SS「後日談というか前日談というか今回のオチ①」


 あれは俺がまだ1年生の頃の話。

 初めての大学祭に胸をドキドキさせながら屋台で店員をしていた時だ。


「ムラくんと一馬くん〜〜、ごめん! 私キッチンの方手伝うから二人とも会計の方やってくれない?」


 大学祭1日目。


 サークルではその年、カフェラテ屋を開いていた。言い出しっぺは大学4年生の先輩。おしゃれなカフェでバイトしていて、インスタ映えを狙っていれば絶対売れると熱弁されてはじまった屋台だったがその売れ行きは凄まじいものだった。


 裏方の人たちはバタバタとしていて、もはや大学内を練り歩く俺たち宣伝組も帰ってきて手伝って欲しいと言われる始末。


 このときの会長や副会長もまさかここまで行列ができるとも踏んでいなかったのでてんやわんや状態。他のサークルの人たちからの「なんだよあれ」「やばっ!」「すご過ぎだろ」という言葉が聞こえる中、そんな褒め言葉にも反応できるほどの余裕はなかった。


 俺たちも宣伝から戻り、裏の方でエプロン姿に着替えているととなりで着替える我らがヤリチン風イケメンが顔をとろっと溶かしながらこんなことを言い出す。


「いやぁ、まじでみーちゃん可愛いよなぁ……」

「抜け目ないなぁ、ほんと」


 みーちゃんと言っているのは先ほど俺たちに会計の方を手伝ってほしいと言ってきた先輩のことだ。


 名前は雪山美鈴で、黒髪清楚な真面目で明るい先輩だ。とにかく笑顔を絶やさないがどこかで抜けているところがある、そんなまさに理想的な女性でムラ同様に他の男子からもその支持は厚い。

 

「ははっ! あんな天使みたいな先輩がいるのに狙わない一馬のおかしいと思うねっ」

「ほんと、彼氏いるんだから狙って無理だよ」

「それはどうかな?」

「ムラ、お前もうあの失態を忘れたのか?」

「あれは失態じゃねえ、失敗だ。失敗したのだからやり方を変えれば成功するだろ?」

「馬鹿なこと言うんじゃねえよ、ほんと」

「言っとけ、俺は絶対手に入れるぜ〜〜」


 にかっと自信げに笑う我が腐れ縁。実際はこの数ヶ月後に猛烈アピールをし続けて振られるのだが、それはまた違う話なのでやめておこう。


 とにかく茶番を話しているムラに着替えを強要して俺たちは並んでいる人たちの会計をし始めることにした。



 とにかく茶番を話しているムラに着替えを強要して俺たちは並んでいる人たちの会計をし始めることにした。


「いらっしゃいませ〜〜、何になさいますか〜〜?」

「あ、じゃあ……この抹茶フラッペってやつと、どうする?」

「私はこっちのクリームフラッペで!」

「分かりました〜〜、ではそちらで少々お待ちください〜〜」


 と流れ作業。

 仲睦まじそうな大学生カップルが多く、若干アウェーなんじゃないかと感じながらも俺は先輩に託された仕事をこなしていく。


 ちなみにムラの方は女子大生を口説くのに夢中になりそうとのことで俺が注文をメモる係に任命しておいた。


 まぁ、他にもこいつがいるとうるさくて作業に集中できないって言うのもあるにはあるんだが……ひとまずそれはいいとして。


「次の方どうぞ〜〜」

「えっと……これを一つお願いしますっ」

「カフェオレですね、畏まりました〜〜」


 と次から次へと流れ込んでくる客を順調に捌いていき、45分ほどかけたところで会計の方には人がいなくなった。未だ隣の休憩スペースで出来上がりを待つ人がいるにはいるが徐々に減っていて、お昼時になったおかげで他の屋台に行ってくれたようだ。


