第13話「先輩の家に女が来る……?🔪🔪」

 4月の終わり。

 今週末から皆大好きゴールデンウィークが始まる、そんな日の昼下がり。

 

 三苫さんから一通のラインが届く。


『そう言えば、この前借りていたジャージ返しに行きたいので今日の夜家に行ってもいいですか?』


『おk』


 短いやり取りをして思い出す。

 確かにそんなものを貸したかもしれない、と。


 雨の日だったか。


 べちょべちょになった三苫さんに部屋着を貸したんだったな。俺から服を返してはいたけどタイミングが合わなかったからまだもらってなかった。


 んで、下着が見つかって履いていないことが判明したんだよなぁ……と思い出してはいけない、というかようやく忘れられていたことがフラッシュバックする。


「って、何考えてんだ俺は! あれは忘れたんだ。それにもう触れない。そう決めただろうが」


 何度も自分を言い聞かせて、変な考えを頭から抜く。

 俺も男だから仕方ない、なんて言われたらその通りだがやっぱり後輩の裸体姿を想像するのはまた違う。


 うん。

 でも、なんというか。


 凄くエロくていいんだけどさ。ほら、俺って裸エプロンとか、そういうことしてくれる後輩のイラストとか見ちゃうしさ。


 って、まさか……バレてるとか?


 んなわけねえか。てか、何考えてるんだよ俺はよ。三苫さんがそんなエロい事を考えるわけがない。あの子だぞ? まぁ、確かに何考えているか分からないときはあるけど、三苫さんは清楚なんだ。


 清楚な後輩を汚すのは先輩として良くない。


 

「はぁ、まったく。この程度で狼狽えていたら困るな……ほんと」


 一息ついて、自分の恥ずかしさにどうにかなりそうになりながらも俺は三苫さんが来るまで今日の課題をやることにした。






 2時間後。

 5限目の講義が終わる17時半過ぎ、インターホンが鳴った。


 すぐに玄関に出て、彼女を中に入れると早速この前貸していたジャージを返してもらった。


「あ、ありがとう」


「こちらこそ、ありがとうございました。返すの遅れてしまって本当にごめんなさい」


「いやいや、大丈夫だよ。持って帰ってもらってもいいくらいだから」


「じゃ、それならも……いえ、大丈夫です」


「あ、あぁ」


 ペコペコしながら返してくれる彼女にやはり余計なことを考えてしまったなと反省する。


「せっかくだから、何かお茶とか飲んでから行く?」


「はいっ……お言葉に甘えますねっ?」


「おう」


 

 そうして三苫さんをソファーに座らせて、台所で緑茶を作る。数分ほど経ってできたのを手渡し、ゆったりとテレビでも付けようかなと思っていた最中。コップを持って部屋を見渡し、こんなことを言ってきた。


「先輩の家って……少しだけ汚いですね」


「っぐ」

 

「私、掃除してもいいですかね?」


「あ、はい。お願いします」


「それじゃあ、一息ついたらやりましょうか」


 まったくもってぐうの音も出ない。

 最初は俺に聞いてね? なんて言っていたのだが。


 すっかりバイトや一人暮らし、大学生活に慣れてしまった後輩に教えることもなくなった俺は遂に後輩に教えられる側になるのか。


 教えられるというかお世話だけど。


「よし、やりましょうかっ」


「はいっ」


 そうして、後輩にお掃除してもらう6時間が始まったのだった。







 掃除をしてもらっている間、俺が出来ないところをやってもらっているとスマホが震えて、一通のラインが届く。


 こんな時に誰だろうか。確か、三笘さんは講義が入っているはずだし……会長かな? それとも、ムラか?


 ちなみにムラは会長のあだ名だ。

 俺と同じ学部で学科は違うの陽キャラな友達で高校も一緒だった腐れ縁である。そのせいで椎名さんについての相談をされまくっている。


 ムラはさておき。


 スマホのラインアプリを開くとメッセージの送信元は俺の妹である深雪みゆきからだった。


『今週末、大学のオープンキャンパス行きたいからお兄ちゃんの家泊まってもいい?』


 とのこと。

 今週ってなると、ゴールデンウィークか。


 確かに、最近はどこの研究室も活発に実験をしているなと思ってはいたがそういうことだったのか。


 うちの大学は他の大学と違い、ゴールデンウィークがある5月から一ヶ月ほどオープンキャンパスを始めるため、この期間はどこの研究室も成果を発表するために躍起になる。


 とはいえ、深雪あいつここの大学に興味があったとは思わなかった。


『いいかな?』


 既読をつけてからすぐに追い打ちをかける我が妹。この感じが堪らなく懐かしいがしつこい女も嫌われるぞと返信する。


 するとすぐに。


『うっさいし、お兄ちゃんには言われたくない。んで、いいの?』


 と返ってくる。さすがにこれ以上やると機嫌も悪くなるので「いいよ」と返すことにした。


『ありがと、じゃあまたね』


 妹を揶揄って懐かしさを感じる。やんちゃでお兄ちゃんっ子だったあいつが大学を考える年になったとは。

 

