第39話「お祭りデート②」
「せんぱ~~い、もうお腹いっぱいですぅ……食べてくださいぃ~~」
と、半泣き涙目状態で俺の腰にしがみ付く後輩こと三苫涼音さん。
りんご飴を買いに行ったのはいいものの、その間にあるほぼすべての屋台を回りつくし、焼きそばにアイスクリーム、そしてフランクフルトに唐揚げ棒と食べつくした挙句。
お腹いっぱいだけど食べると言い張った癖に、現在俺が奢ったりんご飴がほぼ受け取った時と同じ状態で持たされる。
そう、つまり意味は——それを食べろ、ということだ。
おいおい、まじかよ。
「はぁ……」
ため息が漏れて、冷たい視線を腰に抱き着く彼女に向けるが涼音の弱弱しい視線に晒される。
「食べてくださいよぉ……」
「うぐっ……お前なぁ、いくらなんでも失礼だとは思わないのか?」
「だ、だってですよぉ……まさか他の屋台の物まで買ってしまうなんて思ってなかったんですもん!」
「見たら分かるだろ……遠くからでもあることくらい気づくんだからさ。てか、だいたい食べれないものを最初から買うんじゃねえ」
「……だって食べたかったんですもんっ」
「はぁ……まったく、いいよ、俺が食べるから」
とはいえ、俺も甘い。
言ったはいいものの可愛い後輩の視線には勝つことができなかった。
十数分ほどかけて適当に大学構内の出店を回りながらりんご飴を食べ終えたところで時間は残り1時間ほど。
りんご飴の棒をゴミ箱に捨てると、隣を歩いていた涼音がその場に止まった。
「ふぅ……どうしたんだ?」
「あ、先輩っ。りんご飴ありがとうございます」
「あぁ、次からは頼むぞ?」
りんご飴に関しては久々に食べてみて思ったがくどいな。本当にこれを嬉しそうに食べる中高生はとても尊敬する。
それは置いておいて、俺の注意に元気よく頷いたのでひとまずこれは水に流そう。
「それで、どうしたんだよ。止まってさ?」
「あぁ~~その、もうそろそろなので先輩のおすすめの場所に連れて行ってもらいたいなぁと?」
「おすすめの場所かぁ……いろいろあるにはあるけど」
「ほんとですかっ?」
「まぁ、でも残り一時間となると並ぶ時間も考えたら1個か2個だぞ?」
「大丈夫です! それに明日はシフト休みなのでどこでも回れちゃいますよ?」
「確かに……」
サムズアップする彼女を見て確かにそうだと思い出す。
実際のところ、この大学の大学祭は計5日間。出し物自体も前半と後半で一新する。
前半がサークルや部活動で、後半が大学の支援団体や地域の住民、そして学部に別れて行われる出し物——というような構成だ。
後夜祭や花火大会が明日にあるのは明日が祝日だから、という理由だけ。もちろん地域住民参加の後半戦も土日が被るからである。
つまり、何が言いたいかと言うと特段焦る必要はないのだ。今日と明日、そして明後日とそれからフリーな2日間があるのだ。
「それに、明日はせっかく浴衣なんですから縁日とか行きたいですし、今日は体動かせそうな場所行きませんか?」
「そ――うだな。おうっ。体が動かせそうな場所……と言ったら射的かキックターゲット、それとダーツとかその辺だけど、どこがいい?」
「お任せしますっ!」
「それなら——まずはキックターゲットだなっ」
「はいっ! 行きましょ!」
久々にサッカーをしてみるのも悪くはない。
それに、たまにはカッコいいところを見せておかなきゃだ。キックターゲットは景品ももらえるし、ここでドカンとやっておこう。
「先輩の威厳を見せてやるよっ」
「お、言いましたね? お願いしますよぉ~~」
————と言ったものの。
「……先輩、元気出してくださいよぉ」
「面目ない……というか、悔しい。くそっ」
元サッカー部、これでも中学校の頃なんて全市大会で優勝したこともある。
だと言うのに、結果は惨敗だった。
9つあるターゲットのうち打ちぬけたのは2つだけ。なんなら俺の前にやっていた女の子は4つ開けていた。
おかげでゲットしたのは小さなクマさんのキーホルダーだけだった。
「これ、あげるよ……なんか持っててもすっごい惨めだし」
「え、いいんですか?」
「あぁ……最初から渡すつもりだったし」
「ありがとうございますっ‼ 大切にしますねっ」
「お、おぉ」
たかが小さなキーホルダー。それを渡されただけでここまで喜ぶのは少し複雑だがまぁ、喜んでくれたのなら結果オーライかもしれない。
「先輩っ、あのまだまだ時間あるので次は射的にでも行きません?」
「射的!」
これでも最近は戦争映画にハマっている俺。
狙撃……ソゲキッ!
——じゃなくて射的ならあるいは、あるかもしれない!
「よし、射的だな! 行くぞ!」
「お、なんか燃えてますね?」
「そりゃなぁ、こんな不甲斐ない結果で終わってたまるかよ!!」
————と、意気込んだものの射的も不発。
近所のお祭りであるような全く威力のない銃は使っていない本大学の射的でさえも俺が仕留められたのドロップスの缶々だけだった。
ガスガンでアルミ缶なら貫通する威力の銃だと言うのに、すべて外して壁に跳ね返ったBB弾がドロップスの缶にあたって落ち、屋台を仕切っている後輩に苦笑いされて
「これもあげるよ……」
「ありがとうございます! 先輩!」
大きな胸を揺らしながら喜んでくれる涼音の顔を見るととても惨めだ。
というわけで、時間に間に合いそうだったのでその後に行ったダーツでもいい結果は残せず――涼音に渡すことができたのはポケットティッシュとドロップスとクマのキーホルダーの三つだけだった。
サークルの屋台に戻った俺たちはひとまず少しばかり休憩して、業務を始める。サークル副代表として一日目が終わるまで売り払い、ひとまず去年の一日目の売り上げを上回ることだ出来た。
そして、終わり際。
パツパツのエプロンを着てサークルの男子の目を一心に受けながら、椅子を片付けようとしている俺の懐に潜り込もうとした涼音の肩を掴む。
「おい、まだ片付け残ってるだろ」
「いえ、その約束したくて……」
「約束?」
すると、咳払いをして涼音はまっすぐと俺の瞳を見つめる。
「——明日、せっかく浴衣着るじゃないですか?」
「ん、まぁ……花火も見るしな」
「先輩は何か着る予定有ります?」
「俺か?」
「はいっ」
「えーっと、まぁ特段ないかな。このパーカーかな」
「それならよかったです。先輩ってもうすぐ誕生日でしたよね?」
「まぁ、うん?」
いきなり誕生日?
一体全体、なぜそんなことを急に。
そう疑問に思いながらも耳を傾けると——
「あの、今日うちに寄ってくれませんか?」
「えっ、どうして?」
「その、渡したいものがあるのでっ」
「渡したい……?」
「はい、だめですか?」
「まぁ、別にいいけど……」
いきなりで少し驚いたがプレゼントならばうれしい限りだ。
ただ、若干疲れたこの身体で行ってもいいのだろうかと逡巡する。
涼音の家に行くのはしょっちゅうだが、今日はすぐに寝てしまいそうだ。
「じゃあ、よろしくお願いしますね!」
「あ、あぁ……」
<あとがき>
ついにクライマックス!!
花火大会に向けてソワソワする二人をお楽しみに〜〜。
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