第11話「すーつでーとにいきます」

ーーーーーーーーーライントーク画面ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


すず「4限目終わったら校門前で待ち合わせでいいですか?」


一馬「あー俺、3限目で終わりだから講義終わったら教えてほしい。図書館で待ってるから」


すず「分かりました。ありがとうございます!」


一馬「4限目がんば」


すず「えへへ……」


すず 🔪🔪🔪🔪🔪


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 包丁?

 え、なに?



 てなわけで、あっという間に翌日。

 俺は3限目にやった応用数学Ⅱの課題をやりながら三笘さんの4限の講義が終わるのを待っていた。


「(えと……、ここはコーシー・リーマンの方程式を使って……)」


 図書館に入ってから数分ほど経ち、課題の一つ目が終わろうとした時だった。


「(あ、あの……三好先輩っ)」


 肩をトントンとたたかれる。少し聞き覚えがある声だったのでまさかと思って後ろを向くとそこにいたのは新入生歓迎会で会った椎名さんだった。


「椎名さん……どうしたの?」


「あ、えと……ここで言うことじゃないかも知れないですけど。こないだのバイトの件はありがとうございますっ」


 バイトの件。あぁ、そういうことか。


 結局、あの後椎名さんは会長にお持ち帰りされて付き合ったと聞いている。それもあり、バイト先は会長が働いているカフェで雇ってもらったらしい。


 別に気にしなくてもいいのにな、とは思ったがやはり根っからのいい子なんだろう。少しあの会長おとこには持ったない気がするな。


「全然いいよ。それよりも、会長とは仲良くやってる?」


「ま、まぁ……ちょっと激しい方ですけど、根は素直でいい人ですよ?」


「そうか、ならよかったよ」


「はいっ……じゃ、私はこれで」


 ただまぁ、現実は小説よりもなんとやらと言うし、もしかしたら会長みたいなやつにはこういう優しくて地味目だけどかわいい感じの女の子の方が合うのかもしれないな。


 でも、勿体無いのは本当にそうだけど。


 そう言えば会長で思い出したけど、今週中に色々とスケジュールまとめないとな。うちのサークル、TRPGとかボードゲームしかしないけど結構人気だし、やっておかないと。





 それから1時間ほど課題を進めて、終わったと同時に三笘さんからラインが来て俺はすぐに外に出た。


「あ、先輩~~」


「よー」


 図書館の向かい側にある総合棟の出入り口から出てきた三苫さんは手を振りながら小走りでやってくる。今日の格好は昨日とは打って変わって花柄の黒いワンピース。綺麗な黒髪は肩までおろしていて、清楚感が溢れていた。


 まぁ、つまりは可愛いって話なんだけどな。


「それじゃ、行くか」


「はいっ!」


 そう言って俺たちはバスに乗り込み、大学から数十分ほどかけてスーツ屋さんに向かった。


「んで、これは?」


「え、これですか?」


 バスに揺られて移動する最中、三苫さんが俺と腕を組んできた。さすがに気になったので訊ねると不思議そうな視線を向けられて、一瞬普通なのかと錯覚してしまった。


「……いやぁ、なんかその……ね?」


「嫌なんですか?」


 まっすぐな視線。

 別に嫌とかそう言うわけではない。ただ、付き合ってもいない後輩をまるで強引に引き連れているように感じて少し罪悪感と言うか、なんというか。


 それに、胸が当たっている。大きな胸が当たっているのだ。

 柔らかくて……ってあぁ! もう考えちゃだめだ!


