第4話 着校(4)始まる新生活

 一斉に分かれて掃除を行う。

 上級生はどの学生も、真面目で優しい。男子も、ほとんど変わらない年だというのに、随分と大人に見えるし、紳士だ。

「ここは、こうやって」

 そうアドバイスを受け、張り切って磨く。

 食事も大食堂で、一斉に摂る。

「パンかご飯を選べるのよ」

「わあ。何かホテルみたいですねえ」

「食べるのも仕事のうちだからね」

「はあい!」

 ピヨも春美も、腕立て伏せの一件でちょっと不安になったものの、すっかり忘れ、

「防大に受かってよかった」

「ホント、来て良かったわぁ」

と美味しいご飯を噛みしめていた。

 食べながら、そっと周囲を見る。

「やっぱり、1年生と上級生って違うのね。それも高校の時以上に違いがあるみたいな」

 春美が言い、ピヨは比べてみた。

「体格かな?こうしてみたら、1年生はやっぱり、薄い?」

「そうねえ。それに、髪形もね。やっぱり3年生の先輩とかかっこいい」

 ピヨは朝の体操の時に前になった男子上級生を思い出した。確かに爽やかで頼もしくてかっこよかった。

 聞いていた香田達が、苦笑した。

「あのね、皆瀬、ピヨ。防大は学内恋愛禁止なの」

 春美とピヨは驚いた。

「ええ!?」

「何でですか!?」

 それには、長谷川が答えた。

「防大は恋愛する場所ではないからよ」

 それに春美もピヨも言葉を失っていると、花守が苦笑まじりに言う。

「学内恋愛撲滅委員会なんてやつらもいるのよ。

 まあ、苦しいし、きついし、連帯感の中でそういうものを求めてしまうのもわかるんだけど、バレたら大変なことになるからね。だからくれぐれも、上級生がカッコよく見えても、惚れない事」

 ピヨも春美も、まあどうしても恋愛したいわけでもなかったし、ピヨは彼氏がいるので、尚更どうでもいい。

「はい」

 素直に返事をして、食後のお茶を啜った。


 アイロンの当て方、半長靴やベルトの磨き方などを、優しく丁寧に教わり、どこかアットホームな雰囲気の中、学内の配置なども覚えて行く。

 そして夕食後、何となくバッタリ会った1年生の男女数人が集まって、自分の部屋の先輩が優しいとか、対番生が親切だとか話し始めた。

「高校の時の先輩の方が、先輩風吹かせて威張ってたぜ」

「優しいこっちの方が先輩って敬いたくなるわよね」

 わいわいがやがやと、お喋りは止まらない。

 が、やはり例のアドバイスの話になった。

「学内恋愛禁止の話って、聞いた?」

 男子の半分は聞いてなかったが、女子は全員知っていた。

「聞いた聞いた」

 それに男子が首を傾げる。

「まじめにしろって事か?」

「そう、なんじゃないの?ねえ」

 女子も、何となく同意を求めるようにほかの女子を見る。

「何か、女子は少なくて目立つから、余計にしっかりしないとダメって先輩が言ってたよ?」

 中の1人が言う。

 確かに、今年の入学生480人のうち、女子は、70人だ。

「でも、何か、時代錯誤っていうか」

 それに、何となく頷いたりしていると、通りかかった上級生が、苦笑を浮べたり、眉をひそめたりして通り過ぎるのが見えた。

「まあ、とにかく入学したばっかりじゃん。恋愛にうつつを抜かす暇はないってことだな。しっかり頑張ろうぜ」

 リーダー的な学生、藤代雄大がそう言い、それで皆、

「おおーう!」

と拳を突き上げた。










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