第13話 重さ(2)伝説の射手

 授業では、銃の分解・結合が始まった。

 毛布を机の上に広げ、分解していった部品を順番通りに並べる。

「何の工具も無しに分解も結合もできる構造なんだぜ。凄いよな」

 男子学生がワクワクした顔で言っている。

「慣れた者は分解・結合に10分もかからないぞ」

 教官が言って、全員が

「ええーっ!?」

と驚愕の声をあげた。

 ピヨも、分解するのだけで30分だ。

 おまけに、細かい部品も多く、どうにも難しい。プラモデルに挑戦した事もあったが、きちんと出来上がらず、二度とするものかと決意した。

(クッ。まさかここで、プラモデル以上の緊張を強いられるとは……!)

 プルプルと震える指で一番小さい部品を摘まみ上げ、決まった位置に……位置に……。

「何でちゃんとはまらないのぉ!」

 泣き言が出た。


 待望の射撃訓練も始まった。数人ずつ的に向かい、指導員がつきっきりで見てくれる。

 まずは伏射という基本姿勢だが、上官が手本を見せる。

 25メートル先の目標に対して立つところから、何度も命令を復唱しながら安全を確認して、ようやく撃つ。

 テレビとは違う大きな音が、厚いコンクリートに覆われた射撃場に響き渡り、僅かにこだまする。

 思わず耳を押さえたり、肩をびくりと揺らす者もいた。

 虫取り網を持つ人がいてなんだろうと思っていたが、その網で、排出される薬きょうをキャッチするのだった。

 何だかそれも、ピヨにとっては音と同じくらいにショックだった。

 そうして改めて説明を受け、いよいよ本番だ。

 数人ずつ、まずは的を前に横1列に並ぶ。1人につき、指導員の上官が2人つく。1人は右側で虫取り網を持ち、1人は後ろで赤い旗を持っている。

「射手、銃を置け」「射手、銃をとれ」「目標正面の敵」「伏射」「姿勢点検始め」

 それらにいちいち復唱しながら進めていくが、手順が進むごとに緊張が増す。

 伏射の姿勢になる。が、どうにもしっくりこない気がする。足の幅はこれくらいか?肘の位置は?微調整して、位置を決め、構える。それを、指導員がつきっきりで確認する。

「補助者弾倉準備」

 それに復唱して弾倉をセットするが、モタモタとして、先程の手本のようには程遠い。

「射手安全装置、弾倉弾込め」

 チェンバーに弾薬を装填し、構えた。

「零点規制、時間制限なし」に復唱すると、いよいよ動悸が激しくなる。

「右方用意」「左用意」で左右の安全を指導員が確認する。

「射撃用意」

 これを復唱する声は、上ずりそうだ。肩はガチガチで、指も引き攣りそうになっている。

「撃て」

 淡々と上官が言うのに復唱し、更によく狙って、引き金を引いた。

 ドーンという音も大きいが、衝撃が伝わり、体中に響いた気がした。

 が、ここで不思議な事が起きた。

「あれ?今確かに撃ったのに?」

 ピヨは思わず、目の前の的を見る目を凝らしながら言った。

 と、隣の学生についていた指導員が言った。

「ん?何で2発?」

 皆が反射的にそこを見た。25メートル先の的の中心に、キチンと当たった者はいないが、まず、白い余白のどこかに弾痕がある。

 しかし、ピヨのものはまっさらで、隣のものには2つも穴があった。真ん中と端っこだ。

「まさか……」

 誰かが呟き、ピヨを見た。

「へ?わ。はわわ。私、ですか?」

「だろうな」

 信じがたい外れ具合に、突っ込みにくいという顔付きで誰もが余計な事を言わない。

 その後、修正に入るのだが。

「ええっと、クリック修正してみようか」

 ピヨ以外の者につく指導員が言う。照門を回し、微調整するのだ。左へ修正する時は手前に回す。これで除き窓の位置を変えて合わせるのだ。

「ああ、ピヨはもう一度。引き金を引くときに力を入れ過ぎてるのかも」

「あ、はい!」

 一射ごとに当たった所に印をつけた紙を見ながら指導を受けるのだが、ピヨは当たりどころ以前の酷さだ。

「呼吸は深すぎても止め過ぎてもだめだぞ」

「はい」

「あ」

 反対隣の的の真ん中に命中した。

「まさか、照準の合わせ方を間違っては……」

 指導員が言うのに、ピヨは憤然と答える。

「流石にわかっていますよ」

「何で隣の的の真ん中に当たるんだろうな。それはそれで器用なんだけど」

 困り果てたように指導員が唸るが、ピヨは泣きたくなった。

 もう一度と言われて、よく、じっくりと狙う。そして引き金にかけた指を絞ると。

 ガアン、という音に続いて、隣の的に着弾した。

「ある意味すげえな、ピヨ」

 背後がざわつき、指導員が溜め息をついた。

「ピヨ。引き金を引く瞬間、目をつぶってるぞ」

「え!?まさか!?」

 ピヨはそう言いながらよく思い出してみた。

「そう言えば、目をつぶってるかも……」

「ゴーグルをしてみるか?とにかく、目を開けてろ。危ないだろう」

「はい」

 語り草になる、伝説の初射撃だった。






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