第34話「作戦会議 side三苫涼音」
そして、大学祭前日の夜。
<三苫涼音>
一馬先輩からのお食事の誘いを渋々ながらも断り、家に帰った私は明日から始まる大学祭へ向けてお姉ちゃんに助言を得るために電話をかけていました。
本当は先輩とご飯行きたかったですが、本当に仕方なく、仕方なく……断ってきました。本当に心が痛みます。
きっとあの先輩のことですし、木にはしてないでしょうけど。
どれだけ私が誘っても襲ってこないし……本当に頭にきます!
むしろ、あれですかね?
この世全ての女性を葬れば私を選んでくれますかね?
あ、でもそれじゃ他の獣が私のことを狙っちゃいますね……やめましょうか。
よし、ひとまず電話をしますか……。
「——っていうわけで、どうすればいいと思うっ、お姉ちゃん⁉」
『どうすればいいかって言われてもねぇ……』
私の気持ちは現在最骨頂に達していますっ。
先輩と二人っきりでお祭りを楽しめるという特別な日に何か男女の関係を盛り上がらせることはできないかと……そんなことを考えています。
いやぁ、もうそのままお疲れ様でした会でお持ち帰りを期待しているのですかきっと先輩の事です。私が好きな気持ちを打ち明けても、なんならスキンシップをしたとしても手を出してこないくらいに。
ましては一緒に寝た時ですら何にもしないのだから正直、作戦変更しなくてはいけない気がしているところです。今までのような大人の関係に持ち込むようなやり方ではなく——もっとシンプルにいく。
嗜好を変えて、今回は恋愛漫画チックに大学祭で純粋にイベントを重ねていこうだなんて考えています。
しかし、です。
私の性格もさることながら、正直なところ、私は今すぐにでも攻めたい派の人間であり、というかいっそのこと子供でも授かってしまいたいくらいなのでそんな純粋な考えは浮かんできません!
っというわけで、こうしてお姉ちゃんに電話しているわけです!
「だって! 大学祭だよ⁉ いましかないじゃん! 攻めるのは!」
『私に訊かれてもって話なんだよ……だいたい、そういうのはすずの方が知ってるでしょ?』
「お姉ちゃん、実は私処女って知ってた?」
『知ってるわよ。頭の中はビッチだけどね~~』
「ビッチ? どういうこと?」
『どんな男にも股を開く痴女のことよっ』
「どんな男にも? そんなはしたないこと……私がするわけないじゃない? だってこの世界の男なんてみんなけだものよ? あんな野獣に身体を預けようだなんて考えたこともないっ」
すると、お姉ちゃんの口が止まる。
『————随分な言い様ね。彼は違うの?』
「先輩は違うもん! あの高貴な瞳に、カッコイイ姿……野獣の欠片も感じない私の将来の夫よ!」
『まぁ言われてみれば。私が誘惑しても襲い掛かってこなかったからね……』
「……お姉ちゃんでも取るならヤるけど?」
『とらないわよっ。それに、私にも最近好きな人が出来たし……すずと一馬君見てたら我慢できなかったしね』
「え、まさかお姉ちゃん……野獣に股開いたの?」
『全世界の男を野獣呼ばわりしないで』
「だって……そうだもん。汚らしい」
『はぁ……まったく、すずの考えは相変わらずぶっ飛んでるわね』
「?」
『そういう自覚がない所が特にね……まぁ、いいわ。ほら、当初の目的を果たしましょ?』
「……そ、そうよ! そんなことよりも明日の事!」
『あ、でも。もちろん、私がそう言うので困ったら助けてよ?』
「もちろん! お姉ちゃんのためならなんでもするわ!」
『……ヤるとかなんでもするとか』
「何?」
『なんでもないわ。やりましょ』
「——?」
『いいからっ』
私がスマホのスピーカー越しから無言の圧をかけるとお姉ちゃんは少し狼狽えたように咳払いをして、逃げるように了承しました。
<三好一馬>
一方、その頃。
俺は早々に三笘さんを家に送って、ムラと近所のファミレスで決起会を行なっていた。ちなみに椎名さんもいる。
まあこのメンバーなら三笘さんがきてもおかしくはないのだが、今日は珍しく彼女の方から断ってきたのだ。
正直なところ、嫌われたのではないかと少し不安になったが俺は彼氏でもないし気にする必要はない。
ただ、にしてもどうしたのだろうか。やっぱり少しだけ不安だ。
「————おい、大丈夫かぁ?」
「えっ」
「おい、さっきから話しかけてるのにどうしたんだ急に……何かあったのかよ?」
