第14話 重さ(3)覚悟
各々、少なからず思い出に残る初射撃訓練が終わったその夜。ピヨは対番生に射撃訓練のグチを聞いてもらっていた。
「まあ、音に慣れて来たら目を開けていられるようになって、ホッとしたんですけどね」
「それは、よかったわね。見たかったなあ、その射撃」
対番生は残念そうに、ピヨは思い出して憂鬱そうに、嘆息が重なった。
聞かれたらちょっと恥ずかしいので、風呂場の近くの外で会話していた。
曇り空で、月も星も見えない。それがピヨには、何だかこの先を暗示しているようで不安だった。
「怖かったんですよね、後から思えば」
「薬莢?」
「いえ。それは網でナイスキャッチしてたので。むしろ面白そうだと」
ピヨは思い出して少し笑いそうになった。
「そうじゃなくて、あの的が、いつか人になるのかなあって思ったんです。そうしたら、何か……」
声がだんだんと小さくなり、涙っぽくなる。
「覚悟が足りなかったんですよね。誰かを守るために、誰かを傷つけるって事の」
対番生が、ピヨの頭をぐりぐりと撫でた。
「今気付いて偉い偉い」
「志尾見はすごく上手かったらしいし、皆瀬だってそれなりだったのに」
ピヨは落ち込んで行く。
「私、殴り合いとかもした事無いですよ」
「そうねえ」
「人を撃ち殺したりもないです」
あったら今頃塀の中だと対番生は言いそうになった。
堪えたのは、ピヨの真剣な表情のせいだ。
「私、できるかな。幼稚園の時にちょっと友達の肩を押した事があるくらいなのに」
「むやみやたらと人を攻撃するわけじゃないんだし、必要な時にそれができるように訓練するの。必要なことだから。それをちゃんとわかってるだけ、偉いよ、ピヨ。
だから、焦らなくても大丈夫よ、ピヨ」
ピヨはすっかり短くなった髪の毛を撫でられながら、段々と落ち着いて来るのがわかった。
「そうか……そのための訓練……」
ピヨは照れたように対番生の方を見て、対番生と顔を見合わせて笑った。
と、カサリと微かな音がして、2人は緊張した。
何か気配がする。
一転して鋭い目になった対番生が、そばの木の茂みに近寄って行く。流石2年生。完全に足音も殺しての接近だ。
が、ピヨの気配は隠れていなかった。
「げ、誰かいる!?」
声がして、ピヨは立ち上がった。
「男!?あ、チカン!?」
茂みが揺れて、男子学生が立ち上がった。1年生だった。
「やべっ」
「いたのかよ!?」
「撤収!」
そこに対番生が立ち上がる。
「させると思ってんの!?」
「うわ!?」
ピヨも夢中だった。
「キャアア!!」
叫んで、逃げようとする男子学生にとびかかり、右ストレートをきれいにお見舞いした。
「チカン!!チカンですうううう!!」
「待て、まだ未遂!ブヘッ」
対番生は残るもう1人を背負投げで地面に叩きつけると、顎を殴られてひっくり返った男子学生を眺め、ふうと息をついて目を吊り上げるピヨを見た。
「うん。大丈夫じゃない、ピヨ」
ピヨは転がる男子学生を見て、右手を見、照れたようにデヘヘと笑った。
「で。あんたたちは、覚悟して覗こうとしたわけ?女風呂を」
男子学生は泣きそうな顔で、
「済みませんでした!」
と土下座した。
この後彼らが週番に突き出されて罰を受けるのは、また別の話である。
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