 なんでもない、これは何でもないんだ。ただの体、その一部に過ぎないんだっ。


「……先輩が嫌ならやめますけど」


「や、そ、そういうわけじゃないけど……だって、俺たちまだ付き合ってないし……さ? なんか、その……いいのかなって」


「付き合ってくれたらしてくれるんですか?」


「……んぐ、そ、そう言う意味ではないっ」


「ははは……じゃ、やめておきます」


「あ、あぁ……すまん」


 なんで俺が謝っているのか。なんて野暮なことを浮かばなかった。なぜなら、感触が残っているからな。柔らかい、あれの。


 とにかく、他の事を考えよう。俺は一応これでも先輩なんだ。リードしなければ、この状況で無言はさすがに気まずすぎるっ。


「(先輩……かっこいいのに可愛いなぁ)」


「あ、あのさ」


「なんですか?」


「そう言えば、気になったんだけど……どうして俺の事先輩って呼ぶんだ?」


「え、先輩……あぁ、そうでしたね」


「別に、いやほら、嫌じゃないんだけど。昔に会っていたはいたけどさ、一瞬だったし、名前も言い合ったこととかないから……それにすぐ先輩呼びだったし。なんか不思議だなって気になっちゃったというか」


「……じゃあ、三好さん?」


「……」


「うーん、一馬さん?」


「……」


「三好」


「……」


「一馬っ!」


「っ……」


「一馬くん?」


「……んっ」


「あれ、一馬くんが一番反応いいですねぇ」


「って、反応見るんじゃないっ! や、やっぱり先輩でいいから。邪推だった……すまん」


「あははっ。可愛いですね」


「か、勘弁してよ……ほんとに」


 可愛い後輩からのくん呼びは心臓に悪い。とりあえず、これから先は一旦先輩呼びにしてもらおう。






 バスから降りてさらに数分ほど歩き、俺たちはようやく目的地のスーツ屋さんにやって来た。


 中に入ると黒々としたスーツやワイシャツがずらりと並んでいて、大学生にとってはあまり感じたことのない雰囲気が漂っていた。


「いらっしゃいませ~~」


 リクルートスーツを着ている大人な感じの店員さんが声を掛けてきた。


「あ、こんにちは~~」


「はいっ今日はどんな御用でしょうか?」


「えっと、スーツを新しく買いたくて……今日持って帰りたいんですけどできますかね?」


「はい、大丈夫ですよ? えっと、お兄さんの方ですか?」


「あ、一応――」


「私のです、お姉さんっ?」


 俺が後ろを振り向いて店員さんに説明しようとすると、さっきまで後ろにいたはずの三苫さんは不敵な笑みを浮かべながら俺と店員さんの間に割り込んできた。


 いきなりの出来事で俺も店員さんも面食らって、何か感じ取った店員さんはすぐに女性用スーツの売り場へ移動し始めていく。


「お、おね……じゃ、じゃあそうですね、分かりましたっ。早速選んじゃいましょうかっ」


「はい。お願いしますね?」


「っ……」


「先輩は待っててください。すぐに終わらせてきますので」


 まるで死んだ魚を見るような見下す視線が俺の胸にも突き刺さる。しかし、表情は笑っていて、どこか不気味だった。








<三苫涼音>


 まったく、私がしっかり見てないと先輩に寄りつく女がこんなにたっくさん。


 私、知ってるんですからね。先輩が図書館で椎名さんと話していたこと……ちょうど教室の窓から見えましたし。


 まぁ、もちろん狙って座ったんですけど。どうせ先輩の事だから図書館に行くのだろうと分かっていましたし、それにしてもあの女、付き合った癖にのうのうと私の先輩に近づくなんて……。


 あとで分からせてあげないとダメかしらね。

 

「な、なぁ」


「はい、なんでしょうか?」


「明日バイトの面接だけど、どうせ受かると思うし、きっと始まったら俺とシフトは被らないことはないだろうから、聞きたいことあれば信用できる先輩に聞いてくれよ?」


「はい? 別に、大丈夫ですよ? 全部先輩に聞きますし」


「え、いやだから俺と一緒には」


「大丈夫です。そこは心配しなくても」


「一応、紹介してもいいか?」


「まぁ、いいですけど……先輩が言うなら」


「おう。頼むわ」


 先輩の先輩ですか……。

 まぁ、女性じゃなければいいんですけど。


 女性で先輩の信用を得てたら……いけない、ですもんね。







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