第25話「大学祭が来る」
深雪が実家に帰ってから数日が経ち、みんな大好きなゴールデンウィークも終わりを告げ、いつも通りの毎日が顔を出していた。
まぁ、だからと言って普段から暇が多い大学生にとって特段生活が変わるわけではないのだが、やはりGWのドキドキ感はなくなってしまう。そのせいで心なしかみんなつまらなそうだった。
俺の周りで変わったことといえば、三笘さんがあの日以来毎日のように遊びにきてくれることぐらいだ。
あの日のこともあって、少しだけ気まずい空気が流れていたがよく遊びに来てくれるおかげで慣れてきている。
そんなこんなで、俺と三笘さんは講義も終わった午後17時40分。GW明けのサークルに来ていた。
「なんか、こんなふうに来るのは久しぶりですね」
「まぁな。そろそろ大学祭もあるし、俺たちも色々決めないといけないし」
「あ、大学祭! 私、行ったことないのでみてみたいです!」
「え、あぁ。別にそんなこといなくてもうちは一般開放してるから見れるぞ?」
「……そういう意味じゃないですけどね」
「え?」
「まぁ、どうせ後で言うのでいいですっ! ほら、ささっと定例会終わらせて一緒にご飯食べましょ!」
「うぇっーーちょ」
「いきますよぉ〜〜」
そして、半ば強引に部室に入れられた俺はしぶしぶ定例会を始めるのだった。
ちなみに、今日やる議題は今年も大学祭に参加するかどうか、そしてどんなことをするかどうかについて簡単に決めていくこと。
締め切りは7月上旬で、実際の準備期間がそれから7月下旬。そして大学祭は夏休み前の8月1日からの5日間で行われる。
2日目からは一般開放があり、近くの高校生や中学生、家族連れが足を運ぶのだ。
まぁ、うちの大学は少し特殊で夏に開催されるのだが、おかげで夏休み中の小中高生でにぎわう。
そこに合わせた出し物を考えるのも経営学専攻の生徒たちには実際に腕試しできるようで好評なのだ。
予定時間になり、20人ほどが集まったところで会長と話をつけて始めることにした。
「そういえば、書記さんどうする?」
「書記?」
始めようとするとムラが耳打ちで聞いてきた。たしかに、書記がいてくれた方が楽だし、ホワイトボードがあるのに使わないのもおかしい。
どうしようかなと考えていると、ムラの隣に座っていた椎名さんが「私がやりましょうか?」と聞いてくる。
字も綺麗だった気がするの任せようと思ったその時、足をぐぐと踏まれた。
「っ」
「おい、大丈夫か?」
「え、あぁ……」
何事かと思って隣を見ると、そこには不敵な笑みをまじまじとむけてくる三笘さんが座っていた。
「あ、あの?」
「先輩、私がやります」
「え、でも椎名さんが……」
「私がやるんです……(そうでもしないと先輩と一緒に大学祭を回る予定が上手く立てられないし、裏から勝手に牛耳ってやるんです)」
流石の圧にやられて俺は椎名さんに断りを入れて、三笘さんにペンを渡した。
「ーーというわけで、実際に何をするか案を集めていきたいんですが何かやりたいこととかありますか?」
そうして、大学祭準備に関する定例会が幕を開けたのだった。
2時間ほどかけて会議が終わり、俺たちのサークルの出し物は「焼き鳥・串カツ屋」ということになった。別に、サークル活動とは全く関係ないのだが、普通に毎年食品系の出し物をしているので楽だし、それに大衆的にも人気の料理だし、それなりの利益は得られだろうという点でも賛成多数で決まったのだ。
まぁ、どうせ皆利益分のお金で飲み会に行きたいだけではあるのだがな。
ひとまず、7月までには色々とどんな感じの構想にするかを大まかに決めて、7月から本格的に活動をしていきたい。その旨を伝えて、俺たちは解散することになった。
その日の帰り。
最後まで掃除などを済ませてから教室を出ると、三苫さんが外で待っていた。
「ごめんごめんっ……待ったかな?」
「大丈夫ですよぉ~~、先輩のためだったら死ぬまで待てるのでっ」
「なんか三苫さんが言うと冗談に聞こえないな」
「(冗談じゃないんですけどね……)」
「ん?」
「いや、なんでもないです。ほら、今日もご飯作るので材料買って帰りましょう!」
「あ、あぁ……そうだな」
何か聞こえた気がするが——まぁ、はぐらかされたしいいか。
暗くなった大学内を進んで、道路に出て普段から通っているスーパーに向かった。
「ふぅ……大丈夫かなぁ」
「あの、どうしましたか?」
「いや、大学祭がうまく進むか不安でね。今回は俺たちがリーダーシップ取らないとだし」
「確かに、色々と大学と連携取らないとですもんね」
「そうなんだよぉ~~、うちのサークルは会長は会長での仕事もあるんだけど、一大学祭に関しては副会長の本分だからさ……こう、ほんとに不安だなと」
「私も運営係になったので、何かあったら言っていいんですよ?」
「あぁ、困ったら言うよ。でもどうして書記なんか名乗りだして……三役やったらうちは運営係になっちゃうのに」
「先輩のとの予定立てやすいですからね~~」
「え、予定?」
「前言ってたじゃないですか、一緒に回ってくれるって、楽しみだって?」
「……すまん、覚えてない」
「——————へぇ、そうですかぁ」
目を閉じてテヘペロと謝ると、予想を超える返事が返ってきた。
真っ黒な瞳に気持ちの籠っていない声で、どこから取り出したか分からない鋏をチョキチョキさせている。
「あ、あぁ……そうだな、したな! その約束!!」
「思い出しましたか?」
「あ、あぁ!!!! もちろん、後輩とした約束忘れるわけないだろうが!! あははははっ……」
「なら、良かったです!」
今度は満面の笑み。そして歩みを再開して、すぐにこんなことをぽろっと呟いた言葉が耳に入る。
「ふぅ……先輩の耳、ちょん切っちゃうところでしたぁ」
「っ——ふぁ⁉」
無論、その後はずっと震えていたのだった。
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