「……あぁ、ごめん。こっちの話」
おっと、少し三苫さんの事で気を取られていたみたいだ。
俺が手で静止を促す様になんでもないと伝えるとムラは少し苦笑して、肩を叩いた。
「まったく……お前は精神が少し軟弱だからなぁ。どうせ三苫のことだろ? あの可愛い後輩ちゃんのっ」
「……違って、別に。そういうのじゃないから」
「はっはぁん⁉ そうか、やっぱりそう言うことなんだなぁ~~」
「は? いや違うって!」
「またまたそう言うこと言うなよぉ、兄弟? 俺にしおらしいこと言うんじゃねぇ」
「しおらしいことなんざ言ってないって! ていうか、俺はムラと兄弟になったことはないっ!」
「じゃあ、これから杯でもかざすかぁ?」
「嫌だわ、アホ」
「んんだとぉ~~!?」
すでにお酒は5杯目。
梅酒ロックにハイボールに芋焼酎の水割りと色々と重ねたせいで酔いが回ってきたのかテンションが高めになっているムラが俺が座っている方へ移り、飛び掛かってくる。
「うらぁうらぁ! 飲めってお前もぉ~~明日からが本番なんだから、今日は一旦忘れろぉ!」
「言ってることが右往左往してねえかっ?」
「良いからほらぁ~~」
この酒狂いに勧められ、俺もカルーアミルクを一杯。
ゴクリと喉を通る甘みと多少のアルコールの匂いに少し脳をやられる。
まぁ見ての通り。
生憎と俺は酒に弱い。この調子じゃゲロ確定かもしれない。
「うぃ~~」
「っぷあぁ~~」
と、酒を飲む先輩を正面にちびちびとグラスに口を付ける後輩が一人。
隣に座る椎名さんは酒も入って少し暴走気味のムラにジト目を向けながら一人オレンジジュースを嗜んでいた。
「それでぇ、一馬は三苫ちゃんとどうする気なんだよぉ~~」
「え、いや……特に何も」
「なわけ! いいから言えって!」
「……一応、一緒に回ろうとは思ってるかな」
「おぉ! だってよ、
「お揃いですね~~」
「あははっ、だなぁ!」
そう言われて頬を赤くする椎名さん。どうやら楽しみらしい。
まぁ、俺も楽しみじゃないことはない。初めて大学祭を女の子と回れるのだからそれはもうもちろん楽しみではあるのだ。
しかしだ。
「んで、告白でもするのかよ?」
「しねぇよ……別に」
「うわぁ、薄情もんだなぁ……俺の見立てではあの子はお前にぞっこんだぞ?」
「うるせぇ……言ってろ」
馬鹿にしてくるムラだったが、そんなこと俺が一番知っている。
これでも俺は告白をされているのだからな。
それを受け入れるか受け入れないかはあとは俺の考え方次第。
実際のところ、まだ結論は出ていないが。
もう一杯口に入れると、そこで飲み終えた椎名さんが少し口を開いた。
「涼音、きっと我慢してるんじゃないんですかね……」
「——え?」
唐突な言葉に俺は少しだけ驚いた。
「いや、その……これまですこしだけですけど一緒にお話とかしましたけど、あの子。あんな感じですけど、結構ピュアで、私なんかより人の事考えていると思います。こう、本音が出ないと言うか、裏返しと言うか……とにかく人一倍敏感でその度色々考えちゃうんだと思うんです」
そう言われて俺は最初ピンと来ていなかった。
だって、あの三苫さんだからだ。
俺にちょっかいを出し、誘うように俺の家に入れ浸り、なんならこの前も一緒に寝られたばかり。
そんなやつがピュアだなんて、思えるのだろうかと。
むしろ、本音を言われてるのではないか――と。
「なんとか先輩を傷つけまいと、いい方向に転ぶようにと頑張っていますよ、きっと」
しかし、彼女のそんな落ち着いた言葉で少しだけ耳に残る。
思えば、確かにだ。
三苫さんは実際のところ。俺のいやがることはしていないのだ。あれだけ言っているのに、あれだけ俺が拒んでいるのに、一向に一線を越えようとはしてこない。
むしろ、諦めずこっちのペースに合わせてくれようとしている。ご飯も作ってくれて、冗談交じりでツッコミをさせてくれるくらい。
優しさの塊。
ヤンデレ――そんな気も多少はするけど、そこにあるのは思いそのものなのだ。
「……まぁ」
「だから、その……もし考えるなら真剣にお願いしますよ?」
そんな言葉に俺は頷いた。
「ほらぁ、じゃあ飲むぞ~~‼‼」
「あぁ!」
「ほどほどですよぉ~~」
そんな何気ない会話で心にかかる靄が少し晴れた気がしたのだった。
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