第15話 自覚(1)校友会
スマホを触っていい時間は決まっていて、皆その時間に家族や友人などに連絡したり、ゲームをしたりする。
短いなどと思っているが、昔は全面禁止の時代もあった。
ピヨもボーイフレンドの恭司に差しさわりの無い内容のメールを送り、待ち受け画面にしている、クラブの皆で撮った集合写真を見た。
「ねえねえ、決めた?」
ニタニタするピヨに話しかけたのは皆瀬だった。
「何を?」
「校友会よ」
要するにクラブ活動の事だが、1年生は何かの運動部に所属しなければいいけないという決まりだ。
「吹奏楽?」
ピヨは訊かれてちょっと迷った。
吹奏楽も考えなくはない。フルートも好きだ。でも、高校で部活を続けていたのも、恭司がいたというのも大きい。
「せっかくだし、別の事もいいかなあ。
でも、忙しいし、筋肉痛だし、家庭科部とか文芸部とかがよかったなあ」
ピヨは心からそう言って太ももをさすり、皆瀬に訊き返した。
「皆瀬は?陸上競技部?」
「いやあ、悩んでるところ」
すると聞いていた部屋の上級生たちが、ここぞとばかりに勧誘を始める。
「アカシア会もいいわよ。社交ダンスなんて優雅よ」
「騙されちゃダメよ。優雅に見えてハードなんだから。バスケはいいわよ」
「剣道よ、剣道」
ワイワイと、親切なのかそうでないのか、とにかくうるさい。
それに香田が
「はい、そこまで。
見学もあるし、じっくりと見て考えなさい。あんた達は、強引な勧誘は禁止。いい?」
「了解」
まだまだ大変な事ばかりの毎日だったが、ピヨはちょっと「クラブ活動」が楽しみになってきた。
「何か、やたらと迫力がある」
ピヨ達1年生は上級生たちの練習を見学して歩いていたが、やはり高校とは迫力が違った。
「いや……剣道やろうと思ってたけど、何か、自信が……」
塩見はそう言って尻込みし始めたが、新鮮でもあった。
特に儀仗隊などは、防大ならではだろう。見学者の数も多い。
「帰宅部も入れて欲しい」
ブツブツという学生などは、どこかに入らなければいけないので、どこが楽かと比較している。
ピヨも見て回り、同期生たちと相談し合っていた。
「アカシア会も憧れるけど、ダンス系統はフォークダンスや盆踊りに至るまで苦手だしなあ。講義で習うだけでもうたくさん」
ピヨが嘆息すると、
「見るとやるとじゃ大違いだもんねえ」
と皆瀬からも溜め息が出る。
「ピヨ、射撃はどうだ?なんたって伝説の射手だし」
藤代が言うのに、集まっていた皆が吹き出し、ピヨはプッと頬を膨らませた。
「やめてよね、それ」
「でもピヨ。考えようによっちゃ、隣の的を狙えば入賞もありなんじゃ」
「風祭まで、もう!」
悩むのも楽しい。
そこに、ウキウキとした足取りでやって来た1年生がいた。
「俺、入って来たぜ。應援團。漢ならこれだろ」
それに、一部の1年生が顔を真顔にして青ざめさせる。
「お前、本気か?わかっていて入ったのか?」
それで本人も不安そうに真顔になった。
「何が?え?」
「キツイなんてものじゃないらしいぞ。うちは父親が防大OBで、聞いたんだ。あそこと短艇は、キツイ代表だって」
それに全員の顔から血の気が引いた。
「ど、どうしよう。俺、体育祭の応援合戦みたいなもんだと」
「部屋長か対番生に相談しろ、今すぐ!」
「お、おう!」
そして彼はバタバタと走って行った。
「ねえ、何か知らない?家庭科部とか文芸部くらいに楽そうなの」
「ピヨ、無茶言うなよ……」
ピヨたち数人は、それで項垂れた。
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