第22話「先輩に見せちゃう」


「せんぱーい、お風呂あがりましたよ~~」


「ん、分かった~~」


 時刻は20時30分。

 三苫さんに先に風呂に入ってもらっていた。いや、別に何も三苫さんの残り湯で何かをしようだなんて思ってはいない。


 いや、ほんとに。疑わないでくれ。

 おい、マジだ。信じてくれ。俺はそこまで変態じゃない。

 え、実はそう言うことしたいって思っているだろうって? 


 ……まぁ、気持ちはわかるけど。


 でも、でもだ! 

 そんなのしてはいけないことだってわかっているからな。俺は獣じゃない。理性がある人間だ。


「そう言えば、せんぱーい?」


「なんだ~~?」


 俺がパジャマを取りにクローゼットをいじっていると、三苫さんの声が近づいてくる。


「あの、今日ってほんとに深雪ちゃん帰ってこないんですかぁ」


「え、あぁ――さっき来た連絡なら友達の家に泊まるって言ってたからなぁ」


「明日帰るならもう来ません?」


「いや、こっちに荷物置いてるしそれはないと思うぞ? 朝方返ってくるって言ってたし」


「先輩と二人っきりっていうのもいいですけど、やっぱり深雪ちゃんともハグしたいですぅ……」


「すぐ仲良くなったもんな。三苫さんも深雪も」


「だって可愛いですしっ! 話が合いますし? 年下って結構可愛がりたくなるじゃないですかぁ」


「まぁ、分からんでもないな」


「やっぱり先輩の妹って言うのもありますけどっ。とにかくもっと一緒にいたかったですよぉ……」


「ははっ。それはあれだな。三苫さんが俺の実家に来てくれたら色々顔あわせられるかなぁ」


「え、先輩の実家ですか?」


 背中越しでも伝わる驚き具合。

 それを耳で聞いて可愛いなと思う俺。まったく、我ながらきもい。


「あぁ、うちは犬も飼ってるからな。きっと来たら楽しいと思うぞ? それに、深雪とも遊べるし喜ぶだろうしな」


「いいんですか? 私がお邪魔してもっ——」


「え、あぁ。深雪に会いに来たんなら別に問題ないだろうしな」


「でも、それって先輩と一つ屋根の下でっ……」


「深雪も皆もいるから。だいたい、今日だけだよ、そんなシチュエーション」


 何回かあった気もしなくはないがまぁいい。他の人もいれば俺も変な気は起こさなくて済むしな。深雪も喜ぶなら本望だ。来年は受験だからこそ、今年中に楽しんでおいてもらいたい。


「——そ、そうですね。よばぃ……できそうですし」


「ん?」


「いえ、なんでもないです。一応色々と考えさせてもらってもいいですか?」


「あぁ。一応帰省のタイミングは夏休みだからよろしく」


「はいっ」


 いい返事が聞こえると共に、俺は奥にあった高校の時に浸かっていた部ジャージを掴んで引っ張り出した。パンツを持っていることを確認しつつ、見えないようにジャージで挟んで回れ右。


「よし、じゃあ風呂入ろうかn——————」


 そうして振り向いた時だった。

 身体が動きを止めて、目が点になる。


 なぜなら、そこにはバスタオルで裸体を隠しているいかにも開放的な三苫さんがいたからだった。


「——えっ」


 声が漏れると同時に身体にかかっていたこわばりが取れてバッと壁側に視線を移した。


「あれ?」


「あ、あれって——三苫さん! 裸じゃん!!」


「え……あぁ、ご、ごめんなさいっ。なんか家の感覚で出てきちゃってぇ」


「うっ——ちょ、なんでこっちに来てるの?」


「あれ、そうですかね私はただぁ」


 ペタペタと足音が聞こえてくる。

 このままでは生乳を押し付けられる気がして、危機を察知した俺はサッカーをやっていた頃の動きで目を閉じながら彼女をルーレットで置き去りにした。


「あっ——先輩!」


「と、とにかく服着てくださいっ‼」


「も、も~~う!」


 奥の方から聞こえてくる声を無視して、服を脱いで一気に風呂へ。シャワーを浴びていると起き上がろうとしてくる息子に気を取られていて、残り湯など気にならなくなっていた。







<三苫涼音>


「もう、先輩ってば臆病ですね……」


 あのヘタレ具合は何とかしてほしいですっ。


 バスタオルを取って、全裸になり鏡の前に行き自分の裸体を眺めた。


「……これは少し、あれですかね。刺激が強い……かもしれないですね」


 自分で褒められるくらいに艶めかしい身体はきっと、あのピュアな先輩には早かったかもしれません。もっと、優しく攻めていくのが上等そうです。


 下着を付けて、適当にクローゼットから取り出したTシャツを着て、ベットの上で大の字になった。


 スンスンっ。

 

「先輩の服はやっぱり、いい匂いです」


 すぅはぁと10回ほど繰り返して、ベットの上に顔を埋める。

 香ってくる匂いで思わずやってしまいそうになり、手を手で押さえて腰をくねらせる私。


 ほんとダメな子です。

 でも、先輩の家だからこそやってみたいです。


 あぁ、もういっそのこと告白でもしちゃってやってしまいたいです。

 ずるいですよ、先輩。あんな可愛い反応されたら私……本当にどうにかなってしまいそうです……。


 襲ってもいいでしょうか。

 きっと先輩なら、許してくれるでしょうかっ……。




 でも、先輩ならきっと自分の体は大切にしろって言ってきますよね。


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