第27話「執事と猫耳少女っておかしくね?」


 俺の執事姿を見て発狂する三苫さん。

 あまりにもな声量で彼女の声は店内に響き、店員さんが慌てて飛び込んでくる事態になり、俺は恥ずかしさと申し訳なさで何とかなりそうだった。


「っほんと、大丈夫なのか」


 今まで割と分かっていながらも思うことをしていなかったが性格と言うか発言と言うか、その辺が不安定すぎて少し心配になる。


 知り合ったのは確かに4年前のあの事件の時だったが実際に仲良く話しているのは本当に最近だけだし、まだまだ知らないところも多い。


 心配する必要もないかもしれないし、あんまり決めつけるのは良くないけど。


 少し考え込んでいると三苫さんが戻ってきた。

 たったったと足音が聞こえて、振り向くとそこにいたのはあらまあなんということでしょう。


 綺麗な黒髪の間から黒色のふさふさな猫耳が顔を出し、ほっぺには可愛らしくメイクペンで書いたような髭が左右に三本ずつ。加えて、上半身は胸元になぜかハートの穴が空いていて大きな谷間がドンと強調され、フリフリスカートからはパンツの紐がこれでもかってくらいにはみ出ていた。


「え——ちょっ、み、三苫さん⁉」

「どうですかぁ~~、先輩? すっごくエッチですよねぇ~~、したくなってきますよねぇ~~」

「うわっ、ちょ! そんな恰好で抱き着いてこないでって!!」

「何を照れてるんですかぁ? このまま裏にでも行ってしちゃいましょうよ~~」


 肌と面積の比率がほぼ半々の露出ありありな格好の猫耳少女三苫さんは俺の顔を見るなり、膝の上に座りながら抱き着いてくる。


 いい匂いと、胸元の誘惑に、あまりにも刺激が強すぎて頭が真っ白になりかける。


 すると、後ろから店員さんが


「あ、あの……お客様、ここではそう言うことはしていないので自粛お願いしますっ」

「そ、そうだ! ほら、直ぐ降りて席についてくれって!」

「(っちぇ、うっさいわよ。あんた、殺すわよ)」


 店員さんの言葉に合わせて俺も言いつけると、嫌々と降りてくれたが——その途中で何かヤバい言葉が聞こえた気がする。


「お、おいなんか言ったか?」

「言ってませんけど?」

「そ、そうか」


 満面の笑み。


 確実に何か言ってそうだったがひとまず分からないことを掘り下げても意味はないので一旦、置いておくことにしよう。


 とにかく目の前の席に座らせて、待っている間に店員さんに受け取ったメニュー表を彼女の前に差し出した。時間も時間だし、あまり遅れると明日からの講義と大学祭準備にも響くので早く済ませたい。


 まぁ、それは建前で何よりこんな目立つ格好で目立つ格好の後輩を連れている所を見られたくないから帰りたいっていうのが一番なんだがな。


「ほら、座ったらメニュー選ぶんだろ」

「もう、先輩ってつまらないですね~~」

「つまらないも何も、ご飯を驕りに来たんだよ」

「えぇ、これもご奉仕に入るんじゃないんですか?」

「奢りであってご奉仕じゃない……」

「うぇ……先輩、ケチですね」

「うるさいわ。ほら、どうする?」

「うーん、先輩は何がいいですか?」

「俺かぁ……」


 ようやく平常心に戻ってくれた三苫さんに少しだけ安心して、俺はメニュー表に視線を落とした。


 こういう感じのカフェに来たのは初めてだったが、メニューは普通のものと特に変わりはなかった。


 スフレパンケーキに、チーズパンケーキ、中には抹茶パンケーキなど様々な種類のパンケーキがあり、これは確かに人気がありそうだった。加えて、普通のホットケーキのセットや甘いものが苦手な人向けのサンドイッチやクレープなどもあり、どんな人でも来れそうなメニューになっていた。


 まぁ、何もかもこのコスプレ要素で台無しになっている気がしないのだが……ひとまず、俺は気になった抹茶パンケーキを指さした。


「抹茶ですか? 先輩って、抹茶好きだったんです?」

「まぁな、母親が茶道の先生で……」

「え⁉ 知りませんでしたよ、そんなの!!」

「言ってはいなかったからなぁ……問題ないだろ?」

「問題ありますよ!! (わ、私の将来のお母さんなのに……)」

「ん?」

「いえ、で、でも……先輩の事ならなんでも聞きたいので教えてほしかったですぅ……」

「今後はそうするよ」


 寂しそうな表情で呟かれて頷かざる負えない俺は軽く肯定し、あとはこれとコーヒーを指さした。


「抹茶とコーヒー……私はこれにしようかな」

「ん、あぁ、無難だな」

「はいっ! シンプルイズベストって言いますからね」

「……来たことがないだけじゃ?」

「……せんぱいっ?」

「は、はい……なんでもございません」


 途端に冷たい視線を向けられて俺は逸らしながら謝った。


「じゃあ、そういうことでお願いします」

「は、はぁい……っ」


 そして、横に立っていたメイド服姿の店員さんにそう言うと若干の苦笑いで中坊の方に歩いて行った。

 もちろん、今までの流れは彼女も見ている。確実にやばいカップルの痴話げんかだと思われたな、この感じ。俺たちはただの後輩と先輩なんだが。


「——先輩?」

「……え、な、なに?」

「さっきからなんで店員さん見てるんですか?」

「いや、別に……」

「嘘は良くないと思いますよ? というか、殺しますよ?」

「笑顔で物騒なこと言うんじゃねえ……」

「だって、私というものがいると言うのに他の女にうつつを抜かして……」

「わ、悪かったよ。ただ色々見られたなって思っただけだからさ!」

「うぅ……帰ったら私も見てくださいよ?」

「え、帰ったら?」

「はい?」

「い、いや……今日も一緒に寝るのか?」

「だって明日の朝も準備少しやるんですよね。それなら私と一緒の方がやりやすくないですか?」

「ま、まぁ確かに」


 確かに運営側の三苫さんと話がつけば色々と円滑に進めることができる。

 ただ、またあの時に見たいに同じベッドで寝る運命になるんじゃないかという不安が浮上してくる。


「先輩?」

「あ、あぁ……まぁ一応そうするか」

「はいっ。いっぱい考えていきましょうね!」

 

 結局、その場の雰囲気に流される形で俺は了承してしまうのだった。

 



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