「ふぅ……」

「あ、一馬くんおつかれさま〜〜」

「雪山先輩っ、ありがとうございますっ。そっちのほうは大丈夫そうですかね?」

「うんっ、大丈夫だよ〜〜。あとは10個くらい作ればだから他の人たちで何とかなりそう!」

「ならよかったです」

「あ、そうだそうだっ。もうかれこれやってたから疲れてたでしょ? 休んで大丈夫だよっ」

「え、いやいや大丈夫ですよ!」

「もーう、遠慮しないの! 後輩は素直に先輩の言うこと聞いていればいいんだよ〜〜」


 ぐぬぬと真面目顔のまま俺の顔のそばまで近寄ってくる雪山先輩。

 綺麗で可愛らしい顔が近くに来て、心臓がバクバクと鼓動する。


 っていうか、なんかめっちゃいい匂いするんだけど……。


「わ、分かりましたっ」

「おう! あとは私たちに任せておきな!」


 結局、彼女に言いくるめられる形で俺は今日の仕事を終えたのだった。





 お腹が空いたのでどこか屋台で買おうかなと一人で大学校内を歩いているとベンチに座ってあたふたと困っている女子が見えた。


 高校の制服。おそらくこの辺の学校ではない。


 丸いメガネをかけていて、肩にかけている白いトートバック。


 スカートから出ている脚は太くもなく細くもなくちょうどいい、地味めな風貌の奥に何か美しさを感じる女の子だった。


 って、なんか真面目に女子高生を査定している大学生はきもいよな。まぁ、これでも半年近く前までは高校生だったのだ。そこのところは許してほしい。


 でも、何か妙だ。

 丸いメガネで少しわからないがそれでも見覚えがある横顔だった。


 以前、どこかで見たような気がする。

 とはいえ、もしも会っていたとしても、さすがに女子高生に「この前会ったかな?」なんて声は掛けれないよな。


 ひとまず、彼女とは初対面ってことにしておくとしようか。


 しかし、そんな女子高生は明らかに困っていた。


 誰かを探しているのか、それとも迷子になっているのか、大学校内の地図と今回の大学祭のしおりを開いて何やら焦った表情で睨めっこをしている。


 ここで気にせず昼飯を買いに行く……って言うのも手ではあるが。

 

「んっ」


 葛藤も束の間、俺は彼女の表情に根負けし、声をかけることにした。


「あ、あの……」

「——ひゃ⁉︎」


 声をかけると不意打ちだったからか、肩をビクッとさせて飛び跳ねる彼女。

 ちょっとやり過ぎたか。


「っだ、大丈夫か」

 

 少し心配になってしゃがんで顔を覗くと、呆気に取られてながら俺を見つめていた。


「大丈夫?」

「え、あっ——だ、大丈夫です!」

「そうか? その……結構驚いてたけど」

「ちょ、ちょっとだけびっくりしただけなのでっ……そ、その、それであなたは?」

「ん……あぁ、そうだな。なんか困っているように見えたから声をかけただけだ。いらないなら言ってくれ。俺もすぐ行くから」


 すると、彼女はまた目を見開きながら動きを止める。

 しかし、数秒ほど経つと少し「ふふっ」と笑みを浮かべた。


「な、なんで笑ってるんだよ」

「いや、その……やさしい人だなとっ」

「まぁ、よく言われるな」

「そうなんですか? でも、なんかわかる気がしますねっ……」

「……よくもまぁ初対面でわかるなんて言えるなぁ」

「えへへ……女の勘ですっ」


 照れるような仕草をしてからサムズアップする彼女。

 困っているようではあるが楽しんでいて何よりだった。


「それで、どうしたんだ?」

「そうですねっ。そのですね、私……友達とはぐれちゃって」

「そうなのかっ。どこいるかわかるのか?」

「わかるには分かるんですけど……その、スマホの電池も切れてしまって行き違いになると怖いなと思ってたらいつのまにか30分も経ってしまって」


 それは困った。

 高校と違って敷地が広い大学だと初めてきた人にとっては意外にも迷宮だったりもする。


 まぁ実際は俺にとってもこの大学の敷地は迷宮だがな。


 日本の中ではそれなりに大きな敷地らしいし、在学生でも入学して卒業するまでに行かないエリアだってあるくらいだ。


 馬鹿にはできない。


 とはいえ、どうしたものか。

 はぐれてしまって会えないとなると彼女の言う通りあまり動くのはよくない。だからといってアナウンス……って言うのもてだが。


「アナウン」

「それは嫌です!」

「まあ、そうだよな」


 さすが思春期。

 迷子のアナウンスなんて恥ずかしくてできないんて聞かなくてもわかる。それにしても、全部言ってないのに拒否してきたところを見るに相当嫌なんだな。


 これが大人に見られたいってやつか。今時の子供は気難しいな。


 まぁ、出来ないなら仕方ない他の方法だ。


「じゃあ、歩いて探すしかないかな」

「やっぱり、そうですよね……わがまま言ってすみません」

「いや、大丈夫だよ。まずはどこで別れたか聞いてもいいか?」

「はいっ!」


 そうして、大学祭人探しの旅がはじまった。

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