い」
ピヨはそう言って、死んだような目で皆瀬をを見た。
ピヨが入ったのは結局射撃部だった。入った時、「伝説の射手」という噂を知っていた者達は戦慄した顔を浮かべたが、どうにかこうにかやっている。
決めた理由は、ズバリ「苦手克服」ならかっこよかったのだが、恭司にちょっと相談したら「射撃かあ。かっこいいね」と言われ、その気になったというのが半分だ。
今日は活動もない完全な休養日なので、思い切りのびのびダラダラとして体を休ませたいピヨだった。
それにそれは理由のひとつで、グループで外出するならともかく、この制服を着て似合わない髪形で人の多い所に行くのが恥ずかしいというのが理由でもあった。
「行こうよ、映画。今日まででしょ」
話題の映画で、CMを見て行きたいと言っていた映画ではある。
しかしそれは恭司と行きたかったのであり、恭司が大学のサークル仲間と出かける用があるというのでは、行く気も失せた。
「テレビ放送を待とうかなあ」
「ええーっ。きのこが生えるよ、ピヨ」
「生えたら焼いて食べる」
そのやり取りを香田が聞いていて、フンと鼻を鳴らし、何やらさらさらと書きつけた。
「ピヨ!」
「ふぇい!?」
ピヨは香田の真面目な声に、反射的に飛び起きてギクシャクと気を付けの姿勢をとった。
香田はピヨを何とも言えない目で見て、言った。
「あんた、この前も疲れたってゴロゴロしてたわね」
「え、はあ、そう、だったか、な?」
「ピヨ、皆瀬の両名に指令外出を命じる」
指令外出とは、上級生の命令に従って外出し、命じられた任務をこなして来るというものだ。これにかかる費用はその上級生持ちだし、そのスケジュールも上級生がきっちりと組まなくてはならない。上級生にとっても、これは訓練の一環という側面があるのだ。
が、下級生にとってはまだそこまでは意識が追い付かず、バツゲーム、お遊びというイメージがあった。
「グエ」
ピヨの喉が妙な声を出し、香田がニヤリと笑った。
「横浜の映画館で『この愛の果てに』を鑑賞してパンフレットを購入し、東京タワーの展望台で2人で写真を撮り、埼玉アリーナで行われているイベントに来ているひこにゃんと写真を撮って、田園調布駅前でケーキを買って来る事。詳しい店名その他はここに記入してある」
「まさか関東一周!?」
思わずピヨは白目を剥きそうになった。
「返事は!」
「はい!」
「そうそう。電車では座席が空いていても座らない事。守るのよ。いいわね」
ピヨは死にそうな顔で、皆瀬は面白そうな顔で、
「はい!」
と返事したのだった。
きっちりと制服を着て、不備が無いか確認し、外出する。当然、外出許可を提出したうえで、だ。
「楽しそうね!」
皆瀬は歌い出しそうな顔付きだった。
ピヨは体が痛くてぎこちない動きだったが、歩いているうちにどうにかましになって来た。
「まあ、ここまでびっしり移動しなくてもいいのにとは思うけど」
サクサクと動かなければ、イベントに間に合わなくなるかもしれないし、指定のケーキが売り切れてしまうかもしれない。
「何でこんな無駄な事するのかなあ」
「ううん。あ、ピヨを動かそうというのと、今日までの映画を見せてやろうという親切心?」
皆瀬はいいように解釈している。
「ま、行きましょ。まずは映画ね」
寝ていられるとも思ったが、どうせなら見たかった映画ではある。しっかり楽しんでやろうと前向きになったピヨだった。
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