第12話 重さ(1)貸与式
このところ、1年生は皆、そわそわしていた。というのも、今日、銃の貸与式があるからだ。
銃は一人ずつ、名簿と照らし合わせ、本人確認しながら手渡される。
日本では民間人が銃を所持する事はほぼない。一部のスポーツをしている者と、狩猟をする者だけだ。なので、ほとんどの国民は銃を実際に触る事はない。
1年生は全員、少なからずどきどきしながらこの日を待っていた。
「早く撃ってみたいなあ」
そう言う者も多いが、
「大丈夫かな」
と漠然と不安を口にする者も多い。
それでも、その特別なモノに対する好奇心は誰しもが持っている。
「ドキドキするよお」
ピヨは胸を押さえてそう言った。
ピヨはあまり運動神経に自信はない。まあ普通だ。肺活量はある方だが。
しかし射撃なら、走り回る事は無さそうだし、腕力を物凄く使いそうにも思えない。なので、前向きにがんばってみようと思っていた。
海外に観光旅行へ行った事がある人の中には、実弾射撃をした事がある人もいた。そういう人の所には、
「どうだった?」
「うるさい?」
「やっぱり衝撃とか凄いの?」
などと、連日学生が群がっていたが、それも昨日までだ。
「緊張しすぎでしょ」
「まあ、わからないでもないけどねえ」
花守や松下達が苦笑するが、去年の自分達もこうだったと、懐かしくも思った。
「そろそろ時間だ!行こう、皆瀬!」
「うん、ピヨ!」
1年生は時間前になったので、期待を胸に集合場所に急いだのだった。
きれいに整列している。
思えば着校直後は、こうして整列するだけでもどこかふらふらとしていてピシッとできなかった。ピヨはそんな風にふと思い、
(私達も、成長してるんだなあ)
と、先輩や教官からみれば
「第一歩をやっと踏み出した辺りだろう」
と言われかねない事を考えた。
目の前では、名簿に従って順番に前に呼ばれて出て行き、銃番号を言われるので64式小銃を受け取ってそれを復唱し、列に戻って控え銃で待機する。
ドキドキが大きくなる中、順番は進んで行く。そしてとうとう自分の番になって返事する時、ピヨは思い切り裏返った声で
「ひゃい!」
と言って、周囲の学生を笑わせる所だった。
(くうぅ。危ない、危ない)
恥ずかしいのを堪え、前に出る。
「371091!」
睨みつけるような真面目な表情で、教官が銃を前に出し、それを両手で受領する。
「銃!さんななひとまるきゅうひと!」
今度は間違いなく言えた。
が、思ったより軽いように感じられた。
ギクシャクした足取りで列に戻り、習った通りに控え銃で待つ。
そしてようやく全員が銃を受領し、教官が言った。
「勿論皆わかっているでしょうが、銃は人を殺せるものです。扱い方で、人の人生を簡単に奪う事も狂わせる事もできる道具です。
将来君達はそれを使う立場であり、また、使わせる立場でもあります。
では、それはいつ使うのか。それは自分もしくは誰かを守る時に使います。
その重さを、忘れないようにしてください。
これから苦楽を共にするものです。自分の体の一部だと思って、大切に扱ってください。
以上」
そう聞いた途端、その銃がとてつもなく重くなったような気がした。ほかの1年生をそっとピヨは見たが、わくわく、フワフワしていたどの顔も、厳しく引き締まっていた。
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