第11話 内恋禁止(4)最強の女

 今日の外出での戦利品を見せあったり、お土産のお菓子を皆で食べたりして、報告し合う。

 ほのぼのとした「女子会」の雰囲気に、ピヨは、

(自衛官だっていっても、こういうところは普通の女子と一緒だなあ)

とどこかほっとした。

 そして、

(また明日からもがんばろう)

と、活力が湧いて来るのだった。

 が、騒ぎが起こった。点呼ギリギリにようやく本条が戻って来て、間に合ったとホッとしたのだが、女子の上級生たちは難しい顔をしていた。

 そして、解散になって寮に戻った途端、本条に文句を言い出した。

「本条。ちょっと、たるみ過ぎてるんじゃないの」

 本条はそれにちらりと目をやると、面倒臭そうな顔をした。

「間に合ったんだからいいでしょう。アウトにならないように、気はつけてるから」

「これだけを言ってるんじゃないってわかってるでしょう?成績だって最近落ちてるわよね」

 いつの間にか、本条をほかの2年生たちで囲んでいた。

「あんた1人のせいで私達まで同じように言われるのよ。だから女はダメだって」

 それに本条はカッとしたような目を向ける。

「成績は、それこそ大きなお世話よ!追試くらったの、私だけじゃないでしょ!?」

 それに周囲は言い返す。

「それだけじゃないでしょ!本条は男に甘えすぎ」

「甘えて、助けてもらって、あんた恥ずかしくないの?」

「内恋撲滅委員会にも負けないロミオとジュリエットって酔ってるんじゃないの」

「あんたはあたしたちの評価を下げてるのよ。内恋するならしなさいよ。その代わり、誰にも文句の言えないような態度と成績を貫きなさいよね」

「何よ、偉そうに。あんただって恋人が欲しいくせに。甘えたいのが本音のくせに。女の嫌な所の見本みたいね、あんた達って!自分勝手なところは男も一緒だけど!」

 本条がそう言って攻撃的な笑みでせせら笑うと、中の1人が飛び掛かって行って、取っ組み合いになった。

 女同志だからと言っても、どちらも格闘技を習うプロ同志だ。ピヨ達がビビッて腰が引ける程度には迫力がある。

 しかし突然、本条はえずき、相手側が攻撃の手を止めた。

「本条?あんた、まさか」

 周囲も、凍り付いたように動かないで本条の答えを待つ。

「ピンク事案?」

 それに本条は小さく頷き、ワッと泣き出した。

 ピヨ達は後ろからそれを見ていたが、

「ピンク事案?何それ?」

「何となく雰囲気はわかるような?」

と首を傾げていた。

 と、香田と松下がすっと離れて行くのが見え、ピヨと皆瀬は、こっそりと後をついて行った。ただならぬ様子だったからだ。

 香田と松下は男子寮に行き、そこにいた学生に声をかけた。

「111小隊3年の下田雄二、呼んでくれる?」

 その学生は、背筋を伸ばして

「はい!」

と返事をすると廊下を走って行き、しばらくすると、別の学生が現れた。

「あ、本条さんと一緒に歩いてた人!」

 ピヨは小声でいいながら、壁の陰からその学生を指さした。

 そのまま香田達は外へと出て行き、ピヨと皆瀬も後を付ける。

 暗がりで立ち止まったので、ピヨ達も止まってこっそりと隠れた。

「下田。本条の件って言えばわかる?」

 香田が言うと、下田という男子学生は落ち着きのない様子を見せながらも、溜め息をついた。

「今日、聞かされたよ」

 松下はいつもの微笑みは浮かべていない。

「下田。で、どうするの?今本条は取っ組み合いのけんかをして荒れてたけど」

 下田は頭を掻いてから、軽く聞こえるような声を出した。

「こっちだってびっくりだよ。大丈夫って言ってたのに、急にそんな事言われても」

「で?どうするの。まさか全部本条任せ?」

「俺は……!」

「下田。産むとしたら、本条は退校すると思う。で、あんたは?」

「俺にも辞めろっていうのか?」

 薄笑いを浮かべて香田を見る下田を、香田も松下も冷たい目で見返した。

「そうは言ってない。でも、『女子学生にたぶらかされた』、そう言うつもり?」

 下田はふいと横を向いた。

「その理屈、防大男子には有効かもしれないけど、男としては最低ね」

 松下が淡々と言うだけなのに、辺りの気温が下がったような気がした。下田もビクリと背を震わせた。

「お、俺は──!」

「下田。別に責任取ってどうこうとか言うつもりはないよ。でもね。本条が辞めるにしても、その後本条がちゃんと前を向いて行けるように、付き合ってたんなら言うべき言葉があるでしょう?その程度のけじめもつけられないのなら、最初から付き合うな。もう、それ、もいだら?」

 言いながら、松下はきれいな、しかし心から恐ろしくなるような笑顔を浮べて下田の股間を指さした。

 下田は反射的にだろうか、サッと内股になった。

 隠れて見ていたピヨと皆瀬は、

(本当に怒らせたら怖いのは、部屋長じゃない、松下さんだ!)

と、怒らせないように気を付けようと心に刻み込んだ。

 そうして香田と松下は寮に戻って行き、ピヨと皆瀬も寮に帰った。

 入り口で香田と松下が待っており、ピヨと皆瀬に言う。

「あんたたちも、気を付けなさいよ」

「わかったでしょう。カッコいいと思っても、ダメ。幻想よ」

 ピヨと皆瀬は、

「はい」

と頭を振った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る