 本当に成長したものだ。


 深雪は現在高校2年生で俺とは歳が3歳ほど離れている。子供の頃はとてもヤンチャで外で遊ぶ俺に毎度のごとくついて来ていた。


 そのおかげで今でも体を動かす部活に所属していて、体育の評定はかなり高い。


 お互いに成長して外で遊ぶことがなくなっていくと深雪も女の子の友達と遊ぶようになっていったが服装はあまり変わることがなかった。


 家の中ではジャージを着るし、外に出るときはスカートを一切履かない。ジーンズやパンツばかりで、下着だってスポブラしか持っていない。


 深雪あいつを誉めるつもりはないが顔はそこそこ可愛いので、将来付き合う男が幻滅しないか心配なほどだ。


 まぁ、そんな深雪と久々に会えるのは楽しみだな。


「先輩、どうかしましたか?」


「え、あぁ、なんでもないよ。こっちの話だから」


「隠し事ですか?」


「違う違う、あぁ……そうだな、言っておくべきか」


 三笘さんに紹介する必要があるのかどうか、必要性は分からないがここで言っておいて悪いことはない。


 それに、この感じなら俺の家に泊まっていくだろうし、よく家に来てくれている三笘さんは鉢合わせることになろうだろう。


「妹が今度家に来るんだ」


「え、妹?」


「あぁ、3個下の妹。今は高校2年生かな」


「先輩って妹さんいたんですか?」


「まぁな。珍しいか?」


 手を止めて驚くので訊ねると「だらしないところがあるので……」と苦笑気味に言い返される。


 この時点で、本当にぐうの音も出ない。


「だよね……」


「でも、先輩の妹さんなら歓迎ですよ! 私、会ってみたいです!」


「そうか? なら良かったよ」


「手料理とか振る舞うので、是非是非一緒に泊まりましょう!」


「お、それはあいつも喜ぶな。頼んだよっ」


「はいっ! 頼まれました〜〜」


 嬉しそうに微笑む三笘さん。


 いやはや、こんなに楽しみにしてくれるなら俺も本望だ。俺や三笘さんが大学院に進学したら深雪は後輩になるんだし、ここで仲良くなってもらえるなら今後の関係の発展にもつながるだろう。





 そうだなぁ、一緒に泊まりましょうかぁ……。


 ん、待て?


 なんかおかしいぞ?


 一緒に泊まりましょう?


 え、まじ!?


 掃除も終わり、三笘さんが帰ったところで気づいた。


 俺はどうやら、今世紀最大の約束事をしてしまったかもしれないと。









<三苫涼音>


 そう言えば、先輩の部屋からエッチな本は見つからなかったなぁ。

 最近は皆ネットで見てるって言うし、もしかしたら電子書籍で買ってるのかなぁ。


 むぅ、せっかくみられると思って掃除したのになぁ。

 ずるいです、先輩は。


 ……でも、なんかそう言うところもまるで焦らされているみたいで興奮しちゃうんだけど。えへへ。私、やっぱり変態さんなのかなぁ。


「まぁでも、お姉ちゃんにも先輩を認めてもらうためにはやってよかったかな」


  どうせ、先輩を査定に来るみたいだし。


 あ、それよりも先輩の妹さん! めっちゃ会えるのが楽しみです!

 どんな感じなんだろうな〜〜。きっと容姿が整っていて、可愛くて、先輩に似てるんだろうなぁ。


 えへへ、いっそのこと兄妹丼でもしちゃおうかなぁ……まぁ、冗談ですけど。


 でも、凄く楽しみ。

 将来の義妹に会えるのは……興奮しちゃう。


 しっかり、美味しい料理を振る舞わないとね!


 





PS:最近文字数が多くなっていて読みにくい方もいるかもしれないので1500-2000文字程度にして前後半に分けることにします。


 もしかしたら1日2話更新で帳尻合わせるかもです。(なるべく休み時間に見れるようにね❤♡)


 ヨロシコお願いします。



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