第35話「大学祭が始まります!」
そして、あっという間に時は過ぎ――この日がついにやって来た。
朝8時30分。
開園まで残り30分のところ、俺は三苫さんの家の前に立っていた。ちなみに約束した時間は8時25分。すでに5分遅刻しているがここまで想定通り、というか三苫さんが時間を守ったことはない――わけでもないがきっと、今日は特別な日だけあって化粧などに精を出しているはずだ。
そんな風に考え、俺は気長にスマホをぽちぽちと動かしていた。
ラインにはメッセージが数件。ムラからの確認に、出し物の最初のシフトの確認への返信、最後は三苫さんからの「遅れるけど私の事は嫌いにならないですよね♡♥」というラブコール。
まったくもって、本当に何とも言えない気持ちになる。
しかし、きっと俺が副会長としての仕事がたくさんあって疲れている心を気にしてくれているのだろう。そう言う優しい気が利くところは嬉しい。
まぁ、時間にラフなのは直してほしいものだがな。
ムラに大丈夫とのこと旨を伝えてから少し待っているとすぐに返信が届いた。
『りょーかい! 今日は色々頑張ろうなっ! お前も三苫ちゃん射止めろよ!』
と。
別に射止めるつもりはないし、もう射止めている気もするが確かに彼女との関係に関しては色々と頑張らないといけないところがある。
そろそろ、ヘタレムーブから抜け出さないと俺だけじゃなくて三苫さんも辛くなることになりそうだ。
成長しているところくらい、見せるべきだろう。
ひとまずこいつには――
『うるせぇ。だまってろリア充』
とでも返しておこう。
そんな下らない親友との言い合いに笑みを浮かべていると、耳元にふぅっと息がかかった。
「へぁ⁉」
「せーんぱいっ。何して笑っているんですか?」
現在時刻8時36分。約束から11分が経ち、ようやく本日のヒロインこと三苫涼音が現れた。
清楚感を表すような白色の長めのスカートに、フリルがついたちょい透けの水色ブラウス。そして、小さめな肩さげバックという女子大生っぽい恰好の彼女に俺は少しびっくりした。
いつもはパンクな恰好をしていることが多い三笘さんがここまで女の子している所を見ると少し不思議と言うかなんというか。
それに含みのある笑顔がいつもとは違う印象を孕んでいてどこか胸がドキッとした。
「……ん、あれ。おーい、どうしたんですか、先輩っ」
「————え、あぁ! す、涼音っ」
「あ、気づいた」
「ごめん……つい見惚れちゃってて。それで、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ~~、準備万端ですっ! っていうか、見惚れてたんですかぁ?」
にひっと口角を開けながら顔を近づけてくる彼女。
ふわりと綺麗な黒髪から香ってくるシャンプーの匂いに固まった。
「……ま、まぁな」
「そうですかぁ……先輩が私にぃ?」
「……そう、だ」
一度やらかしたことは元に戻らないと言うが現状、狼狽えたせいで三苫さんからのいたずらな視線が止まらない。
さすがにヤバいなと思った俺はすっと懐に潜って交わす。
「うわっ——先輩、おっぱいぶつかりましたぁ」
「え、あっ! そ、それはごめん……」
「っぶぶ……じょ、冗談ですよ。可愛いですねぇ……ほんとにっ」
「うっ、おい!」
「あはははっ‼‼‼ もー先輩可愛すぎですよぉ~~うぅ~~!」
そのまま抱き着いてこようとする三苫さん。
ガッチリと掴まれて逃げれない俺はぐっと拳を握って歯を食いしばる。十秒ほど抱きしめられて逃げられないようにされていた。
いい匂いに、柔らかい身体。
そんな女の子を感じさせるものが俺にとりついて離れない。
感じて、感じて。
これから始まると言うのに胸がキュッと締まる。
一体全体、なんなんだろうか……。
そう思いながら離れた三苫さんに手を引かれながら俺は大学へ向かった。
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